日本神経回路学会誌
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解説
多細胞同時記録実験と解析
石金 浩史
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2008 年 15 巻 3 号 p. 203-208

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抄録

近年,神経科学分野において多細胞同時記録が盛んになり,ブレインマシンインターフェース·ブレインコンピューターインタフェースの実用化が現実味を帯びてきた.しかして主としてwet experimentによりデータ収録と解析を行っている研究者はその膨大なデータ量と解析に日夜頭を悩ませている.単一ニューロン記録が主流だった時代においては神経科学界におけるセントラルドグマである「頻度の法則」に基づき,ラスタープロットとperi-stimulus time histogram(PSTH)によるデータ表示と解析が行われていた.これは多くの場合において感覚の程度や運動出力の強度が“全か無か”の法則にしたがうスパイク発火の頻度と対応関係がある事実に対してその妥当性の根拠を求めたことに起因する.しかしながら,多細胞同時記録が可能になった現在において,収録されたデータは単純に単一ニューロンデータの集合体として取り扱うだけでなく,これまで理論的に提唱されてきた細胞集団による情報表現や符号化·復号化の仮説に対して何らかの示唆を得られるような解析を行うことが求められてきている.もちろん,データ取得効率の向上を目的とし,一度に多くの単一ニューロンデータを得ることが可能な実験法として多細胞同時記録実験を遂行し,従来のように発火頻度やその時間的特性を解析することに対して異を唱えるものではない.本稿では主として著者がこれまで関わってきた多細胞同時記録に関連する実験と理論の現状に関して述べるととともに,いわゆる実験家と理論家とに大別される研究者間の連携についてもふれる.

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© 2008 日本神経回路学会
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