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「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)」について
原井 直子
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2013 年 56 巻 9 号 p. 592-601

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著者抄録

国立国会図書館(NDL)は,2013年2月におおむね5年間を対象とする書誌データ作成および提供に関する方針を公表した。これは,先行する書誌サービスに関する方針を発展させると同時にNDLの全体戦略の中に位置づけられたものである。その最も重要なポイントは,Web環境に適応して,従来の図書館資料と電子情報を一体として扱うことと,書誌データの多様な利用者・利用方法に対応することである。

1. はじめに

国立国会図書館(以下,NDL)は,書誌データがWeb上で利活用されることを目指してサービスを展開している。本年2月には「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)」注1)(以下,「新展開2013」)を策定し公表した。この「新展開2013」の内容を説明し,その進捗状況を紹介する。

「新展開2013」は8項目から構築されている。「1 趣旨」は,全体の方向性を示した「はじめに」の,「8 改正等」は必要に応じた見直しと具体的な実施に向けた計画を作成することを述べた「むすび」の位置づけである。

したがって,具体的な内容は「2 資料と電子情報の一元的取扱い」,「3 書誌データの作成基準」,「4 典拠等の拡充」,「5 全国書誌の提供」,「6 書誌データの開放性」,「7 関係機関との連携」の6項目である。このうちの第2~第4項は書誌データの作成に,第5・第6項は書誌データの提供に主に関係しており,第7項は作成と提供の全体にかかわる内容である(1)。

図1 「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)」構成図

2. 「新展開2013」まで

「新展開2013」は,突然出現した方針というわけではないので,それまでの経緯をまず紹介する。

NDLは,書誌サービスを長らく『日本全国書誌』注2)およびその機械可読版であるJAPAN/MARCの頒布によって実現してきた。それに,Web上で公開される蔵書目録であるNDL-OPACを加えて,若干利便性を向上させた。そのような状態にあった2008年に,現状の総点検を行った上でその後の方針をまとめた「国立国会図書館の書誌データの作成・提供の方針(2008)」注3)(以下,「方針2008」)を公表した。

2008年12月にNDLの将来構想としてとりまとめられた「創造力を生み出す新しい知識・情報基盤の構築を目指して:国立国会図書館の取組」注4)の公表を受けて,「方針2008」を再整理したものが「国立国会図書館の書誌サービスの新展開(2009)」注5)(以下,「新展開2009」)である。

「方針2008」は5年を,「新展開2009」は4年を対象期間としており,いずれも2012年度まででその期間は終了している。「新展開2013」はこれらの方針を引き継いで2013年度からのおおむね5年を対象期間とする方針である。

「方針2008」は,NDLの書誌データの役割の確認,現状認識・課題の整理から始めて方針を設定し,その具体策を挙げた。一方,「新展開2009」は,NDLの利用者像全体を示した上で,その利用の中に位置づけられる書誌サービスを,探索機能,提供機能,作成プロセス,書誌調整機能の4つの領域に大別して方向性を示すという手法をとった。このように「方針2008」と「新展開2009」は,表現方法は異なっているが,その内容の方向性は一致している。ここでは,「方針2008」を取り上げ,「新展開2009」の紹介は省略する。

2.1 「方針2008」

「方針2008」では,6つの方針を掲げた。要約すると,(1)書誌データの開放性を高める,(2)情報検索システムを一層使いやすくする,(3)電子情報源も含めてシームレスにアクセス可能にする,(4)書誌データの有効性を高める,(5)書誌データ作成の効率化,迅速化を進める,(6)外部資源を活用するという6点である。

これらの方針の背景には,JAPAN/MARCによるサービスの限界とNDL-OPACのようなWeb上で展開するサービスの重要性に対する認識があった。JAPAN/MARCは,一定期間の単位で固定された製品であり,NDL-OPACのようにリアルタイムでデータを提供することはできない。また,その形式もMARCフォーマットであり,Web上の多様で自由な利活用には適していない。NDLは,書誌サービスがWeb上の多様な情報サービスの中の一構成要素として機能することを志向していたのである。

