老化・寿命という現象は、遺伝的要因や環境要因ばかりでなく第3のファクター「確率論的要因」にも依存する。この第3のファクターの重要さについて、筆者は強く主張してきた。筆者が揺らぎモデルに基づいて導いた寿命方程式には、「個体は一瞬々々生と死の間をゆらいでいる」というイメージが背景に潜んでいる。このような「生と死のゆらぎ説」を実証するために、筆者は究極のモデル生物-線虫C. elegans-を用いて実験的に検証してきた。ところが、ユング心理学によれば、生命は「生物学的いのち」ばかりでなく、「心的いのち」も有する多元的存在であるらしい。そこで、本研究では、「生物学的(あるいは身体的)いのち」と「心的いのち」との間に、老化・寿命と関連する何かしらの接点があるのかどうか、を明らかにすることを目的に研究を行った。その結果、意識のレベルを考慮することによって「老化は身体を介して個性化の基盤となる可能性がある」という主要な結論に筆者は導かれた。