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図書館員としての視野を広げるには?
小泉 真理
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2013 年 56 巻 3 号 p. 187-189

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皆様もご承知の通り,図書館の館種は,大きく分けて,国立国会図書館,公共図書館,学校図書館,大学図書館,専門図書館の5つに類別できる。専門書,雑誌などの資料類は,それぞれの館種向きのものが数多く刊行されている。私は大学卒業後,電機メーカーに就職し,企業内専門図書館に配属され,以後そこでの仕事に従事してきた。従って業務上の情報収集は,専門図書館,特に本誌を始めとする企業内専門図書館向きの資料を中心に行ってきた。図書館員は日常業務に追われているため,本稿をお読みいただいている皆様方の多くも,自分の図書館の館種,業務内容に沿った資料を中心に,情報収集を行っていると思う。その理由としては,それらの資料には,同様の悩みを持つ他館の事例が紹介されていることが多く,その情報を読むことにより,問題点の解決策,今後の指針などの示唆を得ることができるからである。また学・協会へ加盟する場合も,公共図書館ならば公共図書館向きの団体,大学図書館ならば大学図書館向きの団体に加盟することが多いため,この点からも入手,閲覧できる資料範囲は必然的に限定されていることが多い。

先程私は企業内専門図書館に勤務していたと記したが,その後,企業内専門図書館を研究対象とする研究者になるため,勤務先企業を退職し,現在は図書館情報メディア研究科を持つ大学院で学んでいる。当然ながらその大学院の図書館には,図書館や図書館情報学などに関する,ありとあらゆる資料が所蔵されている。そのため従来私が読むことができなかった他の館種向きの資料,自分が担当していなかった業務に関する資料も読むことが可能になった。その結果,今まで以上に視野を広げることができるようになった。現役の企業内専門図書館員であれば,図書館業務に大いに役立てることができたのにと残念に思う。しかし実際に図書館に勤務されている方々の多くは,このような機会を持つことは難しい。従って少し古いが,図書館,図書館情報学に関するいろいろな専門分野の論文,解説文を1冊にまとめている書籍を今回3冊ご紹介する。

『明日の図書館情報学を拓く:アーカイブズと図書館経営』高山正也先生退職記念論文集刊行会編 樹村房,2007年,5,250円(税込)
http://www.jusonbo.co.jp/kikan_shosai/01/kikan_shosai_01_15.html

本書は,元企業内専門図書館員であり,その後慶應義塾大学にて,企業などの図書館経営論,記録管理論(アーカイブズ論)を主な関心領域として教鞭を執られ,その後国立公文書館の館長となられた,高山正也先生の慶應義塾大学ご退職記念論文集である。内容としては,高山先生のアーカイブズ学に関する総論的内容と,情報サービス機関としての文書館活動に言及した論文を始め,記録管理論(アーカイブズ論)に関する5本の論文と,図書館経営・政策に関する8本の論文,高山先生との思い出などを綴ったエッセイ2本が収録されている。これらの論文を執筆された方々は,この分野において,現在第一線で活躍中の研究者の方が多く,これらの論文を一挙に読める。なお「論文集」というと,理論が中心であり,研究者ではない図書館員にとっては実務的に近づきがたいという印象があるだろう。実際私が以前企業内専門図書館員として勤務していた際には,この種の論文集は敬遠しがちであった。しかし本書に掲載されている論文は,原著論文ではなく,各テーマの動向を広く知ることができる解説論文が中心である。従って図書館実務に対しても,わかりやすいヒントが多く含まれており,企業内専門図書館員だけではなく,大学図書館員,公共図書館員などにも示唆に富む好指導書といえる。私自身に関して言えば,本書を現役の企業内専門図書館員時代に読む機会があれば,図書館運営,サービスなどに対して,もっと多面的な仕事ができたのにと残念に感じている。この点からも本書は図書館員としての視野を広げるのにお勧めの一冊といえる。

