保健医療科学
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SDG時代の母子保健の世界的政策方向性
高橋 謙造 野村 真利香堀内 清華三浦 宏子
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2017 年 66 巻 4 号 p. 395-401

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抄録

2015年,それまでの世界的なアジェンダである「ミレニアム開発目標(MDGs: Millennium Development Goals)」が終焉を迎え、新たなアジェンダとして「持続的な開発目標(SDGs: Sustainable Development Goals)」が国連総会において批准された.本論文では,MDGs時代に母子保健分野が成し遂げた進捗とSDG時代の課題を概観し,日本の過去の母子保健の経験を参照しつつ,世界的な母子保健の方向性を検討することを試みた.MDGs時代には,学術誌Lancetの一連のSystematic Reviewの成果,およびインドからの無作為化比較試験(RCT: Randomized Controlled Trial)の成果等が反映され,エビデンスに基づいた介入の必要性が提言されるに至った.一方で,MDGsの感染症対策等と比して進捗が遅れ気味であった母子保健は,SDGs時代には「残された課題」として国連レベルで議論されるようになり,"Global strategy for women's, children's and adolescents' health (2016-2030)"なる戦略書が出版された.この戦略書においては,母子保健分野の3つの目的として,Survive(生存),Thrive(健全な成長),Transform(社会の転換)が提示された.また,SDGs においては,サービス財源の確保と,サービスの質向上を同時に志向する「ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC: Universal Health Coverage)」の実現も提唱され,母子保健への寄与が期待された.しかし,世界で最も早く国民皆保険を実現した日本の経験によれば,国民皆保険導入以前より乳児死亡率等の母子保健指標の改善は始まっており,その改善の背景には保健師,開業助産師によるアウトリーチ活動を始めとするコミュニティ・レベルでの活動が寄与していた.国民皆保険は,保健師の雇用財源に関して主として寄与した.これらの背景を踏まえて,SDG時代の母子保健では,エビデンスに基づいた母子保健対策が必要となる.また,日本の経験を反映して,UHCの推進だけではなく,プライマリ・ヘルス・ケア(Primary Health Care)に代表されるコミュニティ・レベルでの活動とボランティアの活用も見直すべきである.

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© 2017 国立保健医療科学院
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