気象集誌. 第2輯
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Notes and Correspondence
Kaバンド偏波雲レーダーによって観測された晴天エコー:首都圏における昆虫エコーの事例解析
大東 忠保 前坂 剛鈴木 真一出世 ゆかり櫻井 南海子岩波 越
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2021 年 99 巻 1 号 p. 101-112

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抄録

 本研究では、非降水雲を検出することのできるKaバンド(波長8.6mm)偏波雲レーダーを用い、2016年5月21日に日本の首都圏に出現した晴天エコーの偏波パラメータを調べた。Kaバンド偏波雲レーダー観測において、晴天エコーと雲形成初期における雲・降水エコーを識別する可能性を確立することが目的である。対象とした日には晴天エコーは明瞭な日変化を示した。日の出前には晴天エコーは見られなかった。日の出以降、等価レーダー反射因子(Ze)は時間とともに増大し、現地時間の正午過ぎにはレーダー観測範囲内において水平方向に広範囲に広がったエコー(最大で>−15dBZ)が生じた。日没以降夜の早い時間帯に、Zeは急激に減少した。RHI(距離高度断面)観測によると晴天エコーは高度1.5kmより下層に限定されていた。晴天エコーのレーダー反射因子差(ZDR)は、現地時間18:00には大きな正の値(1.8dB)を示し標準偏差も大きかった。これは同時に観測された雲や弱い降水のエコーのZDR(0.4dB)と比較するとかなり大きい。雲・降水エコーと比べると偏波間相関係数(ρhv)は小さく(< 0.9)、合計の偏波間位相差(ΨDP)の距離方向の変動は大きかった。Zeの上限値、およびZDRとρhvの分布は、先行研究におけるSバンド(波長10cm)レーダーによって観測されたブラッグ散乱の特徴と矛盾していた。一方で、水平方向に広範囲に広がったエコー、大きなZDRと小さなρhvの値、ψDPの距離方向の大きな変動は昆虫エコーの特徴と一致する。ZDRとρhvを用いて定義される偏波抑圧比は、この種の晴天エコーと雲・降水エコーの識別に有効であると思われる。Kaバンド偏波雲レーダーによって取得される偏波パラメータは、晴天エコーと雲・降水エコーの識別に有用である。

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© The Author(s) 2021. This is an open access article published by the Meteorological Society of Japan under a Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0) license.
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