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特許分類に関する国際的な動向 五庁共通ハイブリッド分類プロジェクトをはじめとして
太田 良隆
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2013 年 56 巻 3 号 p. 133-139

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著者抄録

日米欧中韓の五大特許庁は,特許分類に関する取り組みとして共通ハイブリッド分類(CHC)プロジェクトを実施している。本プロジェクトは,各庁の既存の内部分類(JPOのFI・Fターム,EPO・USPTOのCPC)を調和するものであり,国際特許分類(IPC)を迅速に詳細化することが期待されている。日本国特許庁はその推進のために多くの労力を費やしてきたが,その進捗は芳しいとは言えない。本稿では,このようなCHCプロジェクト等の特許分類に関する最近の動向を説明する。

1. はじめに

特許分類に関して,以前から国際的な議論が交わされてきた。これらの議論を通じて,近年では,アドバンストレベルとコアレベルとに二層構造化された国際特許分類(International Patent Classification: IPC)がアドバンストレベルに一本化されるとともに,世界の五大特許庁(日米欧中韓の5つの特許庁,以下五庁と表記)による共通ハイブリッド分類(Common Hybrid Classification: CHC)プロジェクトが開始された。

本稿では,CHCプロジェクトをはじめとした最近の特許分類に関する国際的な動向について説明する。なお本稿は,著者の私見であり,特許庁としての意見・見解を表明するものではない点にご留意願いたい。

2. CHCプロジェクトの進捗(~2012年)

2.1 CHCプロジェクトの開始初期

CHC プロジェクトとは,各庁の既存の内部分類,すなわち日本特許庁(Japan Patent Office: JPO)のファイルインデックス(FI)・Fターム,欧州特許庁(European Patent Office: EPO)及び米国特許商標庁(United States Patent and Trademark Office: USPTO)の協同特許分類(Cooperative Patent Classification: CPC)注1)をベースに五庁間で議論を行った後,IPCを詳細化するよう改正するプロジェクトである(図1)。既存の内部分類を利用するため,改正分類表を確定するまでに要する検討負担を軽減し,また内部分類が採用された庁についてはIPC改正に伴う再分類負担が発生しない1)

図1 CHCプロジェクトのイメージ

CHCプロジェクトが2009年11月に最初の技術分野で実施されて以来,多くの技術分野でIPC改正が早期に行われることが期待されたが,当初の目論見どおりには進まず,2011年6月の時点でCHCプロジェクトが実施された技術分野の数は7であった。

そこで,CHCプロジェクトをいかに加速化するかが課題となった。

2.2 CHCプロジェクト加速化の合意

CHCプロジェクトを実施するには,技術分野ごとに内部分類を詳細に検討する必要がある。そのため,2011年6月に開催された五庁長官会合において,分類改正のベースとなるFI(約19万項目)とECLA2)(約14万項目)の有用性の比較をJPOが全ての技術分野で行い,これに基づいてCHCプロジェクトを加速させることで合意した。

JPOは,この合意に基づき,全審査官が延べ約2万時間を費やし全技術分野のIPCサブグループ(約7万項目)ごとにFIとECLAの比較・検討を行い,FIもECLAも細展開されていない約6割のIPCを除き,FIが優位な分類とECLAが優位な分類がそれぞれ2割程度あると評価した。この結果は,今後IPC改正を実施するにあたり,FI及びECLA双方をベースにすれば,よりよい分類を構築できることを示唆している。また,併せて,プロジェクト化するにあたっての課題(同じ技術に対して,分類の付与方針が庁間で異なる等)を,IPCサブグループごとに洗い出した3)(図2)。

図2 FI-ECLA対比・検討結果の概要

この検討の結果を踏まえ,2011年10月及び2012年3月にそれぞれ開催された五庁分類作業部会において,さまざまな技術分野でIPCを改正するための具体的な提案がなされた。しかし,EPO及びUSPTOは,両庁間でECLA・ICOをベースとして立ち上げることに合意したCPCの策定準備中の段階においてはCHCプロジェクトを実施したくないとしたため,結果として,2011年10月の五庁分類作業部会では11の技術分野でCHCプロジェクトが新たに開始されるにとどまり,2012年3月の五庁分類作業部会では新規のCHCプロジェクトは開始されなかった(2012年3月時点で開始されたプロジェクトの総数は18)。

