Journal of Information Processing and Management
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2013 Volume 55 Issue 10 Pages 712-721

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本記事は,2012年10月2日,科学技術振興機構東京本部で行った座談会を収録し,弊誌編集事務局で編集したものである。

松谷(司会):

本日はお忙しい中,お集まりいただきありがとうございます。今回はリレーエッセー「インフォプロってなんだ?」の終了にあたって企画された座談会です。最近,インフォプロの減少が危惧されてきています。そこで,インフォプロの将来の成長点をどう見るかについて,ベテランのインフォプロの方々にお話しいただきます。最初に,自己紹介を兼ねてインフォプロの現状について,次に,インフォプロを取り巻く環境の変化と課題を取り上げ,最後に,インフォプロの将来ということで,今後のわれわれの成長点をどこに置くか,どう行動をしていくべきか,まとめていきたいと思います。

自己紹介/インフォプロの現状
松谷:

では,最初に,本日の司会を担当する日本化薬の松谷です。入社時は農薬の研究所で研究の企画管理,研究所から出願される特許のリエゾン的な仕事,調査,図書館の管理・運営という業務を20年ほど担当してきました。その後,本社の知的財産部に異動になり,この時点で,全社の情報関連業務を見ることになりました。当社は,機能化学品,医薬品,自動車安全部品等の事業があり,化学系の部署には情報担当がそれぞれ配置されていました。

当時,知財部の中での情報担当は一人でしたが,その後,増員されて,7年ほど前に情報グループとして組織化されて,現在10名で全社の情報関連業務を行っています。

私はインフォプロの専門性ということを非常に大事に考えています。それぞれの専門分野をきちんと持つということと,基本は知財部の調査担当ですが,各自の担当する事業分野の研究会議に参加して,研究者とある程度専門的な話ができて,調査をやるのが理想と考えています。

  •  松谷氏

山崎:

株式会社ダイセルの山崎です。入社してからすぐに,知的財産センター,当時の特許情報部に配属になり,そこからずっと調査を担当しています。研究経験がない調査担当者です。

当社の調査チームは,知的財産センター知的財産戦略グループの中の一つの業務担当チームなんです。チームといっても発令が出たり名刺に記載する組織ではなくて,知的財産センターの中の機能別業務担当集団の一つが調査チームです。人数は全部で5名ですが,兼務などもあり,実働人数はそれより若干少なめです。5名の内訳は,入社してすぐに知的財産センターに配属されて調査をやっている者が私を含めて2名,残りの者は研究経験があります。経験年数は,20年前後が2名で,10年から15年が2名,2年未満が1名です。

知的財産センターの調査チームは,全社からの依頼を受け付けていて,依頼が来て対応するという形にしています。部門は知的財産センターですけれども,特許に限らず,文献や企業情報の調査も必要に応じてやっています。研究部門などから知財への転入はありますが,ほかの部門とのローテーションはほとんどありません。

  •  山崎氏

鍛治:

興和株式会社,知的財産部の鍛治です。大学を卒業して入社した製薬会社で1年ほど合成の研究所にいたあと,ちょうどオンライン検索が製薬各社に導入されてきている時期で,その立ち上げということで社外教育を受けました。しばらくして情報関係の部門が立ち上がってそこで研究所の調査業務を担当していました。

何年かして,特許部門と合併して,研究所の調査と特許の調査を両方やるようになりましたが,研究所が移転になり,東京に残った特許部門で特許調査を中心に担当しました。

その後,外資系製薬会社に転職して,そこでも特許調査を中心に仕事をしましたが,米国やヨーロッパの特許調査担当者と一緒のチームに所属していて,調査戦略の立て方やデータベース利用方法などについて外国の情報に接することも多く,いろいろと刺激を受けました。現在所属している興和には関連会社への出向も含めて3年半ほどになりますが,ずっと特許情報業務を中心に担当しています。

知財部の調査は,出願を担当している人が両方兼ねている会社も多い中で,私が経験した会社ではすべて調査は調査担当者が専門でというやり方をしていて,そういう意味では恵まれた環境の中でやってきました。ただ現在の担当業務では,調査の結果を鑑定に結びつけるとか,ある程度の見解を出すところまで求められる部分があって,調査だけではなくて,特許の知識も深いものが要求されるところもあります。

