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視点
データベースと著作権
末吉 亙
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2012 年 55 巻 2 号 p. 125-128

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1. データベースの著作物

著作権は,著作物を保護する。著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号注1))である。残念ながら,データは,これに該当しない。この点については,まったく争いがない。

ただ,データベース(論文,数値,図形その他の情報の集合物であって,それらの情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したもの(著作権法2条1項10号の3),以下「DB」という)の著作物は,著作権で保護される。すなわち,DBでその情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するものは,著作物として保護する(著作権法12条の2)。DB著作物のキーワードは,「情報」「選択又は体系的な構成」「創作性」である。

このDB著作物に関しては,主要判例が3件ある。うち2件が著作物性を肯定し,残り1件が否定している。以下,これらを見ていこう。

2. タウンページDB事件

まず,タウンページDB事件を検討する(東京地裁判決平成12年(2000年)3月17日注2))。

本判決では,原告(NTT)におけるタウンページDBおよびタウンページ(電話帳)の内容,作成経過等,並びに被告における業種別データの内容,作成経緯等について詳細に認定し,被告の業種別データが原告のDB著作権を侵害していると判断した。そして,差止めおよび廃棄並びに損害賠償(損害賠償は一部認容)を認めた。その骨子は,以下のとおりである。

  1. (1)   タウンページDBの職業分類体系は,検索の利便性の観点から,個々の職業を分類し,これらを階層的に積み重ねることによって,全職業を網羅するように構成されたものである。原告独自の工夫が施されたものであって,これに類するものが存するとは認められないから,そのような職業分類体系によって電話番号情報を職業別に分類したタウンページDBは,全体として,体系的な構成によって創作性を有するDBの著作物である。
  2. (2)   業種別データは,タウンページDBから職業分類および電話番号情報を取り込んで作成されたものである。
  3. (3)   業種別データは,タウンページDBに依拠して作成されたものであり,その創作性を有する体系的な構成が再現されているということができる。
  4. (4)   業種別データの作成および頒布は,タウンページDBの著作権を侵害する。

ところで,本件で「創作性」はなぜ認められたのか。

もともと,国はいろいろな統計データをとる。これら統計データを適切にとるために「日本標準産業分類」というものをあらかじめ決めている。これはいわば,職業を分類するための日本国標準である。本件では,当然これとの対比をしなくてはならない。すなわち,「日本標準産業分類」「原告の職業分類」「被告の職業分類」を3段にして,後二者が日本標準産業分類と大きく異なるものであり,かつ,原告分類と被告分類とが似ていることを,本件では表で示している注3)。もっとも,原告分類と被告分類とは同一ではない。原告分類には,大分類,中分類,小分類があるが,この小分類になると,相当細かい。被告は小分類をいくつかまとめたり省略したりしている。

さらに,よく見ると,判決文の最後にリストがあり,例えば,「ゴルフショップ」「スキーショップ」「テニスショップ」「ホビーショップ」が並んでいて,各職業分類の説明がなされている。これらが創作性の決め手になっている。ゴルフショップは,「従前はゴルフ場やゴルフ練習場とともに「ゴルフ」に包摂されていたが,ゴルフブームに伴い,ゴルフ用品の小売を専門とする業者が増加したことから,「ゴルフショップ」を独立の職業分類としたものである」とある。ゴルフショップもスキーショップもテニスショップも,大体ブームがきっかけとなっている。ブームになる頃にそういう分類ができた。

他方,ホビーショップを見ると,「従前は「模型店」に包摂されていたが,模型には,プラモデルから建築・工業デザイン用の精密模型まで多様なものが含まれてしまう」。だから,同じモデルでもいわゆるプラモデルを取り扱う模型店を,その他の趣味に関連する用品を専門に取り扱う業者と合わせて,趣味の世界を切り出して「ホビーショップ」としたという。

このように,ブームで新たに分類するものがあり,他方,世の中が変わって,分類として煩雑になり,あるいはその分類の分類らしさが失われてきたので再整理する場合もある。これら「職業分類」により,創作性が根拠づけられている。すなわち,本判決では,「100の職業分類⋯⋯が設定された理由は,別紙「タウンページデータベースにおける各職業分類が設けられた理由」記載のとおりであることが認められる」とした上で,創作性が認められた。

3. マンション販促用DB事件

次に,マンション販促用DB事件(東京地裁判決平成14年(2002年)2月21日「平成12(ワ)9426」)である。DB著作権を肯定した事件であり,考え抜かれたリレーショナルDBについてDB著作権を認めた。

新築分譲マンション開発業者は,土地を仕入れ,建築企画を行い,建築販売するまでに,類似の事例を参考に建築販売計画を立案する。その際,業者は,さまざまな視点から各種情報の分析を行う必要がある。原告DBは,これらの業者の必要に対して,日々各種の情報を提供するものである。原告DBによって,新築分譲マンションの平均坪単価,平均専有面積,価格別販売状況等を集計することができる。そして,原告DBの検索画面に一定の検索条件を入力すると,価格帯別需給情報等の情報が,表やグラフのような帳票形式で出力される。

