情報管理
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インフォプロによるビジネス調査-成功のカギと役立つコンテンツ 第12回 情報の伝え方
上野 佳恵
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2015 年 57 巻 12 号 p. 918-923

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集めた情報の伝え方によって,その価値は2倍にもなりうるし,逆に半分にもなりかねない。情報の価値を高めるためには「何をどのように」伝えればよいのか。前回は伝えるべきことの基本となる,情報を正しく理解し取捨選択を行っていく手順について述べたが,そうやって絞り込まれた情報を「どのように」伝えていくのか。ビジネス調査成功の最後のカギである。

1. 調査結果の報告とは

インフォプロがビジネス調査の結果を伝えるパターンには,2通りあると考えられる。1つは,集めた情報をあまり加工せずにそのまま渡す場合。そして,もう1つは集まった資料からわかることをレポート形式にまとめる場合である。

図表に加工をしなくてよい,レポートにまでまとめる必要はないといっても,何もしなくてよいというわけではない。少なくとも集めた情報から何が言えるのか,どんなことが読み取れるかぐらいのメッセージがなくては,調査結果の報告とはいえない。

リサーチャーにかぎらず,調査業務の経験があまりないビジネスパーソンにこのような話をすると,「言われたから調べただけであって,自分の意見や見解を述べるなど及びもつかない」という声を耳にすることがある。そして「判断をするのは上司であって自分が意見を述べたところでムダである」「意見を述べて間違っていたら困る」などと言うのである。確かに,上司とは問題意識も違い,情報の見方も異なるだろう。こちらの意見などろくに聞いてくれないかもしれない。しかし,言われたから調べる,見つけた情報をそのまま出す,というだけでは,子供の使いでしかない。調査を進めていく途中で気がついたことは多々あるだろうし,情報を読み込んでいく過程で自分なりの見方や意見が出てきたはずである。多くの情報を得た調査担当者として,それを伝えていくのも大切な役割の1つである。

インフォプロの場合も同様で,依頼を受けて調べたものだからといって,ただ情報を羅列して報告するのでは存在意義はないに等しい。どのような調べ方をして,どんな情報があったのか,それともなかったのか,手に入った情報からどのようなことが読み取れるのか,などは最低限メッセージとして伝えなければならない。さらに情報のプロとしては,入手できなかった情報があった場合,その背景・理由やどのような解決策が考えられるのかというオプションが提示できるべきだろう。第9回「ヒアリングと自主企画調査」でも述べたように,公開情報では得られない情報を見極め,目的に応じて調査の方向性を変える,自主企画調査を行うなどの提案ができることこそが,インフォプロのプロたるゆえんである。

2. 情報をまとめる3つのポイント

レポートにする場合は,プレゼンテーションソフトなどを用い,データを表やグラフに加工しまとめていく。とはいっても,クライアントに対する企画のプレゼンテーション資料ではないので,ビジュアルやイラスト・アニメーションなどの見た目に過度にこだわる必要はない。主役はあくまでも情報そのものであり,重要なのは相手にとって必要十分な情報を,わかりやすく・見やすく,適切なボリュームで提示できるかどうかである。

(1) 必要かつ十分な情報か

調査を開始する前に,フレームワークなどを用いたプランニングを適切に行っていれば,必要な情報のモレは生じていないはずである。とはいっても,調査を進めていくと競合企業に関する情報が数多く出てきて,ついその収集・読み込みに手間をとられ,消費者情報がおろそかになっていたり,政策が業界の行方を左右していることがわかりPEST(Politics,Economy,Society,Technology)のフレームワーク注1)のPolitics(政治)の情報ばかりを集めてしまうというケース等が多々起こりうる。情報の収集→まとめ,という一方向の手順で考えてしまうと,どこかでモレが生じていたり,情報の偏りがあったりしても気づかない恐れがある。まとめにかかる前にプランニングに戻り,リストアップした情報がすべてそろっているのか,フレームワークの中で足りない部分はないのか,ということを確認することが重要なのである。

もっと言えば,常にリサーチプランを思い描きながら調査を進めていけば,偏りが出そうな時点,モレが生じそうな場合にもすぐ気がつくことができる。プランニングがしっかりできれば調査は半分終わったも同然,と言うのにはこのような意味もある(1)。

コンサルティング業界ではMECEという言葉がよく使われる。Mutually Exclusive Collectively Exhaustiveの略で,日本語にすると「モレなくダブりなく」となる。モレがあるのはもってのほかだし,ダブりも決して褒められたものではない。何かがダブっているというのは,そこにムダが発生しているということである。情報とて同じで,資料がたくさんあればあっただけ役に立つわけではない。インターネット検索で瞬時に大量の情報が手に入ると言っても,情報を検索・入手し,意味合いを理解するにはそれなりに時間がかかっている。同様に,その情報を受け取った側にも,情報を読み込み理解するのにはそれなりの時間がかかることとなる。まさに「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如(ごと)し」なのである。

