情報管理
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インフォプロによるビジネス調査-成功のカギと役立つコンテンツ 第11回 情報の読み方・使い方
上野 佳恵
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2015 年 57 巻 11 号 p. 835-840

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ここまでテーマごとの情報収集のポイントと実際に情報収集するにあたっての有用な情報源について述べてきた。これらを活用することで,相当量の情報が手にできるはずである。多くの情報を手にすることができると,それで安心して調査が終わったような気分になってしまうかもしれないが,情報は集めただけでは価値を生まない。

インフォプロのビジネス調査は,依頼されたものであったり,何らかの提案や企画などを行うもととなるものであり,調査の結果を伝えるべき相手(依頼者)が存在する。報告書という形でまとめる場合もあれば,資料やデータのまま依頼者に渡す場合もあるだろうが,いずれにせよ「何をどのように」伝えるのかによって,集めた情報の価値は2倍やそれ以上にもなる場合もあるだろうし,半分になることもある。

1. 情報の見極め

(1) 情報の検証・判断

本連載の第1回「ビジネス調査とは」で紹介した「調べるサイクル」を思い出していただきたい(1)。情報を集める前のステップ,いわゆるプランニングがビジネス調査の肝となることは,繰り返し述べてきた。目的を確認し,必要となる情報を具体的にリストアップし,どこからどのように入手するかというプランニングを行ってから,実際に情報収集に取りかかる。そして,情報を入手したら,それを読み込んで,使えそうかどうか,役に立ちそうかどうかを判断し,取捨選択してまとめていくこととなる。これが「④検証・判断」のステップであるが,第1回でも説明したように実際には,情報を入手すると同時にそれが必要かどうかという判断を行い,必要なもの・役に立ちそうなものだけを手元に残すというように,「③情報の獲得」と「④検証・判断」は,同時並行して行われていることが多い。

図1 「調べる」行為の思考と行動

(2) インフォプロに求められること

しかし,集めながらある程度の検証・判断を行い情報の取捨選択を行ったとしても,いざまとめようとすると,なお大量の情報が手元にあるというのが現実ではなかろうか。前述したように,インフォプロのビジネス調査は,実際にその情報を使うのは基本的に自分ではなく調査の依頼者である。このような場合,必要かどうか,役に立ちそうかどうか,の判断はさらに難しくなる。事前のヒアリングで依頼者の目的や意図を十分に把握していたとしても,「これも役に立つかもしれない」「こんな情報も参考になりそうだ」と考え,提示したい情報はどんどん増えてしまうものである。

勝手な自己判断で絞り込みを行った結果,モレが生じ,「もっとこういう情報はないでしょうか?」などと調査が手戻りになることは避けなくてはならない。だからといって,ただ漫然と情報を羅列しただけの報告では,Googleのキーワード検索結果の表示とたいして変わりない。少なくとも,依頼者が無理なく読みこなせる・使いこなせる程度の量に絞り込み,重要情報と参考情報,情報を見るべき順番などのプライオリティ付けは行うべきだろう。

インフォプロに求められているのは,このような「情報の見極め」ではなかろうか。

2. 統計情報の見方

情報の見極めを行うには,まずその情報を正しく理解し,意味するものを読み取る必要がある。この情報の理解,意味合いの読み込みとはどういうことなのか。「業界・市場調査」の回で例として使用した太陽光発電市場の統計データでみていこう。

(1) 市場規模データの報告例

太陽光発電市場といってもそれをとらえるには,発電のベースとなる太陽電池の生産・出荷,発電システムの設置状況,太陽光発電システムによる発電量など異なる切り口がある。その中でどの数字が適切なのか,1つのデータでよいのか,複数のデータがあったほうがよいのか,は調査の目的によって異なるということは,すでに理解いただけていることだろう。ただ,切り口を絞り込んでも,そのテーマに関し複数のデータが存在するということも少なくはない。たとえば,太陽電池への自社の新素材の活用の可能性を探りたいので太陽電池そのものの市場規模のデータをみていくとする。第4回「業界・市場調査(1)」の「2. 市場規模の調べ方」で説明をしたとおり,太陽電池の生産・出荷動向としては経済産業省の統計と太陽光発電協会の統計がある。これをどうやってまとめていくのかが問題となってくる。

この2つの統計データを見て,太陽電池モジュールの国内市場規模トレンドを,次のようにまとめてみたとする。

・製造業の生産・出荷統計を見るには,まず経済産業省の「生産動態統計」である。

・同統計の2013年の年報には5年分の生産・出荷データがあるが,発電容量ベースのデータがあるのは2011年以降のみである。

・市場規模トレンドを見ていくのには少なくとも5年分ぐらいの時系列データはあったほうがよい。

・そこで,太陽光発電協会の統計を見てみると,こちらは金額や枚数はわからないが,発電容量ベースの統計データが1980年代からある。

・両統計を参照し,過去10年分の出荷データについて,金額と枚数は経済産業省の統計から,発電容量は太陽光発電協会からとって表にした(1)。

さて,これでデータは正確に伝わるであろうか。

表1 市場規模データのまとめ方①(例)