本判決では,原告DBが含む構造が,その情報の選択および体系的構成の点において,著作物性を認めるに足りるとしている(この構造は,別紙として添付されている)。

この事件とタウンページDB事件をあわせ検討すると,DB著作権はかなりの難関であると思われる。近時,DB自体がありふれてしまい,「これに類するものが存するとは認められない」ためにはよほど手の込んだ体系を創作しなければならない。

4. 自動車DB事件

このことをさらに実感させるのが,自動車DB事件(東京地裁判決平成14年(2002年)3月28日「平成8(ワ)10047等」)である。この事件では,DB著作権は否定されたのだが,不法行為(後述)で保護された。

原告は自動車整備事業のためのDBを作成した。実在する自動車に関する情報を,型式,メーカー等17項目も調べ上げて,全車種を入力した。これを作成するのに5億円の費用がかかった。さらに,自動車はモデルチェンジするので毎年4,000万円かかる。こんなにお金がかかるのに,DB著作物としての創作性を認めるだけの根拠はなかったので,単に「汗」をかいただけだった。

タウンページDBの方は職業分類体系という創作性のよりどころがあったが,これに匹敵する自動車分類体系は認められない。ここでは,個性の発揮のしようがない。こういう場面ではDB著作権による保護はしてもらえない。

なお,DB著作権を簡単に否定した事例として,東京地裁判決平成16年(2004年)1月28日「平成14(ワ)18628」,東京地裁判決平成16年(2004年)1月28日「平成15(ワ)5020」がある。いずれも,携帯電話の画像ファイルについてのDBには該当しないとした。

ところで,自動車DB事件は,さらに進んで,「人が費用や労力をかけて情報を収集整理することでDBを作成し,そのDBを製造販売することで営業活動を行っている場合において,そのDBのデータを複製して作成したDBを,その者の販売地域と競合する地域において販売する行為は,公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において,著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして不法行為を構成する」として,不法行為に基づく損害賠償請求を認めた。デッドコピーしてただ乗りし,同じマーケットに入ってきて顧客を横取りするのはひどいとしたのである。

5. 「汗」は著作権で保護されない

上記自動車DB事件は,汗を著作権で保護しなかった例といえる。他方,タウンページDB事件では,「原告の担当者は,タウンページDBの職業分類に個々の電話番号情報を当てはめるために,掲載者から取扱商品や事業内容についての情報を聴取していることが認められ,右聴取には一定の技術や経験が必要であると認められるが,右の当てはめの過程は掲載するかどうかを選択するものではないこと,タウンページDBの職業分類は前記のとおり1,800にわたって細かく分かれているから,いずれの職業分類に入れるのかの選択の幅は小さいものと考えられ,右の技術や経験も主として個々の掲載者の事業の内容をいかに正確に把握するのかという事実認定に関するものであると考えられることからすると,右の当てはめの過程に情報の選択又は体系的な構成について,創作性が存するとは認められない」とした。職業分類体系への具体的な当てはめ作業に汗をかいただけでは,DB著作物としての創作性は認めてもらえないのである。

6. 訴訟活動の苦労

最後に,タウンページDB事件の苦労話をしよう。

まずは,創作性の立証。これは丁寧な立証活動が決め手になった。職業分類に長年関与された「生き字引」のような方々へのヒアリングを実施し,丸谷馨『タウンページのなぞときたい』(朝日文庫,1999年)等の参考文献も検討した。

さらに,依拠(アクセス。これも著作権侵害の大切な要件である)の立証。この点,本判決では,「業種別データの氏名等の具体的な表記には,タウンページDBと合致し,かつ,ハローページと合致しないものが多数存在するものと認められる」とされているが,トラップ(後述)が依拠立証の決め手となった。

被告は,依拠を否定した。被告は,原告のハローページ(50音順電話帳)の氏名,住所,電話番号をすべて手入力し,これとタウンページとを電話番号で1件1件マッチングし,タウンページに記載された該当職業分類に対応する被告独自の職業分類を入力して被告製品を独自に作成したと主張した。つまり,原告DBにはアクセスしていないというのだ。

ところで,当時のタウンページやハローページと,タウンページDBとでは,使用できる漢字の範囲に違いがあった。そこで,DB作成の際,使用制限されていた漢字については,原告が一定のルールにより別の漢字に置き換えていた。この置き換えにおいて,原告DBと被告製品には一致点が多数みられた。したがって,この「置き換え」が結果的に,わな(トラップ)となり,被告製品が原告DBに依拠していることが立証できた。

DBを法的に保護してもらうのは,なかなか至難の業である。

執筆者略歴

末吉 亙(すえよし わたる)

1956年10月11日生まれ,1981年3月東京大学法学部卒業,1983年4月弁護士登録。現在,潮見坂綜合法律事務所所属。文部科学省文化審議会著作権分科会法制問題小委員会委員,知的財産戦略本部コンテンツ強化専門調査会委員,東京大学法科大学院非常勤講師。

本文の注
注1)  著作権法の条文もネットで見ることができる。

注2)  最高裁判所のサイトで,「裁判例情報」→「知的財産裁判例集」と順次クリックし,「期日指定」「平成12年3月17日」と入力して,同日の判決を検索し,この中から「平成8(ワ)9325」を選択する。以下の裁判例で同じ。

注3)  この表も判決に添付されている。ただし,「平成8(ワ)9325」の右側でなく,左側をクリックすることに注意。

 
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