筆者は,2001年からキリンビール社技術開発部の情報調査担当として,また2012年からはキリンホールディングス社知的財産部においてキリングループ全体(医薬除く)に視野を拡大して情報調査および調査環境の整備を行ってきた。その取り組みは会社,部門の状況に応じて試行錯誤の連続であった。当初は調査担当者がほぼすべての調査を行っていたが,次第に調査担当者と研究者は調査の種類によって役割分担をすべきであることに気がついた。しかし,研究者に対する声掛けと説明会だけでは研究者による調査は浸透しなかった。そこで,調査担当者として,「情報調査とは本来誰がすべきなのか」そして「どのような調査環境を整える必要があるのか」などさまざまな取り組みをしてきた。現在進行形の取り組みをも含め紹介する。
キリン株式会社(以下「当社」)は,キリングループ長期経営構想「キリン・グループ・ビジョン2021」(略称:KV2021)実現に向けて,2013年1月1日スタートした。今後の国内綜合飲料事業の持続的な成長に向けて,当社と事業会社(キリンビール社,キリンビバレッジ社,メルシャン社)が一体となって「お客様にとっての価値の創造」「企業ブランドの価値向上」「CSV実践による競争力の向上」の好循環を生み出すことで,「ブランドを基軸とした経営」を実践していく。
「すべての企業活動の原点には『情報』がある。的確な現状認識が必要なことは当然であるが,将来動向,ライバル動向を知らずして戦略や行動計画を立てることは不可能である。『情報』を組織としてどのように収集・活用していくのか,これが企業の運命を大きく左右するといっても過言ではない1)」とも言われている。つまり企業目標達成のためには,「『情報』の効率・効果的収集,分析」が必須であるということである。
われわれ情報調査担当者は「『情報』の効率・効果的収集,分析」のため「情報調査とは本来誰がすべきなのか」そして「どのような調査環境を整える必要があるのか」など検討してきた。ただし,この報告は現在進行形の試行錯誤の取り組みについてであり,決して成功物語ではない。
本報告は,以下の3つを前提に読んでいただきたい。
2000年以前の当社は,主に特許室が特許情報調査,研究所は文献調査をしていた。研究所での特許調査は,特許室から回覧されてくる,もしくは特許室にプリントアウトを依頼して送付されてくる紙文書をチェックする程度であった。特許に関する情報源は展示会,原材料メーカー・その取引先からのものがほとんどであった。
2001年にキリンビール社技術開発部の組織再編成があり,容器・工程の研究所において情報調査機能の充実を図った。「研究開発に資する情報とは何か,そしてどのようにさまざまなデータを収集・分析・加工・評価し,有効に研究開発に活かすことができるのか」を追い求めるために,「情報チーム」を立ち上げた。
酒類の研究所は特許出願より学会発表が念頭にあった。特許調査と違って文献調査を研究者が自ら行うことが当然として実施されていた。以降5年ほどはこの状態が続いた。
筆者は容器・工程の研究所において,情報チームのひとつの役割として,発明考案届出書を特許室に提出するまでの研究所内での支援業務を担当し,その一環として特許調査の役割を担った。筆者の知財情報調査に関する取り組みはここから始まった。自らの取り組みをもとに紹介するので,繰り返しになるが当時のキリンビール社全体の取り組みを紹介するものではないことをご理解いただきたい。逆に,全体を取りまとめる担当者もいなければ,互いに取り組みを共有化する場もなかったことから,当時の当社全体の取り組みを知る者はいないのである。
2001年に情報チームが立ち上がって以降,特許は出願するが特許調査を自らの研究所内で行うことのなかった容器・工程の研究所において,情報チームが情報調査実施・報告を担い始めた。当時の特許室は研究所から依頼されたら特許調査をするが,自ら提案して特許調査をすることはまれであった。研究者も開発前・開発中の研究テーマにおいても十分情報調査をしていないことも多かった。
情報調査を充実させるに当たり,まず行ったのが2点。「発明考案届出書提出時の調査100%実施」,「開発前・開発中(以後「開発前・中」)での先行技術調査環境整備」であった。
「情報調査報告書」書式を整備し,発明考案届出書に添付して特許室へ提出することを励行した。バラバラだった報告形式,報告ルートを統一することで確実に情報調査が発明考案届出時になされることだけでなく,その調査のできばえも格段に向上させることができた。
