情報管理
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集会報告
第19回情報活動研究会 「情報部門のこれからを考える」
岡 紀子
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2013 年 56 巻 3 号 p. 184-186

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  • 日程   2013年3月19日(火)15:30~17:30
  • 場所   大阪科学技術センター
  • 主催   情報活動研究会(INFOMATES) 独立行政法人科学技術振興機構(JST)
  • 後援   一般社団法人情報科学技術協会(INFOSTA)

本年3月末の独立行政法人科学技術振興機構(以下JST)西日本支所の閉鎖を直前にして,INFOMATES研究会はJSTとの共催で2本立ての講演会を開催することになりました。テーマは「情報部門のこれからを考える」です。これまでに何度も話題にしてきましたが,この時期に情報部門のこれからを考え,新たな出発を探っていくためにテーマとして掲げました。

昨年INFOSTA西日本委員会有志が「韓国の図書館を訪ねる旅」を実施し,大学,企業,国立,公立の各図書館および出版団地「パジュ・ブック・シティ」の5機関を見学したのですが,そこで有意義な知見を得て強い刺激を受けられた参加者のお一人である筑波大学の小泉真理氏からご講演いただく運びとなりました。企業図書館は見学が難しい中,サムスンの図書館について企業図書館の研究者の立場からのご講演です。またJSTからは,この変革の時期にふさわしく「JST情報サービスのこれまでとこれから」について,門田博文執行役(現,総括室長:科学技術システム改革事業担当)からご講演いただきました。

今回はこのような経緯により特別の研究会として,講演会と懇親会の2部制で開催することになり,かつてJICST時代にお世話になった多くの情報関係者がご参加くださり,現役を離れ個人でお仕事をされている方々の間では懐かしい顔ぶれとの再会や思い出話に大いに花が咲いたようです。また直接的に影響のあるJDreamⅡのユーザーである企業情報部門や図書館の関係者も多くの参加があり,JST関係者からのご講演は時代の1つの区切りとして感慨深いお話を聞く機会となりました。参加者数は講演会90名,懇親会86名と当初の予定を上回り,直前に広い会場に変更されたほどです。

まず初めに,JST理事川上伸昭氏から開会のご挨拶をいただき,続いてINFOMATES委員であり見学旅行副団長の稲葉洋子氏から,旅行の全体報告をしていただき講演に移りました。下記に順を追ってご報告をします。

講演1:情報部門の役割:韓国企業「サムスン」の現状をみて (筑波大学大学院 小泉真理氏)

韓国を代表するサムスングループの企業図書館であるサムスン経済研究所経済情報センターは,「伝統的な図書館からの脱却」を掲げて,組織名称を情報センターから経済支援チームに発展的に変更したとのことでした。言い換えると,かつてはコレクションが中心の情報センター(まさにライブラリーのイメージ)だった組織が,研究者のパートナーあるいはコンサルタントとして,研究支援サービスを行う新たな役割へと大きな変革を遂げたということです。そのためライブラリアンとR&I(Research & Information)Specialistの役割を担う担当者(全7名)は全て学士・修士レベルの,しかも文献情報学や経営学,経済学などを専門とする人材が正社員として確保されており,人材を重視していることがわかります。また図書館の“場”は,インフォメーション・コモンズへ進化させ,具体的な運営コンセプトとして「休・知・通」を掲げ,利用者にとっての憩いの場,知識の場,さらにコミュニケーションの場を目指しているとのことであり,これは重要なファクターであるといえます。

図1 小泉真理氏の講演

小泉氏は,今後の企業の情報部門の役割として,サムスン経済研究所経済情報センターで行われているパートナー,コンサルタント機能に追加して,情報部門から図書館利用者に対して積極的に提案していく,プロポーザー機能も併せて必要であると指摘されています。また企業図書館の場を,インフォメーション・コモンズから「エフェクティブ・ジョブ・コモンズ」へと発展させることを提案されています。この「エフェクティブ・ジョブ・コモンズ」とは,小泉氏の造語なのですが,企業図書館の“場”が,さまざまなことに有効活用できる,社員の共有の仕事場であることを意味しているとのことであり,今後この点をPRしていくことがとても重要であると提案されています。

