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研究・実務に役立つ!リーガル・リサーチ入門 第13回 外国法情報の世界
岩隈 道洋
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2013 年 56 巻 7 号 p. 459-467

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1. 外国法:「数字」と「英語」で共通化できない世界

1.1 外国法情報リサーチの難しさ

法律以外の分野においても,実務,学術,報道,あるいは趣味といったさまざまな関心事に応えるため,外国の調査対象に関するリサーチを行うことは,決して珍しいことではない。特に,定量的なデータを主に扱う自然科学や工学,経済などの分野においては,情報の生成や分析の方法がエビデンス注1)ベースで行われるため,世界中どこでも共通の知識に基づいたフォーマットで資料収集と分析とを進めることが可能である。その成果の多くは,英語により発信され,世界中の関係者が触れることが容易となる。

しかし,法情報の分野は,国際法の分野を除き,このような国際的な共通基盤に立った情報流通が難しい側面がある。それは,法制度が各国の統治機構によって,各国語によって書かれ,各国の歴史的,文化的背景の中で適用されるからである。データは法令や判例といった,各国語の文章で書き表された定性性の著しく際立ったものが中心となる。調査の課題によっては,翻訳や記号化によって削ぎ落とされる文化的ノイズのような情報が,実は重要な意味を持つ場合もある。リサーチを進めるうえで,日本の情報と他国の情報とを共通基盤で調査し,リサーチの負荷を軽減することが難しい分野といえる。

1.2 統治機構の知識

各国の法情報は,制度的にそれぞれの国の統治機構の活動によって生成されるものであり,それら各国の統治機構は,それぞれ異なった形態を取っている注2)。例えば法令1つを取ってみても,本連載の第1~3回1)2)3)でも述べたように,国のどの機関が制定した法令であるかという事実は,その法令の効力の適用範囲や強さに直結している。そのため,調査対象国ごとに,調査をしたい法令にアクセスする前に,その法令がいかなる機関のいかなる手続きによって制定されているのかという情報も併せて入手しておく必要がある。

例えば,米国は連邦制(後述)を採用しているため,特許法は連邦議会が制定した米国全体で適用される法律が存在しているが,民法は連邦議会が制定した米国全体で適用される法律が存在せず,各州の判例や法律を見ないと内容が分からない。

判例についても,裁判所の仕組みが日本と異なる国が多く,各国の訴訟手続の特徴について概略を知っておくことが,判例を調査する前の前提知識として有用である。

1.3 法文化の知識

法律用語は,各国の公用語によって記述されている。さらに,法制度を支える考え方も,各国の歴史的・経済的・文化的背景に全面的な影響を受けている(このような法の背景のことを,以下では法文化と呼ぶことにする)。したがって,ある国の法律で使用されている用語が,他国法ではさらに細分化されていたり,逆にそもそも存在していなかったりという場合もあり得るのである。

例えば,日本の刑法では意図的に他人の生命を停止させる行為はすべて「殺人」という1つの構成要件に入れる。しかし,多くの米国内の州法では,計画的に殺した場合の「謀殺(murder)」と無計画で衝動的に殺した場合の「故殺(manslaughter)」の2つの構成要件に分けている。また,同じく米国では,かつてフランスの植民地であったルイジアナ州を除いたすべての州において,民法典が議会の制定した法律としては存在しておらず,契約や不法行為に関する実体法は主に各州の判例法によって形成されている。

つまり,「米国の殺人罪は日本より刑罰が重いか?」「米国の民法典を見たいんだけど」という質問には,そのままでは調査も回答も不可能ということになる。このような場合は特に,英語から日本語に,またはその国の公用語から英語に翻訳された法情報に,安易に頼ることが制度に対する誤解を生む場合もある。

さらに,近代以降の法制度は,各国が互いに他国との外交を繰り広げる中で,他国の法制度の考え方と自国の法文化をそれぞれのやり方で混成してきた国も多く,このような国の場合,併せて影響を強く受けた他国の法制度に関する知識も必要とされる場合が出てくる。

このように,各国で法的な問題を記述し,表現する言葉や理解の枠組み(法文化)が互いに異なっていることは,外国法のリーガル・リサーチを進めるうえで,特に留意しておかなければならないポイントである。

