保健医療科学
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論文
日本の難病・希少疾患研究における研究費を決定する要因の分析
仁宮 洸太 水島 洋木下 秀明今村 恭子
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ジャーナル オープンアクセス

2019 年 68 巻 3 号 p. 270-278

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抄録

難病・希少疾患に関して,日本は福祉的取り組みや研究に世界的に早くから取り組んできたにもかかわらず,難病・希少疾患に関する研究に関して,論文数や被引用数,上位10%論文率の観点から研究力を見た場合,欧米に比べて低い水準となっている.しかし,そうした病気の原因の多くが遺伝子に何らかの原因があるとされ,地域差も存在することから,アジア唯一の新薬創出国として,日本は難病・希少疾患に関しての研究力を向上させる必要がある.さらに,2015年の「難病の患者に対する医療等に関する法律」施行以降の指定難病制度の拡充等に伴い,欧米に比べて少額の予算で,今後より多くの難病・希少疾患の研究を行う必要が生じると予想される.以上から,本研究では平成29年度の厚生労働省難治性疾患政策研究事業の研究に関して,主に厚生労働省科学研究成果データベース内の研究班成果報告書を使用し,研究費の多寡に対して有意に寄与する要因を研究班横断的な重回帰分析により明らかにした.その後,研究事業趣旨への合致を検証したうえで,予算の多寡の原因と今後の政策の方向性を検討した.なお,外部から取得できる客観的情報をもとに,客観的立場で予算配分の妥当性を検証する方針を採用した.

「研究年数」「研究班所属人数」「昨年度の論文数」「生体試料の取扱い」「患者登録レジストリの運営」は研究費が高く配分されるように寄与する一方で,「基礎研究の実行」は研究費が低く配分されるように寄与することが, 5 %水準で統計的に有意に示された.これらの要因による研究費の多寡は,研究事業趣旨に即して合理的に説明されたため,研究費の配分の妥当性が明らかになった.これらの要因に関して,実際に行われている内容の詳細な検証を通して,特にバイオバンクを含む「生体試料の取り扱い」と「患者登録レジストリの運営」について,重複した作業を各研究班が別々に行っている例が多く見られ,研究費増加の一因と考えられた.これらの研究内容は,難病・希少疾患の研究には特に有効だが,高額になる傾向があると指摘されており,対策として中央集中的な研究基盤整備が米国などで進められている.

したがって,AMEDの設立等に伴い複数の研究基盤整備が同時に進められていることも考慮し,今後日本は研究基盤整備事業ごとの適切な棲み分けと連携のもと,難病・希少疾患に特化し,中央から集中的に作業の支援・代行する研究基盤整備の推進が望まれる.

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© 2019 国立保健医療科学院
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