哺乳動物卵子学会誌
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マウス初期胚におけるサイクリン類の発現
淵本 大一郎青木 不学河本 馨
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1994 年 11 巻 2 号 p. 216-224

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抄録

着床前の胚における細胞周期の制御について調べるため, 初期胚におけるサイクリン類の発現を調べた。はじめに, マウスの卵子からサイクリンAのcDNAの一部を分離し, その塩基配列を決定した. マウスのサイクリンAは, ヒトのサイクリンAと極めて相同性が高かった (アミノ酸で98.9%). サイクリンAとサイクリンB, Dのアミノ酸配列を比較すると, AとBに共通する配列およびAとDに共通する配列がそれぞれ認められた. サイクリンAとBはCDC2蛋白質に, サイクリンAとDはCDK2蛋白質に結合することが知られていることを考えると, 前途の配列は, それぞれCDC2とCDK2に結合するために必要な配列であることが考えられる. 次にRT-PCR法を用いて, 未受精卵, 2細胞期胚, 4細胞期胚, 桑実胚, 胚盤胞それぞれにおけるサイクリン類のmRNAの発現を調べた. サイクリンAのmRNAは未受精卵で発現しており, その後, 胚盤胞になるまで, 徐々に減少した. サイクリンB1のmRNAは2細胞期で減少した以外は, ほぼ同じ量が発現していた. サイクリンB2のmRNAは, 2細胞期に減少しており, その後, 桑実胚期から胚盤胞期まで増加した. 2細胞期でのG2期が長いことの原因は, M期への移行を制御するサイクリンB類の発現がこの時期に減っていることによるのかもしれない. サイクリンD類は, G1/S期移行の制御に関与していることが知られている. サイクリンD1のmRNAは, 2細胞期と胚盤胞期でしか発現が確認できなかった. サイクリンD2のmRNAは, 着床前のどの時期においても発現が確認できなかった. サイクリンD3のmRNAの発現は, 未受精卵で認められ, その後, 2細胞から4細胞期にかけて急激に減少し, 桑実胚から胚盤胞期にかけて再び増加した. サイクリンD類のいずれについても恒常的な発現が認められなかったことから, 初期発生のG1期は, 通常の分裂細胞で見られるようなサイクリンDを必要とするようなものではなく, それとは異なった機構で制御されている可能性がある。

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