1.4 「予習」のすすめ:制度と文化の背景理解

このようなことを述べてくると,外国法情報関連のリサーチは,ひどく難しく,手間のかかるものと思われるであろう。実際,外国での訴訟や行政処分に関わった場合,その国では外国人である日本人にとって,自分が置かれた法的状況を正確に知ることすら困難となる。もはや時間的猶予もない場合,その国の弁護士をはじめとする法律専門家に,関連するリーガル・リサーチと手続きの進行を依頼するしかない。

一方で,「報道された外国の法的動向についてもっと正確に知りたい」,「外国でも自社製品の特許権を取得したい」,「国際結婚するためにどんな手続きが必要か」といった個別の法的関心に応えるために,日本語や英語などで専門家,あるいは非専門家向けに書かれた書籍もかなりの数刊行されており,ある程度の調査は自力で可能な場合もあろう。しかし,上述したように,各国の法制度は,それぞれの国の言語で記述された,統治機構と法文化の組み合わさった巨大なシステムである。個別の法的問題は,そのシステムの文脈の中に位置付けることで,より正確に理解できる。

以下,本稿では,わが国と関係が深いが,わが国と際立って異なるいくつかの代表的な統治機構と法文化の特徴を紹介する。個別の外国や国家連合の法情報調査の対象と方法については,あと2回の連載で取り扱う。

2. 統治機構

2.1 連邦制

日本は,東京の中央政府(国会・内閣・最高裁判所)が国家全体の統治権と対外的な代表権(主権)を有する単一国家という形態の国家体制を採用している注3)。これに対し,米国は,Washington D.C.にある連邦政府(連邦議会・合衆国大統領・連邦最高裁判所)が国家を対外的に代表する権限を中心として,合衆国憲法に定められた軍事・外交・貿易などいくつかの権限(この中には,知的財産に関する立法権や司法権を含む)だけを有しており,他の国家統治権は州に属している。このように,複数の国家が合体して,共通処理した方がよい,限られた権限だけを憲法によって連邦政府に移譲し,残りの権限については州(支邦)が国家として活動する形態の国家を連邦国家と呼ぶ注4)

連邦国家においては,国レベルの法律でも,憲法で連邦に委ねられた範囲については連邦議会が立法し,連邦裁判所が裁判を行う。連邦に移譲された権限を除いた大部分の権限に関する法律は州の議会が制定し,州法は州の裁判所において適用され,判例法もまた州の裁判所によって形成される。このように,法の制定(議会)と適用(裁判所)が行われる空間が,複数並立する。このような空間を「法域(jurisdiction)」と呼ぶ注5)。象徴的に言えば,米国には法域の数だけ,すなわち51(50州+連邦)の最高裁判所が存在することになる。

2.2 国家連合

欧州連合(EU)のように,条約によって加盟国の主権を一定範囲で地域的国際機構に移譲するが,対外的な主権は各国が留保し,機構は国家とならない連合体が存在する注6)。このような連邦より緩やかな連合体を広く国家連合と呼ぶ。国家連合の中には,いわゆる国際法とも,また加盟国の国内法とも異なる,独自の立法・司法システムを保持しているものもある。日本との関連性に鑑みると,そのような国家連合の法として最も重要なものはやはりEU法注7)であろう。

EU法は,加盟国がEU(および関連諸機関)を設立する条約である第一次法源と,それら条約によって設立された機関が制定し,加盟国民または加盟国に対して強制力を持ちうる第二次法源に分類される。

第一次法源は,EUにおいて連合の組織体を記述し,また法の効力の段階を決定する。国内法になぞらえて言えば,憲法に近い機能を持つ。実務的には,EUの諸機関による立法や決定に不服のある当事者が,EUを訴追する場合などに参照される。

第二次法源は,条約によって設立された立法機関である欧州議会・欧州理事会・欧州委員会によって制定される法である。制定手続は,制定する法の対象とする政策分野に応じて複数存在するが,最も標準的な制定過程は,欧州委員会(EUの行政官僚組織)が提案した法案を,欧州議会と欧州理事会(加盟国の閣僚会議)がそれぞれ審議し,共同で採択した場合に成立する注8)。成立した法令は,規則・指令・決定の3種類に分類される。