  •  鍛治氏

渡辺:

電気化学工業の渡辺と申します。知的財産部の情報グループに所属しています。先ほど山崎さんもおっしゃっていたように,当社も知的財産部の中で情報グループと出願申請のグループに分かれています。

私は,もともと研究所の管理部におりまして,そこで長く図書管理を受け持っていました。それに付随して,文献の検索などを担当していましたが,研究所ですから,さまざまな依頼内容を受け付けていました。5年ほど前に知的財産部のほうに移り,特許調査がメインですが,やはり企業調査,文献調査なども幅広く受け付けています。

現状,要員は2名です。もう1名は研究部,工場などを経験して知財部に配属になり,知財部で出願申請の仕事も経験し調査の担当になっています。知財の経験は私の先輩になります。2名で全社的に調査を受け付けて,それに応えるのは,件数的にも非常に大変な状況で,悩みの種となっています。人員の増強なども要望していますが,現状,増員の予定はありません。

  •  渡辺氏

インフォプロを取り巻く環境の変化
松谷:

皆さんの自己紹介を兼ねた所属部署の現状についてお話を伺ったので,次に各企業およびわれわれインフォプロを取り巻く環境の変化や課題を取り上げます。所属されている企業内での課題の部分と,情報環境の変化のお話が一緒になってしまうところもあると思いますが,ご意見を伺いたいと思います。

まず,企業内の課題ということで,一つは,企業統治の考え方が,いま単体から連結になってきています。連結での会社運営が中心になったことで,本体だけでなく連結対象の会社や関連会社の調査をどうするかという問題が一つあると思います。当社は関連会社が少ないという面もありますが,関連会社からの依頼調査は年に数件といったところで,特に問題になるような案件も今のところきていません。

山崎:

当社は,子会社(グループ企業)であっても調査の依頼は受けています。特に本体と分け隔てはしていません。エンドユーザー教育も,求められれば子会社に行って同じようにやっています。本体とのつながりがかなり薄い会社だと,例えば社内ネットワークがつながっていないといった問題があるので,ちょっとやりにくいところはありますけれども。

鍛治:

現在勤務している興和株式会社は,私の過去の経験と違って医薬品のみではなく,いろいろな事業があります。その中で,知的財産統轄室という独立した部門になっているので,医薬以外の調査も受けることがあります。ですから,医薬のバックグラウンド中心の現在の調査担当メンバーで,すべてに対応することは難しい場合があって,外部に調査を依頼することもあります。ただし,外注しても必ず最終チェックはすることにはしています。これから状況に応じて,さらに外注も検討してゆく必要もあるかなとは思っています。人材を増やすというのは,難しいところもありますので。

渡辺:

当社の場合は,子会社で知財部門があるところは,なるべく対応してもらい,そこで手に負えないものはこちらで調査するという形をとっています。知財部の情報グループ自体が少人数なので,可能な限り調査に対応してもらっています。

エンドユーザー検索の普及に伴う変化
松谷:

情報環境の変化ということで,エンドユーザー検索が普及したということが言えると思います。インフォプロにとってのエンドユーザーの社内教育,コストと効率の関係も重要になってきます。当社はこの点を重要な観点として考えています。

エンドユーザー検索が,特に特許調査で普及していると思いますが,それがインフォプロの役割を含め全体にどの程度影響してきているのかという点についてご意見をいただきたいと思います。

山崎:

企業内インフォプロの役割と変化ということで,企業内にインフォプロが本当に必要かという話は,今に始まったことではないと思います。でも今,インターネットが広く普及してきて,情報が氾濫していますよね。そういう今だからこそ,正確な情報を早く手に入れるインフォプロが必要なのではないかと思います。だれでもある程度の情報を得ることができるので,逆にインフォプロへの要求はより厳しくなっていると思います。

鍛治:

私の経験したところでは,だいぶ早いころに知財部の調査と研究所の調査とにグループが分かれました。研究所では特にエンドユーザー検索が普及してきていることもあって,インフォプロの仕事のなかで調査そのものよりも教育の重みが増してきたというのは,研究所のほうでむしろ顕著かなと思います。逆に知財部の調査は,エンドユーザー調査だけでは足りないところをやっていくという性質があるので,当社内でも,インフォプロはそれほど絶滅の危機には瀕していないと思っています。

