関西医科大学雑誌
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ラット敗血症モデルに対する誘導型一酸化窒素合成酵素mRNAをターゲットとした新規核酸医薬(センスオリゴヌクレオチド)の開発研究
中竹 利知奥山 哲矢海堀 昌樹奥村 忠芳西澤 幹雄
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2018 年 69 巻 p. 1-6

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抄録

【背景・目的】肝臓では炎症時に,様々な炎症性サイトカインの産生とともに,誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)遺伝子の発現誘導を介して,一酸化窒素(NO)の産生が促進する.過剰産生されたNOは肝障害因子の一つと考えられ,iNOS誘導を抑制することが肝障害の軽減に重要である.当科では,初代培養ラット肝細胞や急性肝障害ラットモデルを用いて,iNOSを炎症性マーカーの指標として,様々な物質の抗炎症効果を追求している.肝細胞癌に対する手術は侵襲が強い.そして,切除不能肝細胞癌に対する化学療法の副作用も強いため,肝細胞癌に対する治療は困難な場合が多い.新規に得られた抗炎症効果を持つ物質を治療に用いることにより,手術侵襲や抗癌剤の副作用を軽減したいと考えている.以前,我々はiNOS mRNAと同じ配列の短いDNA(センスオリゴヌクレオチド)を培養肝細胞に添加すると,特異的にiNOS mRNAレベルを抑制しNO産生を軽減すること(in vitro)を報告した.本研究では,肝障害敗血症ラットモデル(in vivo)におけるiNOSセンスオリゴの効果を検討した.

【方法】初代培養ラット肝細胞を用いて,iNOSセンスオリゴ(SO1)とその誘導体のiNOS mRNA発現への影響を比較した.ガラクトサミンとリポ多糖を投与して作製したラット肝障害敗血症モデル(GalN/LPS)に,iNOSセンスオリゴを投与し,ラットの生存率(72 h),肝臓のサイトカイン発現解析ならびに組織病理学的解析を検討した.

【結果】培養肝細胞の実験より,作製したiNOSセンスオリゴ誘導体の中で,センスオリゴSO1が一番強いiNOS mRNA発現抑制を示した.敗血症ラットはGalN/LPS投与後の72 hまでに全滅したが,センスオリゴSO1を同時投与した(GalN/LPS+SO1)群では,生存率は有意に改善された(58%).また,GalN/LPS+SO1群では,肝臓においてiNOSならびにtumor necrosis factor (TNF)-αのmRNA発現の抑制が認められ,組織学的検討ではアポトーシスの抑制を示した.

【まとめ】iNOSセンスオリゴはiNOSやTNF-αの誘導を抑制し,肝病理所見を改善することで,肝保護効果を示したものと考える.肝障害敗血症に対して有効である可能性が示唆された.

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