規則(Regulation)とは,上記の手続きにより制定された法のうち,EU加盟国の国民に対して,一般的に権利義務関係や法的地位の変動などの直接的な拘束力を及ぼす力を持つものを指す。国内の法律と同じように,EU市民に対して直接的効力を持つ点が特徴となる。

指令(Directive)とは,上記の手続きにより制定された法のうち,EUの加盟国政府を拘束する力を持つものを指す。EUが示す政策目標と実施期限が定められ,その達成のための手段(国内立法措置など)は,加盟国の憲法に基づき,加盟国の議会や政府に委ねられる。

決定(Decision)とは,上記の手続きにより制定された法のうち,特定の名宛人(加盟国または個人もしくは法人)に対し,直接的な拘束力を及ぼす力を持つもので,国内法と比較すると,法令というよりは行政処分に近いものである。

この他に,同様の手続きで勧告(Recommendation)または意見(Opinion)が発せられる場合があるが,原則として,これらには法的拘束力がない。

これらEU法の適用と解釈をめぐる紛争において,その結論を統一的に運用するため,欧州司法裁判所(Court of Justice of the European Union)が設置され,紛争解決に当たっている。したがって,EU法が関わる法分野については,加盟各国の判例と,欧州司法裁判所の判例を併せて調査しなければならない場合もある注9)

2.3 国際機構

外国の法制度とは言えないが,国際連合や国際司法裁判所,世界貿易機関(WTO)のように,条約によって設立された国際機構の中には,独自の立法形式や紛争解決システムを持っているものも少なくない注10)。リサーチの対象によっては,これら国際機構の法的枠組の調査が必要となる場合もあろう。

2.4 牴触法と準拠法

刑事法や行政法といった公法的な分野においては,たとえ事件が国境を越えて発生したとしても,その法執行が直接的な国家権力の行使となるため,関係国同士で特別の国際法的な取り決めがない限りは,自国の国境外において取締を行うことができない。一方,取引や損害賠償,家族関係の問題の処理のために民事法的な分野が用いられる場合,外国において日本法が,あるいは日本において外国法が,それぞれ適用できる場合がある。このように,国境を越えて発生した事件に対して適用するべき国の法律を決定するためのルールを牴触(ていしょく)法(Conflict of Laws)または国際私法(Private International Law)と呼ぶ。日本では,「法の適用に関する通則法」という法律において,この牴触法のルールが規定されている注11)。例えば,フランス人が死亡した場合,同法第三十六条には,「相続は,被相続人の本国法による」と定められており,相続に関してはフランス法が適用されることになる。牴触法によりここで選択されたフランス法を,この事件の準拠法(Applicable Law)と呼ぶ。

2.5 国際裁判管轄

また,裁判をどこの国の裁判所で行うかということも問題となる。この問題については,一部の国同士では条約によって国際的な裁判管轄のルールを決めている場合もあるが,日本はそういった条約を締結しておらず,民事訴訟法に国際裁判管轄に関するルールを定めている。例えば,同法第三条の三第一項第十二号によると,「相続開始の時における被相続人の住所が日本国内にあるとき」には日本の裁判所に訴えを提起することができるという規定となっている。上記の事例に当てはめてみると,このフランス人(被相続人)が,死亡時に日本国内に住所があった場合,相続人は日本の裁判所に相続に関する訴えを提起することができる。しかし,準拠法はフランス法となる。

このように,外国の裁判制度の中において,日本法が適用され,あるいは日本の裁判所で外国法が適用される場合があることに留意しておきたい。

ビジネス法務で,外国企業と契約するような場合には,上記のような牴触法と国際裁判管轄のルールの煩わしさを回避するために,あらかじめ契約条項の中に,準拠法と合意管轄裁判所を明記しておくことが一般的である。契約に示された当事者の合意による準拠法と管轄裁判所の選択があれば,原則としてその合意が各国の牴触法や裁判管轄の規定に優先して適用される(法の適用に関する通則法第七条,民事訴訟法第三条の七第一項)。

3. 法文化注13)