『図書館情報学の地平:50のキーワード』三浦逸雄監修 根本彰ほか編集 日本図書館協会,2005年,2,835円(税込)

本書は,図書館情報学を学んでいる学生,これから研究者を目指す大学院生などを対象に執筆された図書館情報学の入門書とのことである。従って本稿をお読みいただいている現役の図書館員の方は,関係のない書籍と思うかもしれない。しかし本書を実際に手にして読むと,図書館コンソーシアム,電子出版,情報リテラシーなど,むしろ図書館実務で話題,問題になっている用語を,「50のキーワード」として取り上げ,「今後の展開」まで見据えて論じ,実務解説書に近い内容であることが判る。刊行から多少時間がたっているため,「今後の展開」という内容は,「現代の状況」に置き換えて読むことも可能である。

本書の特徴としては,「メディア」「情報検索・情報処理」「学術・教育」「図書館」「社会」という5つのグループに内容を大分類し,さらに各グループの中をいくつかのサブグループに区分している。そしてそのサブグループの中に50のキーワードをあてはめ,各キーワードの内容を解説している。掲載内容は,概要紹介ということで,詳細説明は省かれている。従って簡単にそのキーワードの情報を入手したいという希望を持っている図書館員にとっては,便利な入門書といえる。一方詳しい情報を得たいという図書館員に対しては,各章末に「お勧めの一冊」(Webサイト上の情報源を含む)として,複数の資料紹介と,その資料に対する著者からのお勧め事項や簡単な内容紹介が付されている。このように本書は,図書館員がそれぞれの希望に応じて,視野を広げるために読むのには便利な1冊であるといえよう。

『図書館・情報学研究入門』三田図書館 情報学会編 勁草書房,2005年,2,835円(税込)
http://www.keisoshobo.co.jp/book/b26518.html

本書は,三田図書館・情報学会の学会誌『Library and Information Science』のNo.50 (2003)中の「文献紹介」を中心に,そこに収録されていた43項目に新規6項目を加え,49項目を収録している。各項目に対しては,研究上の特徴・動向・課題の説明,その課題に関する基本的な論文,主要研究論文,刊行当時の最新論文,展望論文などを紹介している。それぞれの項目は,内容ごとに,「図書館・情報学の位置づけと方法論」「メディア・読書・リテラシー」「情報組織化・情報検索」「学術・専門情報の流通と管理」「社会における図書館の意義と役割」の5つに区分されている。

図書館・情報学を学ぶ学部学生,司書・司書教諭課程の講習受講者,若手研究者だけではなく,図書館・情報サービスの実務家も対象にしているとのことである。従って本稿をお読みいただいている図書館員の方々の中にはすでにお読みの方も多いと思う。実際私自身も本書が出版された直後に,自分に興味のある項目を中心に読んでいる。ではなぜ今頃ご紹介するかというと,私は本書を折に触れて読み返すことがあるからである。多くの学・協会誌は,その時々の図書館界の話題について特集を組んでいる。その特集について深く知りたい場合,本書の該当項を読み返し,そこで紹介されている基本論文,主要研究論文を読むようにしている。このようなことは「日常の図書館実務には関係ない」と思われるかもしれないが,私が企業内専門図書館員として実務に携わっていた時から行っている情報収集行動である。私は,本書で紹介されている論文などから背景などを探り,そこから自分なりの解決策を導き出している。つまり私にとっては,本書は研究と実務をつなげるインターフェースとしての役割を果たす一種の指導書といえる。この意味からも本書を図書館員としての視野を広げる1冊として皆様にお勧めしたい。

執筆者略歴

小泉 真理(こいずみ まり)

大学卒業後,電機メーカーに就職。情報部門(企業内専門図書館)に配属され,以後従事。その間,専門図書館協議会の委員会活動で,企業などの専門図書館の各種状況調査,『専門情報機関総覧』の編集を担当。2008年,自社図書館の地方移転を機に退職。同年,筑波大学大学院博士前期課程に進学。現在は後期課程に在学中。

 
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