情報のダブりに関しても,プランニングを意識しながら調査を進めていけば,関連する情報が多い部分と少ない部分があるということにどこかで気づくことができる。すべての情報が同じレベルでそろうとは限らず,濃淡は必ずや発生するものではある。調査の途中でそれがわかれば,情報がある程度そろっている分野はいいとして,不足していると思われる分野を重点的に見直し,深掘りしていくなどの手がとれる。

図1 MECEの考え方

(2) わかりやすく見やすいか

フレームワークを用いてリサーチプランニングを行っていれば,そのフレームワークはそのままレポートの章立てや見出しとして使える。たくさんの情報を前に,あらためてどう整理するか,どのような順番にまとめていくか,などと考える必要はない。情報をまとめる枠組みも,実はプランニング段階ですでにできあがっているのである。

数値やデータは,できるかぎり表やグラフ化した方がよいだろう。文章の中にただ数字を羅列しているのは極めてわかりづらい。表の数値は1つずつ見ていかなければならないが,それがグラフ化されていれば,ひと目で傾向をつかむことができる。情報をわかりやすく伝えるには,一般的には表だけではなくグラフにした方がよい。表計算ソフトなどを使えば,さまざまなパターンのグラフはすぐに作ることができる。ただし,選ぶグラフの種類によって情報の意味合いが的確に伝わらない場合もありうるし,目盛の取り方などによっては間違ったイメージを伝えることにもなりかねない。グラフは形や線の傾きなどにより,ひと目で誰にでもわかりやすくメッセージを伝えられる反面,見た目のイメージが情報の本質を隠してしまうこともある。情報を伝えるのが第一の目的だとすれば,グラフのパターンも慎重に選ぶべきであるし,必ずしもグラフ化するのがよいとは限らないことを頭の片隅に入れておいた方がよいだろう。

文章に関して言えば,文字数をできるかぎり減らすことがポイントとなる。過度な説明や解説,余分な修飾語や語尾を削り,箇条書きにする。さらに,箇条書きの文章も「主語→述語」の順番でなくてもよい。特にプレゼンテーションソフトでまとめる場合は,相手に文章を一字一句読ませるのではなく,抽出したキーワードを文字列として見せるくらいのつもりの方がよいだろう(2)。

図2 資料のわかりやすさ

(3) 適切なボリュームか

レポートをまとめるにあたって,どのくらいが適切かという基準は人によっても異なり,一律に決められるものではない。読んでいる時間もないので2~3ページにまとめてほしいという人もいれば,関連する資料・生データをすべて提出してほしいというクライアントもいるだろう。資料の厚さがいまだに重要視される業界もあると聞く。

一律の基準はないとしても,一般的に集中して資料を読み込むことができる時間はどのくらいかと考えれば,だらだらとした長いレポートは避けるべきである。しかし一方で,必要十分な情報に絞り込んだとしても相当のボリュームになってしまうこともありうる。そのような場合は,主要なデータ・資料のみを先にまとめて,残りは資料編や参考資料として後付けする,などとしてメリハリをつけるとよい。

たとえば,太陽電池市場規模に関しては,太陽光発電協会の統計には用途別,素材別などのデータもあるが,調査目的から素材別のデータの重要性が低いと考えられる場合は,全体・用途別のみのデータを取り上げ,資料編に素材別データもあるということを記載する方法などがある。

得られる情報量によってボリュームが変わるのは当然なのだが,初めの段階でどの程度のボリュームが求められているのか,何ページぐらいまでなら許容範囲なのかを確認しておくことも必要だろう。会議などで調査結果を報告するのであれば,報告時間によって,レポートの構成やページ数なども決まってくる。

(4) レポート=プレゼンテーションではない

プレゼンテーションソフトというのは,本来スライドとして視覚的に情報を相手に見せるためのものである。したがって筆者は,情報を伝えることが第一義のレポートには,必ずしもプレゼンテーションソフトを使う必要はない,と考えている。

プレゼンテーションソフトではページごとに情報をまとめる必要があるため,全体としてページ数が多くなる傾向にある。逆に,ページ数を減らそうとして1ページに2つも3つも表やチャートを入れたり,数行にもわたる文章を並べてしまうと,結果的に非常に見づらいものとなる。いろいろな会社の資料を見せていただく機会があるが,多くの場合1ページあたりの情報量が多すぎて,何が言いたいのかが不明瞭なケースが多い。

さらに,プレゼンテーションソフトには多くの機能が盛り込まれているために,何でも図にしてみたくなったり,文字の大きさや飾り,図やイラストの細かい色や形にこだわったりすることで,無駄な時間が費やされることが多いようにも感じられる。

情報を伝えるレポートして考えた場合,文書ソフトに表計算ソフトで作成した表やグラフを貼るなどして,順を追ってまとめていく方が,適切なケースもあるだろう。レポートの目的,報告する相手,伝えるべき情報量なども鑑みて,どのような手段(ソフト)を用いるべきかを考えてみてもよいのではないだろうか。レポート(情報をまとめる)=プレゼンテーション(資料を作る),というわけではない。