このような方針の下で,5年の対象期間に実施すべき具体策として示されたものが,「新展開2013」策定までに実際にどうなったかをまとめると次のようになる。

書誌データ提供の改善については,OPACからの書誌データのダウンロード,典拠データの公開とダウンロード,雑誌記事索引の新規作成記事情報の提供など注6)を実現あるいは改善した。書誌データ提供のための機械連携(API)の提供と,『日本全国書誌』のWeb提供の改善については一部実現したが,現在改善を継続中である。

情報検索の改善については,OPACのURL仕様の改善を実現しているし,多言語対応についてもアジア言語OPACのNDL-OPACへの統合や文字コードのUnicodeへの変更などを実現した。

書誌データと所蔵電子情報のリンクや横断検索は,国立国会図書館サーチ(以下,NDLサーチ)注7)において実現している。

書誌データの新しい基準および枠組みへの対応については,MARC形式のJAPAN/MARCフォーマットからMARC21フォーマットへの切替えやNDLサーチでの国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(DC-NDL)注8)の採用などは実現したが,FRBR(Functional Requirements for Bibliographic Records:書誌レコードの機能要件),ICP(International Cataloguing Principles:国際目録原則),RDA(Resource Description and Access:資源の記述とアクセス)等への対応は未実施で「新展開2013」でも課題とすることになる。

外部資源の導入については,民間MARCの活用をすでに実施しているが,典拠ファイル,件名標目ファイルの共通化は残念ながら実現できていない。

2.2 「新展開2013」へ

「新展開2013」は,「方針2008」や「新展開2009」とは著しく異なる特徴を有している。それは,簡潔さである。「方針2008」が7ページ,「新展開2009」が10ページであるのに対して,「新展開2013」は3ページであることからもその簡潔性は明確である。

その主な理由は,2つあると考える。「方針2008」や「新展開2009」は,従来のサービスからの転換時期にあり,Web上でのサービスの重要性を打ち出す必要があり,従来のサービスの総点検や利用者像の分析などを行った。それに対して,「新展開2013」の作成時期には,すでにそれらが自明のこととして受け入れられるようになっていた。つまり,状況の相違が最初の理由である。もう1つの理由は,NDL全体の目標の中に書誌サービスの目指すべき方向が位置づけられていることにある。この点は次章でもう少し詳細に見ることとする。

では,「方針2008」における6つの方針を「新展開2013」はどのように引き継いだのだろうか。(1)書誌データの開放性は,「新展開2013」の第6項となっている。(2)使いやすい情報検索システムは,「新展開2013」では扱っていない。これは検索システムの機能自体は方針の対象からはずしたためである。(3)シームレスなアクセスは,第2項で「資料と電子情報の一元的取扱い」としてさらに進展した形で扱っている。(4)書誌データの有効性は,第4項で「典拠等の拡充」として引き継いだ。(5)書誌データ作成の効率化,迅速化と(6)外部資源の活用については,第7項で関係機関等との連携・調整を図ることに焦点をあてている。

詳細については後述するが,「新展開2013」は,「方針2008」から主要な方向性を発展させつつ引き継いでいる。

3. NDLの全体戦略における「新展開2013」

次に,現在のNDLの全体戦略の中で,書誌サービスの位置づけはどのようになっているのかを紹介する。

NDLは,2012年7月に,それまでの「国立国会図書館60周年を迎えるに当たってのビジョン」に代わり,「私たちの使命・目標2012-2016」注9)を策定した。そのうちの「目標3:情報アクセス」は,「国立国会図書館の収集資料を簡便に利用し,また必要な情報に迅速かつ的確にアクセスできるように,新しい情報環境に対応して,資料のデジタル化,探索手段の向上など,誰もが利用しやすい環境・手段を整備します。」というものである。