3.1 大陸法文化圏

日本は明治時代にフランスやドイツの法制度を導入し,法制度の近代化を図った注14)。これらの国は,社会で発生しうる紛争を予測し,その解決のためにあらかじめ用意された法規範を,法令の条文(制定法)の形に書き表し,これらの条文こそが国法の中心である,という考え方の下に法制度が運用されている。古代ローマの市民法大全(Corpus Iuris Civilis)に由来注15)する,この法文化が主流となっている国々を指して,大陸法文化圏(Civil Law Tradition)と呼ぶ注16)。この法文化の下では,判例は制定法の有力な解釈の一例(実際の紛争解決力を持つことから「有権解釈」とも呼ばれる)として取り扱われる。

結果として,大陸法文化圏においては,あらゆる紛争を「想定済み」にするために,民法や刑法を中心とする実体法が精緻かつ抽象的に構築されるようになり,大学で六法を片手に条文解釈を訓練された裁判官を中心とする学識者的法曹が法の担い手となった。

そのため,大陸法文化圏においては,法的文書の起案や,法情報の調査の際には,実際に読む順番はさておき,

法令(制定法) → 判例・学説 → 結論

という思考の流れを念頭に置いておかないと,資料の収集に苦労する上,論理的に整合性のある調査結果をまとめることができない。

3.2 英米法文化圏

一方,イギリスと,米国やカナダ・オーストラリアに代表される,かつてその植民地であった地域では,イギリス流の,過去に自分の祖先たちが積み重ねてきた法的慣習や,判例の集積(Common Law)こそが国法の中心である,という考え方の下に法制度が運用されている。この法文化が主流となっている国を指して,英米法文化圏(Common Law Tradition)と呼ぶ注17)。この法文化の下では,古来の判例集積=判例法が答えを出しきれない分野や,議会で判例法を積極的に変更するという議決を経た場合に限り,法律が制定される。

英米法文化圏では,具体的な事案を判例法へと公正かつ着実に落とし込んでゆくために,民事訴訟法や刑事訴訟法を中心とする手続法が整備され,裁判における当事者の主張をぶつけ合う弁論や証拠調べの仕組みが整えられ,裁判の現場に近いところで養成される弁護士を中心とする職業弁論家的法曹が法の担い手となった。

そのため,英米法文化圏においては,

判例 → 法令(関係のものがあれば)・学説 → 結論

という思考の流れを念頭に置いておかないと,やはり資料の収集に困難を極め,さらには本件に適用されたはずの法の姿を正確につかむことができない。

3.3 大陸法と英米法の差異と融合

先に3章の1節と2節において述べた法律概念や用語のズレは,両法文化圏をまたいで法令や判例の調査を行うと顕著に表れるが,その理由も,

  • •   大陸法文化圏 = 実体法中心・学問的に体系化,抽象化された法令を重視
  • •   英米法文化圏 = 手続法中心・具体的事件から抽出された判例法を重視

という法文化史的背景に起因する。

一方で,現代においては,それぞれの法文化圏相互間の経済取引も盛んに行われており,また人や物の移動スピードの加速やインターネットの登場などの技術革新による社会の変化に,どの国も法的な対応を迫られていることは言うまでもない。

そこで,大陸法文化圏では議会の立法では即応できないと考えられる場面において,従来よりも判例による法創造の意義を重視する傾向が出てきており,英米法文化圏においても古来の判例集積では対応ができない社会の変化に対応するために制定法が数多く制定されるようになっている。また,日本法は現在,特に憲法・訴訟法および会社法の分野について米国法の影響を受けており,英米法と大陸法のハイブリッドだと言われることもある注18)

このように,両法文化圏は実質的・機能的には大きく歩み寄っているということができるが,法情報を調査する際には,依然として大陸法文化圏においては法令集が,英米法文化圏においては判例集が,それぞれ法的議論を構築するうえでの出発点になっていることに留意しなければならない。

