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情報界のトピックス
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2012 年 55 巻 2 号 p. 143-145

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Encyclopaedia Britannicaの印刷版中止

Encyclopaedia Britannica社は3月13日,244年前の1768年にエジンバラで発刊されたEncyclopaedia Britannica(ブリタニカ百科事典)の印刷版を中止し,2012年以降はデジタル版のみを提供するが,在庫の約4,000セットは売り切れるまで販売を続けると発表した。価格は,2年おきに出版されてきた印刷版(32巻)の1,400ドルに対し,オンライン購読料金は年間約70ドル,iPad,iPhone向けアプリケーションバージョンは1か月1.99ドルである。Britannica社は1970年代からデジタル化に取り組んできており,しばらく前から印刷版中止は予見されていた。振り返ってみると,1981年にLexisNexis購読者向けにデジタル版が提供され,1989年にCD-ROMが作成され,1994年にはオンライン版が開始された。1999年には広告ベースのサービスを開始し,全コンテンツを無料提供したところ,サーバーがダウンするほどアクセスが殺到したが,ビジネスモデルとしては失敗で,2年後には有料化せざるを得なかった。現在,印刷版はBritannica社の全販売高の1%以下を占めているのに過ぎず,シンボル的な存在,それも同社が年を追って行ってきた改革を十分に示さないシンボルでしかない,と社長のJorge Cauz氏は語っている。オンライン版の購読料はBritannica社の収益の15%を占めているだけで,残りの85%は教育用プロダクト,オンライン・ラーニング・ツール,カリキュラムプロダクトなどによるものである。Britannica社は潜在的な購読者を惹きつけるために,より多くの無料コンテンツを提供する予定である。Cauz氏はWikipediaに勝てるとは期待していないが,消費者は正確さを熱望し,そのためにはお金を払う意思があると考え,事実を提供するというBritannica社のミッションには変化がないと述べている。プレスリリースでは,今後Britannica社は,100億ドル(約8,160億円)に上る学校カリキュラム,デジタル学習マーケットに進出すると宣言した。印刷版中止が発表された後Britannica社には注文が殺到し,印刷版の在庫は4月6日現在,800セットまで減少したそうである。

(http://www.corporate.eb.com/?p=508)(accessed 2012-04-10).

ProQuestとBernan PressがStatistical Abstractを救済

昨年(2011年)米国国勢調査局(U.S. Census Bureau)が「Statistical Abstract of the United States」の作成を2012年版をもって中止することを決定したため,重要な研究ツールが失われるとして,ライブラリアン,ジャーナリスト,研究者の間に懸念が広まっていた。「Statistical Abstract」は1878年の発刊以来毎年,生活のあらゆる側面の統計を政府からだけでなく非政府の情報源からも集めて提供してきたからである。その中には,Dow Jones, Euromonitor,Information Today, Inc,国連,ILO,OECD, WHO,ボーイ/ガールスカウトなども含まれる。幸いなことに,ProQuest社とBernan Press社が協力して,2013年版から印刷版とオンライン版での出版を続けるとの発表がなされた。Bernan Press社が印刷,マーケティング,配布を行い,ProQuest社は収集,インデクシング,デジタル出版を担当する。新しく出版される印刷版はこれまでと同様で,ほぼ同数の表を提供する。25名から成るProQuestの統計編集チームが,詳細な書誌資料,最新の索引,最新の入門セクションを付け加える。現在米国国勢調査局のサイトに掲載されている「Statistical Abstract」は印刷版のPDF版であるが,ProQuest社が提供するオンライン版には,毎月更新される表,個々の項目レベルまで掘り下げた検索,検索結果をさらに絞り込むファセット検索,現在・過去すべての表の画像とスプレッドシート版,などが含められ,データ処理が可能になる。オンライン版はスタンドアロンサービスとしても,「ProQuest Statistical Insight」の一部としても利用することができる。印刷版もデジタル版も4月の事前特別セールで入手できるようだが,価格は未発表である。ライブラリアンたちは「Statistical Abstract」の出版が継続されることを歓迎する一方,無料で提供されなくなったことに対する失望の声もあがっている。

(http://www.proquest.com/en-US/aboutus/pressroom/12/20120322.shtml)(accessed 2012-04-10).

Federal Research Public Access Act(FRPAA)法案の進展

米連邦政府の資金援助を受けた研究成果のオープンアクセス(OA)化を義務付ける法案Federal Research Public Access Act (FRPAA) は,2月9日に上院と下院に提出され,3月19日にはDoyle議員が議会への説明を行い,2名の専門家が出席して意見を述べた。国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)のNeil Thakur博士は,NIHはパブリックアクセスをミッションの中心であると考えていると語った。経済開発委員会のElliott Maxwell氏は,NIHのポリシーを他の連邦政府機関にも広げることによる潜在的な影響に主眼点を置いたレポートの要約を説明し,この拡大が科学的生産性,経済成長,革新と国の生産性に及ぼす潜在的な利益を探求した。翌3月20日に,下院では新たに民主党14名,共和党10名の計24名の議員が正式に共同提案者に加わった。北米研究図書館協会(Association of Research Libraries: ARL)は,上院と下院に対してFRPAA法案提出を感謝する書簡に参加し,続いて米国図書館協会(American Library Association: ALA)やSPARCなど他の6団体と共同で,下院の調査監督小委員会(Subcommittee on Investigations and Oversight)の委員長に対して,パブリックアクセスと学術出版に関する公聴会の開催を感謝し,FRPAA支持をあらためて表明する書簡を送った。

(http://www.arl.org/sparc/media/blog/FRPAA_Spotlight_New_Bipartisan_Cosponsors.shtml)(accessed 2012-04-10).