この目標の下に,6つの戦略的目標注10)を挙げている。そのうちの「3-6 書誌情報の利活用の促進」は次のような内容である。

  • •   従来の印刷出版物などの資料に加え,インターネットなどで電子的に流通する情報も合わせて一元的に書誌を作成します。
  • •   出版・流通業界等との連携を強化し,書誌作成及び提供を迅速化,効率化します。
  • •   当館の書誌情報を多様な方法で容易に入手し利活用できるようにします。

これらを実現するために,(1)全国書誌情報提供の拡充,(2)Web環境及び関係機関との連携に適した書誌フレームワークの構築,(3)資料と電子情報のそれぞれの特性に適した新しい書誌データ作成基準の策定,の3つの重点的に取り組む事業注11)を挙げた。この3つの事業は「新展開2013」で示したものと同じ方向性を持っている。

つまり,「新展開2013」は,単独で存在するものではなくて,NDLの向かうべき全体像の中に有機的に位置づけて作成した方針なのである。

4. 「新展開2013」の内容

それでは,「新展開2013」の内容をもう少し詳細に見ていこう。

第1項に「趣旨」として述べた内容のうち重要なポイントは,2つある。1つは,資料(従来の紙媒体を主とする有体物)と電子情報(オンライン資料を始めとした電子的に流通する情報)を一体として扱うことである。もう1つは,書誌データの提供対象者を図書館資料の利用者に限定せず,書誌データ自体を利用する者も含めて,その利用を促進することである。これらの方向性は,「方針2008」や「新展開2009」でも謳(うた)われていたが,「趣旨」として取り上げたことで,より鮮明になったといえよう。

4.1 資料と電子情報の一元的取扱い

第2項で掲げた資料と電子情報の一元的取扱いは,言うは簡単でも実現は簡単ではない。NDLで具体的に考えているのは,両者を一元的に取り扱える「容れもの」について検討することである。

MARCフォーマットは,データを流通・交換するために必須である標準性という強みがあった。NDLでは長らくJAPAN/MARCフォーマットを使用してきたが,国際的な流通・交換を目指すために「方針2008」の期間にMARC21フォーマットへの切替えを行った。

しかしながら,MARCフォーマットの標準性という強みは,図書館界に限定されていた。図書館界内でのデータの流通・交換だけでは,これからのWeb時代に適合していけない。国際的な事実上の標準であるMARC21フォーマットへの切替えによって,NDLは,次の段階に進むためのスタート地点に立てたに過ぎない。

次の段階とは,図書館界という枠組みに限定されない書誌サービスであり,具体的には,従来の資料についての書誌データと電子情報についてのメタデータの統合と,Linked Open Data化である。

後者から先に説明すると,Linked Open Data化は,NDLではまず典拠データから着手した。Web NDL Authorities注12)である。2010年にWeb NDLSH注13)を公開し,2012年にNDLの名称典拠を加えることで公開・提供範囲を拡大して,サービス名称もWeb NDL Authoritiesとした。NDLの全典拠データを提供するサービスである。

Web NDL Authoritiesの主な特徴は,各典拠データをURIにより参照可能としていること,語彙としてSKOS(Simple Knowledge Organization System),FOAF(Friend of a Friend),ダブリンコアなどを用いていること,各レコードをRDF(Resource Description Framework)形式でダウンロードできること,検索にSPARQLを使用していること,バーチャル国際典拠ファイル(VIAF: Virtual International Authority File),米国議会図書館件名標目表(LCSH: Library of Congress Subject Headings)やウィキペディアにリンクしていることなどである。

書誌データについても,NDLサーチからLinked Dataに対応したRDF形式で提供している。

従来の書誌データとメタデータの統合については,NDLサーチでは,両者をDC-NDLで統合して提供している。しかし,それはNDLサーチからの提供に限定された統合で,従来の書誌データをMARC21フォーマットからDC-NDLに変換してメタデータに統合しているに過ぎない。Web環境で統合のメリットを活かすためには、次項で述べる新しい書誌データ作成基準に対応し、Linked Data化を進展させる容れものが必要である。

