関西医科大学雑誌
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C38は神経細胞の成熟を促進するミトコンドリアタンパク質である
若林 毅俊木村 富紀山田 久夫
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2010 年 62 巻 p. 7-12

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抄録

多分化能を有する前駆細胞から成熟した神経細胞への分化(differentiation)過程には,特定の神経細胞へと運命が決定される過程(commitment)と,神経細胞として成熟する過程(maturation)との明らかに異なるステップが存在するが,これらを明確に区分することは困難である.網膜は発生学的にも中枢神経系に属し,比較的単純な組織構築をしているため中枢神経系の代表として研究に多用されている.また網膜水平細胞はcommitmentとmaturationが明確に分かれており,神経細胞のdifferentiation過程を解明する上で極めて有利な実験系である.著者は神経細胞を特異的に標識できるモノクローナル抗体C38の単離に成功した.網膜を用いて,その抗原分子の機能を調べたところ,C38は神経細胞のcommitmentには関与せずmaturationを促進する働きがあることがわかった.C38は神経細胞特異的に発現するミトコンドリアタンパク質であるが,ミトコンドリアはエネルギー産生やアポトーシス以外にもさまざまな生命現象にかかわっていることが解明されつつある.C38タンパク質の研究を通じて,ミトコンドリアの新たな機能の解明にも貢献できると考えられる.

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© 2010 関西医科大学医学会
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