Google Art Projectが拡大

Googleは4月3日,「Google Art Project」を拡大し,40か国の151館の所蔵品が見られるようになったと発表した。同プロジェクトはこれまで,9か国17館の所蔵品の画像1,000点を提供。今回は,東京国立博物館(東京都),ニューヨーク近代美術館(MoMA),インド・デリーの国立現代美術館などが追加された。同プロジェクトに参加している日本の美術館は計6館になった。今回の拡大によって,3万点以上の高精度画像が見られるようになったほか,46館では館内のストリートビューも提供されている。またギガピクセル級の作品画像も46点含まれる。

(http://www.googleartproject.com/)(http://googleblog.blogspot.jp/2012/04/going-global-in-search-of-great-art.html)(accessed 2012-04-10).

求職者にFacebookパスワード提示を求める企業が問題に

米国では,企業が求職者に対して,Facebookのパスワード提示を求めるケースがあることが報道され,問題視されている。AP通信は3月20日の記事で,Facebookページを非公開設定にしていた求職者に対して,面接担当者が採用面接の席で,ログイン情報の提示を求めたとしている。

これに対してFacebookは3月23日,こうした行為を行った組織の提訴も辞さないとする声明を発表した。同社はユーザーに対して,パスワードの公開などの行為は,自らのセキュリティだけでなく,自分の「友達」のプライバシーを危険にさらすことになるとして,行わないように求めている。一方,企業側には,求職者のパスワードを使ってFacebookページを確認した後に,採用を行わなかった場合,差別で訴えられる可能性があると警告した。同社は今後,ユーザーのプライバシーとセキュリティを守るための対策として,政治家への働きかけや,提訴を含めた対応を取るとしている。

(https://www.facebook.com/notes/facebook-and-privacy/protecting-your-passwords-and-your-privacy/326598317390057)(accessed 2012-04-10).

米オバマ政権,「ビッグデータイニシアティブ」に2億ドル超

オバマ政権は3月29日,「ビッグデータ研究開発イニシアティブ」を発表した。連邦政府機関6機関が参加して,巨大なデジタルデータ(いわゆる「ビッグデータ」)の分析に必要なツールや手法の開発に取り組む。連邦政府は同イニシアティブに2億ドル超を投資する。国立衛生研究所(National Institutes of Health: NIH)はこのイニシアティブの一環として,「1000ゲノムプロジェクト」のデータを,Amazon Webサービス(AWS)で公開した。このプロジェクトは,ヒトの遺伝的多様性に関するカタログを確立する国際共同研究で,75の企業と機関が参加している。現在1,700人分以上のゲノム配列が解読されており,そのデータ量は200テラバイトに達する。このデータをAWSで公開することで,世界中の研究者がダウンロードせずにアクセス可能になる。データへのアクセスは無料で,研究者は,データの処理や分析に使用するAWSのコンピューターリソースの利用料金のみを支払う。

そのほか,国防総省は,ビッグデータに基づいた意思決定システム構築のために年額2億5,000万ドルを投入する。

(http://www.whitehouse.gov/sites/default/files/microsites/ostp/big_data_press_release_final_2.pdf)(http://aws.amazon.com/jp/1000genomes/)(accessed 2012-04-10).

「出版デジタル機構」が発足,公的投資も

日本での電子出版市場の立上げを目指す「出版デジタル機構」が4月2日に発足した。同機構は,出版業界が共同で設立するもので,出版社11社が発起人となり,既に274社が賛同・参加を表明している。「あらゆる端末,あらゆる書店,あらゆる出版社を結ぶインフラを整備する」としており,具体的には,書籍や出版物の電子化,電子化したデータの保存,電子書店・電子取次に対する配信,プロモーション(書誌情報の作成・配信等),収益分配等の管理まで,電子出版に必要な機能・サービスを包括的に提供する。5年後に電子出版物点数で100万点,およそ2,000億円の市場の実現を目標としている。出版デジタル機構の発足に先立ち,3月29日には,官民出資の投資ファンドである産業革新機構(INCJ)が,同機構へ最大150億円の投資を行うことを発表している。

また4月6日には,ポータルサイト「e読書.jp(β版)」がオープンした。このサイトは,出版デジタル機構のほか,電子書籍情報を提供する「hon.jp」,「Webcat Plus」を運営する国立情報学研究所が協力しており,紙・電子に関わらず,現在入手可能な100万冊を自由に検索できる。また読みたい本が電子化されていない場合には,電子化リクエストを送ることもできる。

(http://www.pubridge.jp/)(http://www.incj.co.jp/investment/info.html)(http://edokusho.jp/)(accessed 2012-04-10).

 
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