2013 Volume 55 Issue 11 Pages 839-843
本稿ではまず,中国の統計制度について簡単に述べた後,国家統計局をはじめとする政府機関がインターネット上で公表している統計を中心に紹介していきたい。
中国の国家統計局は,中国が1949年に成立した3年後の1952年に設置された。1950年に当時のソ連と同盟関係を結んだことから,さまざまな分野でソ連からの援助を受けることとなった中国は,統計組織や統計方法などについてもソ連型の統計システムを導入した。しかし1966年から始まった文化大革命により,統計活動はその後約10年間事実上停止することとなった。1978年政府機構が正常化すると国家統計局も復活し,それまでのソ連型の統計スタイルから欧米型の統計スタイルへの転換が図られた。1992年に経済の改革・開放がいっそう促進されるようになると,統計作成において国際標準が導入されるようになり,1993年以降は「国民所得」に代わり「国内総生産」が中国のマクロ経済管理の中核的指標となった1)。
中国の統計組織は基本的に中央政府では集中型を採用しており,政府統計のほとんどを国家統計局が作成している。一部統計については中央政府の各部(部は日本の省庁に相当)で編成しているが,国家統計局は各部の作成する統計について総合的な調整を行う役割を担っている。
また地方政府の統計局は,行政区域内の統計業務に責任を負うが,所属する地方政府と国家統計局の両方から監督を受けている。特に統計業務に関しては,国家統計局の指導が主となるため,地方統計局と国家統計局の関係は非常に密接である2)。
中国の政府機関が出している統計データの出所は国家統計局,各省庁の統計部門,地方の統計局の3つに大きく分けることができる。必要としている統計が特定の省庁のもの,あるいは特定の省のものなどすでに決まっている場合は,直接それらのWebサイトを訪問するのが効率的だが,どこから探していいかわからない場合や,複数の機関,複数の省などの統計を調べたい場合は,まず国家統計局のWebサイトへアクセスすることをお勧めしたい。国家統計局のWebサイトは,国家統計局が発表している統計データを参照することができるだけでなく,各省庁や各地方政府の統計部門へのリンクがまとめられているため,中国の各種統計へのゲートウェイとして活用できる。
中国は1960年代から1970年代の間ほとんど統計データの公表を行わなかった。1980年代に入ってようやく再び統計データを国外へ公開するようになってからまだ30年余りしか経過していない。Webサイト上での公開も近年になって進んできた。しかし,長期的なデータを入手する場合にはやはり冊子体の資料との併用が必要であり,後に述べる通り統計データの項目名の不統一の問題なども散見されるため注意深く利用する必要がある。
国家統計局のWebサイト(http://www.stats.gov.cn/)では,統計に関する制度や法律,出版等さまざまな情報が掲載されている。統計データを入手する場合には,このうち「统计数据(統計データ)」(http://www.stats.gov.cn/tjsj/)と「统计公报(統計公報)」(http://www.stats.gov.cn/tjgb/)が有用である。国家統計局のWebサイトでは英語版が用意されているため,切り替えて調べることもできるが,「统计(統計)」や「数据(データ)」,「信息(情報)」,「公开(公開)」などは統計データを掲載している項目名の一部としてよく使われているため,中国語版を利用する際にはキーワードとして覚えておくと便利である。
3.1 「统计数据(統計データ)」でのデータ入手国家統計局のWebサイトでは,「月度数据(月データ)」,「季度数据(四半期データ)」,「年度数据(年データ)」,「普查数据(センサスデータ)」,「专题数据(テーマ別データ)」,「国际数据(国際データ)」が提供されており,またそれらを包括的に検索するための「数据库查询(データベース検索)」が用意されている。
「月データ」は,表1に記載された項目に関する最新年の統計が月別に参照できる。また,Webサイト下部にある検索窓を使用することによって,過去の月データを検索することも可能だが,年によって項目名が異なる場合があるので注意が必要である。
項目名 | |
---|---|
1 | 工業増加値成長速度 |
2 | 各地区工業増加値成長速度 |
3 | 工業主要産品生産量および成長速度 |
4 | 工業業種別増加値成長速度 |
5 | 旅客貨物運輸量 |
6 | 郵政通信業務完成状況 |
7 | 固定資産投資状況(農家を除く) |
8 | 業種別固定資産投資状況(農家を除く) |
9 | 地区別固定資産投資状況(農家を除く) |
10 | 70大中都市住宅販売価格指数 |
11 | 70大中都市新築商品住宅価格指数 |
12 | 70大中都市中古住宅価格指数 |
13 | 社会消費品小売総額 |
14 | 住民消費価格指数 |
15 | 各地区住民消費価格指数 |
16 | 商品小売価格指数 |
17 | 中国製造業PMI |
18 | 中国非製造業PMI |
19 | 消費者信頼感指数(CCI) |
20 | マクロ経済景気指数 |
21 | マクロ経済景気指数趨勢図 |
22 | マクロ経済景気指数予報信号図 |
なお,冊子体で出版されている『中国統計月報』や『中国経済景気月報』などにも同様の項目が記載されているが,Webサイト上で参照できるのはその一部である。また項目名が多少異なっているものもある。このことからWebサイト上の統計データは,冊子体をそのまま公開しているわけではないことが推察される。
