2022 年 100 巻 5 号 p. 783-805
2019年10月に台風Hagibisに伴う大雨が日本に甚大な災害をもたらした。降水は温帯低気圧中のHagibisの北半分に集中していた。この非対称な降水のメカニズムを解明するため、総観・メソスケールのプロセスを主に気象庁非静力学モデルにより解析した。本研究では温帯低気圧化のステージによって非対称化プロセスが異なっていたことを示す。Hagibisが中緯度の傾圧帯に近かった10月12日(前線ステージ)には、多くの先行研究で指摘されるように温暖前線形成や準地衡的な上昇が北東側の大雨に寄与していた。これに対しHagibisが傾圧帯からある程度離れていた10月11日(前線前ステージ)には、Hagibisの外側領域における北に向かう斜向上昇流で北側の大雨が生じていた。この斜向上昇流はHagibisと西風ジェット気流との間の強い西風シアの中で発達した。渦位と絶対角運動量の解析により、この領域は上層の慣性不安定と下層の条件付き不安定を伴う中下層の湿潤対称安定度の減少によって特徴づけられた。これらの結果は、明瞭な上層トラフが無い場合の温帯低気圧化における非対称化プロセスの時間発展、特に前線前ステージの斜向対流に関して、新たな知見を与える。