気象集誌. 第2輯
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フェーズドアレイ気象レーダで観測された孤立積乱雲内の降水コアの構造と時間発展
諸田 雪江坪木 和久佐藤 晋介中川 勝広牛尾 知雄清水 慎吾
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2021 年 99 巻 3 号 p. 765-784

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抄録

 フェーズドアレイ気象レーダは、30秒間隔で積乱雲内の反射強度と風速場の詳細な三次元分布を観測することができる。本研究では、この高速スキャン機能を用いて、孤立積乱雲の構造と時間発展を調べた。積乱雲の構造を記述するために、次のような定義を用いた。降水セルは、高度2km以上の領域で、反射強度40dBZ以上の三次元的に連続した領域と定義した。降水コアは、成熟期における降水セルの平均反射強度からの偏差が+7dBZ以上の領域と定義した。上昇流コアは、高度2kmにおける上昇流が1 m s-1以上の領域と定義した。

 解析した孤立積乱雲は、2015年8月7日の近畿地方において、2台のフェーズドアレイ気象レーダで観測された。この積乱雲は、上述した定義で判別するとシングルセルであった。この降水セルの成熟期49分間には、9個の降水コアと5個の上昇流コアを識別することができた。降水コアは、1つの長寿命な上昇流コアと、そこから分岐した上昇流コアの周辺で次々と発生しており、それらの上昇流コアは南西、もしくは南東方向へ移動していた。最も長く観測された上昇流コアの寿命は73.5分だったのに対し、観測された降水コアの寿命は4.5~14.5分だった。識別された複数の上昇流コアは次々と発生し、下層での南西風の流入によってもたらされた水蒸気を降水セルへと継続的に供給していた。上昇流コアから見積もられた水蒸気供給量は、降水セル体積と比例しており、その相関係数は0.75だった。このように、高時空間解像度の観測データは、降水セルが複数の降水コアと複数の上昇流コアから構成されているという新しい概念を提示する。

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© The Author(s) 2021. This is an open access article published by the Meteorological Society of Japan under a Creative Commons Attribution 4.0 International (CC BY 4.0) license.
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