日本野生動物医学会誌
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特集
環境における毒物 -有機スズ化合物による神経毒性-
海野 年弘稲葉 祐次小森 成一
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2002 年 7 巻 1 号 p. 53-59

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抄録

トリブチルスズ(TBT)やトリフェニルスズ(TPT)などの有機スズ化合物は,ポリ塩化ビニールの安定剤,農業用の殺菌剤,船底や漁網の防汚塗料などとして広く使用されてきた。しかし,その使用が急速に広がるにしたがって環境に与える影響も危惧されてきた。TBTやTPTは内分泌撹乱物質としてイボニシやカキなどの貝類にインポセックスをもたらすことが知られている。このような生殖異常に加えて,哺乳動物に対する毒性では,振戦,痙攣,運動失調,自発性不随意運動の発現など各種神経機能障害を引き起こすことが報告されている。TBTやTPTによる神経症状では中枢神経系の病理組織学的変化が乏しい。したがって,有機スズ化合物は細胞膜イオンチャネルや薬物受容体などの機能に影響を与えることにより神経毒性を誘発すると考えられる。最近我々は,有機スズ化合物による神経毒性の発現機序を解明する一環として,後根神経節細胞におけるテトロドトキシン抵抗性の電位依存性Naチャネルを対象として,同チャネル活性に対する4種類のスズ化合物の効果を検討した。本稿では,これらの結果を紹介するとともにスズ化合物による神経毒性の発現機序について考察する。

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© 2002 日本野生動物医学会
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