2022 年 100 巻 6 号 p. 979-993
ハリケーンや台風の内部で発生する雷活動について多くの先行研究があるが、台風内部における雷の3次元的振る舞いや、降水システムの内部構造と雷との関係を調べた研究はまだ少ない。本研究は、Tokyo Lightning Mapping Array (Tokyo LMA)、気象庁Cバンドレーダー、Japanese Lightning Detection Network (JLDN)のデータを用いて、2019年台風15号(T1915)の衰退期における雷活動と降水システムの内部構造について調べた。T1915衰退期の壁雲では、通常よりはるかに多くの正極性落雷が発生した(解析期間の全フラッシュに対して56%が正極性落雷)。正極性落雷の雷放電過程は、はじめに上層の正電荷領域と中層の負電荷領域間で雲放電を開始し、その後、雲放電の正の絶縁破壊が雲内に留まらず地上へ進んだことで、上層の正電荷を中和する正極性落雷が発生したと考えらえる。また、電荷構造は、上層に正電荷領域、中層に負電荷領域を持つ一般的な電荷構造であったと考えられるが、正極性落雷の雷放電過程の特徴から、上層の正電荷量に比べて中層の負電荷量が非常に小さかったと推測される。