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図書館のこれまでとこれから
平山 陽菜
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2014 年 56 巻 11 号 p. 804-807

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ご縁があり,このコーナーを書かせていただくことになったとき,私は大学院を修了して社会人になったばかりでした。いわゆる“新卒”です。幼い頃に司書を目指し,図書館情報学を学ぶために上京し,念願かなって専門図書館に勤めることができました。そうして一息ついて,ふと立ち止まると,これから自分はどうすればよいのか途方に暮れるような気持ちになってしまったのです。

学業は進級し進学すればいつかは終えることができますが,就職は違います。数年どころか,勤め続けるのなら入社から退職まで40年も同じ場所で過ごすことになりますし,そこで何を目指すのかも人それぞれです。

思えば一番強く何かをしたいと思ったのは,司書になりたいと思ったときでした。それがかなって,ではこれから40年何をするのか。物心ついてから20年もたっていないのですから,40年で何ができるかなんて想像もつきません。就職してようやく,そんな当たり前のことを,今までほとんど考えていなかったことに気づきました。

今回はそんな私に示唆を与えてくれた本をご紹介します。

ご覧になった方も多いでしょう,『風立ちぬ』という映画が2013年の夏に公開されました。この映画は堀辰雄と堀越二郎という実在の人物をモデルに描かれていて,その見どころの1つに大正から昭和にかけて先進国の飛行機技術に必死に追いつこうとする主人公とその同僚らの奮闘がありました。

当時,日本の技術力は諸外国と比較して必ずしも高いものではありませんでした。技術力だけでなく,今の社会をつくる制度にも諸外国の制度を参考にしたものが多くあります。図書館もその1つで,ご存知のように,今の日本の図書館制度のいくつかは戦後占領下に図書館法が制定されたときに導入されました。今では当時を知る人は限られてしまいますが,そのときの様子を知る手掛かりの書籍が先日出版されました。

『現代日本の図書館構想 戦後改革とその展開』今まど子;高山正也編著 勉誠出版, 2013年, 2,800円(税別)
http://bensei.jp/index.php?main_page=product_book_info&products_id=100214

司書課程の学生にとっては頭の上がらない今先生や高山先生,占領期研究の第一人者である三浦先生ら多数の執筆者が,図書館の戦後改革に焦点をあて,多様なテーマについての論文や史料を集めておられます。高山先生が巻頭言でおっしゃっているように,今後新しい図書館を築いていくためには,過去に何を目的にどのようなことが行われ,それがどのような結果につながったかを検討することは必須であり,本書はそのための貴重な資料です。

本書に記載されている内容の1つに,レファレンスサービス黎明(れいめい)期のエピソードがあります。福田直美氏が,当時の日本の中堅図書館員を率いて,ほとんど知られていなかったレファレンスサービスを中心にアメリカの視察を実施したことについてです。細心の手配をして行われたこの視察から,レファレンスサービスだけでなく,目録などの書誌コントロールやコンピューターの導入など,図書館サービスの礎となる知見が多く日本に持ち帰られました。

それから60年後,インターネットの普及によりどこでも簡単に総合目録を利用できることが当然となりました。レファレンスサービスを含めた図書館サービスも目覚ましい発展を続けています。福田氏らが持ち帰られた知見が,技術の進歩とともに日本に根付いているのだと思います。

『夜明けの図書館』埜納タオ 双葉社1巻, 2011年, 619円(税別)2巻, 2013年, 619円(税別)
http://www.futabasha.com/yoake/
http://www.futabasha.com/yoake/

そんな中,レファレンスサービスをテーマにした漫画が出版されていることをご存知でしょうか。

『夜明けの図書館』は女性漫画雑誌に連載されている漫画で,市立図書館に勤める新米図書館員が利用者からのレファレンスに奮闘する物語です。著者は漫画を描くまでレファレンスサービスについてまったく知らなかったそうですが1),著者による図書館員への綿密な取材を基につくられた話は,著者が図書館員ではないとは信じられないくらい図書館員が共感できる物語になっています。たとえば,主人公の同僚として出てくる図書館員は市役所から異動してきた職員で,図書館のレファレンスサービスにあまり理解がありません。そんな同僚と対立しながら,それでもレファレンスサービスを通じて利用者の方の悩みや願いに応えようとする主人公の姿がとても印象的です。

『夜明けの図書館』の素晴らしいところは,レファレンスサービスを主題にし,利用者へのレファレンスインタビューやレファレンスツールの扱い方などが非常に現実的に描かれていることです。この漫画を読めばレファレンスサービスについてよく分かりますし,それまでレファレンスサービスを知らなかった利用者も,図書館はこんなことまで調べてくれるのかと気づくことができます。現に,本の感想が集まるWebサービスのブクログでは,「レファレンスが何なのかさえ知らなかったので読んでよかった」「今度行ってみようかな」などの感想が寄せられています2)。これは,実はとてもすごいことなのではないでしょうか。

60年前は図書館員でさえほとんどレファレンスサービスというものを知りませんでした。占領期以降,図書館員の先達らがレファレンスサービスを日本に導入しようと奮闘され,以来,多くの先輩方がサービスの普及と発展に尽力されてきました。そうして21世紀になり,図書館サービスはますます発展し,レファレンスサービスをテーマにした漫画が出版され,来館しなくても市民がレファレンスサービスを簡単に知ることができるようになりました。この2冊をみると,その流れに図書館の歴史を垣間見る思いになるのです。

60年でここまで変わってしまうのですから,これから過ごす40年間で図書館が変わらないわけがありません。カード目録がOPACになったように,きっと想像もつかないような図書館が40年後には待っているのでしょう。そして,その新しい図書館がどんなものになるのかを決めるのは,他でもなく今を生きる私たち図書館員なのです。歴史を振り返って,これから過ごす40年間がそのための40年だということに気づくことができました。

もしもこれからの40年に電子化のようなパラダイムシフトが再び起こるとしたら,自分が常に正しい判断をもって図書館をよりよくできるという自信はなく,起こり得るパラダイムシフトを恐れる気持ちがあります。しかし,その後訪れる図書館はきっと今よりも素敵な図書館となるに違いなく,まだ見ぬ図書館にわくわくしているのも事実です。

これからの図書館員としての人生が,少しでも未来の図書館の糧になることを新たな目標に,自分にできることを模索していきたいと思います。

執筆者略歴

平山 陽菜(ひらやま はるな)

平成生まれ大阪育ち。2011年に筑波大学情報学群知識情報・図書館学類を卒業,2013年に筑波大学大学院図書館情報メディア研究科を修了。2011年から2013年までアカデミック・リソース・ガイド株式会社でインターンとして研鑚(けんさん)を積む。2013年3月に修士論文「公立図書館の図書館協議会に関する総合的研究」で図書館情報メディア研究科長表彰を,2013年10月に「公立図書館の公開質問状に関する分析」で第61回日本図書館情報学会研究大会優秀発表賞を受賞。2013年4月から一般財団法人日本医薬情報センター附属図書館に司書として勤務。趣味はアマチュアオーケストラと研究,たまにお酒。

参考文献
  • 1)  “E1252 - マンガ『夜明けの図書館』の作者・埜納タオさんインタビュー”. カレントアウェアネス. 2011-12-22, http://current.ndl.go.jp/e1252, (accessed 2013-11-22).
  • 2)  “夜明けの図書館(ジュールコミックス)”. ブクログ. http://booklog.jp/item/1/4575334626, (accessed 2013-11-22).
 
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