2.3 再度のCHCプロジェクト加速化の合意

このような中,CHCプロジェクトの進め方について再度の議論がなされた。考慮された主な要素は,CPCの策定及び中国・韓国特許文献の急増である。

CPCに関しては,2012年はCPCの策定にリソースを割く必要があることから,CHCプロジェクトの加速化の時期をCPCの運用が開始する時期と整合させることが,EPO・USPTOから要請された。

日本の特許文献にはFI・Fタームが付与されており,欧米の特許文献にはCPCが付与されているため,対象特許文献に応じて特許分類を使い分けなければならない場合があるものの,これらを利用することにより効率的な検索を行うことが可能である。しかし,中国・韓国特許文献は,十分に詳細化されているとは言えないIPCのみが付与されており,これらの文献は顕著に急増している。

そこで,2012年6月に開催された五庁長官会合において,(1)CPCが発効する2013年から,FI・Fターム及びCPCをベースとしてCHCプロジェクトを加速させること,(2)中国・韓国特許文献が急増する技術分野を優先してCHCプロジェクトを実施することが,合意された4)

2.4 再度の加速化合意後の取り組み

「テーマ」(Fタームの範囲を規定する,FIで表される技術の範囲)の単位で考えれば,IPCには約2,600の技術分野があるが,この全技術分野でCHCプロジェクト,すなわちIPC改正を実施する必要はない。上述のとおり,近年の中国・韓国文献数が多くかつ現在のIPCで効率よく検索ができていない技術分野でCHCプロジェクトを実施すれば十分である。そこで,JPOは,優先してCHCプロジェクトを実施すべき技術分野が,全技術分野の5%に満たない120程度であると試算し,これらの技術分野においてCHCプロジェクトを実施すべく,半年ごとに3回に分けて約40分野ずつIPCを改正するための提案を行うことを計画した。

当然のことながら,IPC改正提案を行うには改正分類表案を作成しなければならない。JPOでは,審査官がこの作成作業のためにリソースを費やし,上記の技術分野においてFI・Fターム及びCPCを参照して改正分類表案を作成した。この作成作業を経て,2012年12月には3回のうちの第一弾として約40の技術分野でIPC改正分類表案を五庁に対して提案した5)

3. CPCの概要

本稿において,先ほどから何度も「CPC」という単語を用いている。著者はJPOの人間であるが,EPO・USPTOの両庁間で共通分類として利用しているこのCPCは,国際的な特許分類の動向の中で決して見過ごすことのできない存在であるので,その概要を説明する6),7)

3.1 CPCの経緯及び付与状況

EPO・USPTOは,2010年10月に,EPOの内部分類であったECLA・ICOをベースとしてCPCを立ち上げることを発表した。その後,2012年10月に,CPC分類表を公開し,2013年1月から,CPCによる付与を開始している。なお,USPTOに関しては,移行期間を設定しており,2013年1月から2年間は,公開公報(A公報)にCPCとUSPC双方を付与するものの,登録公報(B公報)についてはCPCは任意で少なくともUSPCを付与することとしている。

また,2012年以前のECLAが付与されていた文献については,DOC-DB注2)上機械的にCPCへの置換を行うことにより,2013年1月以降,esp@cenet注3)等において,CPCによる検索が可能となっている。

なお,2013年4月以降,CPCはEPO・USPTOの合意に基づいて随時改正され,改正された分類表は毎月公開されていく予定である。

3.2 CPC分類表の構成

従前,ECLAは,AセクションからHセクションまで展開され,ECLAに対応するICOはKセクションからTセクションまで展開されていた(A→K,B→L,・・・,H→T)。KセクションからTセクションまでのICOは,ECLAと同じ主題事項を対象とするが付加情報のみに用いられるmirrored ICO,ECLAの細展開に相当するfurther breakdown ICO及びECLAとは別の観点で展開されたorthogonal ICOに類型分けできた。更に,ICOには,気候変動緩和技術等を二次的に分類するためのYセクションが存在していた。これらいずれのものにおいても,ICOは付加情報として付与されていた。

これに対し,CPCは,ECLAを由来とするメイントランクと呼ばれる部分と,further breakdown ICO及びorthogonal ICOを由来とするCPC2000シリーズ(スラッシュの前が4ケタの2000番台で表記される)と呼ばれる部分とを有することが特徴である(図3)。

