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新興地域の統計事情 第5回 インドネシア
高橋 宗生
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2013 年 56 巻 1 号 p. 43-48

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1. はじめに

本稿では,インドネシアの統計行政を統括する中央統計庁(Badan Pusat Statistik)の出版物とWebサイトを中心に,インドネシアの主要な統計資料を紹介したい。

2. インドネシアの統計行政の特質

オランダによる植民地統治が長く続いたインドネシアでは,独立以降1960年に至るまで,統計に関する法律は1934年のオランダ語の法律「統計令」(Statistiek Ordonnantie 1934)を基にしていた注1)。この法律が1960年に改正された後,スハルト政権末期の1997年に再度改正された。さらにその2年後の1999年には,統計事業の詳細な実施規約を定めた政令が公布されている。統計行政を司る機関名もオランダ語名である「中央統計事務所」(Centraal Kantoor Voor de Statistiek)から,インドネシア語名「同」(Kantor Pusat Statistik),「中央統計局」(Biro Pusat Statistik),さらには現在の「中央統計庁」(Badan Pusat Statistik: BPS)と移り変わった。

同国の統計行政組織は,首都ジャカルタのBPSから33州(provinsi),497県・市(kabupaten/kota),6,793郡(kecamatan)注2)へと垂直的に統治する中央集権的構造に特質がある。州と県・市には支部が設置され,郡には1名の統計官が配置されている。また,BPSはどの省にも属さず,大統領直轄の組織になっている。スハルト政権崩壊後,急速な地方分権化が進行中であるにも関わらず,BPSでは上意下達の組織構造が長年維持されてきた。

一方,省庁の中には政策立案のために統計調査を行う部署を持つところも多く,BPSとの間で調整と協力がなされている。現在施行中の1997年の統計法にはBPSの強い権限を記した条文が多数盛り込まれている。第35条を一例として挙げると,各省庁は実施した調査結果注3)をBPSに報告する義務を持ち,違反した場合には,禁錮刑や罰金刑を科せられる。

次に,BPSの組織についてごく簡単に見ていきたい。まず,BPS長官は大統領に責任を持ち,1名の官房長に加えて,5名の副長官と監事長の補佐を受ける。5名の副長官が管轄する分野は統計方法・情報,社会統計,生産統計,流通・サービス統計,統計計算・分析の5部門で,それぞれ3つの部を率いる。監事長は全国を3分して監査する3名の監事を配下に持つ。長官は2種類の教育機関(教育・訓練センターと統計学専門大学)も統括している。

3. 統計資料の概要

インドネシアでは1960年代より,人口,農業,経済を対象にした3種類のセンサスが実施されている。それに加えて,特定のテーマに関する標本調査(サーベイ:survei)も実施される。10年おきに行われるセンサスと異なり,サーベイは間隔の空け方にばらつきがある。BPSの冊子体の統計書のなかでは,このセンサスとサーベイの調査結果が最も重要で,主題別統計書の基礎となるものである。

一方,BPS(http://www.bps.go.id/)は統計資料のWebサイト上での公開にも力を入れており,最新の統計資料はインターネット上でその大部分が読めるようになった。現状ではWebサイト上の統計資料は,タイトルのABC順に掲載されていない場合が多いので,探す手順は以下のようになる。Webサイト上でまず「BPS出版物」(publikasi BPS)を選ぶ。次に出版年が2011年か2012年かを選択し,「キーワード」(kata kunci)欄にタイトルに使われた言葉を入力して検索する。該当する統計書が現れたら,タイトルをクリックして閲覧する。収録されている統計書の大半はインドネシア語・英語で項目が併記されている。また,BPS州支部が出す統計書もほぼ同じ方法で閲覧できる。URLは表1のとおりである。

