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化学情報協会におけるインフォプロ育成
原 修
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2014 年 56 巻 10 号 p. 669-676

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著者抄録

化学情報協会(JAICI)は,30年以上にわたるSTN,SciFinderの販売・ユーザーサポート,CAの抄録・索引作成業務に加えて特許庁登録調査機関として特許審査のための先行技術調査をほぼ10年間行っており,多くのインフォプロを育成してきた。近年,特許を主体とする一般向け調査・検索サービスを開始するにあたり総合的なインフォプロを育てることになった。その背景と過程を化学および化学関連分野のインフォプロ育成の一例として紹介する。

1. はじめに

1960年代後半,当時の爆発的な情報量増大に対処するため,米国化学会(ACS: American Chemical Society)は日本を含む先進国(イギリス,フランス,ドイツ)に対して,抄録誌Chemical Abstracts(CA)の情報入力に関する協力要請を行った。1968年に日本化学会がACSから協力要請を受け,当時すでに設立されていた旧日本科学技術情報センター(JICST,現(独)科学技術振興機構の情報サービス部門)とは別に,分野ごとに専門情報センターを設立しようという当時の機運も反映して,1971年に化学情報協議会が任意団体として設立された。その後1975年に,当時の文部省,総理府(科学技術庁)の認可を受け,社団法人組織となり名称を化学情報協会(JAICI)に改めた。近年実施された公益法人制度改革に基づき,2011年に一般社団法人に移行した。

当協会のミッションは,「化学情報を通して日本の,そして世界の科学技術情報の発展に貢献する」ことであり,その実現のために現在1の事業を,それぞれの緊密な協力関係を保ちながら推進している。各事業の協力関係については1をご覧いただきたい。

表1 化学情報協会の主要事業の業務内容
1. CASの全製品・サービスの代理店業務およびSTN(CAS,FIZ-K)の代理店業務
(1) 科学技術分野の多数のデータベースをオンラインで提供するSTNの拡販とテクニカルサポート
(2) 化学およびその周辺情報をエンドユーザー向けにWebで提供するSciFinderの拡販とテクニカルサポート
(3) CASのその他製品・サービスの拡販とテクニカルサポート
(4) その他(FIZ AutoDocの原報複写サービス,CAS登録番号取得(登録サービス),CASの市販化学製品カタログデータベースCHECATSへの情報搭載(無料)の受付業務など)
2. CASデータベースに入力する情報の作成業務
(1) CASの中核データベースであるCA(CAplus)ファイルの,日本語特許・文献の英文抄録,索引の作成
(2) 特許記載のMarkush構造(一般式表記の化学構造)を収録するMARPATファイル用データの作成
(3) 日本登録特許の英文引用情報の作成
3. CAS以外の化学分野のファクトデータベースや関連ソフトウェアの販売業務(下記は主要製品)
(1) 有機化合物・有機金属化合物,無機化合物,金属・合金・金属間化合物の結晶構造データベース
(2) タンパク質-リガンドのドッキングプログラムなどのソフトウェア
(3) 化合物大辞典,天然物辞典等のDVD,Web版
4. 特許庁登録調査機関として特許審査のための先行技術調査業務
当協会は2005年に上記機関として登録され,39区分中の区分30(有機化合物)の先行技術調査業務を実施
区分30は医薬,農薬,電子材料等の低分子有機化合物の物質や製造方法をクレームする特許が主体
そのため,当区分の先行技術調査にはSTNのREGISTRYファイルの化学構造検索が不可欠
5. 一般向けの特許を主体とする調査・検索サービス
2011年にスタートした,当協会の最も新しいサービス
STNおよびJP-NET,HYPATi,PatBase等の内外の特許データベースやJDreamⅢ等の文献データベースを利用
6. 化学情報に関する研究開発
化学分野に特化した機械翻訳用辞書の開発など

CAS(Chemical Abstracts Service):米国化学会(ACS)の情報サービス部門

FIZ-K(FIZ-Karlsruhe):ドイツの半官半民の情報サービス機関で,STNをCASと共同運営

図1 化学情報協会の主要事業間の協力関係

2. インフォプロ育成の経緯

当協会は,STNの前身であるCAS Onlineから数えて30年以上にわたりSTNのユーザーサポート業務を行ってきた。現在,相当数の情報検索応用能力試験2級合格者,数名の1級合格者もおり,STNやSciFinderのテクニカルサポート業務(1-1.)を担当する多くのインフォプロを抱えている。また,特許庁向け調査業務(1-4.)のために,多くの特許調査のプロも育成した。一方,化学分野の調査に不可欠なCA(またはCAplus)ファイルを使う際には,この索引に精通していることが大きな強みになるが,当協会では30年以上にわたりCAの英文抄録・索引作成業務(1-2.)を行っており,多数のCA索引のプロが育っている。

