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統計情報活用への招待 第15回 業界団体の統計
浅田 昭司
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2012 年 55 巻 6 号 p. 425-433

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1. 業界団体の統計とは

「統計情報活用への招待」と題して続けてきた連載も,今回をもって最終回となる。前回までは官庁の作成した公的統計を紹介してきたが,今回は業界団体の統計をご紹介する。民間の統計としては,業界団体,研究機関,マスコミ,業界紙,企業などが作成しているが,中でも産業の動向をつかむ上で欠かせない業界団体の統計についてどのように使えるかを解説する。

企業が日々の事業活動を行う上で統計情報が必要になった場合,公的統計とともに必ず確認するのが業界団体の統計である。研究開発部門で研究中の製品等の市場性を把握したい場合,マーケティング部門で製品やサービスの事業戦略を検討する場合,経営企画部門で将来の事業計画を構築する場合などさまざまな局面で活用できる。必要な統計は市場規模ばかりでなく予測であったり,業界の他社の状況であったり,細かい製品レベルでの生産等のデータであったりするが,これらは公的統計ではカバーできないことも多く,業界の統計に頼ることとなる。

業界団体が統計を作成する主たる目的は,実情を調査することにより得られた結果を監督官庁に報告して,業界として有利な施策を提言する際の材料にすることである。調査結果をもとに陳情すると説得力が増し,官庁の職員を具体的な行動に移させやすくする。また一般社会の業界への認知も,業界団体が独自に作成する統計により,いっそう高まることとなる。このように業界団体の統計は公的統計の作成とは目的が異なることもあり,公的統計ではフォローしきれない分野も把握している。その意味で,公的統計に次いで重要であり,その限界や弱点も見極めながら活用していくことが望ましい。

定期的に調査されている代表的な業界団体の統計だけでも,「民間統計徹底活用ガイド」(日本能率協会総合研究所マーケティング・データ・バンク編)では652点が紹介されている。本記事末に業界団体が作成する主な統計を示した。業界団体は万を超える数があり,すべてを紹介することはできないので,筆者が日常の調査を行う上で使用頻度の高かったものを挙げた。これら以外にも主要団体は数多くあり,統計も多数あるので,業界団体の統計を探す場合には次章を参考にしていただきたい。

2. 業界団体の統計の探し方

業界団体の統計は多種多様であり,適切な統計を探すのが難しい。以下に業界団体の統計についての探し方のヒントをご紹介する。

(1)業界団体を探す

•業界がわかるWebサイト

国立国会図書館の「リサーチ・ナビ」(http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/)の「経済・産業」のカテゴリーからそれぞれの業界の主要団体が把握できる。また,「企業・団体リストの調べ方」(http://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/theme-honbun-102094.php)も参考になる。

•業界がわかる資料

紙媒体の資料でまずお勧めなのが「商工経済団体名簿」(東京商工会議所)である。巻末のキーワードから約4,000の団体の検索が可能である。次いで約6万の団体を掲載する「全国各種団体名鑑」(原書房)も活用できる。また「業種別審査事典」(きんざい),「TDB業界動向」(帝国データバンク)や,各業界の代表的な年鑑,白書も主要団体を把握するのに役立つ。

(2)業界が作成する統計資料を探す

業界団体の統計を含んだ民間統計をターゲットに絞った紙媒体の資料としては,前述の「民間統計徹底活用ガイド」と「民間統計ガイド」(全国統計協会連合会(現在は,統計情報研究開発センターに事務が引き継がれている))がある。業界別に公的統計,業界団体統計などを検索できるようにしたものとしては,「ビジネスデータ検索事典 データ&DATA」(日本能率協会総合研究所)や同社発行の「ビジネス調査資料総覧」が挙げられる。また「雑誌新聞総かたろぐ」(メディア・リサーチ・センター)でも毎年定期的に発行される業界統計を把握できる。