以下,主要な統計資料をセンサス資料,総合統計,主題別統計に分けて見ていきたい。

表1 中央統計庁州支部のポータルサイト
州名 URL
アチェ州 http://aceh.bps.go.id/
北スマトラ州 http://sumut.bps.go.id/
西スマトラ州 http://sumbar.bps.go.id/
リアウ州 http://riau.bps.go.id/
リアウ群島州 http://kepri.bps.go.id/
ジャンビ州 http://jambi.bps.go.id/
南スマトラ州 http://sumsel.bps.go.id/
バンカ・ブリトゥン群島州 http://babel.bps.go.id/
ブンクル州 http://bengkulu.bps.go.id/
ランプン州 http://lampung.bps.go.id/
ジャカルタ首都特別州 http://jakarta.bps.go.id/
西ジャワ州 http://jabar.bps.go.id/
バンテン州 http://banten.bps.go.id/
中ジャワ州 http://jateng.bps.go.id/
ヨグヤカルタ特別州 http://yogyakarta.bps.go.id/
東ジャワ州 http://jatim.bps.go.id/
バリ州 http://bali.bps.go.id/
西ヌサトゥンガラ州 http://ntb.bps.go.id/
東ヌサトゥンガラ州 http://ntt.bps.go.id/
西カリマンタン州 http://kalbar.bps.go.id/
中カリマンタン州 http://kalteng.bps.go.id/
南カリマンタン州 http://kalsel.bps.go.id/
東カリマンタン州 http://kaltim.bps.go.id/
北スラウェシ州 http://sulut.bps.go.id/
ゴロンタロ州 http://gorontalo.bps.go.id/
中スラウェシ州 http://sulteng.bps.go.id/
南スラウェシ州 http://sulsel.bps.go.id/
西スラウェシ州 http://sulbar.bps.go.id/
東南スラウェシ州 http://sultra.bps.go.id/
マルク州 http://maluku.bps.go.id/
北マルク州 http://malut.bps.go.id/
パプア州 http://papua.bps.go.id/
西パプア州 http://irjabar.bps.go.id/

出典:筆者作成

3.1 センサス資料

(1)人口センサス

インドネシアの2010年人口センサスの結果では,同国の人口が2億3,764万1,326人になったと発表された。オランダ植民地期に実施された1930年人口センサスの値が6,072万7,233人であったから,80年で約4倍に膨らんだことになる。

1950年の単一共和国成立以降,人口センサス(sensus penduduk)はこれまで1961年,1971年,1980年,1990年,2000年,2010年と計6回実施された。人口,労働,国内移動,宗教,教育などを対象とし,1971年,1980年,1990年の各センサスでは,住居や住環境に関する標本調査も加わった。このほか,1976年,1985年,1995年,2005年に中間センサス(survei penduduk antar sensus)が行われている。直近の2010年センサスデータを見るにはBPSのWebサイト「2010年人口センサス結果」(hasil sensus penduduk 2010)をクリックする注4)。画面を英語に替え,“Region”または“Topic”を選択することで州別,主題別に閲覧が可能となる。

(2)農業センサス

農業に加えて林業,畜産業,養殖業,漁業も対象とする農業センサス(sensus pertanian)は,過去5回(1963,1973,1983,1993,2003年の各年)実施され,2013年センサスは2010年より準備が進められている。調査項目は細にわたり,農業従事世帯数,雇用形態,収入,関連施設数,所有する農地の面積,所有形態,肥料や殺虫剤の購入額などに及んでいる。当館では2003年農業センサス関連図書を45タイトル所蔵している。当館OPACのキーワード欄に「sensus pertanian 2003」と入力すればそれぞれの書誌情報を確認できる。

(3)経済センサス

農業を除く第2次・第3次産業分野を対象にする経済センサス(sensus ekonomi)は,これまでに3回(1986,1996,2006年の各年)実施された。このセンサスの特徴は,業種別事業所数,形態,ならびに従業員数を明らかにする点にある。2006年センサスでは,企業規模別の法人と非法人の数,ならびに株式会社,協同組合など法人の形態ごとの数が県・市レベルで発表されている。主要な出版物としては,業種を3つのグループに分け,全国33州の事業所を産業コード別に調査した「Hasil pendaftaran perusahaan/usaha=Establishment listing results」が出版されている。また,法人の業種別に県・市レベルでまとめた企業ダイレクトリーも全18タイトル出版された。

(4)その他のセンサス

上述した3種類のセンサスのほかに,工業センサスが1964年と1974~75年に,建設業に関するセンサスが1977年に実施されている。両者とも1980年代以降は経済センサスに引き継がれた。

3.2 総合統計

全国を対象とした総合統計年鑑としては「Statistik Indonesia=Statistical yearbook of Indonesia」が代表的で,最新の2012年版はBPSのWebサイトからタイトルをクリックすることで全文を閲覧できる。各州の総合統計は「州名+dalam angka(=州名+in figures)」と題して出版されている。両者ともに内容構成は共通しており,地理,行政,人口・労働,社会,農業,鉱工業,商業,運輸・通信・観光,金融・物価,家計,国民所得に関連する統計を収録する。各州の総合統計にはBPS州支部のポータルサイト(表1)からアクセスが可能である。