以上の状況のもと,2011年に1-5.の新規サービスを開始するにあたり,特許を主体に化学を中心とする広い分野の調査依頼に応えられる総合的な能力をもつインフォプロの育成が必要になった。

3. 化学分野のインフォプロの必要条件

新規サービスを担当するスタッフに求められる条件を確認するために,特許調査を中核とする化学分野の総合的なインフォプロに必須と思われる条件を2にまとめた。なお,企業の特許調査担当者にとって一般的に必要とされる知識とスキルについてはほかの文献1)2)を参照されたい。

表2 化学分野のインフォプロの必要条件
1. 化学および化学関連分野のバックグラウンドを有すること
(有機化学関連分野が望ましい)
2. 化学を中心とする幅広い科学技術知識を有すること
3. STNのほぼすべてのファイル(データベース)を使いこなせること
4. STNのあらゆる機能および料金体系に精通していること
5. 特にCAファイルの索引に精通していること
6. 特許調査に必要な範囲の特許法に精通していること
7. 日本特許の調査に不可欠なFI,F-ターム,および各種特許分類に精通していること
8. さまざまなタイプの特許調査に実戦的に対応できること
9. 特許が読め,特許・論文のスクリーニングができること

多くのメーカーでは理系出身ではないインフォプロが活躍されているが,当協会では実務を通して化学の基礎的知識を身につけることは困難であるため,化学系出身者であることを第1の条件とした。なお,一般的にインフォプロに求められる資質(緻密さ,臨機応変能力,コミュニケーション能力など)については,本稿では触れないことにする。

2の条件のほとんどは,1-1.,2.,4.の業務経験を通して獲得できることから,これら各業務のプロのノウハウを統合することによって新規サービスを実現できると考えた。

そのため,これらを担当する部署から適切なスタッフを集め,お互いのノウハウ共有に努めるとともに,後述のとおり不足するスキル・知識については準備期間内に手厚く実践的なトレーニングを実施することによって新規サービスを開始することができた。本稿では,これら1-1.,2.,4.の3業務の内容と新人トレーニング,ならびに新規サービス開始に向けて実施した追加のトレーニングを紹介する。

4. STNのテクニカルサポート業務

化学および化学関連分野の調査は,CAS(Chemical Abstracts Service)のデータベース(DB)を抜きに語ることはできない。そのため,新規サービスを担当するスタッフは,CASのDBとその他の多数の科学技術分野のDBを強力な検索機能とともに提供するSTNの機能と各DBに精通し,かつ料金体系を十分理解していることが不可欠である。

STNが提供する主要DBを分野別に3にまとめた。化学分野に限っても,特許を含む文献検索,化学構造検索と辞書検索(化学構造以外のデータ(名称,分子式など)を使った検索)を駆使する化合物検索,有機化学反応検索,化学物質の物性・毒性・法規制検索,タンパク質・核酸の配列検索,特許のMarkush構造検索などがあり,これらを使いこなすためにはそれぞれに特有の検索方法を習得しなければならない。また,化学とは表裏一体の関係にある医薬,農薬,食品,化粧品などの分野のDBの検索にも精通する必要がある。