「新展開2013」では,新しい容れものとして「書誌フレームワーク」を構築することとした。米国議会図書館(LC)がMARCフォーマットに替わる新しい書誌フレームワークとして開発しているデータモデルBIBFRAMEの動向に,特に注意を払って検討を進めていく予定である。

4.2 書誌データの作成基準

第2項が資料と電子情報の書誌データを一元的に扱える「容れもの」について述べているのに対して,第3項は,新しい「容れもの」に入れる書誌データ作成基準を定めることを掲げた。この新しい書誌データ作成基準は,RDAに対応したものであることがポイントである。

RDAは,AACR2(Anglo-American Cataloguing Rules. 2nd ed.:英米目録規則第2版)を全面的に見直して策定されたWeb環境に適した規則である。RDAの特徴を説明するのは本稿の趣旨ではない注14)が,NDLの方針を説明する上で必要な点に限定して,少し触れておく。

最も重要な点は,RDAがFRBRの概念モデルを採用したことである。従来は,目録情報は,記述対象資料についての記述と,それにアクセスするためのコントロールされた情報であるアクセス・ポイントから構成されていた。RDAの新しい概念モデルの採用によって,目録情報は,資料(著作,表現形,体現形,個別資料)に関する記録,資料の行為主体(個人,家族,団体)に関する記録,資料の主題(概念,物,出来事,場所)に関する記録とそれらの間の関連から構成されるようになった。

このような変化によって,目録情報は,データがリンクしあうインターネット世界に適応可能な条件を整えることになる。RDAは,Linked DataやセマンティックWebを視野に入れた規則なのである。

また,RDAではAACR2の資料の種類による章構成を変更し,個別の項目において資料の種類によらない共通の規定を置いた後に資料の種類による特定の規定を置くという形式とした。これによって,多様な種類や新たな種類の資料への対応に柔軟性を持つことができるようになった。

この点も,新たなメディアの出現可能性が常に存在する現状に適したものであると同時に,従来の紙媒体資料を始めとした図書館資料と電子情報を一元的に扱える性質を備えているといえる。

従来の目録規則は,AACR2に限らず,規定する要素の定義だけでなく,要素間の記載順序も重要な規定として扱っていた。国際的にISBD区切り記号が専ら使用されていたのである。しかし,RDAでは,記載順序についての規定の重要性を減じ,データの記録と表示を分離した。システムへの対応性を柔軟にし,データの表示方法や利用方法の自由度を高めることを狙ったものである。

このようにRDAは,これまでの目録規則の枠組みを超えWeb環境に適したものとなっている。この点は,NDLが求める書誌サービスの方向性と合致している。また,2013年3月末にLCで適用が開始されたのを始め,国際的に適用する図書館が増加しつつあることもNDLにとって重要である。NDLは,日本独自の目録慣行等を考慮した上で,国際的に広く適用されるRDAに対応した目録規則を策定し,さらに,それを日本国内で広く適用可能なものとしたいと考えている。

4.3 典拠等の拡充

「新展開2013」の第4項は「典拠等の拡充」である。典拠データは,書誌データのアクセス・ポイントをコントロールするためのデータであり,効率的な検索を支援する存在である。したがって,典拠データを拡充することは,書誌データの有効性を向上させる意味を持つ。

また,Web環境ではデータ間のリンクが重要である。典拠データは,このデータ間のリンクを支える仕組みとしても有効に活用できる。

さらに,典拠データそのものの活用可能性も高まっている。NDLがWeb NDL Authoritiesを公開していることは前述のとおりである。Web NDL Authoritiesで提供している典拠データ数は,2013年7月末現在で約112万件となっている(1)。

表1 Web NDL Authoritiesのデータ数
個人名 797,053
家族名 2,204
団体名 186,666
統一タイトル 4,085
地名 27,706
NDLSH普通件名(細目付きを含む) 103,564
NDLSH細目 324
合計 1,121,602