図3 CPCの構成(1)

ECLAとCPCのメイントランクとを比較すると,後述の3.3で言及するナンバリング方法の点で違いはあるが,分類表の構成に本質的な違いはない。

ICOとCPCの2000シリーズを比較すると,ICOはKセクションからTセクションまで展開されていたのに対し,2000シリーズはメイントランクと同様にAセクションからHセクションまで展開されている点,及び,後述の3.3で言及するナンバリング方法の点で,異なる。

結果として,CPCのメイントランクには約16万のグループが,CPC2000シリーズには約8万のグループが,Yセクションには約7,500のグループが存在し,合計で約25万のグループがCPCには存在することになる。メイントランクは発明情報または付加情報として文献に付与され,2000シリーズ及びYセクションは付加情報としてのみ付与される(図4)。

図4 CPCの構成(2)

3.3 CPCのナンバリング

CPCのナンバリングは,IPCで用いられているST.8という規格と類似の規格に基づいている(表1)。そのため,IPCのナンバリングと同様に,サブクラスまでを,アルファベット1文字・数字2ケタ・アルファベット1文字で表し(例: B81B),メイングループ及びサブグループのために,スラッシュ(/)前後で,それぞれ最大4ケタ及び6ケタの数字を用いる(例: B81B3/0002,G02F2001/133311)。また,CPCのナンバリングにおいては,ECLA・ICOと異なり,スラッシュ(/)以後にアルファベットは使用されず,IPCの細展開の項目は,IPCの分類記号に数字を追記するように表記される(例: IPCにB81B3/00が存在し,その細展開としてECLAにB81B3/00Fが存在していた場合,対応するCPCはB81B3/0002と表記される)。

表1 CPCのナンバリングの規格
WIPO/ST8 tags supported Pos. in ST.8 Description Values
<classification-symbol> 1 section A,....,H and Y
2,3 class 01,....,99
4 subclass A,....,Z
5 to 8 main group 1,....,9999 right aligned
9 separator / ("slash")
10 to 15 subgroup 00,....,999999
<classification-scheme><date> 20 to 27 version-indicator CCYYMMDD
<classification-level> 28 core/advanced not applicable
<symbol-position> 29 first / later F/L
<classification-value> 30 invention
additional
I
A
<action-date> 31 to 38 date format CCYYMMDD
<classification-status> 39 original
reclassified
B
R
<classification-data-source> 40 human
machine
generated
H
M
G
<generating-office> 41,42 country-code only for CPCNO

4. CHCの進捗(2013年~)

4.1 WIPOでの議論におけるIPC改正プロジェクトの立ち上げ

CHCプロジェクトはその加速化が合意されているとはいえ,実際にCHCプロジェクトを通じて行われたIPC改正は今のところ多くない。このような状況を憂慮して,中国・韓国等の新興国の近年の特許文献数が多い技術分野を優先してIPC改正を計画的に実施していくことを,世界知的所有権機関(World Intellectual Property Organization: WIPO)が2012年11月に提案した8)

このWIPOからの提案は,2013年2月にWIPOで開催されたIPC同盟専門家委員会(IPC Union - Committee of Experts: CE)で議論された。JPOによるCHC第1弾提案は,WIPO及び五庁以外のIPC加盟国からIPC改正を活発化するための具体的提案として注目を集め,上記CHC第1弾提案の一部に基づいて6技術分野注4)でIPC改正プロジェクトが立ち上げられた。近年CEでIPC改正プロジェクトがほとんど立ち上げられていなかったこと(2012年: 0,2011年: 1)及び上記CHC第1弾提案が五庁に対して行ったものであることを考えると,IPC同盟専門家委員会の結果は,極めて異例であるとともに,IPC改正を遅々として進めない五庁に対するIPC加盟国からの警鐘であるとも言える9)

4.2 五庁の新たな取り組み

繰り返しになるが,CHCプロジェクトを加速化することは,五庁間での合意事項である。それにも関わらず,EPOは,今後もCPCの維持・改正のためにリソースを費やしたい,CHCプロジェクトのためにリソースを割かない,とのコメントを2012年6月の五庁長官会合における再度のCHCプロジェクト加速化合意後も行うようになった。このEPOのCHCプロジェクトに対する消極的な態度を考慮し,中韓もCHCを進めることに懐疑的になったのか,上記合意後,各技術分野における具体的なIPC改正分類表案を提案したのはJPOのみというありさまであった。各庁の政治的な思惑が交錯し,CHCプロジェクトは完全に行き詰まってしまったのである。

