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研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第2回 法体系
吉田 利宏
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2012 年 55 巻 8 号 p. 591-595

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1. 法令とは

この回の目的は「法体系」を説明することである。具体的には,法令の種類と関係をわかりやすく伝えなければならない。同じ内容について定める複数の法令が存在するとき,それらの関係への理解がなければ法令の内容を正しく読み解くことはできないからである。筆者は衆議院法制局というところで法律案作成の仕事に従事してきたが,法令の種類と関係をくまなく理解するまでには実に苦労したものだ。

さて,最初から恐縮なのだが,実は,この「法令とは何か?」ということについての明確な定義が世の中にはない。一般に国や自治体のルールとしての法は,「法規」とそうでないものに分けられる。「法規」という用語には行政法学により一定の意味が与えられている。それは,「国民(住民)の権利義務に関わる定め」という意味である。例えば,公務員に対して出される命令やマニュアルといったものは,法規から除かれる。また,国民に向けられたものであっても,単なる事実の告知のようなものはこの法規には含まれないということになる。

法令という言葉について明確な定義はないが,ここではこの「法規」という概念をベースにして「国民(住民)の権利義務に関わる定め」を法令と呼び,説明することにする。「国の法令」,「自治体の法令」と順に説明し,その上で,法令でない法(ルール)についても最小限の説明を加えていこうと思う。

2. 国の法令

2.1 特徴

国の法令だが,その特徴は厳しい「縦関係」にある。クラシカルな職制を敷く会社では,社長以下,部長,課長などといった役職によるヒエラルキーがいまだ維持されているが,国の法令もこれに似ている。

一番上位の法令が「法律」であり,その次が「政令」,さらにその下位法令が「省令」注1)となる。しごく単純化すると,国会が定めた法律をさらに具体化したり,実施するために定められるのが「政令」や「省令(府令)」注2)ということになる。憲法はどうかというと,国の基本構造を示す根本法である。すべての法令が依って立つ土台のようなものなのだ。

図1 国の法令の概観

2.2 制定権者

(1) 憲法

こうしたヒエラルキーが存在する理由は法令の制定権者にある。例えば,憲法であれば,国民がその制定権者である。国民は法律の制定を議員に任せているが,憲法の制定については任せていない。憲法改正手続に国民投票があるのもその表れだ。

(2) 法律

法律は国会が制定する。国民の代表が定めたものであるから一番重い。国民の代表が定めたものだからこそ,国民の権利を制限したり,義務を課す内容を新たに定めることができるのだ。

(3) 政省令

政令は内閣が定める。内閣というのは,内閣総理大臣と全大臣たちで構成する合議体である。これこそ,行政権の本体なのだ。そのため,政令は各大臣が定める法令である「省令」より重い。先ほど,政省令は国会が定めた法律をさらに具体化したり,実施するために定められると述べた。その一方で「国民の権利を制限したり,義務を課す内容を新たに定めることは法律によってしかできない」旨も述べた。ここで法令における矛盾が生じることになる。それは,国民の権利義務に関わる規定の具体化や実施のための規定を政省令に置くことができるかという問題である。答えから先にいうと「YES」である。ただ,その場合には法律に「○○については政令(○○省令)で定める」といった規定が必要となる。これを「委任規定」といい,その委任規定に基づいて定められた政省令を委任命令注3)という。

委任規定は,社長が「○○の件は,××の方針で部長にお願いしよう」と命じるようなものだ。ただ,このとき社長の指示の仕方が問題となる。政治に興味のない殿様のように「よきにはからえ」と任せてしまっては,部下が好き勝手なことをするかもしれない。委任規定も大事なところを法律で示した上で委任をしないと,行政のやりたい放題になってしまう可能性がある。

なお,政省令には,単に法律を実施するためだけの規定も置かれる。申請書の書式を定める省令の規定などがそれだ。こうした政省令を「執行命令」という。執行命令は法律の委任がなくても定めることができるとされている。

2.3 政省令への振り分け

どのような事項を政令で定め,どのような事項を省令で定めるかという,規定事項の振り分けは,ズバリ内容の重要度による。それは部長へ任せる事項と課長へ任せる事項の違いと同様である。