表3 STNが提供する主要データベース
1. 化学および化学関連分野の文献データベース
CA,CAplus,ANABSTR(Analytical Abstracts),CEABA-VTB
2. 化学物質辞書・物性,タンパク質・核酸配列,化学製品のデータベース
REGISTRY,ReaxysFile(旧Beilsteinなど),MERCK,ICSD,DGENE,PCTGEN,USGENE,GENBANK,
NAPRALERT,CROPR,CHEMCATSなど
3. 有機化学反応データベース
CASREACT,ReaxysFile(旧Beilsteinなど),DJSMONLINEなど
4. 化学物質規制・安全性・毒性データベース
CHEMLIST,RTECS,TOXCENTER,MSDS-OHS,CHEMSAFE,CSNBなど
5. 医学,薬学,農学,食品を含むライフサイエンス分野の文献データベース
MEDLINE,EMBASE,DDFU,IPA,ADISNEWS,ADISCTI,BIOSIS,ESBIOBASE,BIOTECABS,
BIOTECHNO,AGRICOLA,CABA,CROPU,FSTA,KOSMETなど
6. ポリマー・紙・金属・その他材料,工学・物理・数学,石油・エネルギー,その他の分野の文献データベース
RAPRA,APOLLIT,WSCA,PIRA,METADEX,WELDASEARCH,COMPENDEX,INSPEC,INSPHYS,
COMPUSCIENCE,TULSA,EnCompPat,AEROSPACE,GeoRef,TRIBO,INFODATAなど
7. 科学技術全般の文献,学位論文データベース
SciSearch,PASCAL,PQSciTech,DISSABS
8. 特許データベース
WPI(WPINDEX,WPIDS,WPIX),INPADOC(INPADOCDB,INPAFAMDB),IFIALL,
CA,CAplus,MARPAT,JAPIO,各国・地域の特許全文ファイル(日本,ヨーロッパ,PCT,米国,中国,
韓国,ドイツ,イギリス,フランス,カナダ,ロシア,インド),DPCI,IMSPATENTS,LITALERTなど

4.1 業務内容

STNのテクニカルサポート業務は,情報事業部テクニカルグループが担当している。同グループの主要業務は4のとおりである。現在,東京・大阪で10種類を超えるSTN講習会を開催するほか,特許や医薬などの大規模セミナー,および夏冬に開催する各種リフレッシュ・おさらいセミナー,さらにはさまざまなテーマのインターネットセミナーを定期的に開催している。また,近年ユーザーの要望に合わせた出張講習会も増加している。これらの講習会やセミナーを開催するためには,講師業務だけではなくテキスト作成にも膨大なエネルギーを要するが,これらのすべてを当協会スタッフが独自に作成している。

表4 情報事業部テクニカルグループの主要業務
1. STNの各種講習会の講師
2. STN,SciFinderのヘルプデスク
3. STNの各種講習会テキスト作成
4. STNユーザーミーティング,各種セミナーの資料作成
5. ポケットガイド等のSTNの各種資料の作成
6. STNews,STNewsline等の記事執筆と発行
7. ホームページ経由のSTNの各種広報

以上のほか,各種ポケットガイド,STN検索カード,STNデータベースカタログ,各DBのサマリーシートなどの資料作成・改訂なども担当している。

以上の業務を長年担当することによって,2-2.,3.,4.の条件を十分クリアできるスタッフが育つことになる。2-5.の条件である,CAの索引についてもある程度の知識を身につけることができる。また,近年企業におけるSTNの利用が知的財産部にシフトしていることから,2-6.,7.の条件である特許調査に必要な知識を習得する必要性が以前にも増して強くなっている。

4.2 新人トレーニング

新人がテクニカルグループに配属されると,ほぼ4か月後のSTN講習会講師デビューをターゲットとして特訓が開始される。まずは,グループリーダーとベテランスタッフによる,当グループの業務の概要説明を受けつつ5記載のトレーニングを開始する。その後,講習会のレパートリーを増やしつつテキストの改訂業務も行い,またヘルプデスクでの幅広い質問に答えることによってSTNのプロに育っていくことになる。

表5 情報事業部テクニカルグループの新人トレーニングの概要
1. 講習会関係
・STNユーザー向け各種講習会に出席
・講師をするつもりで徹底的に自習
・講習会講師スタート【4か月目~】
2. 資料作成関係
・STNサマリーシートの改訂版作成(翻訳)
・各種資料のファイリング
3. ヘルプデスク関係
・メールで受けた質問への回答(下書き)作成【3か月目~】
 先輩スタッフによるチェック後に送信
・電話による質問への回答【4か月目~】
 先輩スタッフからの助けを借りながら回答

その後以下の業務を通したOJTによって,スキルと知識の幅を広げることになる。

  • (1)日本知的財産協会(JIPA)や同業他社の各種セミナーに順次出席
  • (2)情報科学技術協会(INFOSTA)主催の各種セミナーに交替で出席
  • (3)同協会の日本オンライン情報検索ユーザ会(OUG)の各種分科会への参加
  • (4)下記の外部団体の活動に会員としてあるいはオブザーバーとして参加

