2024 年 58 巻 1 号 p. 43-57
【緒言】
マイクロプラスチック(MP)問題は,世界規模の環境問題である.その放出源は様々であるが,人工芝競技場などのスポーツ施設からのMPの放出もみられる.人工芝競技場からは,人工芝の芝葉断片やゴムチップが,MPとして雨水とともに下水を通して河川へ流出するが,競技者や競技関係者のシューズおよび衣類に芝葉やゴムチップが付着して競技場外に流出する可能性が考えられる.そこで本研究では,競技者のシューズや運動着に,どれくらいの芝葉やゴムチップが付着するのかを2カ所の人工芝競技場において流出の検証実験を行った.また,運動着に付着した芝葉をどのようにして,環境に配慮した方法で除去できるかを試みた.
【方法】
人工芝競技場における競技者の様々な運動により,競技者に人工芝の芝葉やゴムチップが付着するかどうか,2か所の人工芝競技場(A大学で2回,B大学で1回)において以下のような実験を行った.実験参加者が5分ないし15分間,競技場を歩行あるいは走行を行い,その後,スポーツシューズ,靴下に付着した芝葉およびゴムチップを採取し,各重量を測定した.また,実験参加者が,人工芝上に身体を伏せて,10回転と30回転の横転がり運動を行った.その後,シューズ,靴下,パンツおよびシャツに付着した芝葉とゴムチップを採取して,各重量を測定した.また,A大学およびB大学の人工芝競技場で遊離した状態の芝葉を採取し,長さ,厚さおよび重量を測定した.
さらに,シャツおよび靴下に付着した芝葉を除去する方法を検討するために,コードレス掃除機,ブロワー,ウェットティッシュおよび粘着テープローラーによる除去を試みた.
【結果】
A大学での実験では,運動後,個人差はあるもののシューズ,靴下,パンツおよびシャツに芝葉,ゴムチップの付着が多数確認された.一方,B大学での実験では,実験参加者への芝葉,ゴムチップの付着は,A大学の場合と比べて少なかった.A大学およびB大学で採取された芝葉の1本の平均の長さ・厚さ・重量は,それぞれ,A大学: 長さ, 1.6 cm ; 厚さ, 0.08 mm; 重量, 0.70 mgとB大学: 長さ, 10.7 cm; 厚さ, 0.29 mm ; 重量, 24.2 mgという結果であった.
また,シャツおよび靴下に付着した芝葉の除去する方法を検証したところ,粘着テープローラーが最も効率的であった.一方,掃除機,ブロワーあるいはウェットティッシュでの除去作業では,芝葉がシャツの布の繊維内に刺さり込んでいた場合,除去するのが容易ではないことが示された.
【考察】
人工芝競技場における運動実験の結果,人工芝競技場の芝葉およびゴムチップは,実験参加者の衣類やシューズに複数付着することが示された.特に,A大学における2回の実験では,いずれも多量の芝葉およびゴムチップが実験参加者に付着した.これらの結果は,芝葉およびゴムチップが,競技場の使用者の衣類やシューズに付着することにより,競技場外に流出し,使用者から離脱した場合にMPとして環境中に放出されることが示唆された.また,競技場の使用者に付着した芝葉やゴムチップが,競技場外に流出される前に,粘着テープローラーで除去作業を行うことにより,効率的に回収されることが示された.
一方,B大学における運動実験では,実験参加者の衣類およびシューズへの芝葉およびゴムチップの付着は少なかった.B大学の芝葉は,A大学のものよりも厚みがあるため,ちぎれにくいことが考えられた.さらに,B大学の芝葉の断片は,A大学の芝葉より長くて重量があるために,衣服やシューズに付着しにくく,また,付着してもその重量からすぐに服から落ちて競技場内にとどまるという可能性が考えられた.
国内における人工芝競技場の設置数の増加を考えると,人工芝競技場からのMPの放出を減らすための対策の検討が緊要である.人工芝がシューズ,運動着に付着しやすい素材でできている場合は,粘着テープローラーが効率的に芝葉の回収が可能である.一方,掃除機,ブロアーあるいはウェットティッシュにより付着物をシャツから完全に除去することは困難であり,粘着ローラーに比べて本体の価格もかなり高額であった.また,新たに競技場を設置する際には,人工芝の芝葉の材質を十分に検討し,靴や運動着に付着しにくいタイプの芝葉でできているものを採用するといった選択を考える必要がある.