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集会報告
2014年CrossRef年次総会
中島 律子
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2015 年 57 巻 11 号 p. 853-855

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  • 日程   2014年11月12日(水)
  • 場所   The Royal Society, London, U K
  • 主催   PILA (Publishers International Linking Association )

1. はじめに

CrossRefはデジタルオブジェクト識別子(Digital Object Identifier: DOI)を登録する機関(Registration Agency: RA)として最大であり,欧米の学術出版社を中心に組織された非営利機関Publishers International Linking Association, Inc.(PILA)によって運営されている。CrossRefの年次総会は,隔年で米国,イギリスで開催され,2014年はイギリスのロンドンで開催された。出版社や学術団体から150名を超える規模の参加者があった。日本のRAであるジャパンリンクセンター(JaLC)はCrossRefの会員でもあり,一部の英文ジャーナル論文はJaLCが仲介してCrossRefにDOI登録を行っていることから,今回も最新動向の把握および情報交換を目的として参加した注1)

2. CrossRefの現況

CrossRef側から次のような報告があった。CrossRefは2014年で設立から15年になり,順調に拡大してきている。財政的にも健全であり,新しい試みも次々になされているが,今後はさらにアイデンティティーを確立するために,ブランディングやこれまでの活動の見直しを行っていく。DOI登録数は現在7,000万レコードに達しており,コンテンツの内容はジャーナルが78%だが,今後は書籍,図表,データベースなど別のタイプも増えていくであろう。また,他のソーシャルグループとのかかわりも広げていくとし,PKP(Public Knowledge Project)注2)が開発したジャーナル管理システムOpen Journal Systems(OJS)と連携したり,複数の機関を取りまとめる事業体(たとえば,JSTのJ-STAGEは初期のころからのパートナー)との連携を進める。

システムの状況については,ハードウェアやネットワークの性能向上によりDOI登録にかかる時間の短縮が見込め,過去データのクリーニングなど堅実な改善に向けた取り組みを行っている。

一方で,新サービスを検討するためのパイロットプロジェクトが多数進行している。まず,CrossRefにとって,メタデータを統合しAPIによる提供を行っていくことは新しい重要なイニシアチブである。会員の出版社のみならず,他のステークホルダーである研究資金配分機関や図書館員などによってメタデータが活用されることが狙いにある。DOI Event Trackingプロジェクトでは,SNSなどさまざまなソースからDOI関連のデータを収集し提供することを目指してワーキンググループが活動している。コンテンツの所有者はそのデータを分析し,コンテンツの利用パターンを知ることができる。これは付加価値サービスとは独立に,インフラとして提供される。またWikipediaについて,引用されている学術情報がDOIでリンクされるようになることは非常に有用であることから,CrossRefはWikimediaと協力し,Wikipediaの引用ツールを改良して簡単にDOIがリンクできるように活動を進めている。また,これまで大手出版社の需要を中心としたサービス展開を行ってきたが,会員の実に8割以上は小規模出版社であることを踏まえ,DOIを簡便に登録することができるSmall Publisher Toolsを検討している。ユーザーは,DOI登録対象コンテンツのPDFをアップロードするだけで,メタデータとともにDOIが登録できる。

ブランディングについては,当初RAはCrossRefだけであったものが現在は9機関となり,特色を出しにくくなっていると感じている。そのため,役割やターゲットを明確にし,ロゴやサービス名などもシンプルに,わかりやすくしていく。サービス名は,現在,“CrossCheck”や“FundRef”など固有に命名されているが,“CrossRef Plagiarism Check”や“CrossRef Funding Data”など,“CrossRef~”の形に変えていく。

現行のサービスについてもそれぞれ最新状況が紹介されたが,そのうちCrossRef Text and Data Miningは,2014年5月に開始された新しいサービスである。出版社がメタデータにライセンス情報を明記することにより,論文の全文データをテキストおよびデータマイニングに使用したい研究者等は,使用可能なデータの検索をCrossRefの提供するAPIにより行い,出版社から全文をダウンロードすることができる。

3. 基調講演

Ways and Needs to Promote Rapid Data Sharing (Laurie Goodman, PhD., GigaScience)

講演者は,生命科学・生物科学分野のオープンアクセス,オープンデータジャーナルGigaScience注3)の編集長である。GigaScienceは,論文に加えて関連するデータをともに出版するという新しい形式をとっている。また,データの分析プラットフォームも提供している。