一方で,知財部の新入社員のなかでも,最近は学生のころからSciFinderなどを使いこなしている方が多いので,調査結果を待つよりも自分である程度やりたいという希望も出てきてはいます。ただ,特許性・侵害性の判断にまでなると,やはり調査の専門家がやらないと,というところはあります。

それと合わせて,もう一つ問題と思っているのは,データベースのプロデューサーの側が,プラットフォームをエンドユーザー志向にフォーカスしている傾向があることです。インフォプロのほうから声を大にして,そこはまずいということを提言していかないといけないと強く感じています。

渡辺:

当社の場合は,エンドユーザーに特許,文献ともにいろいろなデータベースを公開しています。自由に検索してもらっていますが,やはり特許の侵害調査のような専門的なものになると,インフォプロである知財部情報グループのほうで担当するという歯止めをかけています。

ほかに,著作権の問題があります。文献の全文入手,データベースの抄録の活用などの場合,著作権の問題は非常に重要なので,エンドユーザーには著作権関連の知識も一緒に教育しています。企業人として,文献の活用がどこまで可能なのか認識できるよう,周知徹底することを目標としています。

外注化のこと
松谷:

次に,調査の外注化や調査結果の確認,評価についてお願いします。国内の調査会社が増えているように感じますし,最近,欧米の調査会社も日本に進出してきていると思います。また,中国,インドといったところからも調査受託の売り込みが増えてきていると感じている方は多いのではないでしょうか。

渡辺:

当社は,調査外注に関しては,件数が多いほうだと思います。大量のスクリーニングを伴うような侵害調査も外注しています。もう一つは,中国,韓国,台湾といった非英語圏の調査です。検索式の作成までは,ハイブリッド型の検索エンジンを取り入れた検索システムがあるので可能ですが,特許の全文を読んで判断する段階になると,中国語や韓国語を読みこなせる人がいないとどうにもなりません。

大体の目星はつきますが,それ以上になると詳細を読み込む語学力が必要です。最近,当社の方針で中国に進出する予定の製品が多いので,中国特許,実用新案の外注調査件数が増加しています。このため,中国語の堪能な人を要員に,という要望はありますが,なかなか実現はしにくいですね。今後の注目国は中国ばかりとは限らないので,調査対象国の人をその都度雇用するとなると,会社がグローバル化してしまいます。外国人の採用は,今後の会社の方針と人材増強のタイミングが合えば,可能性はあるでしょうが。

鍛治:

一部のものに関しては,外注はしています。やはりさっきおっしゃったように,非英語圏の場合は,外注を考えることになると思います。外注したとしても,ビジネス的なリスクを考えて,社内でもサポートするとか,結果についても社内で評価することも必要となります。

山崎:

そうですね,当社は外注はたぶん少ないほうだと思います。ほとんど社内でやる調査が多いのですが,問題はお二方がおっしゃったように非英語圏ですね。中国,韓国,台湾は,外注が出始めているかなというところです。社内に中国語のわかる調査担当者がいるので,その点は恵まれています。ただ,もし中国や台湾の調査が増えてしまうと,手一杯になってしまう可能性があります。

あと最近,外注で,海外に限らず,エンドユーザーといいますか情報を使うほうの人の要望で,中を読んである程度まとめて,必要だと思われるものの結果だけを提供してほしいと言われることが増えています。当社は基本的に,調査担当者が中を読んで出すのは本当にごく一部のものだけです。研究部門から来ている人だと技術内容がある程度わかるので,必要なものをクリアに出せるのですけれども,技術的なバックグラウンドがないと,どうしても不安な面があって,出せないことが多いんですね。その辺りは調査担当によっても多少やり方が違うことはあります。エンドユーザー,依頼者側が「中まで読んでほしい」と希望する場合は,外注を使っているところも多少あると思います。

インフォプロの育成/調査結果の読み込み/スクリーニング
松谷:

インフォプロの将来の成長点を,当面どこに持つかというときに,エンドユーザーはある程度検索はできる,ツールが非常に整備されてきているので,特許のところは全文検索を含めて,基本的に簡単な調査はエンドユーザーでできると思います。