3. 行動につながる情報

情報が相手に正確に伝わり,その内容を理解してもらうには,ここまで説明をしてきたとおりに,必要かつ十分な情報をわかりやすく・見やすく伝えることで可能となるであろう。しかし,情報を伝えるということはそれだけではない。

(1) 情報の役割

そもそも,情報とはどんな役割をもっているのだろう。インフォプロのもとにビジネス調査の依頼があるということは,依頼者が新規事業や新製品開発を考えていたり,市場環境の変化をとらえたいと思ったり,消費者ニーズを探りたいという場合などである。その目的はさまざまだが,共通しているのは情報を活用して最終的には何らかの意思決定が行われたり,方向性が定まったり,行動が起こされたりするということである。

日常生活においては,ただ単に,面白そうだから知りたいなど,知的好奇心を満たすためだけに情報を集めるということもあるだろう。しかしながら,ビジネスにおいては,報告でも,企画でも提案でも,そこに盛り込まれた情報は必ず何らかの意思決定や行動に結びつく。逆に言えば,意思決定や行動につながるものでなければ,情報としての価値はないということになる(3)。

図3 情報の役割

(2) 依頼者のニーズの把握

調査依頼者の意思決定や行動につながる情報を提供するには,まず依頼のニーズの本質をどれだけ理解できるかがポイントとなる。調査の入り口に戻ることになるのだが,いま一度考えておこう。

目前の調査のテーマだけではなく,至った背景やプロジェクト全体の目的について知っていれば,視野を広く保って情報にあたることができる。そうすれば,プランニングの段階では必要情報リストに入れていなかったことでも,最終的な目的から考えると役立つ情報が発見できるかもしれないし,依頼された情報がなかなか見つからない場合でも違う視点から考えるなど別な方向に調査を展開していくことも可能となろう。

そのためには,依頼を受ける際に調査の背景や最終的な目的などについて,なるべく詳しい話を聞いておくことが欠かせない。昨今,メールで調査依頼がくるケースが多いことと思うが,どんなに詳しく説明されていたとしても,メールでは文面に書かれている以上のことはわからない。もちろん,確認したいことがあれば何度かメールのやり取りをするのではあるが,その分時間がかかってしまう。第9回「ヒアリングと自主企画調査」の際に,ヒアリングを電話やメールで済ますのと対面で行うのとでは得られる情報量が違うということを述べたが,調査依頼を受ける際も同じである。

対面で話していれば,使っている言葉の定義・意味などのすり合わせもその場でできるし,ディスカッションの中でプランニングのアイデアなどが出てくる場合もある。調査依頼ぐらいで相手にわざわざ時間をとってもらうのは申し訳ないと考えがちであるが,後になって,思っていたものと違う,自分が必要なのはこのような情報ではない,などと言われては元も子もない。急がば回れ,なのである。

(3) 情報の説得力

情報が間違いなく正しく伝わり,相手にその内容を理解してもらったとしても,それだけでは十分ではない。行動する,これでいこうと決断するには,頭で理解するだけではなく,自分自身で納得し腹落ちすることが必要となろう。

伝えた相手に納得してもらう。それには,見た目で訴えることも大切ではあろうが,情報そのものに説得力がなくては意味がない。情報に説得力があるというのは,間違った情報や抜け・モレがなく,相手のニーズに合致している必要十分な情報であること,さらに本質的な目的から考えるとこんな情報があった方がよい,これも役に立つはずだ,といったように,一手先を読むような情報まで提示されていれば,受け取った側の心にも響くはずだ。

また,なぜその情報なのか,その情報から何が言えるのか,目的に対してどのような意味やインパクトがある情報なのか,など提示する情報に対して責任をもち,きちんと説明できることも必要だろう。疑問の余地があったり,曖昧なメッセージしかなかったら,受け取る側も「ほかに,もっとよい情報があるのではないか」などと不安になりかねない。

自分が相手の立場だったら,「どんな情報があれば方向性を決められるだろうか」「何をどのように伝えられたら一歩前へ進めるだろうか」と常に考えながら,臨機応変に進めていくのが,情報のプロというものである。

1年間にわたって,ビジネス調査に臨むにあたっての考え方や有用と思われるコンテンツなどについて述べてきた。ビジネス調査に対し,皆さんがもつ悩みや疑問には到底答えきれてはいないであろうが,1つでも2つでも,成功に向けてのヒントになることがあったとしたら望外の喜びである。

本文の注
注1)  PESTのフレームワークについては以下の図3を参照

情報管理 57(2), 120-124, doi: 10.1241/johokanri.57.120

参考資料

  1. a)   清水久三子. プロの資料作成力:意思決定者を動かすテクニックとおもてなしの心. 東洋経済新報社, 2012, 189p.

 
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