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研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第8回 判例評釈を探す
金澤 敬子
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2013 年 56 巻 2 号 p. 102-107

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1. はじめに

今回は連載第6回・第7回に続く“判例編”の最終回である。法学になじみのない読者にとっては,“判例評釈”という言葉は聞き慣れないかもしれない。「評釈」を『広辞苑』(第6版)で引いてみると,「文章・詩歌を批評し,かつ解釈すること。また,そのもの」とある。法学の世界において,特定の判例を研究,批評する判例評釈は,日々発表されており,法学論文のなかの一ジャンルを築いている。本稿では,さまざまな媒体に掲載される判例評釈の探し方を具体的な例を使って紹介する。

2. 判例評釈とは

判例評釈は,ある判決(決定・命令を含む)について,意義やその判例が適用される範囲,問題点などについて述べたものとされる。判例評釈のほかに,判例研究や判例批評,判例解説とも呼ばれるが,判例解説というときには,執筆者の私見を抑えた客観的な説明が多いようである注1)。本稿では主に判例評釈と呼ぶ。

いわゆる「生きた法」である判例は,今後の裁判,ひいては一般社会に影響を与えることがある。したがって,その判例の主旨や判例・学説との関係,問題点や今後の予測を行う判例評釈は,裁判実務にも参考になるものである。「時としては,その判例に対する学者の側からの説得力のある批評が最高裁判所の考え方を動かし,判例変更を促すこともありえないではない」1)とされ,新たな判例を生み出す力になることもあろう。このようなこともあって,研究者や実務家は多数の判例評釈を発表し,またそれらを探すためのツールも整備されてきた。

3. 判例評釈掲載誌の種類

判例評釈は,判例評釈誌,法律総合雑誌,分野別法律雑誌,大学紀要,学会誌など紙媒体の資料からWebサイトまで,多様な媒体に掲載される。本稿では,情報の安定性に加え現状では判例評釈が主に紙媒体に発表されることを踏まえ,紙媒体の資料を中心に紹介する。

判例評釈は判例解説や判例研究とも呼ばれているように,実に多様である。主観を抑えてわかりやすく説明したものから賛否などの批評を加えたもの,ページ数もコンパクトにまとまったものから数十ページに及ぶものもある。執筆者によっても研究者と実務家とでは,視点の異なる判例評釈になると思われる。これらの判例評釈が掲載される資料は,以下の3種類に分類できる。網羅的に探している場合は別として,いくつかの判例評釈情報から自分の目的にあった判例評釈を選択するためには,その掲載誌の特徴を知っておくことがひとつの手がかりになる。

図1 法律雑誌の分類

3.1 『最高裁判所判例解説』民事編,刑事編(法曹会)

最高裁判所判例集に登載された判例について,最高裁判所調査官が,問題の所在や第一審・第二審の判断,これまでの学説,裁判例の状況,結論,意義などについて詳細に解説したものである。最高裁判所調査官は,下級裁判所での実務経験が10年以上の裁判官から任命されており,裁判官の命を受けて当該事件の審理や裁判について調査にあたるとされる。当該事件を担当した調査官が執筆していることで,重要な解説であると言えるが,はしがきにも記してあるように,調査官の個人的意見に基づいて解説したものである点には注意が必要であろう。

『最高裁判所判例解説』は,『法曹時報』(法曹会,月刊)に毎月掲載されている「最高裁判所判例解説」を年度ごとにまとめたものである。その他ジュリスト増刊『最高裁 時の判例』(有斐閣)にも調査官解説が掲載される。

3.2 商業誌

(1) 判例評釈誌

法律総合雑誌や判例雑誌の増刊,別冊の形態で定期的に刊行されているものが多い。代表的な雑誌に,『別冊ジュリスト 判例百選』(有斐閣,不定期)がある。学生を主な対象とした判例解説集で,憲法,民法,刑法等の基本科目から知的財産法や金融商品取引法などの応用・先端科目に対応する法分野ごとに刊行されている。主に数年の教育経験がある研究者が執筆し,見開き2ページのなかに,事実の概要,判旨,解説,参考文献までコンパクトにまとめられている。学習教材としての性格から,客観的な解説であることに加えて判決本文の引用を重視しているため,「意外と読みづらい」と戸惑うこともあるかもしれない。改訂は6年を目途に行われている。年度ごとの解説としては同じ有斐閣から刊行されている『ジュリスト臨時増刊 ○年度重要判例解説』がよく利用されている。この他,学生を主な対象とした雑誌に,『速報判例解説 新・判例解説Watch』(『法学セミナー』増刊,日本評論社,年2回)や『判例セレクト』(『法学教室』2・3月号別冊付録,有斐閣)などがある。一方,研究者や実務家を主な対象とした雑誌としては『判例評論』(『判例時報』別冊付録,判例時報社,毎月1日号)や『私法判例リマークス』(『法律時報』別冊,日本評論社,年2回),『○年度主要民事判例解説』(『判例タイムズ』別冊,判例タイムズ社,年刊)などがある。