3. 業界団体の統計の特徴

3.1 調査の対象および収集方法の特徴

公的統計のうち標本調査を採用しているものの多くは,標本理論に基づいて,標準誤差率が5%以下となるように標本数を設定している。統計調査の予算がふんだんにある国家だからこそできることであり,民間の業界団体では,必ずしも大規模な標本数を求めることはできない。そのために誤差率がどうしても大きくならざるを得ない。

業界団体の統計は定期的に調査されているものが多い。そのお陰で,業界全体として市場規模が拡大しているのかどうかといった趨勢をつかむことができるし,業界の中でもどの分野が伸びているかといった詳細の把握が可能である。例えば,DIY店の売上高などを調べた,日本DIY協会(http://www.diy.or.jp/)の「DIY小売業実態調査報告書」は,2010年度調査が22回目の調査となっている。この調査は,会員企業を対象にした調査であり,業界全体をカバーしているものではないが,時系列の推移を見る場合には欠かせない。

業界団体の統計は,そのほとんどが会員のみを調査対象としており,その多くが郵送による書面回答を得ている。会員を対象としている故に,調査のフォローも容易である。例えば自動車用化学品の団体である日本オートケミカル工業会(http://www.jade.dti.ne.jp/j-chemi/)の「オートケミカル製造業実態調査報告書」では,郵送調査の結果の一部を面接確認により補っている。ブレーキ液,クーラント,潤滑油剤などの市場動向を調べたものだが,会員にのみ公表している。

会員と一口に言っても,多岐にわたっているケースもあり,日本プロモーショナル・マーケティング協会(http://jpm-inc.jp/)の「プロモーション業界実態調査報告書」の例では,SP(セールスプロモーション)会社,マーケティング会社,総合広告会社,印刷会社,ディスプレイ会社,加工会社,材料会社などから得た情報でPOP広告市場の売上高規模などを推定している。

業界団体の統計ではその団体に属している会員を対象にして調査をするのが通例である。全体市場に占める会員のカバー率が十分に高ければ問題ないが,低い場合は市場全体を反映する結果は望めない。統計によっては,会員以外も調査対象に含めて調査する,あるいは,会員以外の事業所数と従業員規模を参考にしながら会員と同様の売上があるものと仮定して数字を推計するなどの方法が取られる場合がある。したがって,調査の範囲がどこまでか,公的統計以上に注意を払わなくてはならない。

1の日本ロボット工業会(http://www.jara.jp/)の「年間統計推移表」は,ロボットの生産および販売企業(輸入企業含む)を対象としているが,会員のほか,非会員も含めた企業にロボットの受注・生産・出荷・輸出の実績をアンケート調査票で回答を依頼し,回収分のうちから生産・販売実績のあった企業を対象に集計したものである。

表1 ロボットの受注・生産・出荷・輸出の年間推移

「年間統計推移表」(日本ロボット工業会)より抜粋

日本タンナーズ協会(http://www.tcj.jibasan.or.jp/)の「製革業実態調査報告書」は,経済産業省の委託を受けて行っている調査で,調査は面接調査で行っており,調査員が分担して行っている。全体調査,特定調査ともに製革業界の会員および非会員の全事業者を対象としている。非会員の調査には各支部が当たっている。

日本ボランタリーチェーン協会(http://www.vca.or.jp/)の「ボランタリーチェーン実態調査」も会員に加え非会員も含めたボランタリーチェーンを対象にしており,年商,店舗数を調査している。

日本通信販売協会(http://www.jadma.org/)の「通信販売企業実態調査報告書」では,会員企業の売上高と業界全体の売上高の両方を調べている(図1)。

図1 通信販売売上高の推移

「2010 年度通販市場売上高調査」(日本通信販売協会)より

3.2 統計データの特徴

公的統計との比較によって浮かび上がる業界団体の統計データの特徴を,事例を交えてご紹介しよう。

3.2.1 最近の動向を把握

公的統計では新しい動向を把握するのが難しい。公的統計の多くは定期的に調査されているものであり,いったん調査項目に入れると,その後続けて調査する必要がある。またいたずらに調査項目を増やして回答者に負担をかけてはいけないので,今までの調査項目を削ることになる。そのため,新たな調査項目が一時的な現象で注目されているだけのものかを見極めるための時間経過が必要であり,新しい動向を把握するのが遅くなるのである。