3.4 その他の法文化

大陸法と英米法は,共にヨーロッパ起源の法文化であるが,近代化の過程の中で「法の継受」が大規模に行われ,わが国を始め,非欧米圏の国々の法制度にも多大な影響を与えている。一方で,紙幅も限られているため詳述はできないが,地球上にはその他にも社会主義(権威主義)法文化圏(単独の政党・政治家による法政策の指導に特徴)注19)・イスラーム法文化圏(宗教規範とその学説が法源となる点に特徴)注20)などの大きな法文化圏が存在する。また,家族法や土地法など,一部の分野において,地域的な文化に根差した慣習法・固有法が法的効力を認められている国も少なくない。調査対象となる法現象や実務の相手方によっては,これらの法文化圏の法情報が必要となる場合もあろう注21)

4. 外国法リーガル・リサーチの情報源

外国法情報の調査において,調査対象となる法令・判例・学説に触れる前に押さえておいた方がよい統治機構および法文化についてここまで説明してきた。しかし,これらについての認識は,より正確なリサーチを行うための一種の基礎体力あるいは教養とでもいうべきものであって,現場におけるリサーチに今すぐ役に立つ知識とは言えないかもしれない。そこで,最後に,これらの知識を実際のリサーチに役立てるための橋渡しとなる情報源を紹介しておきたい。

各国の法情報へのアクセス状況は,国によりだいぶ異なる。本稿で重点的に取り上げた欧米諸国においては,すでに政府または民間企業・NPO等による法情報のデータベース(DB)化が進んでおり,実務および研究の面において,日本の法情報に比べると電子的方法でのリーガル・リサーチが遥かに容易であるといえよう。

しかし,国によっては電子化された法情報に偏りが見られ,充実した法情報を入手しようと思っても高額な商用法律DBへのアクセスを要する場合もある。また,電子化の進んでいない国や地域の法情報のアクセスにおいては,依然として紙媒体の法情報の入手が必要な場合もある。

そこで,網羅的に各国の法情報の所在や提供形態が一覧できるハンドブック的な資料あるいはポータルサイトがあると便利であろう。ここでは,読者の便宜を考え,そのような資料およびWebサイトをいくつかお示しする。

  • <外国法のリーガル・リサーチの手引き>

  • •   The Bluebook - A Uniform System of Citations Harvard Law Review Association https://www.legalbluebook.com/

ハーバード・ロースクールにおいて紀要を編集する際の法令・判例用語や法資料の引用ルールを定めた,論文執筆用のルールブック(英文)である。米国の法律関連文献はもちろん,巻末にかなり簡潔ではあるが網羅的な,世界各国の法令の仕組みや法資料とその引用記号についての解説が掲載されており,リサーチ用のハンドブックとしても活用できる。上記Webサイトからオンライン版および紙媒体の購入が可能である(有料:US$26~50)。

  • •   指宿信・米丸恒治編『インターネット法情報ガイド』日本評論社(2004)

インターネットを利用して,各国(英・米・加・仏・独・EU・スウェーデン・ポーランド・露・中・韓・台湾・北朝鮮・タイ・豪・ブラジル・アフリカ諸国)の法情報を収集しようとする際に役立つ手引き書。インターネットによって無料でアクセスできる情報源を中心に紹介されている。また付録のCD-ROMにリンク集もあり,これ一冊で初学者でもインターネット・リーガル・リサーチをすぐに始められる。また,各国法のリサーチに関するトピックや,一般的なリーガル・リサーチの解説もあり,ハンドブックとしても,読み物としても活用できる。

  • •   小林成光ほか『やさしい法律情報の調べ方・引用の仕方』文眞堂(2010)

大学院生向けに日本法およびアメリカ・イギリス・ドイツ法の情報についての基礎知識と情報源を提供している。対象国の網羅性は低いが,これらの国法の調査のためのマニュアルとしてはコンパクトにまとまっている。

  • •   北村一郎編『アクセスガイド外国法』東京大学出版会(2004)

研究者向けの13にわたる国・地域(英・米・仏・独・EU・露・中・韓・東南アジア・イスラム諸国・豪・イベロアメリカ諸国)を網羅した外国法情報調査のハンドブック。東京大学にある外国法文献センター(後述)のプロジェクトによる出版物で,紙媒体の資料からインターネット,商用DBの法情報まで,最先端の研究者が駆使する情報源が紹介されている。また,調査対象となる国・地域の統治機構や法文化についての解説もまとめられており,外国法のリサーチを行う際,網羅的に情報源を知りたいときに威力を発揮する。

