日本野生動物医学会誌
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特集論文
北海道における野生鳥類の石油汚染・中毒とサハリン開発がもたらす脅威
齊藤 慶輔
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2017 年 22 巻 4 号 p. 73-78

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抄録

 ロシア連邦のサハリン島では,サハリン開発と呼ばれる石油・天然ガス開発が進められている。鉱区であるサハリン北東の沿岸は希少種オオワシの繁殖地にあたる。2000年より実施してきたオオワシの生態調査では,潟湖周辺に約300つがいが繁殖していると推察され,1000個近い巣も確認されている。オホーツク海に接するサハリン北東の潟湖は極めて浅く,この浅瀬や沿岸の湿地帯に敷設されたパイプラインが破断した場合,石油は瞬く間に湖底まで汚染し,ワシの重要な餌資源を根絶するばかりか,周辺の生態系も壊滅してしまう。この島は凍結と解氷を繰り返す脆弱な土壌や活断層が多く,パイプラインが破断した場合,石油が河川,隣接する湿原や潟湖,さらにはオホーツク海へと広がることが危惧される。2006年2月,知床半島に5500羽以上の石油に汚染された海鳥の死体が漂着した。東樺太海流に乗ってサハリン沖から流されてきたと思われたが,汚染源は特定されていない。漂着鳥の多くは,石油が身体に付着したことで浮力を失い,溺死もしくは低体温症により死亡したと診断された。消化管に石油が確認された個体も多く,羽繕い等の際に石油を経口摂取したと推察された。海鳥が漂着した海岸で2羽のオオワシも死体として収容され,胃内から黒褐色の油に汚染された海鳥の羽毛や骨が認められた。消化器系病変の他,副腎や甲状腺の肥大など重油を経口摂取した際に認められる病理所見も確認された。

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