  • •   日本PLASDOC協議会およびPLASDOCオンライン研究会
  • •   日本FARMDOC協議会
  • •   日本アグケム情報協議会
  • •   日本製薬情報協議会
  • •   Patent Information Users Group(PIUG,米国)

  • (5)講習会・セミナーなどのテキスト作成・改訂と講師

  • •   各種STN講習会
  • •   各種セミナー(特許DBセミナー,医薬DBセミナー,リフレッシュセミナー,おさらいセミナーなど)
  • •   インターネットセミナー
  • •   STNユーザーミーティング

  • (6)STNews,STNewslineなどの記事執筆
  • (7)部内各種勉強会の実施

5. CAの抄録・索引作成業務

1907年に発刊された抄録誌Chemical Abstracts(CA)は,2009年に百年を超える紙媒体としての歴史に幕を閉じたが,まったく同じ情報を提供するSTNのCAファイル,さらに多くのプラスアルファの情報を収録するCAplusファイルが,STN,SciFinderで提供されている。

当協会では,1982年から日本語特許・文献のCA抄録・索引の作成業務を行っており,CA収録全分野(バイオ,有機化学,高分子,応用化学,物理・無機・分析化学)の広い範囲をカバーしている。2012年からは,STNのMARPATファイル用の,日本語特許のMarkush構造作成も開始した。

5.1 業務内容

CAの抄録は,原報を読むべきかどうかの判断材料を提供することを目的としている。当業務担当者(以下アナリスト)は原報を熟読し,十分な内容理解のもとに抄録に盛り込むべき情報を判断し,簡潔な英文で抄録を作成することが要求される。そのため,化学の幅広い知識と英語能力が必要とされる。

CAの索引は,化学物質索引とそれ以外の索引(科学技術用語からなる統制語による索引,物質の総称名を含む)の2種類があり,CAに索引された全化学物質がREGISTRYファイルに収録されている。CAではあらかじめ技術分野別に索引方針が詳細に定められており,アナリストはそれにしたがって索引作成作業を行う。

CAファイルの検索では,一般に統制語と非統制語の両方を使うケースがほとんどではあるが,適切な統制語を使わずに検索すると多くの検索漏れとノイズが発生することになる。CAの索引を熟知したアナリスト経験者が,適切な統制語と非統制語を組み合わせることによって,漏れのない効率的な検索が可能となる。また,後述のとおり新人アナリストは最初に高分子分野を担当することになっているため,REGISTRYファイルの検索でもっとも難しいとされるポリマー検索に強いスタッフが育つことにもなる。

高分子分野を3年程度経験したのち他分野を担当するのが一般的であり,キャリアを積むにつれて幅広い科学技術知識が身につく。また,日々特許を読むことになるので,特許調査に不可欠な特許のスクリーニング力も自然に身につくことになる。以上のとおり,CA索引に熟知したアナリストの経験がCA/REGISTRYファイル検索の極めて強い武器となる。

5.2 新人トレーニング

現在,CAの有機化学分野の特許,文献は多くないが,アナリストのバックグラウンドとして有機化学の知識を有することを採用条件にしている。そのような条件に合致した新人に対して,おおむね6のスケジュールにしたがって新人トレーニングを実施する。最初にポリマー分野の特許を対象とするのは,ポリマー分野の索引が他分野に比べて難易度が高いこと,また他分野でもポリマーは頻繁に使われるため,将来他分野を担当する場合にも役立つためである。

表6 アナリストの新人トレーニングの概要
1. 1か月目:2か月目からの抄録・索引作成業務開始の準備
・STN基礎的講習会に出席
・同業務を行うためのCASのツール類に慣れる
・CA抄録・索引のマニュアルを読んで基本方針を理解する
・先輩アナリストの索引入力の補助業務を行う
2. 2~7か月目:抄録・索引作成の実務訓練
・ポリマー分野の特許の抄録・索引作成
 当協会の先輩アナリストが全件チェックし1対1で指導
3. 8~10か月目:
・ポリマー分野の特許の抄録・索引作成
 CASアナリストによる全件チェック

ほぼ10か月でCASアナリストの承認を得て,独り立ちすることになる。ただし,抄録・索引作成のプロとしてのトレーニングはここからが始まりで,質量ともに一人前のアナリストになるためには3年程度を要する。