そういう中で,特許性の判断のところは専門家が必要だと。もう一つは,さっき山崎さんからも出た,技術的な意味合いでのスクリーニングの要望が出されている。これはたぶん各社によっても違いもあると思います。

渡辺:

研究者から調査依頼のあったものは,なるべく研究者に読んでもらいます。一番技術がわかっているのは研究者だと思いますので。

松谷:

当社は中身に関わるようにしているので,調査の担当は,漏れのない検索をやって基本的に読むというやり方です。テーマと時間にもよりますが,基本的には読む。スクリーニングぐらいは調査担当でやるという方針です。ケースバイケースで特許担当や研究者との共同作業もあります。

山崎:

人数の関係で中味を見ると数がこなせないですね。

松谷:

数をこなして調査結果を見るには,人を大量に入れるしかありません。現実には組織の規模と全体のバランスがあるので,調査の要員は,各社によって違うと思いますが,どこも多くは無理だと思います。

それで,今,外注化というところでお話を伺いましたが,社内外の環境が変化するなかで,要員の増員というのは,どこも非常に難しいのではないかと思います。少なくとも人を育てるというところで,5年なり,10年なりの期間が必要なので,いなくなったから入れたのでは当然間に合わないし,ある意味,一定期間はOJTで教育することが必要だと思います。

そういう中で,インフォプロの人材育成について,どこを目指していけばいい循環がつくれるのかというところが一番の課題だと思います。その辺りについて,いかがですか。

鍛治:

初めて調査に関わる新人に接することがあります。若い世代の人たちは,情報検索に関しては最初から慣れているので,のみ込みは非常に早いですね。

ただ,先ほどお話に出ていたような検索そのものに加えて,中身を読み込んで分析してレポートにするところも必要になってきますので,やはり経験を積むことが必要になります。検索に関しては,社外の講習に出たり,ユーザー会で情報交換したりも加えて教育できますが,社内のニーズに対応したレポートを作成するというところは,OJT等で経験を積まないと,ということはあります。

人を増やすのは難しいのですが,必要な人員は維持していきたいと,努力はしています。

松谷:

今の鍛治さんのお話にあったレポートですが,医薬というイメージでお話を伺いました。医薬というのは,医薬品そのもののほか関連する特許も多く,薬の承認制度を知らないと調査ができないと思います。普通の特許は20年ですけれども,延長期間があるとか,再審査とか,薬事法関連の法的な背景を当然知らないと判断ができませんよね。

鍛治:

そうですね。そういうところも勉強しながら,または専門の方,違う部署の方と相談しながら,という形になります。医薬の場合は,ほかの化学や機械の分野とは,ちょっと違うのかもしれません。

山崎:

やはり当社も要員を増やすという話はなくて,研究員に読んでもらうことにはなりますが,出願担当の人に読んでもらうというのがあります。だから,ワンクッションある感じですね。先行技術調査もそうだし,侵害予防調査もそうだし。全部,ほぼ読んでいるんじゃないですかね。直接,出願担当の人が関わらないで,調査担当者と研究員だけでやりとりして調査を進めるというのは,少ないと思います。

鍛治:

私も現在は,調査から始まって,その結果に基づいての特許侵害可能性や特許成立可能性の検討などにも関わっていますが,前職では,調査は調査のグループがいて,研究者とか開発部門からまずアトニーワーク(弁理士業務)の人が相談を受けて,そのニーズに応じて調査担当者が調査するというやり方をしていました。

山崎:

当社に近いですね。

鍛治:

以前も読み込みはやっていましたが,今は,もう少し詳細な読み込みまでやっています。今の業務では調査担当者が直接,外の部門の方とお話しすることも多いです。

以前アトニーワークをしている人たちからの依頼で調査をしていたときも,関連のあるものをまとめた上でレポートという形にしていました。以前と今とでは少し変わってきてはいますが,いずれにしても読み込みというのは,かなり調査グループの業務としてのウエートが大きい部分になっています。

松谷:

製薬会社の調査担当というのは,調査結果の判断までしているケースが多いと思います。

鍛治:

そうですね。アトニーワークはアトニーの責任ということで,侵害回避の調査でも,少しでも可能性があるものは全部まとめて,あとはアトニーが判断していましたが,その判断に持っていくまでに,かなりのふるい分けはしないとレポートは書けません。会社によって違いはありますが,いずれにしても読み込みまで要求されることには変わりなかったです。

渡辺:

化学系ですと,やはり検索式までつくって,結果を渡すことが多いですね。他社でも多いと聞きます。特別な場合に関しては,検索結果のスクリーニングをすることもあります。

山崎:

当社の場合,調査担当者が,いくつかの事業部門の面倒を見ているんですよね,一つだけではなくて。担当替えがあまりないんです。例えば,高分子をやっている人はずっと高分子,低分子の人はずっと低分子というふうに,長く担当することが多いので,知識をつけるべきだろう,という考え方もあります。いつまでも,技術的にわからないです,とは言えないと。だから,製薬に限らず,中まで読んで,判断までできるというのは理想だと思います。

鍛治:

調査の依頼件数は多いですね。医薬だけではないので,数の点からは前職の医薬だけのときよりは多いかもしれないです。研究所にも調査部門があって,特許性の調査などはそちらが主に行うので,知財では侵害回避の調査が多いです。

渡辺:

やはり研究者本人が読むべきものというのはあると思います。それを,全部こちらが精査する必要があるのかという思いもあります。

山崎:

私も,基本的にはそう考えます。

鍛治:

目的にもよると思います。研究のための調査であれば,研究者が読んだほうがいいと思いますが,侵害回避などの評価は知財部で責任を持ってやらなければいけないと思います。研究者とは観点が違う場合もありますし。ただ,マスクなどのヘルスケア製品など,医薬以外については,調査担当者も専門外ということもあって,ある程度絞った中から開発部門の人と一緒に判断していくということはやっています。

渡辺:

インフォプロの教育というのは,自己研鑽で,いろいろなユーザー会などに参加して,そこで情報を得ていくことが重要です。

社内だけだと,どうしてもニーズが限られてしまうので,なかなか次のステップに行けないこともあります。あとは日々の実務で学び取っていくということになります。私の場合は,もとが図書管理で,技術的な内容は非常に広く浅くだったので,いかに造詣を深くしていくかが現状の課題です。

エンドユーザー教育の効果として,よくデータベースを知っている人が依頼してくるとキーワードや調査の主旨が具体的になります。エンドユーザー教育は,こちらの効率を上げるためにも非常に有効だと思っています。当社は複数の事業所が点在しているので,そこにパソコンを持ち込んでの実習形式を実施しています。手間はかかりますが,効果の感触は少しずつ出ていると思います。

一番初めに情報に触れるインフォプロ
松谷:

企業内インフォプロの成長点ということで,これまでのお話をまとめてみると,一つはやはり事業分野の知識と現在所属されている知財なら知財での判断を含めた業務ができるというところかと思います。業としての専門性ということと,知財という特殊な領域の中での信頼を含めた判断ができるということ。情報をとってくるだけでは,社内的価値は,だんだん下がってきているのではないかと。その中で,最終判断ができる形に持っていくだけのものをつくれるところで,評価をもらっているのではないかなと感じます。その辺り,どう考えますか。

鍛治:

最終判断まではいかなくても,できるだけ最終判断に近いところまで持っていくのが,調査のグループの役割でもありますが,最終判断の前に,どういう検索をして,どこから情報を集めて,漏れがないことを確認する,そこがやっぱり情報のプロフェッショナルならではのところですよね。でも,そこってなかなか外から見えにくいところだと思います。

会社でも問題があって初めて気がつくんですよね。問題がなくて当たり前の世界ですから。やはりプロフェッショナルでないと,ここまではできないということ,結果は同じであっても,バックグラウンドで何をやっているかが大事なんだということを,常にアピールしていかないと生き残れないと思います。

松谷:

化学や医薬の分野は,データベースの数も多いし,スキルを身につけるのは難しいと思います。組織内の上司なり,責任者に機会をとらえては,人を育てるのはかなり時間がかかりますよと伝えています。

先ほど渡辺さんからも出ましたが,文献を使えば著作権の問題が出てくるわけですから,図書と著作権とか,企業内のエンドユーザー,研究者がトータルで使う情報について教育ができるような知識と経験が必要になってくると思います。