経済関連指標を調べる上で頻繁に利用される月刊統計誌としては,1970年から出版されている「Indikator ekonomi=Economic indicators」がある。内容は,物価指標,金融,銀行,投資,生産,国際収支・貿易,運輸,ホテル・観光,国民所得,人口の10主題に分かれている。バックナンバーはWebサイト上でも閲覧できる。例えば2012年4月号の場合は,以下のURLに接続する(http://www.bps.go.id/hasil_publikasi/ie_april_2012/index3.php?pub=indikator%20ekonomi%%20WEB-SITE:%20full%20textWeb)。

<コラム>インドネシアの母語別・民族別人口数

インドネシアの国語はマレー語を母体とするインドネシア語で,1945年の独立以降国語となった。民族(エスニック・グループ)の数が300とも400ともいわれる多民族国家インドネシアでは,家庭内で話す日常言語(母語)と民族名とが一致する場合が多い。オランダ植民地期末期の1930年に民族別人口数が調査され,多い順にジャワ人,スンダ人,マドゥラ人という結果になった。その後,50年の歳月を経,1980年人口センサスにおいて独立後最初の日常言語調査が実施されたが,国語を除く地方語の使用割合は上位3位までは同じで,ジャワ語,スンダ語,マドゥラ語の順であった。一方において,国語であるインドネシア語の使用者が12%を超え,その日常言語としての普及に注目が集まった。

2000年人口センサスでは日常言語別の調査は行われず,民族名を答える調査に変更された。この調査においても,ジャワ人,スンダ人,マドゥラ人の順位は変わらなかったが,中国系住民の割合の少なさに疑問が投げかけられた。1930年センサスでは人口の2.03%を中国系住民が占めていたのに対し,2000年センサスでは0.86%と激減していた。30年以上続いたスハルト政権期の徹底した民族同化政策や,政権末期に頻発した反華人暴動などの影響で,自らの帰属する民族名を他に求めた可能性を指摘する研究者もいる。

3.3 主題別統計

(1)産業統計

農業に関しては,米,雑穀,プランテーション作物,野菜,果物,畜産品,海産品など種類別に多くの統計資料が出版されている。第2次産業では,規模別に分けた各種製造業統計,鉱業・エネルギー統計,建設業統計などが出版されている。国際標準産業分類(ISIC)の項目ごとの生産高および生産額を知るには毎年出版される「Statistik industri besar dan sedang: produksi=Large and medium industrial statistics: production」が便利である。最新2010年版のURLは以下のとおりである(http://www.bps.go.id/hasil_publikasi/stat_ibs_2010_produksi/index3.php?pub=Publikasi%20Industri%20Besar%20dan_Sedang%20Produksi%20(Bagian%20B)%20Tahun_2010)。

(2)貿易統計

世界税関機構と国際連合の各商品分類コード(HSとSITC)別に国ごとの輸出入額を示した統計データがBPSの月刊誌「Buletin statistik perdagangan luar negeri: ekspor=Foreign trade statistical bulletin: exportとBuletin statistik perdagangan luar negeri: impor=Foreign trade statistical bulletin: import」に掲載されている。Webサイト上でも閲覧可能で,2012年2月の輸入統計の場合は以下のURLに接続する(http://www.bps.go.id/hasil_publikasi/buletin_impor_feb_2012/index3.php?pub=buletin%20imporfebruari%202012)。

(3)家計支出統計

BPSは1963年以降,「社会経済調査」(Survei Sosial Ekonomi Nasional)と呼ばれる世帯消費に焦点をあてた標本調査を実施してきた。Susenasと通称されるこの調査では,世帯主の就業状況,家族構成,最終学歴,住宅,家計消費などに関するアンケート調査が行われており,調査結果は教育,保健,家族計画などと貧困との関連性を探るさまざまな研究に利用されている。当館では,レファレンスでも多用する関連統計資料として,州別家計支出統計「Pengeluaran untuk konsumsi penduduk Indonesia per provinsi=Expenditure for consumption of Indonesia per province」を1984年版から2011年版まで所蔵している。このほか,州都とそれ以外の主要都市に対象を絞って実施される家計調査(Survei biaya hidup=Cost of living survey)関連統計書も所蔵している。第1回目の1977年には17州都が対象だったが,その後徐々に増え,第5回目の2007年には33州都すべてと他の主要都市33都市を対象にした。