当時は特許調査費用が安価になってきたとはいえ,複数のIDを大人数で利用する環境にはなかったので,一般研究者は便利とは言いがたかった特許庁の特許電子図書館(IPDL)(以下,IPDL)を利用し,情報調査担当が商用特許データベースを利用することにした。それに伴い,複数の商用特許データベースを最低限のID数で契約した。
研究者が情報調査担当メンバーに調査を依頼しやすいように,「調査依頼書」書式を整備した。当時は口頭での調査依頼が多く,「調査依頼内容不明確」「いつの間にか依頼内容が変わっている」「調査依頼元,情報調査担当リーダーの両方が,メンバーが何を調査したいのか,調査しているのかわからない」「優先順位が違う」などさまざまな問題があった。「調査依頼書」書式の整備によって,それらがある程度解決できた。
また,「調査依頼書」をもとに相談会を実施して内容を確認し,調査方針を明確に立てることができるようになった。そして,依頼を受けてから時間が経ってしまった調査依頼についても,フォロー相談会を実施することで,研究者の情報調査ニーズの変化にも的確に対応することができるようになった。
2000年半ばから2010年の少し前まで,情報調査担当者は単なる調査業務請負の位置付けであった。「依頼されたらなんでもやります」「調査のスピード,品質をどんどん向上させます」ということで,ほとんど研究者の調査代行だけに取り組んでいた。
この時期は調査スピード,品質を向上させるために以下の2点について取り組んだ(筆者は2005年から2008年の3年間,別の部署に異動したため,以下は2008年に同じ部署に戻ってからの筆者の取り組みを紹介する)。
5.1 調査スピードのアップ2008年頃,情報調査担当者の1件あたり平均の所要日数は「44日」であった。これでは調査依頼者が「自分が何を依頼したのか忘れてしまう」ほどで,1年以内に「5日」にしようと目標を立ててから,約半年で達成をした(表1)。
調査期間が長かった理由 | 対応策 |
---|---|
情報調査担当者の調査スキル,技術知識レベルが低い。特に毎回技術内容を理解するのに時間がかかっていた。 | 毎週,情報調査担当の勉強会を行い,実際の調査結果報告を事例として,皆でその調査方針の妥当性および改善点について議論した。また,技術知識は研究員に頼んで実際に機器,機械に情報調査担当者が触れられるようにした。 |
調査記録,特に,全ての調査検索式と検索件数を覚えとしてエクセルに落としていた。 | 使用している商用データベースが過去の検索式を50個までしか登録できないので,幾つか調査が重なった場合,情報調査担当者はエクセルに落としているとのことであった。重要な検索式だけ控えを取ることにした。 |
調査の時間がかかりすぎていたので,研究員から追加の調査依頼があることが多く,いつまでもまとめられない。 | そもそも調査期間が短ければ解決するはずであるので手を打たなかった。 |
調査リーダーが調査業務を知らず,情報調査担当者任せでそもそも調査にかかる日数が長いことについて問題視していない。 | 調査依頼書を受領した時に,まず調査方針,納期を情報調査担当者と確認し調査をスタートさせる。事あるごとに,進捗状況,困っていることはないか声掛けをし,助言する。 |
当時の情報調査担当者はシャイで研究者に遠慮がちな雰囲気があった。調査依頼を受けても,その技術内容についてわからない場合,特許明細書を読んだり,ホームページを読んだり自助努力で理解しようとすることが多かった。そこで「わからなければ,にこにこして技術内容を何度でも聞きに行くこと」と情報調査担当者に指示した。その結果1年も経たないうちに,情報調査担当者が解決手段を提案し,発明者になるくらい提案ができるまでになった。情報調査担当者が研究者と一体感を感じ始め,事あるごとに遠慮なく相談しあうようになった。
また,情報調査担当者が自己満足な調査をしていないか,お客様である研究者は私たちの調査結果をどのように受け取ってくれたのかを真摯に顧みて受け止め今後の改善につなげようと,調査依頼書に研究者へのアンケートをつけた。品質満足度,納期満足度,そのほかコメントを調査報告後に情報調査担当者が調査依頼者に直接確認することにした。それを一過性のものとせず定期的にまとめて改善に活かそうとし,現在も続けている。