(2) 法律総合雑誌

学生を主な対象とした『法学教室』(有斐閣,月刊)や『法学セミナー』(日本評論社,月刊),研究者・実務家を対象とした『ジュリスト』(有斐閣,月刊)や『論究ジュリスト』(有斐閣,季刊),『法律時報』(日本評論社,月刊)などにも判例評釈が掲載されている。

(3) 分野別法律雑誌

民事法系では『民商法雑誌』(有斐閣,年10回)や『NBL』(商事法務,月2回),『金融法務事情』(金融財政事情研究会,月2回),『金融・商事判例』(経済法令研究会,月2回),刑事法系では,『季刊刑事弁護』(現代人文社,季刊)や『刑事法ジャーナル』(成文堂,季刊)などの分野別法学雑誌にも,その分野で注目される判例評釈が総合誌と比較して早い時期に掲載されるものもある。4章の事例で扱う知的財産法分野では,『知財管理』(日本知的財産協会,月刊),『パテント』(日本弁理士会,月刊),『Law & Technology』(民事法研究会,季刊)などがあり,主に実務の視点から執筆された判例評釈が掲載されている。

3.3 大学紀要・学会誌

大学紀要とは,大学や大学所属の研究機関が編集・発行する学術論文誌である。所属する教員や大学院生などが執筆し,その研究成果を発表することを目的とした雑誌である。雑誌名は大学の名称を冠したもの(例:『成城法学』(成城大学)など)が多いが,『法学協会雑誌』(東京大学)など大学名を冠していないものもある。学会誌は,例えば日本私法学会における『私法』(有斐閣,年1回)のように,各分野の学会で定期的に発行される機関誌である。これらの雑誌にも研究に主眼を置いた判例評釈が掲載される。

4. 判例評釈の探し方

判例評釈を探す方法として,従来は『判例時報』の増刊『戦後判例批評文献総目録』や『続判例批評文献総目録』,『法律時報』巻末の「文献月報 判例評釈の部」,『法律判例文献情報』(第一法規,月刊)などの雑誌から,判例評釈が掲載されている雑誌等の情報を得る方法が一般的であった。本稿では,主に法律系データベース(DB)を使った探し方を紹介するが,これらのDBも紙媒体の蓄積をもとに開発されたものであり,現在でもDBに収録される前の判例評釈情報については,依然として紙媒体の資料が有益であると言える。

判例評釈を探す時の注意点として,以下の2点がある。第1に,判例をわかりやすく説明した解説であっても,執筆者の意見が反映されたものもあるので,複数の判例評釈を探した方が良い。この点は,特定の法令や判例等一次資料を探す場合と異なる点であろう。第2に,判例評釈のなかには,判例の論点を一部のみ取り出して検討するものもあるので注意が必要である。

なお,法律文献を引用する際,例えば『判例時報』を「判時」と略して表記するが,このような雑誌名の略称を調べるには,『法律時報』1月号巻末掲載の「文献略語表」や注1で挙げた法律編集者懇話会による「法律文献等の出典の表示方法」を利用するとよい。

次に,事例をもとに特定の判例についての判例評釈の探し方を具体的に紹介していく。

  • <事例>

平成19年11月8日の最高裁判所第一小法廷(平成18年(受)第826号)判決の判例評釈を探したい。

この判決は,特許製品であるインクジェットプリンター用カートリッジのリサイクル品の販売が,特許侵害となるかが争われたものである。環境保護への関心が高まるなかで,リサイクルと特許制度の衝突問題として産業界を中心に世間の注目を集め,日本経済新聞(2007(平成19)年11月9日1面,9面)などでも取り上げられた著名な判決である。また,最高裁判所が特許製品に対する加工と消尽に関する問題について,初めて判断基準を示した判例ということもあり,判例評釈が多数発表されている。

さまざまな媒体に掲載される判例評釈を効率的に探すためには,(1)DBを使って判例評釈の書誌情報(著者名,タイトル,雑誌名,巻号数,刊行年月日などの情報)を検索する,(2)OPAC(蔵書検索)で所在情報(入手できる図書館など)を検索し,大学図書館や公共図書館などで入手するという手順となる。

DBによって,収録対象資料や収録年代,更新頻度,検索項目等が異なるため,それぞれの特徴を踏まえた上で利用することが重要である。まず,さまざまな付加価値のある有料DB,次にインターネットに接続できる環境であれば誰でも利用できる無料DBを使って,本事例の判例評釈の探し方を紹介する。

4.1 書誌情報を探す

(1) 有料DB

① 「D1-Law.com 法律判例文献情報」(第一法規)

1982(昭和57)年以降に刊行された約1,600誌の雑誌や図書等法律関連文献および判例の書誌情報50万件以上を収録している。「現行法規」や「判例体系」との相互リンクにより法情報を総合的に入手することができる。