2013年7月末現在

このように典拠データの拡充には重要な意義があるとはいえ,典拠データの維持管理には多大なコストがかかり,念入りに典拠データ作成を行うと書誌データ作成の迅速性を損ないかねない。典拠データの拡充は,書誌データ作成機関にとって,常に費用対効果を勘案しながらあたらねばならない困難な課題である。

「新展開2013」では,検討事項として,(1)典拠データの作成対象を,日本語以外の外国刊行資料,博士論文,雑誌記事索引,電子情報等に拡大すること,(2)典拠データの種類を統一タイトル,ジャンル形式等に拡充すること,(3)現状において「国立国会図書館件名標目表(NDLSH)」や「日本十進分類法(NDC)」による標目付与を行っていない資料群への付与を行うことの3点を挙げた。地道であるが,可能なところから少しずつ典拠データの拡充を図っていく方針であり,関係機関との協力も視野に入れていきたいと考えている。

4.4 全国書誌の提供

「新展開2013」の第5項は全国書誌について述べている。NDLは,日本で唯一の全国書誌作成機関であり,その役割に変更はない。

全国書誌は,『納本週報』,『日本全国書誌 週刊版』等の紙媒体やホームページ(HTML版)での提供を経て,現在は,主に3つのルートで提供している。(1)NDLサーチからのRSS配信,(2)NDL-OPACの「全国書誌提供サービス画面」からのダウンロード,(3)JAPAN/MARC頒布の3ルートである。

全国書誌の収録対象は,納本制度によって収集された国内刊行資料と外国刊行の日本語資料である。その納本制度に準じて,2013年7月から民間で出版された電子書籍・電子雑誌(当面,無償かつDRM(技術的制限手段)のないものに限定)を収集・保存することとなった。それ以前から国等の公的機関のものは収集している。これらの電子資料についてのデータも,2014年4月からは全国書誌の収録対象として提供する。この電子書籍・電子雑誌を収録対象とする全国書誌は,3つのルートのうちの(1)NDLサーチから提供する予定である。

4.5 書誌データの開放性

「新展開2013」の第6項では「書誌データの開放性」を掲げている。この項の最初のポイントは,多様な方法での入手とその活用性であり,もう1つのポイントは,国際的流通の促進である。

利用者像を図書館に限定せず,個人,私企業もその対象として考慮すれば,データの提供方法は多様なものを用意する必要がある。また,書誌データや典拠データを図書館資料や電子情報へのアクセス手段として提供するだけでなく,データ自体の利活用も促進していきたいと考えている。そのため,パッケージ化した書誌データの提供から,標準的な仕様で自由に書誌データを取得できる環境の整備へとさらにシフトしていく方針である。

国際的流通の促進については,「新展開2013」までにOCLCに単行資料の書誌データ(JAPAN/MARC (M) )を提供し,また,VIAFへの参加による典拠データの提供を実施していたが,これを拡充していくことを方針とした。

4.6 関係機関との連携

第2項で掲げた書誌データの「容れもの」としての書誌フレームワークの構築,第3項で掲げた書誌データの作成基準である新規則の策定のいずれもNDL単独で実施してもその意義は大きくない。現在のようなWeb環境においては,日本国内外で共通の環境を整備していかなければ,有効に働かない。したがって,新規則の策定は日本国内で共通に適用できるものとするための関係機関との調整を行う計画であり,書誌フレームワークの構築も関係機関との連携に適したものとしていく必要性を感じている。

第4項の典拠等の拡充はNDL単独であたるだけでなく関係機関との協力も視野に入れて実施していきたい。第4項および第5項で述べた書誌データや典拠データの提供についても,NDLの提供するものが多様な目的で広範に利活用されることを目指すために関係機関にも働きかけていく予定である。