小泉氏は,サムスンが15年前に日本企業の図書館を見学し,それも参考に創意工夫された結果だということも見逃さず,だからここから学ぶことは非常に大きいはずだ!とおっしゃっています。今こそ「企業の再生は図書館から!」と熱意のこもったエールを送られ,我々にとって,またこの業界においてもまことに力強く頼もしいと感じました。

講演2:JST情報サービスのこれまでとこれから(JST 門田博文氏)

ご講演では,JICST時代にさかのぼり多くの情報事業を展開されてきた歴史と,それに続く現事業について大変興味深いお話を聴講することができました。すでに60年近くの月日が流れ,現在まで継続してきたサービスもありますが,時代の変遷に伴い役割を終えたサービスもあります。終えたものの多くは紙媒体でのコンテンツサービスですが,IT技術の発展に伴い形態が変わっていくことは当然のことだといえます。我々の関心の深い文献情報データベース(DB)であるJOIS-Ⅳの誕生(1997年)から,New JOISへの成長,その後JDreamという成人の誕生(2003年),JDreamⅡという熟年時代にいたる経過を知る者には,当時のDB検索を懐かしく思い出します。今は,嫁(?)に出すことになったJDreamⅢのさらなる活躍を心から応援していきたいと思います。

図2 門田博文氏の講演

JSTの唯一の有料事業としての華々しい時代と苦節の時代を経た文献情報事業ですが,ちょうど1980年代終わりごろから文献情報検索を業務としてきた者の一人として,改めてこれまでのJSTにおけるDB構築およびその提供事業についてのご尽力に感謝いたします。これから先もJDreamⅢの役割には期待がかかっています。その根拠となる特徴は,何よりも国内文献の収録範囲とDBとしての精度だと思うのは,私だけではないと思います。国内の論文誌に加えて,学協会誌,会議報告,技術報告,業界誌などの収録が大きな特徴であり,海外誌も含めて日本語での検索や日本語抄録は,他にはない特徴です。個人的見解ですが,単に収録対象範囲を広げることより,収録対象誌を厳選し,抄録と索引の高い精度を維持することが重要だと思います。そしてこの特徴を明確にPRすることのほうが利用者へのサービスにつながると考えています。

またJSTの情報サービスは,実はJDream以外のほうが多種多様です。J-GLOBALをはじめとするそれらのサービスは,これからますます成長しながら提供されていきます。JST情報ビジョンにおいて,研究者・技術者をはじめとする国民すべてに,的確に情報を提供し,イノベーションの創出に貢献することが大きな目的として掲げられています。そのために知識インフラの構築を進めて基盤とし,国内の他の科学技術情報機関とのネットワークを構築するなど,目的に向かって着々と進められています。日本国内の科学技術情報流通のリーダー機関であるJSTの役割は,より一層重要となり,国民みなの要望と期待がかかっています。さらなる大きな目標に向かっておられるという力強いお話を伺うことができました。

この場を借りて主催者INFOMATES関係者としてコメントを少しばかり記載します。このたびのJDreamⅢへの移行で,JSTと我々末端ユーザーとの関係が薄れていくことの寂しさや,西日本支所閉鎖の無念さを感じておりましたが,本日の2つのご講演を聴講して,素晴らしい勇気をいただくことができました。このような変革はいつの時代でも避けられない変化の1つに過ぎず,我々にとってこれからの時代に沿った新たな展開を考えていくチャンスとなるものなのでしょう。この新たな道のりは人と人との交流により知恵をもってこそなし得るものだろうと思います。INFOMATESは,その原点になる人と人とのコミュニケーションの場を皆で作っていこうとするものです。INFOMATESは2013年4月で8年目を迎えますが,情報に関する問題に関心のある方が集い,情報交換することで,お互いが切磋琢磨する場を目指して,新たな協力者とともに皆様との情報交換を進めてまいりたいと思います。今後ともご支援をお願いいたします。

(INFOMATES運営委員 岡 紀子)

図3 懇親会の様子
 
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