自然言語処理
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日中機械翻訳における否定文の翻訳
卜 朝暉池田 尚志
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2004 年 11 巻 3 号 p. 97-122

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抄録

日中機械翻訳において, 日本語の否定文を中国語に翻訳する際, 中国語否定辞の訳し分けと文中での否定辞の位置の決定は二つの大きな問題であり, 市販の日中MTシステムでも, 否定文の翻訳に関する誤りが多く見られる. その原因は次の2点にある.
(i) 否定辞の対応が一対多である. 日本語の基本的な否定辞は「ない」であるが, 中国語に翻訳されると, その否定の意味と文法上の規定により, 「不, 没 (没有), 別」の三つの可能性がある.
(ii) 否定辞の文中での位置も相当に異なっている. 日本語の「ない」はいつでも述語に後接しているが, 中国語の「不, 没 (没有), 別」は否定の焦点と中国語の構文上の約束によって, 謂語, 状語, あるいは補語の前などに現れる.
我々は日中機械翻訳システムjaw/Chineseを開発中であるが, そこでは否定文の翻訳は, 否定辞を除いた基本文の翻訳はパターン変換処理によって行い, 否定辞の翻訳は中国語否定辞の選択規則と否定辞の位置規則を用いて翻訳する. 本論文では日中両言語における否定文を分析し, (i) に対して, 日本語文の構文特徴, 中国語文の構文特徴述語とその連用修飾語の属性などを利用して否定辞の選択規則をまとめた.(ii) については否定焦点の日本語と中国語構文上での反映の相違, 及び中国語否定辞の構文上での位置制限と結びつけて考察し, 否定焦点の曖昧性保留も検討した上, 機械で処理できる形で位置判定規則を示した. そしてその二つの規則を中心として, 否定文の翻訳方法を提案した. 日英対訳例文集から抜き出した約1000文中の113文の否定文に対して, 手作業で実験評価した結果, 約94%の精度であった.

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