その後は,英語のスキルをあげつつ担当分野を広げ,新しい技術を理解し,CASからのフィードバックに対応し,また部内勉強会の講師役などを務めながら,ベテランアナリストに成長していく。その過程で,中堅アナリストはトレーナー役として新人アナリストの指導を行い,実務上は勿論精神的にも大きく成長することになる。また,不定期ながら特定分野のCASでのトレーニングや当協会で行うCASアナリストによる実践的なトレーニングなども行う。

6. 特許庁向け調査業務

当協会では,以上紹介した,30年以上にわたるSTNの提供とCAファイルの抄録・索引作成業務により,STNの検索とCA索引に強い多くのプロが育っている。一方,これらの経験に特許調査のノウハウが加われば,総合的なインフォプロが育つことになり,特許調査を主体とする一般向け調査・検索サービスの体制が整うことになる。

2004年の法改正によって,特許庁の新しい登録調査機関制度が始まり,従来の指定調査機関以外でも特許審査のための先行技術調査業務が行えるようになった。当時の特許庁技監からの呼び掛けもあり,当協会はSTNのREGISTRY,CA/CAplusファイルを使った化学構造検索を必須とする有機化合物分野(区分30,1-4.を参照)の調査を行う登録調査機関として参入した。

登録調査機関として承認されるためには,INPIT((独)工業所有権情報・研修館)の調査業務実施者育成研修に出席し,修了認定された調査業務実施者を1分野(区分)当たり10名以上そろえることが必須である。2005年早々に開催された第1回研修で,当協会は最低限の10名を修了させることができ,同年4月から同調査業務を開始した。その後も調査業務実施者を増やし,現在は20名を超えるスタッフが調査業務を行っている。

現在,調査業務実施者として先行技術調査の実務を開始するまでに5か月間のトレーニングを行っており,7のスケジュールにしたがって実施される。なお,区分30の調査業務実施者を目指す場合は,INPITの研修受講前にSTN検索に習熟していることが条件である。

表7 特許庁先行技術調査のための新人トレーニングの概要
1. 1か月目:STNコマンド,REGISTRY,CAplusファイルの使い方習得
・STNのコマンド,REGISTRY(化学構造検索),CAplusファイル講習会に出席
・テキストの練習問題による化学構造検索演習と講師によるフィードバック
・簡単なクレームの特許を用いた化合物の新規性検索練習と講師によるフィードバック
2. 2か月目:検索の実践とExcelを使った報告書作成練習
・実際の特許を課題とした先行技術調査を行い,Excelによる報告書を作成
・報告書に基づくINPIT研修の面接練習
・特許法,FI・F-タームの基礎に関する講義(INPIT研修の準備程度)
3. 3,4か月目:INPITの調査業務実施者育成研修に出席
概略以下の内容で構成される(詳細についてはINPITホームページを参照)
・特許法・審査基準等の特許実務に関する座学
・特許分類(FIなど),Fターム,検索ロジックの立て方等の検索実務に関する座学
・庁内特許検索システムの座学と実習
・課題特許による検索と検索報告書の作成
・特許法と検索実務の習得を確認する筆記試験,化学の基礎知識を確認する筆記試験(区分30のみ)
・報告書作成・説明能力等を判定する2度の口頭試問(面接)
・すべての筆記試験と口頭試問に一定以上の得点を得ることによって修了認定
4. 5か月目:REGISTRY,CAplus以外のSTNファイルの利用法習得と調査業務を行うための最終トレーニング
・調査業務に必要なSTNの応用機能および構造検索のスクリーン利用法
・CASREACT(有機化学反応),MARPAT(特許のMarkush構造)ファイル利用法
・医学・薬学分野のファイル(MEDLINE,EMBASE,BIOSIS)利用法

当先行技術調査を数年間経験することによって,先行技術調査のプロが育つことになる。当業務を通して,REGISTRY,CAファイルを核とするSTN検索,FIやF-タームおよび特許のテキスト全文を使った日本特許の検索,特許のスクリーニング,特許の新規性・進歩性,審査基準,調査報告書の作成などに精通することができる。

7. 総仕上げ:調査のプロを目指して

1-5.の調査・検索サービスを開始するにあたり,1-1.,2.,4.の担当部署からベテランスタッフを選び2010年初頭に新サービス開始に向けて準備室を設置した。あらゆる機会を通じて,お互いが持っている知識の共有をはかるとともに,さらに以下のトレーニングを実施した。