このように,「新展開2013」で掲げたどの事項においても,関係機関との連携や調整を重要視している。

5. 「新展開2013」の進捗状況

ここまで「新展開2013」の内容を説明してきた。「新展開2013」策定後にどのような進捗があったかを以下に順不同で簡潔に説明する。

5.1 新しい『日本目録規則』

NDLは,2013年5月に日本図書館協会(JLA)目録委員会に,新しい書誌データ作成基準策定に関する連携について提案を行った。JLA目録委員会では2010年から『日本目録規則』改訂作業を行っているが,NDLでも前述のとおり日本国内で共通に適用できるRDAに対応した新しい書誌データ作成基準を策定する予定であり,両者で行う作業を連携して一本化できないかと問いかけるものであった。

その後,両者間で目指すべき方向性について調整を行い,8月には連携作業が実施可能であることが確認できた。9月にはNDLと日本図書館協会との間で,新しい『日本目録規則』を連携作業によって策定することについて合意が成立した。確認した内容は「『日本目録規則』改訂の基本方針」注15)として9月末に公表されたばかりである。

2013年10月から連携作業を開始し,2014年1~3月の間に,NDLで「日本の目録規則の在り方に関する検討会議」(仮称)を開催して有識者や関係機関と意見交換を行う。規則案の公表は2015年を予定しており,その後,広く意見聴取を行った上でJLA目録委員会と協働して規則を確定したいと考えている。

5.2 書誌データ利活用説明会

全国書誌データの利活用の促進を図るために,より多くの図書館システムにNDLの書誌データの取込み機能が実装されることを目的として,「書誌データ利活用説明会」を行う。開催日時は11月1日であるため,本誌刊行時にはすでに終了しているはずである。

同説明会の対象者は,図書館システム・ベンダーの担当者や図書館のシステム担当者である。内容は,各種図書館における全国書誌データ利活用事例の紹介と全国書誌データ利活用方法の実装レベルでの説明である。同説明会の内容などについては,別途公表する。

なお,同説明会終了後に,図書館システム・ベンダーへのアンケートを実施し,全国書誌データ取込み機能実装ずみ(あるいは実装予定)の図書館システム一覧をNDLのホームページに掲載することを予定している。

5.3 全国書誌(電子書籍・電子雑誌編)

すでに述べたように,NDLサーチから2014年4月に全国書誌の電子書籍・電子雑誌編の提供を開始する。2013年1月から全国書誌(電子書籍・電子雑誌以外)のNDLサーチからのRSS配信を開始しているが,これに加えて,電子書籍・電子雑誌編についてもRSS配信を開始するものである。ただし,両者は一本化されない。

また,同じ2014年4月には,全国書誌データを電子書籍・電子雑誌とそれ以外の2本立てで,APIを用いて提供開始する予定である注16)

これによって,全国書誌の提供は,NDLサーチからのRSS配信のルートに電子書籍・電子雑誌編が追加され,NDLサーチからのルートにAPIによる提供が加わることになる。

5.4 典拠データの拡充

典拠データの拡充は,多大なコストがかかるために地道に実現していく方針であると述べたが,その中でこれまでに実施できたのは次の事項である。

従来,NDLでは典拠データと書誌データのリンクは全国書誌収録範囲外の資料については行っていなかった。2012年8月からは日本語以外の外国刊行図書で著者が日本人の場合,すでに典拠データが存在するときは書誌データとのリンクを行っている。同様に,2013年4月からは,日本の団体が著者である外国刊行図書についても既存の典拠データとのリンクを開始した。

CDなどの音楽資料のうち,クラシックについては,最初の作曲者についてのみ典拠データを作成し,書誌データとリンクしていたが,これを2013年10月から3人までに拡張する。

このように,典拠データの拡充の進捗は,わずかずつであるが,なんとか進めている。そのほかにも同様に小さい進展を幾つか計画している。

5.5 国際流通

2012年にOCLCへのJAPAN/MARC (M) データ提供を開始したことは前述のとおりだが,更新頻度は年4回にすぎなかった。これを2013年度に入って変更し,月1回としている。

