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リレーエッセー
インフォプロってなんだ? 私がインフォプロに期待すること 第35回
田中 和夫
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2012 年 55 巻 1 号 p. 56-57

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はじめに

知財業務に携わって17年ほど経ちます。社内の異動希望制度が新設されたころ,設計部門から特許室へ念願かなっての異動でした。

特許室で最初に教えてもらった業務は,やはり特許調査です。コマンドや検索式の立て方など,一通りの教育を受けたのちに新規性調査を与えてもらいました。設計の時に携わっていた技術分野のテーマでありながら,検索に見切りをつけることができず,いつまでも報告書をあげられないという有様でした。また当時はパトリスを利用して検索を行い,件数が適当に絞れたところで紙の抄録を発注していました。抄録を入手するだけで3日ほどの時間が必要な時代です。抄録を入手し,初めて必要な情報が入手できていないことに気づくと,技術把握の甘さや検索式の設定の未熟さを思い知らされました。新鮮な仕事に傾倒していくと同時に反省の日々が続きました。

当社スター精密は精密加工技術をコアとした工作機械,部品製造,プリンタ,音響部品の4事業を軸とする機械,電気機器のメーカーです。知財業務は,事業部担当制をひいており,各担当者は担当事業部の発明発掘から調査,出願,権利化業務,さらには侵害対応までをこなしています。

調査業務は特許業務の中で,最も重要であり,あらゆる知財業務の基礎をなすものと考えています。調査業務が特定の担当者に集中したり,緊急性を求められることもあり,室員はすべて,調査業務に対応できるようなスキルを身につけています。また開発・設計部門に配属される技術系の新入社員に対し,約3か月間,特許調査を中心とした教育を実施しています。これは,特許業務の基礎を理解してもらうだけでなく,技術情報でもある特許情報にアクセスすることにより,技術者として必要な技術的知識を習得してもらうことも狙いとしています。

おそらく,当社で処理する年間調査件数は,調査専門で仕事をされているインフォプロの方であれば,ひとりで処理可能な程度かと思います。また,私の付き合いのあるインフォプロは,技術や調査ツール等に高い知見を有しており,陽気で人間的に素晴らしい方々です。お会いするたびに,刺激を与えられ,感化されることばかりです。このように私がインフォプロの皆様に要望を出すことは,多少,口幅ったい気もします。しかし,何らかの参考になればとの思いで,これまでの経験や管理者としての立場,外部調査会社とのやり取りを通じ,日々,感じていることをお伝えしたいと思います。

調査対象の把握が重要

対象の把握,定義をきちっと行うことが調査の出発点となります。私も調査が進み,技術情報が明らかになっていく中で,ミスに気づき,やり直しを強いられたことが幾度となくあります。依頼者であっても,調査対象を十分に絞り込んでいるとは限りません。時間をかけても依頼者とのコミュニケーションを通じて,明確にしていくことが,逆に効率的であると感じています。外部調査機関の方であっても,クライアントに対する遠慮は必要ないと思います。また,依頼者に負けないくらいの技術的知識を持って,調査対象について対等に議論できる能力をつけることも必要です。

調査結果の利用イメージを持って

先日,特許庁の審査官に拒絶通知の材料を提供している調査機関の方に話を伺う機会がありました。請求項に記載された範囲だけでなく,明細書の記載の中から補正を想定して調査を行っているとのことでした。さすがプロだなと感心させられます。ユーザー視点で相手の状況を理解し,必要な情報を提供することで依頼者との信頼関係が構築されるのだと思います。

表現力を豊かに

特許業務は文書作成業務と言い換えても過言ではありません。調査結果も報告書という文書を通じて報告しています。口頭ではしっかりと伝えることができるのにうまく文章に表すことができないのは残念です。文章というと,学生時代にジャズのトランペット奏者から即興演奏について聞いた話を思い出します。即興は奏者の生まれもった感性で演奏されているように思っていたのですが,自分の引き出しの中にあるフレーズから演奏を組み立てているとのことです。このフレーズを少しでも増やしたい!良い演奏をしたい!そんな思いで,こつこつと練習に励んだり,演奏会に参加しているとのことでした。文章も同様かと思います。芸術的なものを求めているわけではありませんので,報告書で使用する用語や文章表現は,わかりやすさを意識すべきです。材料はいたるところに転がっていますので,日頃から研鑽を心がけたいものです。

スピード!! スピード!! スピード!!

あるIT関連企業にお邪魔した際に会議室に社是が掲示されていました。いくつかの社是の中で,これが目に留まりました。“スピード!!”が3回も繰り返されており,とてもインパクトがあります(さらに他人が1年かかるところを1か月で達成せよとも書かれていました)。仕事の集大成はスピードにあらわれてくるものだと思います。特に調査業務は,実施の可否や出願の意思決定のために早急な対応を迫られることが多いかと思います。納期を守ることは当然ですが,日頃においても効率化等の工夫によるスピードアップは意識したいものです。

相談できる仲間の存在

調査の仕事はパテントマップ作成等で大量の情報を扱わない限り,個人の中で完結してしまう業務が多いと思います。管理者になって特に感じることですが,自分や組織の中で経験のない業務やイレギュラーな処理は意外と多く発生するものです。仕事をやっていると,ひとりの能力の限界を痛感させられる場面は必ず訪れます。そのようなときに相談できる仲間を社内外に持つことは,大変心強いものです。私には,忠告してくれる先輩が幸いにも近くにいてくれたおかげでそのことを早くから意識できました。

おわりに

日本の特許出願件数はこのところ減少傾向にあり,一方で経済同様,中国が台頭してきています。当社の事業領域でも日米欧の調査だけでなく,中国に対峙することが現実の課題となっています。このほか,円高や金融不安などに起因し,私たちを取り巻く環境は日々変化しています。このような視界不良の環境下,専門家の活躍が期待される場面は,今後,ますます増えていきます。これまで,自分への戒めを含め,仕事人として基本的なことを述べてしまいました。これら基本事項を踏まえ,一歩深めてインフォプロへの期待を申し述べますと「情報検索や活用における創造性の発揮」になろうかと思います。要求されるものは,企業や立場によって異なりますが,新たな課題への挑戦,新たな価値の創出等は共通して期待されることかと思います。所属される組織の躍進のため,今後もインフォプロの皆様の活躍を期待しています。

 
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