2.4 法形式と法令番号

これは実務上の問題なのだが,法令の名前(これを正式には「題名」という)から,その法形式を判別するのが難しい場合がある。法律の場合,通常「○○法」とか「○○に関する法律」という題名が付されるので問題がない。しかし,政令の場合には「○○に関する政令」とか「○○を定める政令」との題名が付けられているとは限らない。表1のような題名が付けられる場合もしばしばである。こうした事情は省令も同様だ。そのようなとき,題名のあとに付される「法令番号」が判別の手掛かりとなる。

表1 政省令の題名例

なお,規定事項がいくつかの省庁にまたがる場合がある。この場合には省令は複数の大臣による「共同省令」となる注4)。やはり,法令番号より共同省令であることを知ることができる。

2.5 その他

(1) 会計検査院規則・人事院規則

行政権の本体は内閣にあるが,その役割の性質上,内閣からある程度,独立した行政機関もある。国の会計のチェック機関である「会計検査院」や国家公務員についての人事行政や利益保護を行う「人事院」がそれだ。これらの行政機関は,「会計検査院規則」,「人事院規則」を定めることができる。内閣からの独立性をある程度保障されていることから,これらの機関の事務に関しては直接,政令は及ばない。こうしたことを考えると,名前は「規則」であっても,省令以上に重い存在ということになる。

(2) 外局規則

「○○庁」や「○○委員会」というものを耳にしたことがあるだろう。これらは本省(内閣府を含む)とは別に置かれる行政機関である。例えば,経済産業省には「特許庁」が置かれているし,内閣府には「金融庁」や「国家公安委員会」がある。こうした外局は専門性や政治的中立性を確保する必要性から本省(内閣府)とは別に置かれるものである。しかし,外局は原則として,独自に命令を出すことはできない。したがって,特許庁規則や金融庁規則というものは存在しないのである。必要な省令は,経済産業省令や内閣府令として,本省(府)から出してもらうことになる。しかし,例外的に独自に命令制定権を与えられた外局がある。国家公安委員会や中央労働委員会(厚生労働省の外局)などがそれで,法律で定められた範囲で規則を定めることができる。こうした規則を「外局規則」という。

(3) 議院規則・最高裁判所規則

三権分立との関係で憲法が議院や最高裁判所に認めた規則制定権がある。まず,衆議院や参議院は,会議の手続きや内部の規律に関して自ら規則を定めることができる。これを「議院規則」という。また,司法行政を取り仕切る最高裁判所は,訴訟に関する手続きや裁判所の内部規律などについて規則を定めることができる。これを「最高裁判所規則」という。日常生活ではあまり縁がないかもしれないが,行政以外が定める法令として,この2つを挙げておく。

3. 自治体の法令

3.1 条例と規則との関係

自治体の法令には「条例」と「規則」がある。「条例」とは,自治体の議会が定めた法令である。一方,執行機関が定めた法令を「規則」という(ここでは,知事,市長村長といった首長が定めた規則を念頭に話を進めてゆく)。

条例と規則との関係は「横関係,ときには縦関係」とでも表現できるだろうか。条例と規則とは基本的には上下ではなく対等な関係にある。二元代表制という言葉があるように,自治体では議会(議員)ばかりでなく,首長も住民から直接選ばれる。つまり,どちらも民主的な基盤を持つ存在だ。平たくいえば,同じ会社に社長が2人いるようなものなのだ。そのため,首長が定めた規則も条例と並んで重要視されている注5)。この両法令の役割分担だが,まず,それぞれ専権事項というべきものがある。権利を制限したり,義務を課す場合には条例によらなければならない。また,財務に関することは規則によらなければならない。このような最低限の役割分担が地方自治法などに定められている。しかし,それ以外は条例で規定しようが,規則で規定しようがかまわない。

ただ,「条例ですべてを定めきれない」という問題が残る。条例についても,やはり,それを実施するための下位法令が必要となる。そのときに条例の下位法令として働くのもまた首長が定める「規則」なのだ。通常の規則と区別する上で,条例の下位法令として働く規則を「条例施行規則」という。この関係を図にすると図2のようになる。「横関係,ときには縦関係」といったのはこうしたことを指している。

