関西医科大学雑誌
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アミノ酸インバランス食の癌転移におよぼす影響そのI
イソロイシン、メチオニン、トリプトフアン添加5% Casein食の癌転移におよぼす影響
福永 州宏
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1967 年 19 巻 3 号 p. 179-197

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抄録

著者は蛋白投与の癌転移形成におよぼす影響に関する研究の一環として,投与蛋白の質的な面からの検討を加えるために下記のような動物実験を行なつた.すなわち5% Caseinに,その欠乏アミノ酸であるイソロイシン,メチオニン,トリプトフアンなどを添加した飼料が腫瘍摘除後の転移,再発などにどのような影響をもたらすものであるかについて,5% Casein飼料,Oriental固型飼料などをControlとして,それぞれの群間で比較検討を行なつた.
すなわち,まずAgostinoの方法で人間の盲腸癌類似の状態を作成し得たratの盲腸腫瘍摘除後,各飼料で飼育の上, 術後4 週間目までの転移, 再発の状況を各群間で比較検討を行なつたところ, アミノ酸添加5 % Casein 飼料飼育群では, Control 群に比し, 術後の転移,再発がいちぢるしく増強促進されるものであることが判明した.
つぎに,腫瘍摘除後の再発に対する上記各飼料の影響を知るためにWalker Carcinosarcoma 256腫瘍の皮下移植を行なったSD系ratの腫瘍を移植後13日目に摘除し,術後の転移,局所再発状況などを比較検討したところ,前記実験とまつたく同一の傾向を認めることが出来た.
なお,Walker腫瘍の発育状況を各飼料別に移植後,1週間目と2週間目とで比較検討したところ,アミノ酸添加5% Casein飼料で最大の腫瘍発育を示した.つぎに,肝における腫瘍のtakeにこれら各飼料がいかなる影響をおよぼすものであるかを知るために,あらかじめ2週間にわたり,各飼料で飼育を行なつたWistar系ratの門脈内に,腹水肝癌AH130を500万個ずつ注入し,術後も同一飼料で飼育の上,Hepatic takeの様相を比較検討した.結果は,やはりアミノ酸添加5% Casein 食飼育群では, Control 群に比し高率かつ高度のHepatic takeを示し,かつ,生存率も短縮することが判明した.以上の諸実験結果から,アミノ酸添加5% Casein飼料は腫瘍摘除術後の転移,再発などを増強促進する傾向のあることが明らかとなつた.
そこでつぎに,アミノ酸添加5% Casein飼料の転移増強機序解明の一環として,まず山田の方法により,腹水肝癌AH601,AH7974などの腫瘍細胞間の接着性におよぼすこれら各飼料の影響を経日的に検討した.結果は腫瘍移植後日を経るにつれて,アミノ酸添加5% Casein飼育群と5% Casein飼育群とでは接着力も漸次低下傾向を認めたが,Oriental飼育群では変動をみなかつた.したがつて,アミノ酸添加5% Casein食は,腫瘍細胞相互間の接着力を低下せしめ,腫瘍細胞の母組織離脱を容易ならしめるものと考えたい.つぎに,腫瘍細胞の着牀性規定因子の一つと考えられている粘着力を,BerwickとComanの遠心法にしたがつて,各飼料間で検討を行なつたが,一定の関係はみられなかった.
したがつて,アミノ酸添加5% Casein食での転移増強は,腫瘍細胞間の接着力低下と腫瘍発育促進にその主因があるものと考えたい.

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