判例評釈を探す時,事件番号や判決等年月日がわかっていると効率的に探し出すことができる。基本的には,まず「判例体系」で判例を検索し,検索結果の概要から判例評釈情報を入手する方法があるが,ここでは雑誌『法律判例文献情報』をDB化した「法律判例文献情報」を利用してみる。「法律判例文献情報」の「文献検索」ファイルに本事例の事件番号「平成18年(受)第826号」または判決年月日「平成19年11月8日」を入力すると,2007(平成19)年12月から2012(平成24)年4月発行までの評釈情報がヒットする。『最高裁判所判例解説』や前述の知的財産法分野の3誌のほか『A.I.P.P.I』(日本国際知的財産保護協会,月刊)などの分野別法律雑誌,そして『知的財産法最高裁判例評釈大系(1)』(青林書院,2009年)など図書に収録されている論文まで検索できる。同じ著者が執筆した他の論文を参照できることや,『最高裁判所判例解説』の掲載ページが「p.756~801」というように,評釈の分量がわかるのも便利である。

② 「法律文献総合INDEX」(日本評論社)

『法律時報』の巻末に掲載されている文献情報と判例評釈の書誌情報を創刊号(1929(昭和4)年)から最新号の1か月半前まで収録している。採録誌は約650誌である。情報元が『法律時報』ということもあり,代表的な掲載誌の情報を入手できる。

③ その他のDB

「WESTLAW JAPAN」(ウエストロー・ジャパン)は北海道大学大学院法学研究科と提携して評釈情報を提供しており,採録対象誌は幅広い。「Lexis As One」(レクシスネクシス・ジャパン)は,『判例タイムズ』(判例タイムズ社,月刊)などに掲載された判例のコメントを参照できるのが特徴である。「LLI/DB判例秘書INTERNET(アカデミック版統合型法律情報システム)」(LIC)は,『ジュリスト』や『判例タイムズ』,『最高裁判所判例解説』など主要法律文献の本文をPDFファイルで読むことができる。

なお,有料DBは公共図書館でも導入が進められており,最寄りの公共図書館の契約状況を調べてみるとよいだろう。例えば神奈川県では,県内の公共図書館75館のうち,20館で1種類以上の法律系DBが導入されている2)

(2) 無料DB

「国立国会図書館サーチ」(国立国会図書館)は2012(平成24)年から開始された,国立国会図書館をはじめ全国の公共図書館や学術研究機関等が提供する資料やデジタルコンテンツを統合的に検索できるサービスである。納本制度により国内で発行された資料を網羅的に検索できるのが最大の特徴と言える。判例評釈のタイトルに判決等の年月日が含まれていることが多い点を利用し,「詳細検索」の「タイトル」欄に裁判年月日「19.11.8」と入力する3)4)ことで,判例評釈を検索することができる。原則的に3ページ以上の記事が採録対象となるが,特集等を一括採録する基準があるため5),1冊全体が特集とみなされる『判例百選シリーズ』は検索できない点には注意が必要である。

その他,国立情報学研究所の「CiNii Articles」(http://ci.nii.ac.jp/)では,1,500万件という膨大な論文情報から判例評釈を検索できるだけでなく,約400万件の本文を読むことができるのが特徴である(2012年5月現在)。

4.2 所在情報を探す

書誌情報を収集した後,それぞれが所属する機関の図書館等でOPAC(蔵書目録)を検索し,求める判例評釈を入手することができる。日常的に利用する図書館で所蔵していない場合でも,図書館間の相互協力により,資料の取り寄せや複写が可能である。大学図書館の所蔵状況については,「CiNii Books」(http://ci.nii.ac.jp/books/),公共図書館については,「カーリル」(http://calil.jp/)で横断的に調べることができる。

一方,Webサイトで入手できる資料も増えており,例えば本事例でヒットした『パテント』は,2002(平成14)年1月号以降の掲載記事のうち,著者の承諾を得たものについてPDFファイル形式でWeb上で公開している。大学紀要も同様で,本事例で「WESTLAW JAPAN」で検索できた大学紀要掲載の判例評釈5件のうち,『国士舘法学』(国士舘大学)など3件をWebサイトで読むことができる。

5. おわりに

判例評釈はさまざまな媒体に掲載されるが,有料・無料DBを利用することで効率的に探すことができる。DBは,採録対象誌や更新時期,判例評釈と法律論文の区別などが各社で異なるため,検索結果に違いがある。判例評釈を探す際にはなるべく複数のDBを利用した方がよい。また,DBに収録される前の最新の判例評釈については,3章で紹介した雑誌や『法律判例文献情報』などの新刊で探すことができるように,判例評釈は幅広く探すことが求められると言える。

本文の注
注1)  「判例解説」と呼ぶ場合,3.1で紹介する『最高裁判所判例解説』を指すという考え方もある。例えば法律編集者懇話会「法律文献等の出典の表示方法 2005年版」(http://www.houkyouikushien.or.jp/katsudo/pdf/horitsu.pdf)では「判例百選等の判例解説のものについても『判批』として扱う。ただし『判例解説』(最高裁調査官解説)の場合は『判解』とする」として,出典の表示方法を区別している。

参考文献
 
© 2013 Japan Science and Technology Agency
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