日本神経回路学会誌
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JNNS創立20周年記念優秀論文
実世界における脳の数理モデルの貢献
—情報工学·ロボット工学との融合を考える—
我妻 広明
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2009 年 16 巻 4 号 p. 184-189

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抄録

この二十年に進展した科学技術を概観し,脳理論研究において掲げられてきた「脳を知り,脳を創る」課題の再考を試みる.特に,急速に発展しつつあるITやロボット工学との融合を通して脳科学の基盤技術創出を提案する.脳を細分化し研究対象にするだけでなく,脳機能の相補性,統合性を踏まえた認知/行動から神経可塑性に至る時間単位の複合性に正面から向かうことが求められている.ゆえに,脳を再構成して実空間実時間で実験解析を可能とする構成論的アプローチは自然な潮流であり,今後の工学的応用への具体的方策としても期待できる.その流れを確かなものにするため,既存の研究資産の共有と再利用を促進し,脳と身体をトータルデザインできる技術基盤の確立が急務である.脳科学の現代的な課題は,万能な自律知能システムを漠然と考えることではなく,日常に浸透する基盤技術,いわばユビキタス技術を創出し続けることである.そうして脳科学がより緊密に様々な技術分野に対して貢献していくことが我々の使命と考える.また脳の自律性や社会的適応性が身近な技術へ応用される過程で,人間の「自我」,「個性」,「自由意志」へと向かって脳の理解が進むことを夢としたい.

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© 2009 日本神経回路学会
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