業界団体の統計にも同様な課題はあるものの,公的統計に比べて変化に柔軟に対応できる。日本自動認識システム協会(http://www.jaisa.jp/)は,自動認識関連市場の調査,集計,分析を行っており,市場の動向や予測についても独自に調査・発表しているが,これらのテーマは,公的統計ではまだ把握していない分野である。会員企業を中心にアンケート調査を行い,123社の回答を取りまとめたものである。

日本証券業協会(http://www.jsda.or.jp/)は,証券会社のインターネット取引の口座数,売買代金等を調べた「インターネット取引に関する調査結果について」を発表しているが,このようなテーマも公的統計では行っていないものである。

3.2.2 調査対象品目の細かさ

業界団体の統計は,公的統計に比べて調査品目が細かいものも多い。

電子回路基板に関する工業会として日本電子回路工業会(http://www.jpca.net/jp/)があり,ここでは毎年「電子回路産業調査レポート」を発行し,生産など各種統計をまとめている。生産に関するデータは経済産業省の「生産動態統計」をベースにしている。「生産動態統計」では多層プリント配線板は「6~8層」がまとまって1つのデータになっているが,同会の統計では6層と8層,それぞれデータが出されていたり,さらには企業規模別,企業のタイプ別の生産量なども把握できる。その他,会員企業の経営データ,海外生産,予測など,さまざまな切り口で統計が取られている。

日本舟艇工業会(http://www.marine-jbia.or.jp/)の「舟艇工業の現状」では,モーターボート,遊漁船,ヨット,パーソナルウォータークラフト,ローボート,業務艇などの出荷隻数・金額を調べているが,公的統計にない品目もある。

自転車の統計に関しては,「生産動態統計」では,軽快車,電動アシスト自転車,その他という3区分だが,自転車産業振興協会(http://www.jbpi.or.jp/)の100店のみの販売店統計は,シティ車,ホーム車,折りたたみ車,子供車,幼児車,マウンテンバイク,スポーツ車,電動アシスト車という8分類の調査で品目が細かい。経済産業省が生産段階での調査であるのに対し,業界団体は小売販売段階での調査であり,標本の規模も比べ物にならないが,対前月比の変化といった傾向をつかむ上では貴重な統計といえる。

産業用ロボットの例で見ると,「生産動態統計」では,シーケンスロボット,プレイバックロボット,数値制御ロボット,知能ロボット,部品・付帯装置という分類である。一方日本ロボット工業会(http://www.jara.jp/)の会員ベースの統計では,用途別に集計しており,樹脂成形,溶接(アーク溶接,スポット溶接,ガス溶接,レーザー溶接,その他溶接),塗装,機械加工(ロード・アンロード,機械的切断,研磨・バリ取り,その他機械加工),組立(一般組立,電子部品実装,その他組立(ボンディング,はんだ付け,シーリング・グルーイング,ねじ締め,その他組立)),入出荷,マテリアル・ハンドリング,クリーンルーム内作業(FPD,半導体,その他),その他用途という分類での,国内出荷,輸出別の出荷金額がわかる。

3.2.3 経営の動向を把握

業界団体の統計は,会員を対象にしているという性格上,調査項目の中に経営に関する調査が入っていることも特徴の1つである。同業他社に比べて自社はどうかという指標を統計から得ることができる。

日本自動車整備振興会連合会(http://www.jaspa.or.jp/)の「自動車分解整備業実態調査」では,生産性の動向,労働条件等の動向や経営上の問題点などを調査項目としている。平成23年6月末時点で91,874事業場あるうちの約2割を対象として調査したもので,有効回答数は全事業場の約1割に当たる。