このような取り組みの中で,情報調査担当者の調査品質,スピードは格段に向上し,当時私たち情報調査担当者は,調査依頼者にも特許室のメンバーにも感謝され,非常に充実感を感じていた。しかし,次第に調査は本当にわれわれが何でもやってよいのかという疑問がわき,以下3点で悩むようになった。
当時の情報調査における研究開発,知財,調査の役割分担を図1に示す。
図1において,実際は研究開発,知的財産作業,情報調査・分析はそれぞれ関連し,また順序も入り組んでいるので単純化は難しいがあえて表した。また,同図中,調査名称,難易度,重要度は参考文献2)を参考にした。図2も同じである。
ちょうどその頃,「戦略的な知的財産管理に向けて3)」を読み,先行技術はやはり研究者が行うべきであるということに確信を持った。
開発前・中における先行技術調査については,研究者が自らできるように,調査方法についての集合研修を行い,その中で研究者が調査することの必要性を説明した。また特許室の行っているグループ全社対象のIPDL使用研修に研究者を多数参加させた。そして,IPDLに検索方法が似ていて,検索画面がわかりやすく,かつ種々の機能が付いている商用データベースを契約し,研究者がいつでも利用できるように多数のIDを取得した。また,技術開発部への新転入者に対して,半日の知財導入教育を行い,その中に2時間の調査方法の研修を入れた。
ところが,いつまでたっても開発前・中の先行技術調査の調査依頼数が減ることはなかったのである。研究者に,なぜ自分でやらないのか聞いたところ下記4つの理由が挙がった。
③,④の理由であれば,情報調査担当者は支援できるところであるが,①,②の理由は信じがたいものであった。
①はそもそも利用しないからアドレスを忘れるのであり,かつ「お気に入り」に登録していればこのようなことは発生しない。②は研究所で複数のIDを持っていたので,どのIDを使えばよいのかわからなくなることも,また情報セキュリティの観点からデスクやパソコンにID,パスワードの控えを貼っておくことが禁じられていたので,ID,パスワードへのアクセスが以前より楽ではなくなったことも理解できた。ただ,これもID,パスワードをしっかり控えていればよいだけなのだ。しかし,言い訳とわかっていても,それを解決することは大切なことと思われ,①~④を解決できる環境整備をすることとした。もうひとつ,理由の番外に「依頼すれば調査して報告してくれる」というものがあったが,これを制限することは検討しなかった。
使わない理由として挙げられた①~④を解決するには,インハウス(社内)サーバー設置型の調査データベースの導入が考えられた。しかし当時のインハウス型の調査データベースは比較的高価であり,かつ情報調査担当者が使用したことがないものがほとんどであった。唯一,すでに情報調査担当者が利用しているJ社システムのインハウスサーバー設置型であれば安価で,かつ情報調査担当者が混乱なく乗り換え可能であると思われ候補とした(表2)。
課題 | 調査が出来ない理由 | J社システム | C社他 |
---|---|---|---|
① | 調査データベースのアドレスを忘れる。 | デスクトップにアイコン | お気に入りに入れておけばアクセスできる。 |
② | ID,パスワードを忘れる。 | ID,パスワードは不要 | ID,パスワードは必要だが,通常は一度使用するとパソコン側で覚えている。複数IDで使い勝手悪い。 |
③ | 検索式をどのように立てればよいのか不安。 | 全IDで過去の式の共有化が可能 | ID毎に過去の検索式の共有化可能。異なるID間で検索式の共有化困難。 |
④ | 検索結果が多すぎて読みきれない。 | SDI等で過去に評価した重要な特許を表示 | 過去の自社評価を利用できない。 |
J社のインハウスサーバー設置型システムを導入することで,研究,知財,調査の各担当者のパソコンのデスクトップ上にショートカットアイコンを表示させることとした。また,ID,パスワードを不要とすることでID,パスワードの個人管理も不要とした。各自パソコンのデスクトップ上に表示されているショートカットアイコンをクリックすれば,調査データベースに直接アクセスできるようになった。
7.2 課題③の解決に向けた取り組み課題③が悩ましかったが,検索式をどのように立てればよいのかについて,検索式の立て方など集合教育だけでは実現できないことを下記3点で実現しようとした。「検索式入力作業の容易化」,「よく使う検索式の共有化」,そして「比較的高度な検索式の共有化」である。