Goodman氏は,多くの人々が病気や飢えにより生命の危険にさらされている世界の現状を述べ,生命科学・生物科学分野の情報が一刻も早く共有されることの重要性を語った。しかし,現状では論文を出版するまでには時間がかかり,情報の速報性が失われてしまう。よって,データは論文に先行して共有されるべきものである。データの共有はさまざまなメリットをもたらし,たとえばゲノムデータにみられるように,共有データを利用した成果として研究論文が多数生まれ,領域全体の投資効果が向上する。また,論文著者にとっては詳細なデータを共有することでより多くの引用が得られることや,あるいは共有が進まないことで研究の再現性が低い率にとどまっていること,共有は論文の取り下げ抑制にも効果があることなどが関連研究を引用して説明された。

しかし研究者がデータ共有に消極的になる理由は大いにある。知的財産の確保や機密保持,他の研究者に出し抜かれるおそれ,誤解や誤用の心配等,さまざまである。このような状況のもとでデータ共有を進めるためには,編集者は研究者を援助するべきである。ジャーナルデータのリリースポリシーを確立し,データ引用を推進するべきである。公表されたデータのクレジットを明確にすることは,研究者にとってのインセンティブになりうる。データが引用可能な形で公開されれば,データ作成者はそのインパクトを追跡し,研究資金配分機関に対して業績として示すことができるようになる。それを実現するためには,論文発表の前にデータが出版されることをジャーナルが認めること,論文のレファレンス欄にデータ引用が(文献引用と同様に)記述可能であること,被引用数が追跡可能であること,コミュニティーで指標の活用方法を検討する必要があることが述べられた。

4. パネルディスカッション

査読の改善をテーマとしてパネルディスカッションが行われた。パネリスト4名から,それぞれ査読の仕組みに関連する特徴的なサービスの紹介があった。

PRE(Peer Review Evaluation)は,信頼できる査読が行われていることが確認できるサービスを提供している。査読システムとAPI連携し,ジャーナルプラットフォーム上で,査読のどの段階かを示すことができる。ジャーナル運営者が希望すれば,査読の情報を確認できるリンクが付けられる。

bioRxivはライフサイエンス分野のプレプリントサーバーである。投稿されたプレプリントにはDOIを登録し,後に論文になってPubMedなどに登載されると自動的にリンクされる。プレプリントは査読を経ないが,SNSや電子メールなどを通じて多くの反響が得られ,議論の機会を提供している。

Frontiersは,研究者コミュニティーのネットワークを用いた査読によるオープンアクセス誌の出版を行っている。350分野48誌を5万人の編集者により運用しており,成功を収めている。共同レビューシステム上で,著者は査読者のコメントが確認でき,査読者もまた他の査読者のコメントが確認できる。論文が出版される際は,査読者および編集者が謝辞に明記され,彼らのプロファイルとリンクされる。

Peerage of Scienceは,査読システムを提供している。著者は論文誌を選ばずに投稿し,査読の締め切りを設定できる。査読者は,査読したい場合に応じるシステムである。査読者の査読もあり,実績が評価される仕組みである。

全体として,査読プロセスを透明化する方向に進んでいる印象を受けた。査読者の名前を明らかにしたり,査読プロセスを可視化したりすることにより投稿者の満足度を上げ,一方査読者に対しても,査読を実績として評価することで,査読の品質を上げる効果を生んでいるようである。

5. 所感

多数の出版関係者が集まり,意見交換が活発に行われていた。一方で会議自体は,参加者がCrossRefの活動について熱心に情報収集している様子がうかがわれた。CrossRefは,30名に満たない規模の組織で運営されているが,外部と効果的に連携して新しい試みを進めている。それに伴い,当初の,大規模出版社を中心とした会員限定のサービス提供の形から,APIを開放し,連携の裾野を広げるなど方針が変化している印象も受けた。JaLCにおいても,変化の速いCrossRefの状況を把握し,そのサービスをより活用していくことを意識したい。

(科学技術振興機構 中島律子)

本文の注
注1)  http://www.crossref.org/annualmeeting/agenda.htmlにプログラムと発表資料がある。

注2)  https://pkp.sfu.ca/

注3)  http://www.gigasciencejournal.com/

 
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