2020 年 98 巻 4 号 p. 707-733
本研究では、台湾の極端な降水に対する台風Morakot(2009)の渦構造のインパクトを、区分渦位逆変換法を適用して調べた。8月7日0000UTC、すなわち上陸の15時間前から始めたコントロール実験はそのイベントを現実的に再現し、結果は観測により検証された。中心から750km以内の渦位摂動を変更することにより、Morakotの大きさ及び循環強度を小さくしたり弱めたりしたいくつもの異なる初期値による感度実験を行った。
感度実験において、特に内部コア(250kmより内側)の初期渦位を十分弱めた実験において、台風は早くに上陸し、陸上に長くとどまり、台湾から過ぎ去るのが遅くなった。このトラックの変化は計算の初期における内部コアの立ち上がりと収縮に伴うものであり、大規模場の下層南西風下における内部コア内における対流と潜熱加熱によってもたらされた。その結果、すべての感度実験で、台湾ではコントロール実験と同程度かそれ以上(最大12%増)の降水量が全体的に見られた。つまりより弱いMorakotであることは、台湾により少ない総降水量となるのに必要ではなく、この事例では、強い南西風と多量の水蒸気供給が渦構造よりもより大きな要素であった。
一方で、収縮と外側の弱い循環に伴い、実際には最も降水の多い地域と期間である中央山脈南部の8月8日の降水は、最大で40%も減少する傾向があった。このように感度実験の降水パターンとその時間発展はコントロール実験と顕著に異なり、渦構造はこの領域の降水において重要な役割を果たしていることが示された。