産業医学
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傾斜計を用いた作業姿勢簡易モニター装置
瀬尾 明彦水流 聡子梯 正之吉永 文隆
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1994 年 36 巻 6 号 p. 406-411,A124

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抄録

職場の腰痛対策には,現場での作業姿勢把握が重要である.作業姿勢の分析法としては調査者が作業者を直接観察し作業姿勢を記録する方法がよく利用されるが,多くの手間がかかり十分に実施されているとはいえない.バイオメカニカルな解析によれば,腰痛発症に直接関与する腰部椎間板内圧の上昇は,上体の傾斜角と直線的な関係を持っている.前屈や中腰など姿勢の取り方や取扱い重量物も椎間板内圧に影響するが,いずれにしても上体傾斜角が小さい姿勢のほうが椎間板内圧は減少し,腰部への負担は減少する.そこで我々は,職場で簡単に作業姿勢を把握する方法として,傾斜計により上体傾斜角をモニターする簡易装置の開発を試みた.まず,作業面の高さと上体傾斜角の関係を単純な数学的モデルで解析した.ある作業者が前屈姿勢である高さの作業台で作業する場合を仮定した.その結果,上体傾斜角は作業台が高くなるほど単純に小さくなることが確認された.また,作業台の高さ変化に対する上体傾斜角の変化率は,前屈が強いあるいは立体に近い状態では大きく,その中間の状態傾斜では小さいというバスタブ型の変化を示していた.この変化率の最小値は1 deg/cm以上であり,わずかな作業条件の差も上体傾斜角で捕らえ得ることが確認された.試作した装置は,傾斜計(5.5×4×2 cm, 40 g)と携帯部(15×10×4 cm, 500 g)で構成される.傾斜計は被験者の上体に固定し,携帯部はソフトケースに入れベルトで腰に固定し被験者に携行させる.傾斜計は磁気抵抗素子による角度センサを利用したもので,おもりの位置から鉛直方向に対する傾斜角を求めるものである.携帯部にはワンチップCPUが組み込まれており,測定および装置の管理を行う.測定されたデータは携帯部内のメモリに保存され,ホストコンピュータに転送して解析される.傾斜計については,静特性と動特性を測定した.静特性として-20~120 degの範囲の直線性をみると最大4.6 degの誤差がある.また,動特性として遅延なく精密に角度測定ができるポテンショメータとの比較を行ったところ,おもりの固有振動成分を除去するためのフィルタの影響で, 227 msの時間的遅れと4.0 degの振動減少があることが認められた.本装置による解析例として,まず2名の被験者にモデル的に設定した荷物持ち上げ作業をさせ,その間の測定を行った.これは, 10個の荷物を0, 20, 40, 60 cmの台からプラットホーム(高さ80 cm)の上に,前屈あるいは中腰で持ち上げるものである.台が高くなると,作業中の前屈が軽減し上体の動きが少なくなるため上体傾斜角の平均値も標準偏差も小さくなると予想され,前屈ではほぼそのような結果となっていた.しかし中腰姿勢では,台の高さに応じた上体傾斜角の平均値や標準偏差の変化に明らかな傾向は認められなかった.これは台の高さの差を膝の屈曲で吸収したためと思われる.より実践的な応用として,ある1名の作業者に高さの異なる8種類のベッドでのおむつ交換作業を実施させ,解析を行った.その結果,ベッドの高さが高いほど上体傾斜角の平均値は小さくなっていることが確認された.ベッドの高さと上体傾斜角の平均値とベッドの高さとの回帰直線を求めたところ,その回帰係数は-1.96 deg/cmであった.標準偏差についてはベッドの高さに対する変化はほとんど認められなかった.これは,解析した作業のほとんどがべッド上のみで実施され,姿勢変化が少なかったためと判断された.

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© 社団法人 日本産業衛生学会
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