(4)金融・財政統計

金融部門では,中央銀行であるインドネシア銀行(http://www.bi.go.id/)が発行する月刊誌「Statistik ekonomi dan keuangan Indonesia=Indonesian financial statistics」が充実している。インドネシア語タイトルの頭文字を取ってSEKIと通称され,2009年11月以降はCD-ROMで発行されるようになった。内容は,金融・銀行,融資業,通貨・資本市場,国家財政,国際収支,対外債務,投資,GDP,物価指数,国際経済金融指標の10章からなる。同誌はレファレンスでも頻繁に使うツールで,最近では「1985年から直近までの四半期ごとの外国投資認可額」,「インドネシアの過去10年間の国民所得額」などの問い合わせで活用した。Webサイト上でも閲覧可能である(http://www.bi.go.id/web/en/Statistik/Statistik%20Ekonomi%20dan%20Keuangan%20Indonesia/Dokumentasi%20Histori)。

地方自治体の財政状況に関する統計としては州別財政統計「Statistik keuangan pemerintahan provinsi=Financial statistics of province governance」が代表的である。当館では,継続前誌も含めて1973年版から2010年版まで所蔵している。最新版である2011年版は以下のWebサイトで閲覧できる(http://www.bps.go.id/hasil_publikasi/stat_keu_prov_2008_2011/index3.php?pub=Statistik%20Keuangan%20Pemerintah%20Provinsi)。

(5)社会統計

この分野の統計は,教育,環境,犯罪など,社会の諸側面を扱っており,担当関係省庁やNGOと協力してまとめた統計が多い。そのほかのテーマとしては,児童,青少年,女性,社会・文化,保健,福祉などがあり,Susenasの調査結果が活用されている。当館所蔵の社会統計は,OPACの請求記号欄に「INDNE/9*注5)と入力して検索すれば全タイトルが明らかになる。

4. おわりに

最近の急速なIT技術の発展により,Webサイト上の統計やCD-ROMなどデジタル資料を通したインドネシア関連統計の入手が主流化しつつある。一方において,1990年代以前の統計は冊子体が中心であり,その価値はほとんど減少していない。特に古い時期にさかのぼって時系列で統計データを収集する場合は,その両方に注目する必要がある。アジア経済研究所は,産業連関表の作成を筆頭に,長年にわたってBPSと共同研究プロジェクトを実施してきた。当館はその間収集してきた貴重な統計を多数所蔵しているので,ぜひ利用していだだきたいと思っている。

本文の注
注1)  この4年前の1930年に国勢調査に関する法律(Volkstelling Ordonnantie)が公布された。同法は1960年に改正された後,1997年に「統計に関する1997年法律第16号」に吸収された。

注2)  各数値は2012年6月30日時点のもの。州,県・市,郡ともに増加の傾向にあり,以降同年の年末までに1州,4県が新設された。

注3)  概要,調査地,対象者,回答者数,実施期間,統計方法,実施者の名前と住所,調査結果概要を内容とする。

注4)  “Warning”が出たら“Continue Anyway”をクリックする。

注5)  当館の統計資料は国名略号(INDNE=インドネシア)・統計主題分類番号(9=社会(教育,保健,観光,出入国)・その他)・年号順に配架している。統計主題分類番号の一覧は,泉沢久美子. アジア経済研究所図書館所蔵の統計資料コレクションと開発途上地域の統計事情:連載「新興地域の統計事情」を始めるにあたって. 情報管理. 2012, vol.55, no.8, p.575.にある。

参考資料

  1. a)   Undang-undang Negara Republik Indonesia Nomor 6 Tahun 1960 tentang Sensus(国勢調査に関する1960年インドネシア共和国法律第6号).
  2. b)   Undang-undang Negara Republik Indonesia Nomor 7 Tahun 1960 tentang Statistik(統計に関する1960年インドネシア共和国法律第7号).
  3. c)   Undang-undang Negara Republik Indonesia Nomor 16 Tahun 1997 tentang Statistik(統計に関する1997年インドネシア共和国法律第16号).
  4. d)   Peraturan Pemerintah Republik Indonesia Nomor 51 Tahun 1999 tentang Penyelenggaraan Statistik(統計事業に関する1999年インドネシア共和国政令第51号).

 
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