情報サービス産業協会(http://www.jisa.or.jp/)の「情報サービス産業基本統計調査」は,売上高の他に経営指標,就業状況,採用・退職状況といった経営に関する調査を行っている。

3.2.4 流通の状況を把握

わが国の流通構造は複雑であり,業界ごとに商慣習が異なるため,公的統計では把握しきれない部分が残る。業界団体の統計では,流通構造に切り込んだ統計が多く作られている。

日本映像ソフト協会(http://www.jva-net.or.jp/)の年間売上統計では,ビデオソフトの売上がセルビデオ向け・レンタルビデオ向け・業務用ビデオ向けといった流通チャネル別売上高を調べている。同会の「ビデオソフト市場規模及びユーザー動向調査」は,全国に居住する満16歳~69歳の男女1,200人から回答を得たインターネット調査である。その統計の中には,消費者サイドから,ビデオソフト(DVD&BD)のルート別購入比率として,インターネットのオンラインショップ,家電量販店,CDショップ(レコード店),レンタルビデオ店,通信販売,一般書店などといった購入実態を調べている(図2)。

図2 ビデオソフト(DVD&BD)のルート別購入率

「ビデオソフト市場規模及びユーザー動向調査2011」(日本映像ソフト協会)より

価格設定というマーケティングの重要課題に応える売れ筋価格帯が調べられている統計もある。前述の自転車産業振興協会の「自転車国内販売動向調査年間総括表」には,シティ車,ホーム車,折りたたみ車別に価格帯別の構成比が調べられている(図3)。公的統計では総務省の「小売物価統計」があるが,平均値であり,価格帯別の構成比ではない。

図3 国内販売自転車の価格帯別構成比(シティ車)

「平成23年 自転車国内販売動向調査年間総括表」(自転車産業振興協会)より抜粋

3.2.5 流通段階別市場規模を把握

一口に市場規模といっても,メーカーの出荷段階,卸売り段階,小売り段階で規模が異なる。全国カラオケ事業者協会(http://www.japan-karaoke.com/)の「カラオケ白書」では,メーカー市場規模の推計,オペレーター市場規模の推計,ユーザー市場規模の推計を発表している。

全日本菓子協会では,生産数量,生産金額とともに,小売金額を推定している。「日本食糧新聞」(http://news.nissyoku.co.jp/)によると,2011年の生産金額は2兆3,570億円で前年比0.1%減,小売金額は3兆1,953億円で同0.3%減としている。

公的統計で流通段階別の市場規模を表章しているのは,総務省の「産業連関表」程度であり,調査結果の発表までのタイムラグが4年程度あり,実用に供しにくいという欠点を持つ。

3.2.6 ユーザーの需要動向を把握

一般的に見て関心が高い分野はユーザーの調査を行った公的統計もあるが,その業界特有のユーザーについては十分ではない。その点,業界団体ではその業界のユーザーの調査は必需であり,定期的に行われているものもある。

日本自動車工業会(http://www.jama.or.jp/)の「小型・軽トラック市場動向調査」では,車種ごとの用途,走行距離,運行形態,積載量等の使用実態,今後の保有・購入意向等ユーザーの使用状況を調査している。

日本宝くじ協会(http://www.jla-takarakuji.or.jp/)の「宝くじに関する世論調査」では,宝くじ人口,1年間の宝くじの購入総額,購入理由,非購入理由等を調査している。

3.2.7 企業・銘柄別のデータを把握

公的統計では,固有の企業名,銘柄名等は公表時には伏せられている。固有名を明らかにしないことが回答者に対しての重大な約束事になっている。それに対して,一部の業界団体の統計では固有名が公表されている。

前述の日本自動車工業会の生産統計では,表2に示すように,メーカー別の統計を公表している。

表2 乗用車生産実績速報(2012年6月分)

日本製紙連合会(http://www.jpa.gr.jp/)の「紙・板紙統計」でも,企業別の値を公表している。調査対象企業は会員企業と統計協力企業で,それ以外は,「生産動態統計」の全国数値から同協会の集計数値を差し引き,「その他」として計上している。