また,逐次刊行資料の書誌データであるJAPAN/MARC (S) についても2013年に入って提供を開始し,すでに利用可能となっている。更新頻度は月1回である。

さらに,雑誌記事索引データについても全1,100万件を提供ずみであり,これらがOCLCから利用可能となるのは,2013年末か2014年初頭を予想している。

6. おわりに

「新展開2013」は,おおむね5年間の方向性を示すものだが,必要があれば適宜の見直しも行う。示した方向性に基づいて着実に進捗を図りつつ,環境の変化や国際動向などを注視して必要に応じた軌道修正も行っていくつもりである。

「新展開2013」の対象期間は始まったばかりであり,その進捗状況は前述のとおりである。RDAに対応した新たな『日本目録規則』の策定はJLA目録委員会と連携して開始する段階にある。資料と電子情報を一元的に扱える書誌フレームワークの構築はこれからの大きな課題である。典拠データ拡充を始めとするその他の課題も地道な努力が必要である。いずれも,試行錯誤を重ねながら進めていくことになるだろう。

今後も,常に「新展開2013」の目指す目標を忘れずに,Web環境においてNDLの書誌データが自由に利活用されるように努めていきたいと考えている。

本文の注
注1)  「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)」http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/shintenkai2013.pdf, (accessed 2013-09-24). 説明資料:「国立国会図書館の書誌データ作成・提供の新展開(2013)」について」NDL書誌情報ニュースレター, 2013年2号 <http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/bib_newsletter/2013_2/article_01.html>, (accessed 2013-09-24).

注2)  全国書誌については,本誌に掲載された次のものも参照されたい。中井万知子. 日本の全国書誌サービス:その歩みと展望. 情報管理. vol. 50, no. 4, p. 193-200.

注3)  「国立国会図書館の書誌データの作成・提供の方針(2008)」<http://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/287276/www.ndl.go.jp/jp/library/data/housin2008.pdf>, (accessed 2013-09-24).

注4)  「創造力を生み出す新しい知識・情報基盤の構築を目指して:国立国会図書館の取組」<http://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_999293_po_initiatives2008.pdf?contentNo=1>, (accessed 2013-09-24).

注5)  「国立国会図書館の書誌サービスの新展開(2009)」<http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/pdf/houshin2009.pdf>, (accessed 2013-09-24).

注6)  そのほかに,『日本全国書誌』のWeb提供の改善の一環として,新着情報(作成中データ)の提供も実現している。

注7)  NDLサーチ<http://iss.ndl.go.jp/>, (accessed 2013-09-24).

注8)  国立国会図書館ダブリンコアメタデータ記述(DC-NDL)<http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/standards/meta.html>, (accessed 2013-09-24).

注9)  「私たちの使命・目標2012-2016」<http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/mission2012.html>, (accessed 2013-09-24).

注10)  「目標3の戦略的目標」<http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/mission2012.html#anchor3-1>, (accessed 2013-09-24).

注11)  「平成25年度活動実績評価の枠組み」<http://www.ndl.go.jp/jp/aboutus/pdf/vision_frame_h25.pdf>, (accessed 2013-09-24).

注12)  国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス(Web NDL Authorities) <http://id.ndl.go.jp/auth/ndla>, (accessed 2013-09-24).

注13)  Web NDLSHは,「国立国会図書館件名標目表(NDLSH)」をWeb環境に適した形式で公開したサービス。

注14)  RDAについては,本誌に掲載された次のものを参照されたい。蟹瀬智弘. 所蔵目録からアクセスツールへ:RDA (Resource Description and Access) が拓く新しい情報の世界. 情報管理. vol. 56, no. 2, p. 84-92.

注15)  「『日本目録規則』改訂の基本方針」http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/newncrpolicy.pdf(accessed 2013-09-30)。なお,あわせて「新しい『日本目録規則』の策定に向けて」<http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/newncr.pdf>(accessed 2013-09-30)もご覧いただきたい。

注16)  全国書誌データに限定しないAPIによる書誌データの提供はすでに実施している。

 
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