7.1 特許調査に関するトレーニング

STNのプロおよびCA索引のプロであるスタッフは,まずは特許調査の基礎をかためる機会として,INPITの合意を得て前記の調査業務実施者育成研修に出席し,修了認定を受けた。CA索引のプロについては,STNに関する知識が限定的であるため,7の研修出席前後のSTNのトレーニングも実施した。

7.2 全スタッフに対する仕上げのトレーニング

以上のトレーニングの後に,全スタッフに対して以下のトレーニングを実施した。

(1) 日本特許DB,および世界特許DB利用のためのトレーニング

特許調査には日本特許DBの検索と特許公報の入手が不可欠であるため,早々に日本特許DBサービス会社の選定を行い,契約した。DBサービス会社スタッフによる社内セミナーを実施するとともに,後記のとおりこれを利用した実践的トレーニングも実施した。また,その後世界特許のDBサービスの契約も行い,同様のトレーニングを実施した。

(2) 文献DB検索のトレーニング

特許調査においても,侵害防止調査以外の先行技術調査,無効化資料調査,特許性調査,技術動向調査では,非特許文献の調査も必要となる。そのため,JDreamⅡ(現在はⅢ)などの主に文献調査を主体にしたDBサービスについても,各種セミナーに出席しレパートリーを広げるべくトレーニングを行った。

(3) 各種特許調査セミナーへの出席

JIPAやINFOSTAおよび特許DBサービス会社が主催する特許調査セミナーに出席した。基礎的なものから斯界の著名人を講師とするものまでさまざまなセミナーが開催されており,特許調査の基本からより高度なノウハウまでを貪欲に吸収することができた。

(4) 内部セミナー

企業から受けるさまざまな種類の特許調査依頼(先行技術調査,特許性調査,侵害防止調査,無効化資料調査,技術動向調査など)に対応するためには,それぞれに応じた実戦的な調査能力を身につける必要がある。そのため,特許調査に精通した某化学メーカーOBに講師役をお願いし,当協会内でセミナーを実施した。当セミナーは,ほぼ6か月間,隔週程度のペースで行い,座学とともに例題を用いた日本特許DBを利用した検索結果を持ち寄って検討し,各スタッフが持つノウハウを共有するとともに実戦的な調査能力を育成した。当セミナーによって,上記の特許調査の種類に応じた特徴を理解し,検索の際に留意すべき事項を身につけることができた。

以上の準備を終えたのち,外部より豊富な医薬開発経験を有し,かつ医薬DBに詳しいマネージャーを迎えて2011年春より,特許調査を主体とする新規調査・検索サービスを開始することができた。

その後,メーカーでの調査と当協会での特許庁向け調査業務経験を有し,かつほかの調査会社での特許調査業務も経験したスタッフが新たに加わり,より強力なチームに育ちつつある。受注した案件を内容に応じて複数のスタッフが共同で担当することによって,各スタッフが持つ知識と経験のシナジー効果を発揮しつつ,それらの共有化を進めている。スタートしたばかりの部署にとって各スタッフの知識の共有化は重要な課題であるため,受注量の波に耐えながら常時意識して共有化に努めている。今後は,メーカーでの特許調査経験者も増やしながら当協会の主要事業に育てていきたいと考えている。

8. おわりに

長年愛読していた,本誌のリレーエッセー「インフォプロってなんだ?」が残念ながら2012年をもって終了した。さまざまな分野のインフォプロによるエッセーおよび当シリーズ終了に際して実施された座談会3)から,多様なバックグラウンドを有する方々が多様なトレーニングと経験を通して立派なインフォプロに成長された様子がよくわかる。

拙文をお読みいただいておわかりの通り,当協会のインフォプロ育成環境は,世の中の大部分を占めるメーカーのそれとは大きく異なる。おそらく,昨今の状況から,メーカーのインフォプロの業務として,研究者・技術者が自ら行うエンドユーザー検索の体制整備や指導も大きな比重を占めていると思われる。

しかしながら,インフォプロに要求される条件は,メーカーでも当協会でも大きな違いはないと思われる。拙文がいささかなりとも皆様の自社におけるインフォプロ育成のご参考になれば幸いである。

参考文献
 
© 2014 Japan Science and Technology Agency
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