(1) 検索式入力作業の容易化さまざまな商用データベースがある中で,やはり研究者が比較的慣れているIPDLに近い検索画面があるものを選んだ。なおよかったのは情報調査担当者向けの検索画面も相互利用できるものだったことである。
(2) よく使う検索式の共有化よく使う検索式を共有化することでいわゆる検索ナレッジの再利用が図れる。一般の商用データベースはIDが同じであれば検索式が共有できるが,ひとつのIDで多人数の検索をすることは現実的に難しいことが想定できた。J社インハウスサーバー設置型システムは,複数人が同時にデータベースを使用してもこのようなよく使う検索式を共用することができるものであった。情報調査担当者が研究者がよく使うであろう検索式を登録することで研究者はそれを利用することができ,かつ情報調査担当者,知財担当者も利用することができて便利なツールであった。
検索式に解説を記載することができるので,式の意味,目的,注意書き等を読むことで,次の検索式立式が効率効果的に行われることが期待できた。
(3) 比較的高度な検索式の共有化上述した検索式一覧には多くの検索式を保存しても,それらを検索することができないので有効利用することが難しいと考えられた。そこで,過去の情報調査担当が行った検索結果をエクセルでまとめ,研究者,知財担当者に公開することにした。調査をしたい人はエクセル上でワード検索をし,自分のしたい検索に近い過去の調査報告を探せばよい。またここには調査結果だけではなく,検索式リンクを張ることで,簡単にJ社システム上で検索式を再現し,それを再利用できるようにした。
7.3 課題④の解決に向けた取り組み「検索結果が多すぎて読めない」と研究者が困っている場合,「追加式を工夫して検索結果を適当な数にしてください」とアドバイスするのは,当社においては危険なことと思われた。そこで,検索した結果,多数の特許を確認する必要が生じた場合,重要なものから優先して確認,評価することが調査効率を上げることに寄与するのではと思った。実際のJ社システム画面では「検索結果一覧」には重要度の表示は出てこないが,画面を切り替え,「検索結果一覧(コメント)」のいわゆる第2画面にすると重要度を確認することができる。あらかじめ,SDIや普段の調査にて重要度,社内分類を注目する特許に付けておくことによって,重要度の高い特許をソートし,それから重要度順にチェックすることで研究者の調査効率を上げることができるのではと考えた。
「検索結果が多すぎて読みきれない」についてSDI業務も情報調査担当者にかつて依頼されたが,これだけは「研究者の皆さんは自分に関係ない情報が多いから新聞を読むのをやめようと思いますか? 自分に関係がある情報があるかないかが購読動機であるはず。私たちにとって重要な情報をいち早く仕入れ研究に応用するのは当たり前と思っているでしょう。そして,ついでに読んだニュースが後で役立った経験もお持ちではないでしょうか。SDIは技術新聞と思って楽しんで読んで欲しい。そのかわりゴミ情報は減らすように情報調査担当と一緒に取り組みましょう」と説得したのを覚えている。
最適調査システムを導入し,検索研修を充実させると研究者は自ら進んで調査を開始するかというと残念ながら,そのようなメンバーは当社では少ないのが実態である。そこで違う視点から2つの工夫をした。
8.1 特許を読む機会を増やし,特許調査に対しハードルを下げるSDI評価は個人作業となる調査システムが多く,集団で同じSDI式に基づき特許評価をすることができる調査システムはほとんど見かけられない。当社は集団SDIをいくつかの研究所で行っており,紙に打ち出し回覧する,もしくは担当者が一次的にスクリーニングしたものをメールで研究者に共有化するという方法を5年ほど前から導入している。これは,SDI作業を的確にするという目的以外に,紙回覧には評価も書いてもらっていたので,他人の評価も参考にすることができるということ,自分の技術範囲より少し広い範囲のSDI情報を評価することで,研究者の技術的視野を強制的に拡大することを目的としていた。SDI作業は,「特許を読む機会を増やし,特許調査に対しハードルを下げる」目標にかなったものであると思われた。ただし,紙回覧は①回覧時間がかかる,②いつの間にか行方不明になってしまう,③記録を残すのに電子化しなければならない,④確認したいときに確認できないなど,不便な点があった。