図2 条例と規則との関係イメージ

3.2 執行機関の多元性と行政委員会の規則

国の場合,行政の本体は内閣にある。自治体の場合には,行政の執行機関は首長だけではない。教育行政は教育委員会に,警察行政は公安委員会(都道府県単位である)などと,首長の他に執行機関が多数ある。この仕組みを「執行機関の多元性」という。こうしたことから,首長以外の一部の執行機関(行政委員会)に規則制定権が認められている。教育委員会規則,公安委員会規則などがそれである。法律に制定根拠がある場合,国の法令や条例に反しない範囲で,こうした規則を定めることができる。

3.3 法律と条例との関係

(1) 「法律の範囲内」の意味

法律と条例との関係はシンプルなようで複雑だ。

憲法94条には「法律の範囲内で条例を制定することができる」とある。つまり,条例注6)は法律に反することはできない。ただ,条例などが法律の下位法令かといえば決してそうではない。今や地方分権の世の中,国と自治体は対等関係にある。条例が法律の範囲内かどうかは,その法律の趣旨などをよく見極めて判断しなくてはならないのだ。例えば,法律と条例の規制対象が同じであっても,その規制目的が異なれば一般的に条例による規制は可能だろう。また,規制対象も目的も同じであっても,法律による規制が全国一律を想定するものでなければ,条例によるさらに厳しい規制も可能となる。近頃はこうした条例との関係をあらかじめ法律の規定上,整理している場合も多い。しかし,こうした規定がない場合にはやはり,ひとつひとつ判断するしかない。

(2) 読み手の心構え

こうしたことを踏まえて条例の読み手に求められることは,条例に規定されていることが法律との関係でどのような意味を持つかということを意識することだ。法律が定める基準や手続きなどを具体化したものか,それとも法律の定める基準や手続きにプラスアルファするものか。ただ,正直いって,この見極めはなかなか難しい。規制条例などである場合には,関連法律はあるのか,それと条例との関係はどうなっているのか,自治体の担当課に尋ねてみるのが早いかもしれない。

4. 法令でないもの

さて,法令のように見えて,法令でないものをいくつか説明しておこう。国,自治体に共通するものとして読み進めてほしい。

(1) 要綱・要領

まず,要綱や要領がある。これらは,公務員の事務処理上のマニュアルだと思えばよい。

(2) 通達・通知

法令の解釈や運用の留意点などの内容が盛られるのが通達だ。通達も行政内部に向けられたものであり,命令的な要素が加わる。要綱のようなものも重要性が高い場合には通達という形で出されることも多い。例えば,「○○実施要綱(平成24年××通達第○○号)」とあれば,それは通達化された要綱であることを示している。

また,通達に似たものに通知がある。通知は,通達の出せない相手に対して「従ってほしい」という気持ちを込めて出すものといえる。国が自治体に出したり,所管省庁が業界団体に出したりと,その利用場面はさまざまである。

(3) 告示

その内容を公にしたものを告示という。要綱などについてもそれを国民(住民)に知らしめる必要がある場合には告示化する。ただし,法律に告示の根拠がある場合には,単なる「お知らせ」でなく政省令のような役割を果たすこともあるので注意が必要だ。

(4) ガイドライン・指針

ガイドライン,指針という言葉もよく使われるが,いずれも「基準」とか「方向性を示すもの」というような意味でしかない。そのため,誰に向けられたものか,どんな性格のものか(法律や条例の規定を受けて定められたものか,通達や告示化されたものかなど)を見極める必要がある。

表2 法令でないもののまとめ

本文の注
注1)  内閣府の場合の「府令」も含めて,以下「省令」ということにする。

注2)  省令の場合には,政令の規定をさらに具体化したり,実施するために定められる場合もある。

注3)  政令や省令など行政が定めた法令のことを合わせて「命令」という場合がある。

注4)  例えば,「エコツーリズム推進法施行規則(平成20年文部科学省・農林水産省・国土交通省・環境省令第1号)がある。

注5)  条例と規則の内容がぶつかり合う場面では,より民主的とされる条例が優先される。

注6)  この条例には,文字通りの条例ばかりでなく,首長の定める規則や行政委員会の定める規則も含まれていると解釈されている。

注7)  行政手続法上,特に,許認可の基準を定めたものを「審査基準」と,不利益処分の基準を定めたものを「処分基準」,行政指導の基準を「行政指導指針」と呼んでいる。

 
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