(2) 報告は正確に伝わるか

この表を受け取った人が,データを見て2012年から2013年にかけて数量(枚数)でほぼ2倍,容量では2倍以上になっている一方,金額ベースの伸びがやや鈍いことから,市場が拡大し普及が進んだことに伴い太陽電池モジュールの単価が下落しているのではないかと考え,表のデータを用いて1枚当たりの単価,発電容量1キロワット当たりの単価を計算したとしたらどうだろう(2)。

出荷金額と枚数は同じ経済産業省のデータなので,そこから単価を割り出しても問題はないだろうが,発電容量ベースのデータの情報源は太陽光発電協会である。情報源が異なるということは,同じ“出荷”という言葉を用いていても,その範囲が違っていたり,統計の取り方そのものが異なっていたりすることもありうる。

そのような定義の異なる可能性がある2つのデータを使って,単純に単価の割り出しなどをすべきではないことを,データを集めた本人はわかっているであろう。しかしながら,それが受け取った相手に伝わっていなくては元も子もない。このような事態が起こるのを未然に防ぐようなまとめ方,報告の仕方が必要なのである。

表2 市場規模データの間違った使い方

(3) データを説明できるか

1つの表にまとめると間違って使ってしまいかねないので,別々に提示すればよいのだろうか。

経済産業省の統計データと太陽光発電協会のデータが並んでいるレポートを受け取り,何の説明もなかった状況を考えていただきたい(3)。なぜ2つのデータがあるのか,その違いは何なのか,どちらを見ればよいのか,と聞きたくなるのではなかろうか。

2つのデータを並べただけで,何ら説明がなされていないとしたら,それは情報を伝えているとはいえない。

実際,経済産業省と太陽光発電協会の出荷発電容量データを比べると,経済産業省が容量データの統計をとり始めた2011年はさほどの違いはないが,2012年は協会データのほうが2倍近く多く,2013年では2.5倍以上となっている。調査担当者としては,この違いがどこからきているのかを理解し説明する必要がある。

表3 市場規模データのまとめ方②(例)

(4) 調査方法・範囲の理解

経済産業省「生産動態統計」には,「利用上の注意」注1)という解説があり,それを見ると調査対象となっているのは従事者50人以上の事業所であること,“出荷”は“販売”と“その他”に分かれておりここで採用した“出荷(販売)”には委託加工のための出荷や受託生産品の出荷などが含まれていないこと,などが書かれている。

一方,太陽光発電協会の統計は,集計方法などについて詳細に記されてはいないが,“調査対象会社一覧”注2)が付されていることから,協会会員などの企業から数字を集めたものであることがわかる。

業界団体の統計は一般的に会員から報告された数値を集計しているものが多く,このような場合は,調査対象に入っていない企業・事業所がありうることを考えておかなくてはならない。

太陽電池モジュールに関しては,協会統計の方が数値が大きいので,協会統計の対象に入っていない企業があったとしても,それ以上に「生産動態統計」の調査対象外である従事者50人未満の事業所における出荷量や事業所間で委託加工や受託生産などが行われているケースが多い,ということが考えられる。

両統計の対象範囲が異なっていることは明確であり,それを注記として付けるだけでも,数値の違いを説明していることになる。

(5) データに関する疑問を解決する

さらに,太陽電池モジュールの生産工場というのが通常どのくらいの規模なのか,50人に満たない少ない人数で大規模な工場のオペレーションが可能なのか,受託生産がどのくらい行われているものなのか,などの情報がわかれば,違いはあらわになる。

たとえば,第5回「業界・市場調査(2)」で紹介した矢野経済研究所の調査レポート『太陽光発電システム市場の現状と将来展望』のプレスリリースを見ると「多くの国内太陽電池メーカーでは,自社生産設備の拡充よりも,生産の海外移管や海外太陽電池メーカーからのOEM調達を進めている」注3)とあり,委託加工・受託生産が行われている業界であることがわかる。

もちろん,それぞれの調査の担当者に統計の取り方の違いを確認したり,太陽電池モジュールの生産工場に規模やオペレーションについてヒアリングしてみたりすれば,より詳しい情報を得ることもできるはずである。どこまで詳細な情報を得るべきかは,調査全体の中で,この太陽電池モジュールの市場規模データがどの程度重要なのか,どこまで詳しい情報が必要なのかという,目的次第である。