そこで,SDI・ウオッチングのシステム化を検討した。しかし,既存のシステムには当社の希望するものはなく,仕方なくI社に依頼してI社システムをカスタマイズすることでキリン社の希望する「集団SDI・ウオッチングシステム」を実現することにした。導入したばかりで,まだまだ当社の思い通りにはなっていないが,利用者は倍増した。よかった点は下記のとおりである。
当社研究所では「先行技術調査は研究者がすべき」について異論を挟まれることはほとんどなくなってきたが,実際には調査依頼を情報調査担当者にすることはあっても,自分で実施することは未だに多くない。そこで,2013年から「調査相談会」を立ち上げた。
「調査相談会」の名称は,実態を十分表していないので改善したいと思っているが,「調査相談会」は「先行技術調査を研究者が依頼してきたときに,情報調査担当者が今までのように単に調査報告するのではなく,その依頼内容を題材として,研究者に対してマンツーマンで調査を一緒にやってみせるという取り組み」とした。ただし,最初から難しい調査の内容を話してもわからないと思われ,相手に合わせた調査マンツーマン教育をすることにした。
まず情報調査担当者が研究者と再確認すべきことは,「先行技術調査を研究者が自ら行うことは,とても大切なことである」「不明・不安なことはいつでも情報調査担当者がサポートする」ということである。
そして,インハウスサーバー設置型調査システムのショートカットアイコンをデスクトップ上に作成することから大体はスタートする。異動時の導入教育や,このような作成方法などは後日のメール配信で研究者に周知しているが,恥ずかしながら大半が作成しておらず,そのようなメールがきたことも曖昧になっているのが現実であった。
情報調査担当者の中には,異動時導入教育資料において調査方法についても微に入り細に入り,情報調査担当者から見ても勉強になるような何十枚もの資料を作成するメンバーがいる。「情報調査担当者として完璧な異動時導入教育ができた」と自己満足しているが,現実は,ショートカットアイコンすら作成していないのであった。
何度も調査マンツーマン教育をすることで,研究者も「調査ってこうやってやるんだ。自分でもこれならできるかも」と思ってもらい,「欲しいと思っていた文献がヒットした」という経験をしてもらえれば,その研究者は自ら調査を始め,かつわからないところを情報調査担当者に聞いてくることで,どんどん調査レベルが向上してくるであろうと期待している。
すでに何人もの研究者が自ら調査をすることを始めており,情報調査担当者に対して彼らから聞いてくる内容もだんだん高度になってきており頼もしく感じている。
「特許情報調査は誰がすべきか,どのようにすべきか」を念頭に取り組んできた。そのタイミング,社内外・部内外の環境条件(研究者の研究開発への成熟度,情報調査担当者の質・量)などで,そのとき最善と思われることを行ってきたと思う。一方,特許情報調査の先進企業といわれる会社の特許情報調査体制について見聞きするたび,うらやましくもあり,焦りを感じたりもする。
しかし,その会社,部門に適応した特許情報調査体制の「ありたい姿」を描くべきであり,また,その「ありたい姿」に近づける努力をする必要はあるが,その実現を急ぎすぎるのも,また「ありたい姿」と現実とのギャップが大きすぎ「無理」とあきらめるのもよくないのではないかと思う。そのギャップをどのように埋めていくかのロードマップをしっかり描き進めていくことが大切である。したがって,筆者の報告の最終章に世の中の常識としての「特許情報調査は誰がすべきか」の回答ではなく,図2に現状を踏まえた当社としての「ありたい姿」を記す。図1と比較していただきたい。
最初にも記述したが,本稿は取り組み内容について成功事例として閉じておらず取り組みが現在進行形である。2011年末に,筆者がキリンビール社技術開発部からキリンホールディングス社知的財産部に異動し,知的財産部に実質上,情報調査担当が立ち上がった。2013年1月よりキリンビール社技術開発部の情報調査担当をキリン社知的財産部に情報調査担当として合流させ,キリングループ(医薬除く)の情報調査担当として立ち上げたばかりである。このように弊社グループはこの5年間で非常に大きく会社,組織が変わった中で「調査とはどうあるべきか」を中心に激動する環境変化に対応すべく取り組んできた。読者皆様の何らかの参考になれば幸いである。