抄録
日常の小児歯科診療において、歯の外傷を主訴に来院する患児は少なくありません。外
傷の原因は、転倒による打撲から交通事故や転落による顎骨骨折まで広く、損傷している
部位(歯牙、歯髄組織、歯周組織)や損傷の種類、およびその症状は、発育段階によって
様々です。
日本小児歯科学会が平成5年4月1日から1年間に行った「小児の歯の外傷の実態調
査」では、乳歯列期では1~3歳の低年齢時に、混合歯列期では7~9歳のいわゆる
Ugly duckling stageの幼若永久歯の時期に多いといわれています。
受傷様式は、乳歯列期と混合歯列期では異なります。乳歯列期の外傷では、歯槽骨が弾
性に富み比較的薄いため、脱臼の占める割合が高く、混合歯列期と比較すると陥入の割合
が高いのも特徴的です。歯冠に比べ歯根が長く、唇舌的に圧平され、中央部から唇側に彎
曲しているという解剖学的形態を持つ乳歯では歯根破折の頻度も少なくありません。一
方、混合歯列期では、7歳までは脱臼が多く見られますが、歯根完成、歯列完成および歯
槽骨の緻密化が進むに従い、歯牙破折が増加します。
処置は、発育段階に応じて行なう必要があります。乳歯の場合、約40%の後継永久歯に
障害がみられ、特に3歳以下の受傷では50%を超えています。また、障害の程度は、エナ
メル質の変色のような軽度のものから永久歯胚発育停止の重度まだ様々です。乳歯外傷で
は、受傷乳歯の保存だけでなく、後継永久歯への影響および咬合育成への影響を考慮した
処置が必要となります。乳歯外傷の多くは患児が低年齢であるためにその対応が難しく、
診査および処置方針の決定には、経験の蓄積が必要です。
一方、永久歯の外傷では、脱臼歯に対しては成長発育過程のため脱臼歯の固定源を確保
が重要です。歯牙破折では、幼若永久歯のため、歯根形成および根尖閉鎖に配慮が必要と
なります。しかし、外傷を受けた幼若永久歯の歯内療法処置の予後に関してはEvidence
が不足しています。
小児期の歯の外傷は、その対応によっては経過に大きな違いが生じることは明確で、乳
歯では後継永久歯が萌出するまで、幼若永久歯では歯根完成までの長期的な観察が必要と
なります。
以上のようなことを踏まえ、乳歯列期および混合歯列期における歯の外傷について、そ
れぞれの発育段階における特徴と対応についてお話したいと思います。