いずれにせよ,前述のような調査の範囲の違いなどは,統計データに付随している情報を見て考えれば,誰にでもすぐにわかることである。そのような数値の違いの要因・背景が,コメントなり注記として記載されていれば,2つのデータが並んでいたとしても,受け取った人は自分のニーズに応じてどちらのデータをメインに見るべきかという判断ができるだろう。

調査担当者は,データを受け取った相手が疑問に感じること,判断に迷うことなどを放置してはならないのである。

3. 情報を理解して使う

(1) 情報を使う際の基本

政府統計には必ず調査の対象,範囲,調査方法,調査項目や用語の定義が記されている。政府統計のデータを見る際には,それらを確認することが必須で,そこまでを含めて初めて“統計情報を得た”といえる。そのほかの統計や調査資料でも,このような調査の仕方や集計方法などを確認することは,基本中の基本である。

書かれていることを額面どおりに受けとめるだけでは,間違いにつながりかねないこともある。「生産動態統計」では太陽電池モジュールの出荷データが“販売”と“その他”に分かれていると説明したが,もしこの統計を見て,言葉だけで“販売”だから小売販売の額・量だろうと考えてしまったら,それは間違った理解となる。

また,たとえば,シニア世代向けのスマートフォンアプリケーション開発のための基礎データとして,シニア世代のスマートフォンの利用率をインターネット調査の結果から取ったとしたら,それはシニア世代全体の状況を把握したことにはならない。

第6回「消費者動向情報」で説明したとおり,インターネット調査はインターネットを利用していない人々は対象となりえず,シニア世代では誰もがインターネットを利用し,インターネット調査会社のモニターに登録しているとは限らない。すでにインターネットを利用している人々にスマートフォンのさらなる利用を促すという目的の場合にはそれでもよいかもしれないが,スマートフォンやインターネットにはこれまであまり縁がない人々の需要を喚起するという目的の場合には,インターネット調査による「シニア世代のスマートフォン利用率」をベースに話を進めていくと,まったく的外れなものが開発されることにもなりかねない。

(2) 既存のグラフやチャートの利用

インターネット検索で情報を探すと,他の人がまとめた資料やグラフ化したものなども多々出てくる。検索の効率化を考え,グラフ化した情報のみを探すという場合もあるかもしれない。その際に「ちょうどよいグラフがあるからこれでOK」と考えてしまうと,調査の仕方も定義も違うデータを用いて作られた間違ったグラフを使ってしまうことにもなりかねない。

効率を考えれば,自分でデータを全部打ち込んでグラフを作る,ということばかりがよいとも限らない。しかし,どんなデータやグラフでも,他人が作ったものである場合には,出ているものだけを見るのではなく,そこに書かれている出所・出典に戻ってデータの定義や意味合いを確認し,それを理解したうえで使うべきである。

(3) 情報源としてのウィキペディア

筆者がセミナーなどを行うと,「ウィキペディアの情報はどの程度信頼できますか?」という質問を受けることがよくある。それに対しては「どの程度信頼できるか,判断しようがない」と答えるしかない。

ウィキペディアは,ご存じのように誰もが編集に参加でき,項目によってはその道の大家が書いているものもあり,そこでしか得られない情報も多々ある。しかしながら,誰が記載内容に責任をもっているかが明確ではなく,たとえば,内容に疑問や質問があった場合には統計や調査資料であればその発行元・作成元に確認をすることができるが,ウィキペディアではその確認の取りようがない。

また,記事を書くにあたっては「信頼できる情報源において発表・出版されたことがない情報」は掲載しないことや,出典を明示する義務が課されている注4)。しかしながら,実際問題として,出典をたどってみてもウィキペディアの中を回っているだけのことも多い。

筆者も,ウィキペディアを参照することは多いが,それは自分が予備知識を得るためであり,報告書に盛り込む資料が「出典:ウィキペディア」ということは決してない。

出所・出典が明記されていなかったり,情報源を遡(さかのぼ)って定義や意味合いを確認できない場合は,ビジネス調査の情報源にはなりえないのである。

以上,統計情報を中心に,情報の意味合いを読み取るとはどういうことなのかを解説してきた。情報を伝えるには,その情報の意味合いをきちんと理解すること,必要に応じてその意味合いを説明できること,が基本となるということを理解していただけただろうか。

次回は,本連載の最終回となる。情報の価値をさらに高める「伝え方」について述べていきたい。

本文の注
注1)  http://www.meti.go.jp/statistics/tyo/seidou/result/chui/pdf/03_kikai/h2dcdknu.pdf

注2)  http://www.jpea.gr.jp/pdf/statistics/tyosa141120_1.pdf

注3)  http://www.yano.co.jp/press/press.php/001151

注4)  http://ja.wikipedia.org/wiki/Wikipedia:記事を執筆する

 
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