電気通信事業者協会(http://www.tca.or.jp/)は,携帯電話の月末の契約数(純増数,累計)をNTTドコモ,au,ソフトバンクといったキャリアの地域事業会社別に公表している。

日本たばこ協会(http://www.tioj.or.jp/)の「紙巻たばこ販売実績」では,上位20銘柄が公表されている。

3.2.8 予測データ

公的統計では過去の実績についての調査がほとんどであり,予測データについてはごくまれにしか公表しない。

業界団体の例を見ると,光産業技術振興協会(http://www.oitda.or.jp/)の「光産業国内生産額,全出荷額調査」で,情報通信,情報記録,入出力,ディスプレイ・固体照明分野,太陽光発電,レーザー加工,センシング・計測の各分野における生産額の実績に加えて予測を発表している。

情報通信ネットワーク産業協会(http://www.ciaj.or.jp/jp/)の「通信機器中期需要予測」では,5年先までの予測を発表している。インターネット関連機器の分野の例では,ルーター,LANスイッチ,光アクセス機器(PON,MC)等が対象機種となっている。2011年度より世界市場が対象となっている。

電子情報技術産業協会(http://home.jeita.or.jp/)の「端末装置に関する調査報告書」では,出荷予測とともに製品単価の予測も発表している。また世界のオーディオ・ビジュアル製品の今後の需要予測を行った「AV主要品目世界需要動向」といった資料も発行している。

3.2.9 世界の動向を把握

公的統計のほとんどはもっぱら国内を調査対象としているが,グローバル化している市場を相手にしている業界団体では,世界の統計をカバーしている団体も多い。

日本冷凍空調工業会(http://www.jraia.or.jp/)の「世界のエアコン需要推定」は,会員企業にアンケートした結果から推定しているもので,ルームエアコン,パッケージエアコン別に各国の需要を推定している。

海外で作成された統計を収録しているのも民間発行の資料の特徴である。前述の日本自動車工業会の「世界自動車統計年報」は日本を含めた世界主要国の四輪車・二輪車の生産・販売・保有・輸出などの統計を収録している。業界団体ではないが,他で得られないという点から特筆に値するのは本田技研工業(http://www.honda.co.jp/)の「世界二輪車概況」で,各国・地域の自動車・二輪車工業会による統計を収録している。統計が入手できないところは本田技研工業が独自に調査している。前述の日本ロボット工業会の統計のうち,産業用ロボットの稼働台数については,国別の統計が明らかにされている。

3.3 統計の公開

公的統計はほとんどが公開されているが,業界団体の統計の場合,必ずしも一般に公開されるとは限らない。会員になるメリットの1つが,業界の自主統計が入手できて,自社の業界での位置づけを把握することにあるとするケースが多く,一般に公開されたのでは,会費を払って会員になっている意義が薄れるという会員からの抵抗があるからである。

例えば,前述の日本オートケミカル工業会の「オートケミカル製造業実態調査報告書」は,会員にのみ公表している。また,前述の日本自動認識システム協会の,自動認識関連市場の調査結果は,概要のみが公表されており,詳細な調査結果は会員専用のコンテンツで会員以外には非公開である。

日本ロボット工業会の国内出荷・輸出統計は,四半期別にはWebで公開されているが,月別は会員のみ公開である。このように,一部を一般公開し,詳細データは会員のみが入手できるとしている業界団体が多い。

4. 民間統計を活用する上での注意点

業界団体の統計を活用する上での注意点は,第1に会員企業を対象に調査を実施している場合,会員企業の業界全体でのカバー率が低い場合もあることを知るべきである。あくまでも会員を対象にした調査であり,業界全体を代表していない場合も多い。カバー率がどの程度であるかは,統計を見ただけではわからないケースも多く,直接,業界団体に問い合わせる必要がある。

