2022 年 100 巻 5 号 p. 767-782
本研究では、2015年に発生したスーパーエルニーニョ現象に着目し、太平洋子午面モード(PMM)に伴う海面水温の上昇とインド洋の昇温が北太平洋の熱帯低気圧発生(TCG)に与える役割の可能性を明らかにした。全球非静力学モデルを用いて、2015年7月の気候条件を得るために30ヶ月間積分した永年実験を行い、PMMとインド洋の昇温域の海面水温が北太平洋上のTCGに与える影響を調べた。その結果、PMMに伴う海面水温が昇温すると、北太平洋西部のモンスーントラフや北太平洋東部の鉛直シアが弱まり、北太平洋西部のTCGが減少し、北太平洋東部のTCGが増加することが示された。また、インド洋の海面水温が昇温すると、北太平洋西部のモンスーントラフは弱まるが、北太平洋東部の鉛直シアはあまり変化しないことが示された。PMMに伴う海面水温やインド洋の海面水温が昇温すると、北太平洋西部の高気圧性偏差が強まることがわかった。また、エルニーニョの強制がない場合にPMMに伴う海面水温が昇温すると、北太平洋西部の低気圧性偏差が強まることが確認された。この結果は、既往研究と整合的である。本研究の結果は、PMM とエルニーニョに伴う海面水温の昇温の強制の応答が非線形で加算的でないことを示唆している。