このような状況を見かねたUSPTOは,EPOも含め五庁間で協働してIPC改正に取り組めるように,CHCに代わる五庁の新たな分類改正の枠組みを構築することを,2013年1月に提案した。この枠組みの概要は以下のとおりである。

  • •   EPO/USPTOはCPCを,JPOはFI/Fタームを,それぞれ独立に維持・管理する。
  • •   五庁はCPC及びFI/Fタームが整合している技術分野の分類をIPC化するよう努める。また,CPC及びFI/Fタームを整合させるために,各庁はお互いにCPC改正及びFI改正を要求できる。
  • •   五庁は協働して新規技術に対応する分類を速やかに作成する。

USPTOは,この枠組みであれば,EPO/USPTOがCPCを維持・管理しそのCPCをIPC化するという建前を取るため,EPOにとっても受け入れ可能なものであると考えたのであろう。一方,新規技術が出現した際に,各庁が当該技術に対応して内部分類の発展を優先させた場合ばらばらの内部分類を有することになり,事後的に調和する必要性が生じるため,新規技術については,五庁の知見を共有しながら分類表を作成することが,結局は各庁の利益に資すると考えたのであろう。

2013年3月上旬に開催された五庁副長官級会合及び3月中旬に開催された五庁分類作業部会での議論の結果,五庁はこの新たな枠組みに沿ってIPC改正を進めていくことを確認した。最終的には,6月の五庁長官会合においてこの枠組みについて合意する必要があるため,6月以降の活動にはなるが,今後は,本枠組みに沿って具体的なIPC改正プロジェクトを立ち上げていくことになる。2013年の秋に開催予定の次回五庁分類作業部会では,本枠組みに沿ってIPC改正プロジェクトが立ち上げられることが期待される。JPOは,過去に行ったFI-ECLA対比・検討作業の結果や120もの技術分野でIPC改正のために作成した分類表案を有効活用して,IPC改正プロジェクトの立ち上げを提案していくことになるであろう。

また,6月の五庁長官会合において合意がなされた場合,世界各国から期待だけを集めたCHCプロジェクトという名の五庁の取り組みは終了することになる注5)

5. おわりに

ここ1,2年,五庁は,CHCプロジェクトを加速化するか否かといった抽象的な議論をするばかりであった。そのため,CHCプロジェクトの具体的な中身の議論,すなわち特定の技術分野でどのような分類表が検索効率改善のために好ましいのかといった議論は,停滞していた。

しかし,IPCの改正を放置すれば,増加する世界の特許文献に対する検索効率は悪化する一方である。

4.2で言及した新たな枠組みにおいて,どの程度,具体的な分類に関する議論がなされIPC改正が進むかは,著者にとっても現時点で未知数である。新たな枠組みは,CHCプロジェクトで実施しようとしていたことと実質的に同じことを,看板を付け替えて実施していこうとしているにすぎないかもしれず,IPC改正に関する取り組みが再度停滞する可能性はある。しかし,世界の特許文献に対する検索効率の改善のため,本枠組みを通じてIPC改正が進んでいくことが期待されているのは間違いない。

本文の注
注1)  CPCが策定される前は,EPOは欧州特許分類(European Classification System: ECLA,In-Computer Only: ICO)を,USPTOは米国特許分類(United States Patent Classification: USPC)をそれぞれ用いていた。

注2)  世界の特許文献の書誌事項や要約等を収録したデータベース。EPOが管理している。

注3)  EPOが提供する,特許文献の検索のためのWebサイト。

注4)  6技術分野は,次のとおり。(1)伝送の監視・試験,(2)伝送のための送受信機,(3)光学要素の表面処理,(4)食品の着色及び栄養改善,(5)動物,微生物物質含有医薬,(6)手術・診断のための補助具。

注5)  2013年3月の時点での状況に基づく記載となっている点,ご理解願いたい。

参考文献
 
© 2013 Japan Science and Technology Agency
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