鍛治さんの,医薬の専門知識という一つの特徴について,化学・化学関連分野について,お二人はインフォプロの成長点というのは,どこにあると思われますか。

山崎:

二つ思いつくのですが,一つは,まず技術的な専門性が必要だと思います。先ほどの,だれが内容を読むのかという話にもつながりますが,自分たち調査担当者が内容を読んで,ある程度仕分けなり,まとめなりして出せれば,それだけ価値は上がると思います。

もう一つは,検索して出てきた情報を使って何が見えてくるか提示できれば,それも価値につながると思います。情報に一番最初に触れているのは,私たちだと思うんですよ。

松谷:

見えてくるものというのは,ある意味,提案するということでしょうか。

山崎:

提案ですね。情報発信につながると思います。新規事業のネタでもいいし,ニーズでもいいし。10年以上前に言われましたよ。情報を扱っている人は水先案内人なんだから,それを生かしなさいと。

松谷:

確かに情報を扱っている人間は,常に情報と接するチャンスは持っています。でもそれを生かせる立場にあるかというと,それは別だと思います。インフォプロというと,こういうことができるんじゃないかと過大な期待をされることがありますが,冷静に考えて,現実は違うと思います。機会を持っているからチャンスがある。それは確かに事実ですが,情報担当に,例えば新規事業のインセンティブは与えられていません。それはまた別の業務であって,インフォプロというのは,要求に応じた情報を確保し提供していくという立場で,いかに業務効率を上げて,いい結果を早く出せるかで専門性が立証されるのではないかと思っています。

山崎:

当社は今,新規事業の探索にかなり力を入れていまして,知財部門は特許を扱っているから,何か出せるだろうと言われます。

渡辺:

当社もいろいろ試行錯誤しておりまして,現在パテントマップの活用に取り組んでいます。

山崎:

そうですよね。やっぱりそこですね。

パテントマップの活用/事業との関わり
松谷:

情報の活用の一つとしてパテントマップの活用がありますね。現在のマップというのは,過去の情報を整理して特許情報を見やすくして,アイデアを得たり考えたりするための材料だと思います。また,マップから何が言えるかというのは,各個人によって違いがある。アイデアがないと見ても何も出てこない。それを見た人にアイデアがあって,次に何をやりたいかを持っていれば,次のステップが見えてくるかと思います。

各企業の現在の事業と,次への発展性という中で,インフォプロがどのように関わっていくかについて,例えばデータ確保とか,経営層への事業提案,研究開発部門への新規テーマ提案といったところで,どうやっていったらいいかについて意見を伺いたいと思います。

渡辺:

現在,パテントマップは,知財部のほうで作成をほぼ担当していますが,今後,検索結果が,5,000件,10,000件出たときに,データを全部依頼者に渡して,マップをいろいろつくってもらい,こちらがアドバイスをするというようなことも必要と考えています。ただ,マップを利用するニーズが把握できていませんし,本社事業部のような部署でもマップを使いたいという要望もあります。研究者に限らず希望者には使用してもらうのがいいと思いますが,初心者にはこちらでマップをつくって提示して,判断してもらうほうがいいと思っています。

例えば,上層部にパテントマップを提出するときは,技術を俯瞰することを目的とします。可視化したマップからここのところが手薄だから,ここを戦略化していこうかというような提案まではできると思います。決めるのは,事業部やもっと上層部ですから,知財部での解析はここまでですという,提示をすることは可能だと思っています。

また,特定の技術分野のパテントマップは研究者に作ってもらうのも一つの方法だと思います。当然マップの操作教育も必要になるし,それなりのツールも必要ですけれども,幸いにして当社は特許検索システム「Shareresearch」を使って,「パテントマップEXZ」を社内に普及させているので,ツールの確保はできています。研究者にどのように使ってもらうのがいいのか検討中というところです。

そのために,社内に開放しているツールにアクセスしやすい環境をつくるということで,情報検索関連のポータルサイトの開設,電子ジャーナルではリンクリゾルバを導入するといった努力もしています。これもインフォプロの一つの役割だと思っています。つまり,あそこに行けば何とかなるという信頼感を得るのも,社内の情報の要になると思います。