  • •   板寺一太郎『外国法文献の調べ方』信山社出版(2002)
  • •   板寺一太郎『法学文献の調べ方』東京大学出版会(1978)
  • •   田中英夫ほか『外国法の調べ方』東京大学出版会(1974)

上記『アクセスガイド外国法』と同じく東京大学の外国法文献センター関係者による,外国法情報の調査のためのハンドブック群。若干古くなった情報もあるが,日本法の母法国である英米独仏を中心とする過去の法資料(特に法令集・判例集・法律雑誌・法律書誌(文献リスト))についての情報は現在でも有益である。

  • •   田島裕『法律情報のデータベース:文献検索とその評価』丸善(2003)
  • •   田島裕『外国法概論』信山社出版(2012)

前者は米国法やヨーロッパ各国法を対象とする商用DBを中心に,電子的に法情報を検索し,読解する方法の解説書。後者は前者などを利用して収集した法情報をどのように実務や研究に活用するかを紙上で追体験できる演習書。

  • •   鮎京正訓編『アジア法ガイドブック』名古屋大学出版会(2009)

アジア諸国の法に特化した法情報ハンドブック。採り上げた国・地域によって記述の濃淡があるが,該当地域(特に中国・韓国・インド)の法情報を調査するための準備としては備えておきたい。

  • •   五十嵐清『比較法ハンドブック』勁草書房(2010)

法文化の分類の基準となる比較法学についてバランスのとれた基本的な情報を提供するテキスト。

  • <総合的な外国法情報ポータル>

  • •   Members of the Free Access to Law Movement (FALM) http://www.falm.info/

インターネットユーザーならば誰もが無料で,各国の法情報をオンライン上においてアクセスできる機会を提供しようとするLegal Information Institute (LII)プロジェクト注22)に賛同した政府または団体による,法情報提供Webサイトへのリンク集。参加主体によって提供される法情報には違いがある(法令・判例のみならず,法学文献も提供している場合もある)が,現在のところ,48の国・地域・団体が情報を提供している。

  • •   東京大学法学部研究室図書室外国法令判例資料室(旧外国法文献センター) http://www.j.u-tokyo.ac.jp/lib/gaise/how-to.html

『アクセスガイド外国法』などを生み出してきたわが国有数の外国法専門図書室。標記のWebサイトに詳細な外国法情報源へのリンク集がある。

  • •   京都大学大学院法学研究科附属国際法政文献資料センター http://ilpdc.law.kyoto-u.ac.jp/index.html

京都大学の国際法・外国法専門図書室。やはり有用なリンク集を持つ。

  • •   国立国会図書館「リサーチ・ナビ・政治・法律・行政」 http://rnavi.ndl.go.jp/politics/

「国・地域別資料のご紹介」において,議会を中心とする立法関連資料の解説とリンク(一部の資料)が提供されている。

5. 終わりに:次のステップ

外国法情報の実践的な調査を始めるに当たって,調査対象国の統治機構や法文化的背景が個別に理解できることが望ましい。1つの方法は,「英米法」「EU法」「ドイツ法」…といった,各国法の入門書(日本語で書かれたものでもよい)を一読しておくことである。

また,外国語でのリサーチが要求されるため,教科書に加え,調査対象国の法律用語の専門辞典があることが望ましい。特にわが国と経済的関係の深い英米法文化圏では,一般的な英語と法律用語との間に大きな意味のずれが見られることが多いため,英米法辞典注23)の活用が必須である。

次号以降の各国別リーガル・リサーチにおいて,それらのテキストや辞典についても紹介される予定である。英米法については次回,大陸法とEU法については次々回の本連載で,実際の法情報に対するアプローチ方法を紹介する。

本文の注
注1)  科学的結論の客観的根拠となる定量的なデータおよびその検証結果のことを指す。自然科学や医学・工学・心理学・経済学など,定量的データの分析を方法の中心に置く実証科学の分野では特に重視される。法学の分野で用いられる,事件に関係したと疑われる物体から証言・状況まで含む訴訟法・証拠法上の証拠(evidence)とは,事案によっては重なる部分もあるとはいえ,だいぶ異なる概念である。