「四半期データ(季度数据)」では,最新年の四半期別データが参照でき,Webサイト下部の検索窓で過去データが検索できる。表2からわかる通り,項目は月データとは異なる。
項目名 | |
---|---|
1 | 国内総生産 |
2 | 農林水産業総生産額 |
3 | 地域別農林水産業総生産額 |
4 | 全国主要農産品生産価格指数 |
5 | 地域別都市住民家庭収支基本状況 |
6 | 企業景気指数 |
「年データ(年度数据)」は,1981年版から冊子体で出版されている『中国統計年鑑』の電子版である。表3からもわかる通り,幅広い分野の統計を掲載した総合統計年鑑であり,かつ2011年版まで公開されているので,非常に有用である。現時点で1996年版から参照できる。
項目名 | |||
---|---|---|---|
1 | 総合 | 15 | 建築業 |
2 | 国民経済計算 | 16 | 運輸,郵政,通信 |
3 | 人口 | 17 | 卸売業,小売業 |
4 | 就業人員と賃金 | 18 | 旅館業,飲食業,旅行業 |
5 | 固定資産投資 | 19 | 金融業 |
6 | 対外経済貿易 | 20 | 教育と科学技術 |
7 | エネルギー | 21 | 保健と社会サービス |
8 | 財政 | 22 | 文化とスポーツ |
9 | 価格指数 | 23 | 公共管理およびその他 |
10 | 人民生活 | 24 | 香港特別行政区主要社会経済指標 |
11 | 都市概況 | 25 | マカオ特別行政区主要社会経済指標 |
12 | 資源と環境 | 26 | 台湾省主要社会経済指標 |
13 | 農業 | 27 | 主要国家および地域との経済,社会統計指標比較 |
14 | 工業 |
「データベース検索(数据库查询)」(http://219.235.129.58/welcome.do#)は,月,四半期,年別の統計を項目別に,複数年にわたって検索することができる。この検索サイトのメリットは,「行政区域と自然資源」,「人口」,「就業と賃金」など分類がわかりやすいため,必要とする統計が探しやすい。ただし,項目によって収録年が大きく異なるため,データのさらなる充実が期待される。
ここまでに紹介した統計はすべて中国語版,英語版ともに利用可能であるが,中国語版では,これ以外に,「センサスデータ(普查数据)」,「テーマ別データ(专题数据)」,「国際データ(国际数据)」が参照可能である。
「センサスデータ(普查数据)」(http://www.stats.gov.cn/tjsj/pcsj/)は,実施したセンサスごとの結果を項目ごとに参照することが可能であり,特に農業センサス,工業センサス,第三次産業センサス,基本単位センサス(日本の事業所・企業統計調査にほぼ相当)についてはキーワードでの検索が可能である。人口センサス,経済センサス,R&D資源調査については,項目一覧から参照していくことができる。残念ながら,ここに掲載されているセンサス結果は,例えば人口センサスの場合,第5次(2000年実施)と第6次(2010年実施)のデータしか参照することができないので,それより前のデータについては,今後の追加が待たれるところである。
中国のセンサス実施状況については,アジア経済研究所図書館の「中国のセンサス実施状況」(http://www.ide.go.jp/Japanese/Library/Region/East_asia/east_asia_census.html)に詳しいので参照されたい。
その他,「テーマ別データ(专题数据)」(http://www.stats.gov.cn/tjsj/qtsj/)は,さまざまな統計が雑多に並べられている。分類別に分けられていないので,タイトルを見ながら必要そうな統計を探す必要がある。「国際データ(国际数据)」は冊子体で発行されている『国際統計年鑑』の電子版であり,各分野における世界の中での中国の順位や占める割合がわかる資料となっている。
3.2 「統計公報(统计公报)」の活用統計公報(http://www.stats.gov.cn/tjgb/)は,本来,国家統計局で統計調査を行った後の速報値,あるいは概要発表であるが,「統計データ」に掲載されていないデータをここで補うことが可能である。例えば人口センサスの場合,第1回(1953年実施)の結果は当時の官報で公表され3),第2回(1964年実施)の結果は,冊子体の出版物としては公表されていないが,ここでは,第1回から最近の第6回(2010年実施)分までの公報が掲載されており,これらデータを参考にすることができる。
国家統計局が公表している統計のほかにも,各省庁のWebサイトではさまざまなデータを公表している。国家統計局作成のリンク集(部门数据链接)(http://www.stats.gov.cn/tjsj/bmsj/)を利用すると,各省庁の統計データのページへ直接アクセスできるので便利である。これらの中から主要なものについて紹介したい。
各省庁のWebサイトは英語で対応していないものが多く,また対応していたとしても,中国語版とでは掲載されている内容が異なり,その量も少ないことが多いので注意が必要である。以下で英語版について特記していない統計は,現時点では中国語版のみで提供されているとお考えいただきたい。