松谷:

確かに,渡辺さんのご指摘は,当然インフォプロがやらないと,研究者にやれというのは無理ですから。エンドユーザーツールが変わったり,新しいデータベースやシステムが入ってきたりしたときに,社内で教育をやるとか,複数のシステムを比較してどれを選ぶかというところの専門性は,インフォプロの業務になると思います。

鍛治:

やはり医薬業界は少し環境が違うのかなというのと,あとは研究所の調査部門と,知財の調査部門の違いがあると思います。

エンドユーザー教育といっても,知財の中で,例えば出願担当者が特許庁のデータベースを見たいとかいうときにサポートしたりすることはありますけれども,教育という意味では研究所に比べて非常に負担の軽いものだと思います。

あともう一つ,先ほどお話に出た事業への新しい情報提供。知財部門として,何が情報提供できるか。会社や研究所で動きがあったときに,それに対して出願動向や他社の動向を,パテントマップとまではいかなくても,そういうものをつくって提供することは必要な業務だと思っています。

医薬に関して言うと,いわゆるマップツールというのは,なかなか使わないと思います。使ってもあまり結果として活用するところまでいかない。もっと細かいところまで要求されるので。読んで,アナライズして,手づくりマップですか,そこまでいかないと使える情報にならないのが実情です。

山崎:

当社も例えば新しい事業を探しにいくときに,こういう情報を出せば決定的にうまくいくというものって,まだないですけれども,やはり一つはマップだと思います。ただマップをつくって見せても,ふーんで終わってしまいます。知財担当も最近つくり始めていますけれども,最後の最後のところは,鍛治さんがおっしゃるとおりで,手でつくったマップでないと役に立たないと言っています。

ただ,高分子分野などでは5,000件とか10,000件とか出てきますから,それを一から読めというのも無理な話ですよね。だから,ある程度の大きな集合のところを絵にして,優先順位をつけるところぐらいまでだったら,マップは役に立つのかなと思います。

出願担当はそうでもないのですが,マップに対する期待って大きいですね。どんなことができるのかと,本当にしょっちゅう聞かれます。マップソフトを研究員に使わせるという方針は社内にあるので,使ってもらうのはいいのですが,過大な期待はちょっと無理だなと思います。

松谷:

そこの部分で,インフォプロがどう関わっていくかについては,どうですか。

山崎:

インフォプロが関わっていくところ……難しいところですよね。まだなかなか成功例がないので,どういうものが喜ばれるのかというイメージがしにくいのです。

渡辺:

結局,マップは,技術動向には向いているのですが,次のステップに行こうとすると,把握しにくいですね。

山崎:

もう使い物にならないというか,見えないですね,マップでは。

渡辺:

社内や特定分野の技術の方向を見極めるような場合は使えますが,確かに見えないですよね。だから,結局1件1件読んで判断することになりますね。

山崎:

そうなんですよ。

鍛治:

踏み込んだところで,出願の傾向,例えば医薬でいうと,物質特許があって,製剤特許があって,併用があってという傾向を見ていくには,やはり読み込まないと。ソフトではできない。ただ,若い世代の人で,そういうのをもっとおもしろく使いこなす人が情報担当者の中に入ってきたら,何かできるのかもしれない。私たちには気がつかないことがあるのかもしれないですけれども。

渡辺:

本人の技術,専門性を究めるということが,やはりインフォプロの存続につながっていくと思います。あとは人と人,関連部門と研究者を結びつけるような起点にもなっていければと思います。特許の情報,また検索した結果をもとにして,次の提案ができるスキルを持つというようなところでしょうか。

まとめ/インフォプロの成長点
松谷:

時間になりました。まとめますと,インフォプロの成長点としては,事業への貢献という意味で,情報の専門性だけでなく事業の専門知識を兼ね備え,社内でのエンドユーザー教育を含めた情報のプロとしての業務。もう一つ,あえて提案するとしたら,やはり新しい事業を起こすときにどう関わるかというところ。この課題は,経営者を含めて企業にいる人間にとって永遠の課題の一つではないかと思います。その辺りがインフォプロの成長点ではないかということで終わりにしたいと思います。長時間にわたりありがとうございました。

 
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