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視点
オーサーシップの考えを変える時だ
山崎 茂明
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2013 年 56 巻 9 号 p. 636-639

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オーサーシップは贈り物か?

科学研究の世界を舞台に,科学情報や科学文献を対象にした新しい学際的な研究領域が生まれ,科学情報メディア論や科学コミュニケーション論が形成された。このようなものが科学界や研究活動の現状をとらえ,その発展に寄与できるとは,以前では考えられなかったであろう。また,この研究領域は論文の書き方から文献の検索,レビューやデータベースの重要性,さらに研究動向の分析や研究評価,発表倫理といった今日的テーマへと展開してきている。科学研究の世界で,科学情報や科学文献に焦点をあてた新しい学際的な研究領域が,1960年代に生まれ注目された。プライスの“Little Science, Big Science”により示された領域である。その後,科学情報メディア論や科学コミュニケーション論が1980年前後に本格的に形成された。ランカスター(Toward Paperless Information Systems, 1978),ガーフィールド(Citation Indexing, 1979),ゴッフマン(Scientific Information Systems and the Principle of Selectivity, 1980),ワーレン(Coping with the Biomedical Literature, 1981)などの著作が連続して刊行された。

しかし,科学文献情報学の展開にもかかわらず,研究者が必ずしもこれらのトピックスを学んでいるとは思えない。例えば論文の書き方を学習したにしても,レフェリ-システムやオーサーシップについては取り上げられてこなかったのではないだろうか。共著論文の場合,著者の範囲をどのように決めるのか,著者の掲載順をどうするのかなどは,各研究室のルールで決められ,それが疑問の余地のない流儀であると受けとめられてきた。文献情報が,国や地域を超えて世界規模で流通するようになるなかで,オーサーシップについては共通理解が広まっていないばかりか,誤った適用や不正な実態が一般化している。特に,ギフトオーサーシップは広く行われており,お中元やお祝い事の品物と同様に止めることのできない習慣になっている。そして,研究世界のなかで,贈与の意味を問いただすことなく,軽い気持ちでギフトを交換しているといえよう。不正論文の共著者になる危険性もあり,贈り物に毒がある1)ことを忘れてはならない。

オーサーシップ文献が示すもの

オーサーシップについて論じた文献は,どのくらい存在するのだろうか。身近で信頼できるデータベースであるPubMedから,MeSH用語である「authorship (MeSH Major Topics)」を用いてオーサーシップについての文献を検索することができる。2013年9月1日現在で,2,360件が検索された。出版年による年次変化を見て気づくことは,1990年代,発表数の上昇が顕著になり,総合誌を含め発表が蓄積されていった(1)。1980年代に議会公聴会で論議された研究不正事件を追及するために,1992年に米国研究公正局が設立され,オーサーシップについても言及されるようになった。

図1 オーサーシップについて論じた論文の年次変化:1961~2012年(N=2318) (ソース:PubMed,2013年9月1日,MeSH Major Topicsで検索)

オーサーシップは,具体的にはさまざまなアプローチから検討されているが,gift authorship(ギフトオーサーシップ),honorary authorship(名誉著者),coauthorship(co-authorship)(共著者),multiple authorship(多数著者),ghost authorship(ゴーストオーサーシップ),guest authorship(ゲストオーサーシップ)など,これらの言葉を表題に持つ文献数を,2,360件のauthorship論文から識別してみた。出現数ランキングを作成してみると,co-authorshipが68論文で1位を占めた(1)。なお,一部でcoauthorshipという表記もあり,これらも含めてある。2位には多数著者(multiple authorship)が入ってきた。共著者と多数著者という,単独著者以外への関心を示した論考である。3位はghost authorshipであった。著者の資格がありながら著者欄にリストされてこない,主に製薬企業に雇用された統計専門家の存在について論じられてきた。2013年に,臨床試験の信頼性を大きく損なったバルサルタン事件により,現実味を帯びたテーマとして注目されている。4位guest,5位honorary,6位giftの3語は,著者の資格がないにもかかわらず著者になる点で同じ種類といえる。そこで,「共著・多数著によるもの」,「著者資格なしで著者になるもの」,「著者資格があるのに著者にならないもの」にグループ化し2にまとめた。

表1 オーサーシップ用語の表題中での出現数順位
表2 同種のオーサーシップによるまとめ

オーサーシップの定義

生物医学雑誌への統一投稿規程の最新版(2007年版)では,著者は,内容に対して責任を負うに足りる十分な寄与をしている者であり,下記の3つの内容を同時に満たす者でなければならないと定義している。また,(1)では,「研究の着想やデザイン」,「データの取得」,「データの分析と解釈」の3点の寄与内容が「または」で併記されており,これら3点のうちのどれかを満たせばよい。

(1)研究の着想やデザイン,またはデータの取得,またはデータの分析と解釈

(2)論文の執筆,あるいは原稿内容への重要な知的改訂

(3)出版原稿への最終的な同意

この定義からすれば,原稿の閲読や助言をしただけの人は,著者になることはできない。また,助成金を受けたメンバーというだけでは著者になることはない。1985年に,ICMJE(International Committee of Medical Journal Editors)が“Guidelines on authorship”2)を発表した当初は,「データの取得(acquisition of data)」は著者要件のひとつに入っていなかった。この定義は,知的な寄与に重点を置き,実験作業を軽視していると若手研究者から批判された。また,「データ収集(collection of data)」は謝辞欄に記載されるが単純な実験データの収集と専門性の高いデータ取得との違いは明瞭でないのが実態であり,共通理解を進める必要がある。