貿易データについては,年ベースのものは,国家統計局でも参照できるが,月別の詳細データは,海関総署で提供している(http://www.customs.gov.cn/default.aspx?tabid=400)。1980年以降の輸出入統計データは,国家統計局のものもここで作成しているものを利用している。国や商品などを選択して検索することは残念ながらできない。
工業に関するデータは工業和信息化部のWebサイトで参照できる(http://www.miit.gov.cn/n11293472/n11293832/n11294132/index.html)。工業全体の状況,原材料工業(鉄鋼業・非鉄製造業・化学工業等),装備製造業(金属製品製造業・生産用機械器具製造業・電子機械器具製造業等),消費品工業(繊維業,食料品製造業等),通信業,電子情報,ソフトウェア業の項目に分かれており,それぞれの月別データが参照可能である。
金融に関するデータは,中国人民銀行のWebサイトから入手可能である(http://www.pbc.gov.cn/publish/diaochatongjisi/126/index.html)。年ごとにまとめられており,貨幣統計(外貨準備高・マネーサプライ等)や,金融機関貸付収支,金融市場統計,景気調査指数等のデータが公表されている。英語版でも同じデータが入手可能である。
国際収支,外貨準備,対外債務等のデータは外国為替局(外汇局)Webサイトで参照できる。国家統計局のリンク集からはリンク切れとなっているが以下のURLからアクセスできる(http://www.safe.gov.cn/)。
就業や失業率等の労働関係の統計は,人力資源和社会保障部で参照できる。冊子体の『中国労働統計年鑑』の電子版が利用可能である(http://www.mohrss.gov.cn/page.do?pa=8a81f3f1314779a101314ab910170566)。英語版の対応もある。また「その他統計資料(其他统计资料)」(http://www.mohrss.gov.cn/page.do?pa=8a81f3f1314779a101314b0a0a7005cb)には保険に関するデータが記載されており養老保険や医療保険,失業保険等の加入者数等が把握できる。
運輸関連の統計については,交通運輸部のWebサイトが詳しく,陸路・水路・港湾・航空に関する旅客と貨物のデータが月別に,郵政についても郵送に関するデータが月別で参照できる(http://www.mot.gov.cn/zhuzhan/tongjigongbao/tongjishuju/)。航空と郵政に関してはそれぞれ民用航空局,郵政局のページで公表しているものだが,各統計リストに直接アクセスできるので,運輸関連のデータをまとめて調べることができ便利である。
病院数や医療従事者数,医療費等医療に関するデータは衛生部のWebサイトで参照できる(http://www.moh.gov.cn/publicfiles//business/htmlfiles/zwgkzt/pwstj/index.htm)。月データ,四半期データ,年データが入手でき,年データについては,冊子体で出版されている『中国衛生統計年鑑』の電子版である(http://www.moh.gov.cn/publicfiles//business/htmlfiles/zwgkzt/ptjnj/index.htm)。
教育部では,教育関係の統計データを掲載する『中国教育統計年鑑』の電子版(http://www.moe.gov.cn/publicfiles/business/htmlfiles/moe/s6200/list.html)を,中国語版,英語版双方のページから同じように参照することが可能である。
最後に,国家統計局のリンク集には掲載されていないが,55の少数民族を擁する中国に特徴的な統計として『中国民族統計年鑑』がある。少数民族に関する社会,経済,文化に関するデータが掲載されているが,この過去の電子版が民族出版社のWebサイト(http://www.e56.com.cn/publish/publish_new/publish_index.asp)で参照できる。
これ以外にも,国家統計局のリンクに掲載されている省庁には量の多寡はあるが,統計データが公表されているので参照されたい。
中国には現在,31の省,直轄市,自治区がある(香港とマカオを除く)。冊子体での各地方政府の統計年鑑は,国家統計局が統括する中国統計出版社より出版されている。省によって多少項目に違いはあるが,『中国統計年鑑』とほぼ同様の構成で出版されている。しかしWeb上で地方政府の統計を探す場合は,各地方政府統計局のWebサイトを参照する必要がある。国家統計局のリンク集(网站链接)(http://www.stats.gov.cn/tjlj/)は,各省の統計局のリンク集となっているので,ここを利用すると便利である。北京市,上海市,遼寧省等16の省では,国家統計局が公開しているのと同じように,月別,年別データを公開している。そのほかの省についても年別データはなくても,月別データは公表している場合がほとんどである。
以上見てきたようにインターネット上での中国の統計公開は,公表する機関や,内容,時期などによってそれぞれまちまちである。しかし,データによっては,例えば中国の人口に関して言えば,過去の古いデータから新しいものまでWeb上で入手可能であり非常に有用である。また一方で,多くのWebサイトにおいて英語版がなかったり,あっても中国語版のデータと公表内容が異なっていたりするため,中国語を解さない場合には不便が残る。今後一層の整備が進むことが期待される。