2023 年 101 巻 3 号 p. 175-189
高解像度大気海洋結合モデル実験は季節間から季節スケールを対象とする予測に対して主要な手法である。しかしながら、モデルの構成要素間のエネルギーバランスが取れていないことによる海面水温ドリフトは不可避であり、それは予測スキルを低下させる可能性がある。本研究では、季節スケールの水温ドリフトを軽減するためのフラックス調節を実装し、その性能を事例解析を通じて調査した。本研究には、非静力学正20面体格子大気モデル(NICAM)とCCSR海洋コンポーネントモデル(COCO)を用いた結合モデル(NICOCO)を用い、大気モデルと海洋モデルの水平解像度をそれぞれ14km、0.25度とする設定で冬季の40日積分を実行した。フラックス調節を行わない場合には、熱帯、亜熱帯、そして南極域で40日間で典型的に-1.5度から2度程度の水温ドリフトを示す。一方、本研究で実装したフラックス調節は、その海面水温ドリフトを十分に軽減できることが確認できた。さらに、ラグ相関解析を通じて、フラックス調節下においても大気海洋相互作用のプロセスは適切に表現されていることが示唆された。フラックス調節が実装された高解像度結合モデルは季節間から季節スケールの予測を向上させることが期待される。