第2に経年変化を見るために業界団体の統計を使用する際には注意が必要だ。会員の入退会等による調査対象の変更や,有効回答,回答率等が毎年変わり,同じ調査項目であっても過年度の数値と大きく異なる場合がある。産業の動向を調べるには対前年の伸び率が重要だが,伸び率については,単純な回答結果の数字と両年ともに回答している企業に限って集計したものの両方を掲載している場合がある。後者の集計があればそちらを用いるとよい。

第3に業界団体の統計と公的統計では,同一の業界でありながら調査対象に差異がある場合がある。

百貨店の販売統計では,日本百貨店協会(http://www.depart.or.jp/)の統計は加盟している企業の店舗に限った統計であるのに対し,経済産業省の「商業販売統計」は売り場面積の基準とスーパーではないことという条件を満たしている店舗の統計である点が異なる。

楽器の生産統計では,全国楽器製造協会の「楽器生産販売/輸出入 実績」の調査要領は,経済産業省の「繊維・生活用品統計」に準拠しているものの両者の調査対象と項目に若干の相違があり,結果にも差異が出ている。経済産業省の調査対象は,楽器製造に携わる従業員の数が20名未満の事業所を対象から外しているが,全国楽器製造協会ではそうした事業規模による線引きはしていない。また,全国楽器製造協会では,国内生産とは自社生産,委託生産,他企業からの製品購入を合算したものと定義している。これに対し,経済産業省では自社生産・受託生産・受託加工したものとしている。なお,全国楽器製造協会の統計は,ミュージックトレード社(http://www.musictrades.co.jp/)の「楽器年鑑」に収録されている。

5. 民間統計の活用事例

企業では自社の事業計画策定のために自社業界レポートを作成する場合も多い。自動車タイヤメーカーを例に挙げると日本自動車タイヤ協会(http://www.jatma.or.jp/)の統計が活用できる。「生産動態統計」には生産・出荷の統計しかなく,特殊車両は1項目になっており,農業用車両,建設用車両など種類別のデータはとれない。これに比べ,同会の統計では,種類別の統計に加え,国内向け,輸出などポジション別の統計,ラジアルタイヤなどの統計,需要,リサイクルに関する統計など複数種類の統計がまとめられている。事業計画を作成する場合にはさまざまな角度で業界を分析する必要があり,業界団体の統計は不可欠である。

業界団体の調査結果と公的統計を加工して市場規模を推定することもできる。一例を挙げると,葬祭の市場規模を推定する場合,日本消費者協会(http://www.jca-home.com/)の「葬儀に関するアンケート調査」の葬祭平均単価に厚生労働省の「人口動態統計」の死亡者数を乗じてデータを得ることができる。サービスや小売関連など製造業に比べ公的統計によるカバーが十分でない分野については,特に業界団体の統計が有用となる。

連載を終えるにあたって

15回を迎えた連載も今回をもって完結となる。

連載での執筆の意図は,わが国の公的統計がいかに充実しているものであるかを実感していただき,活用への刺激となることであった。統計の作成の基本を心得ていただき,調べ方の心構えをお伝えするよう努めた。また,作成方法による統計の違いや類似調査の使い分けを理解していただけるよう解説した。統計用語になじみのない読者もおられることと思い,できるだけ平易に表現するように心がけた。本誌全文がWeb公開されていることもあり,たまたまお会いした方から参考になっているとお聞きし,大いに励まされた。

苦労したのは,かつて使用していた統計の用語や概念がその後変化しており,それらを最新情報に更新することであった。その点,インターネットでの公開情報の充実と,電話取材に対する制作担当者の丁寧な回答に助けられスムーズに記事作成が進んだ。

この連載をきっかけに統計の利用が高まり,読者の調査の幅が広がることが筆者の願いである。公的統計で欠けている部分は,業界団体の統計を探す,あるいは統計を加工するといった方法で補うことが可能である。

この連載を保存していただき,必要に応じてひもといて活用してくだされば幸いである。

業界団体の主要統計
 
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