気象集誌. 第2輯
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衛星放射輝度データ同化の観測演算子に対する機械学習アプローチ
Jianyu LIANG寺崎 康児三好 建正
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2023 年 101 巻 1 号 p. 79-95

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抄録

 観測演算子(OO: Observation Operator)は、データ同化(DA: Data Assimilation)において必要不可欠であり、モデル変数から観測値相当量を導出する。衛星DAでは、衛星マイクロ波輝度温度(BT: Brightness Temperature)のOOは、通常、放射伝達モデル(RTM: Radiative Transfer Model)に基づき、バイアス補正の手続きを用いる。物理ベースのRTMを用いずにOOを得る可能性を探るため、本研究では機械学習(ML: Machine Learning)をOOとして適用し(ML-OO)、晴天条件における海上の改良型マイクロ波探査計(AMSU-A: Advanced Microwave Sounding Unit-A) チャンネル6,7および陸海両上のチャンネル8のBTを同化した。非静力学正二十面体大気モデル(NICAM)と局所アンサンブル変換カルマンフィルタ(LETKF)からなる参照システムを使用した。TOVSのための放射伝達(RTTOV: Radiative Transfer for TOVS)をOOとしてシステムに実装し、独立したバイアス補正手続きを組み合わせた(RTTOV-OO)。参照システムを使って従来型観測とBTを同化するDA実験を1ヶ月間行った。この実験で得られたモデル予報は、MLモデルを学習させML-OOを得るための観測と対にした。さらに、3つのDA実験を行い、ML-OOを用いた従来型観測とBTのDAは、RTTOV-OOのそれと比べて若干劣るが、従来型観測のみに基づく同化よりも良いことを明らかにした。また、ML-OOはバイアスを内部で処理し、それによりシステム全体の枠組みを簡略化した。提案されたML-OOは、(1)衛星特性に大きな変化がある場合にバイアスを現実的に扱えない、(2)多くのチャンネルに適用できない、(3)精度や計算速度においてRTTOV-OOと比較して性能が低下する、(4)物理ベースのRTMを依然として学習用に使用していることによる制限がある。今後の研究により、これらの欠点を軽減し、それにより提案されたML-OOを改善することが可能である。

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© The Author(s) 2023. This is an open access article published by the Meteorological Society of Japan under a Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0) license.
https://creativecommons.org/licenses/by/4.0/
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