注2)  君塚正臣編著『比較憲法』ミネルヴァ書房(2012)などを参照されたい。

注3)  他にフランス・イタリア・スペイン・トルコ・中国・韓国・タイ・インドネシアなどが挙げられる。

注4)  権限配分の内容や,支邦の権限の強さなど,国ごとに違いがあるものの,他にドイツ・スイス・ロシア・アラブ首長国連邦・インド・マレーシア・オーストラリア・カナダ・メキシコなどが挙げられる。

注5)  イギリスは,長らく連邦国家として扱われてきたが,近年の政治制度改革の結果,現在では政治学的には単一国家と見なされている。ただし,スコットランドなどの支邦(countries)は,歴史的経緯から,中央政府のあるイングランドと異なる法制度と法文化を持つため,法域は3つ(イングランド及びウェールズ・スコットランド・北部アイルランド)に分割されている。

注6)  他に旧ソ連邦構成国の一部から形成された独立国家共同体(CIS)などが挙げられる。

注7)  EU加盟国の間では,EU以外のヨーロッパ内国際機構に関連する条約等も併せて,「ヨーロッパ法」と呼ぶことも多い。

注8)  委員会ではなく,理事会が提案する法案も多い。

注9)  庄司克宏『新EU法 基礎編』岩波書店(2013),中西優美子『EU法』新世社(2012)などを参照されたい。

注10)  藤田久一『国連法』東京大学出版会(1998),小田滋『国際司法裁判所』日本評論社(2001),滝川敏明『WTO法(第2版)』三省堂(2010)などを参照されたい。

注11)  松岡博『国際関係私法入門(第3版)』有斐閣(2012),沢木敬郎,道垣内正人『国際私法入門(第7版)』有斐閣(2012)などを参照されたい。

注12)  本間靖規,中野俊一郎,酒井一『国際民事手続法(第2版)』有斐閣(2012)などを参照されたい。

注13)  大木雅夫『比較法講義』東京大学出版会(1992),滝澤正『比較法』三省堂(2009)なども参照されたい。

注14)  岩村等『入門日本近代法制史』ナカニシヤ出版(2008)などを参照されたい。

注15)  木庭顕『ローマ法案内-現代の法律家のために』羽鳥書店(2010),河上正二『歴史の中の民法-ローマ法との対話』日本評論社(2001)などを参照されたい。

注16)  村上淳一ほか『ドイツ法入門(改訂第8版)』有斐閣(2012),滝沢正『フランス法(第4版)』三省堂(2010),日本スペイン法研究会ほか編『現代スペイン法入門』嵯峨野書院(2010),高翔龍『韓国法(第2版)』信山社出版(2013)などを参照されたい。

注17)  伊藤正己・木下毅『アメリカ法入門(第5版)』日本評論社(2012),樋口範雄『はじめてのアメリカ法』有斐閣(2010),田中和夫『英米法概説』有斐閣(1981),田中英夫.『英米法総論』上・下 東京大学出版会(1980)などを参照されたい。

注18)  木下毅『比較法文化論』有斐閣(1999)を参照されたい。

注19)  木間正道ほか『現代中国法入門(第6版)』有斐閣(2012),小森田秋夫『現代ロシア法』東京大学出版会(2003)などを参照されたい。

注20)  眞田芳憲『イスラーム法の精神』中央大学出版部(2000),堀井聡江『イスラーム法通史』山川出版社(2004)などを参照されたい。

注21)  千葉正士『アジア法の多元的構造』成文堂(1998),安田信行『東南アジア法』日本評論社(2000)などを参照されたい。

注22)  オーストラリアLII等の沿革や活動については,指宿信『法情報学の世界』第一法規(2010)を参照されたい。

注23)  差し当たり,手に取りやすいものとしては,田中英夫[編集代表]『BASIC英米法辞典』東京大学出版会(1993)や,飛田茂雄『英米法律情報辞典』研究社(2002)がある。より高度な辞書が必要な場合,田中英夫[編集代表]『英米法辞典』東京大学出版会(1992),小山貞夫[編著]『英米法律語辞典』研究社(2011),“Black's Law Dictionary”West Publishing(2010), “Burtons Legal Thesaurus”McGraw-Hill(2013)などを参照するとよいだろう。

参考文献
 
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