若手研究者の声

研究発表倫理の教育実践で,オーサーシップやレフェリーシステムについて話してきたなかで,オーサーシップを中心に若手研究者の率直な声を,筆者の判断でいくつか紹介してみたい。講演後の質疑応答やアンケート回答,メールで寄せられた感想などからなり,個人が特定されるものは含んでいない。

  • •   「学会での発表や論文の共著者に,グループのトップを入れることは,慣例となっており,当たり前のことだと思っていた」。研究指導への当然の対処であり,研究者としての階段を上がっていくためにも守るべき行いと考えていた。
  • •   「研究プロジェクトに直接的な関与をしていなくても,ボス名を著者として入れてきた。それは研究室の決まりであり,批判など考えられなかった」。実際の寄与のないボスを入れることに躊躇(ちゅうちょ)はなく,むしろそれは研究者のよき行いとみなされた。
  • •   「以前所属していた大学の研究室では,将来の教授選のために,寄与が存在していないにもかかわらず,特定の教員を著者名に加えるということが組織的に行われていた」。これに続き,「寄与内容の細部は内部でしかわからないだけに,個人の倫理観が大事だ」と述べていた。
  • •   「研究室のなかにいると当たり前のように受け継がれている慣例が,広く見渡せばおかしなものであることに気づいた」。研究発表時におけるオーサーシップを中心としたルールを科学界で討議し基本的な考えを共有しておくことが必要である。
  • •   「オーサーシップについて,これまでの研究に関連し思い当たることがあった。論文をまとめるたびに,言葉では表現できない不安な気持ちになったが,教授の判断に従ってきた。オーサーシップの知識があれば自分の気持ちを表明できたかもしれない」。そして,「この講義で得たことは大きく,今後の自分の研究者人生で忠実に守るべきことである」と述べていた。さらに,「適正なオーサーシップで研究を行っていくことを心にとめておくことだと感じた。現時点で実行は難しいが,10年後20年後に,もし研究者として指導する立場に立った時,適正なオーサーシップが常識になるよう自分が貢献できることを考えていきたい」と総括していた。

若手研究者の声に耳を傾けてみると,オーサーシップについて,これまでの慣習のおかしさに気づき,守るべき大切なルールであるとまとめている。しかし,その実現は,若手研究者が指導的な立場になった時としており,速やかな適用は難しいと状況を読み取っている。オーサーシップの適正な実行には,若手研究者間の連携と共通理解を強めるだけでなく,指導者を含めた科学界全体で広く討議することが求められる。若手研究者の教育だけでなく,所属組織や専門学会の場で,シニア研究者や指導者への教育・啓蒙が不可欠であるといえよう。オーサーシップの教育にあたり,指導者や主任研究者が参加し,研究組織全体で合意を形成することなくして,大きく議論を展開させるのは難しい。

コントリビューターシップ,著者の寄与内容を透明化する

Gift authorshipがなくならない理由のひとつに,論文への寄与内容が外側からみえないことがあげられる。ギフトだけでなく,当然共著者に入ると考えていた人が除外されたりしても,読者には判断がつかない。これをよいことに,実際の寄与のない研究組織のトップを著者リストに入れたりすることが横行しているといえよう。

米国医師会誌のレニー博士は,著者からコントリビューターへの移行を提言し,不適切なオーサーシップからの脱却を目指した3)。映画作品の末尾に示されるクレジットのように,研究と執筆のなかで果たした寄与内容を明示することを求めた。レニー博士の提案は,オーサーシップを廃し,コントリビューターシップに変えようとする革新的な主張であったが,現状はそこまで動かなかった。しかし,寄与内容を示すことで,実際の貢献のない人々を著者欄から除外できるようになった。寄与内容の透明性を上げることが,オーサーシップの適切な運用を強め,その改善に結びついた。コントリビューターシップの採用は,オーサーシップを否定するものではなく,オーサーシップの適用を厳格にし,謝辞にあげられる人々と著者との識別を明瞭にするものとなった。

オーサーシップの変化の時

「名誉のオーサーシップに終わりを」と題された論説記事が,2012年のScience誌に掲載された4)。異なる機関に所属する研究者による共同研究の増加などがあり,共著者数の増加が近年の特色になっている。著者の決定は複雑なものになり,誰が本質的な寄与をしたのかわかりにくくなっている。それだけに,寄与内容を示すコントリビューターシップのアイデアを採用し,共著者のそれぞれの貢献内容を明記し透明性を高めることが求められる。結果として,寄与のない人を除外することになり,ギフトや名誉のオーサーシップを減らすことになるだろう。

研究機関はオーサーシップの定義を明確にし,シニア研究者に自覚を求め,オーサーシップの悪習を終わりにすべき時であるとScienceの論説は述べた。

執筆者略歴

山崎 茂明(やまざき しげあき)

1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒,慶應義塾大学大学院図書館・情報学専攻博士課程修了。東京慈恵会医科大学医学情報センター(講師)を経て,現在,愛知淑徳大学人間情報学部教授。図書館情報学博士(2001年,愛知淑徳大学)。代表論文「Ranking Japan's life science research」(Nature,1994年),著書『パブリッシュ・オア・ペリッシュ』(みすず書房,2007年),『科学者の発表倫理:不正のない論文発表を考える』(丸善出版,2013年)。

参考文献
 
© 2013 Japan Science and Technology Agency
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