気象集誌. 第2輯
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グローバルな河川流路網情報(TRIP)を利用した世界の主要河川の流出量による地表面数値モデルの検証
沖 大幹西村 照幸Paul Dirmeyer
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1999 年 77 巻 1B 号 p. 235-255

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抄録

大気大循環モデルによる長期シミュレーションにはその下端境界条件である海洋ならびに陸面状態の適切な記述が必要である。海水面温度や海氷密接度など衛星からのリモートセンシングによって比較的観測しやすい海洋表面の状態に比べて、土壌水分や積雪水量など陸地表面のグローバルな観測手法は発展が遅れている。そこで全球土壌水分プロジェクト(GSWP)では水文気象観測値を地表面数値モデル(LSM)に与えることによってグローバルな表層土壌水分量が全球1°×1°グリッドで1987年~1988年に対して求められた。観測値を入力するとはいえ数値モデルを介するので、LSMによる算定結果に対する独立な観測値を用いた検証が重要となる。広域代表性がある水循環観測量は河川流量しか現実的にはないので、本研究ではそれを用いてLSMの水循環推定精度を検証した。これはLSMが推定した蒸発量の間接的な検証にもなり、また、河川流量自身もグローバルな水循環の中で重要な役割を担っているので、その検証は気候学的にも意義深い。LSMの算定結果を観測流量と比較するため、グローバルな河川流路網情報(TRIP)上で流量観測地点固有の集水域を同定し、LSMからの流量を面積平均で集計した。一方で世界の各機関から流量データを収集し、世界の150の主要河川における250の流量観測地点について1987年と1988年の両方をそろえ、LSMによる算定結果と比較した。その結果、外力としてLSMに与えられた雨量計密度が30[/106km2]以上の集水域ではLSMの算定値は平均して年流量の40[%]程度の誤差で推定していることが分かった。この値は年蒸発散量に対しては約18[%]に相当する。全体としてLSM算定値は観測値よりも小さめに年流量を算定していたが、これにも外力として与えた降水量情報の影響があると考えられる。観測月降水量が6時間降水量や対流性/層状性降雨に変換された際の問題も考えられるし、雨量計自体の風による観測誤差も考えられる。風の影響は降水に占める雪の割合が多い高緯度地方で強いはずであるが、実際、高緯度地方のほとんどの集水域についてLSMの推定流量は観測流量よりも小さく見積もられていた。さらに、11のLSMによって算出されたグローバルな旬平均流出量を線形河道流下モデルへの入力として与えた数値計算も行い、月流量として集計して250地点における観測値と比較した。年流量に対する河道流下モデルの影響は極めて軽微であるのに対し、月降水量季節変化に関する推定値と観測値との比較結果では、多くのLSMについて河道流下モデル適用後の方が両者の相関が良くなることが示された。この様に、グローバルな河川流路網(TRIP)によって河川流量を大陸スケールの水循環推定結果の検証に用いることが可能となり、さらに、河道流下モデルを用いてグローバルな水循環をより現実的に再現できることが明らかとなった。大気陸面河川海洋結合モデルを目指して、河道流下モデルやLSMの改良を行うことが今後重要であると考えられる。

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