2015 年 57 巻 12 号 p. 946-948
ジャパンリンクセンター(JaLC)注1),1),2)は2014年12月に新システムとして刷新し,新機能を追加した。本稿では,JaLCの概要および新サービスを開発するに至った背景を簡単に述べ,その後新機能について説明する。
JaLCはDOI(Digital Object Identifier)という識別子の登録を行う機関である。DOIとは個別のコンテンツ(主として電子的なコンテンツ)を識別するために割り振られた文字列であり,世界で広く用いられている。DOIは各コンテンツの所在URL情報とペアで管理されている。そのためDOIの前に「http://doi.org/」を加えたURLはコンテンツの所在URLに置き換えることができる。
コンテンツの発行者の事情や,コンテンツの保管者が替わることでコンテンツのURLが変わることがあり,コンテンツにアクセスするのに不便であったが,DOIによりコンテンツへの持続的なアクセスを可能とする。
DOIは国際DOI財団(International DOI Foundation: IDF)が統治しているが,IDFがすべてを担っているのではなく,DOIの登録については傘下のDOI登録機関(Registration Agency: RA)に任されている。RAは,ジャーナル論文,研究データ,映像データなど特定の種類のコンテンツを扱う機関とコンテンツの種類によらず国や地域のコレクションを扱う機関に大別できる。
世界で9機関がRAとして活動している。学術コンテンツに対してDOI登録を行い,引用被引用情報の提供サービスを行うCrossRef,研究データに対してDOI登録を行うDataCite,映像データに対してDOI登録を行うEIDR(the Entertainment Identifier Registry),中国の科学技術信息研究所(ISTIC: Institute of Scientific and Technical Information of China),台湾のAiriti Inc. などがある。
JaLCはRAの1つとして日本の学術コミュニケーションの事情に即したDOIの登録サービスを行う。科学技術振興機構(JST),国立情報学研究所(NII),物質・材料研究機構(NIMS),国立国会図書館(NDL)が共同で運営しており,JaLCの方針を議論し意思決定を行うためにJaLC運営委員会を設置している。
JaLCを利用するにはJaLCの会員となる必要がある。会員は正会員と準会員に分かれている。準会員は,直接JaLCのシステムを利用するのではなく正会員を通じてJaLCに登録を行う。
(2) 新機能を開発するに至った背景より多くのコンテンツにDOIが付き,コンテンツの利用につなげるため,「DOI登録するコンテンツの拡大・メタデータ項目の拡大」「同一メタデータへの対応」「コンテンツ情報の流通促進」が求められてきた(表1)。
項目名 | 内容 |
---|---|
DOI登録するコンテンツの拡大・メタデータ項目の拡大 | ・DOI登録対象を学術論文から書籍,研究データ等に拡大する ・メタデータ項目に研究者ID,ファンド情報を追加する |
同一メタデータへの対応 | ・メタデータが同じだが内容が異なるコンテンツに対応する ・同一コンテンツが複数の場所に所在するときに対応する |
コンテンツ情報の流通促進 | ・JaLCコンテンツ情報の流通を促進する |
新システムでは前述したニーズに応え「DOI登録対象コンテンツの拡大」「メタデータ項目の拡大」「異版コンテンツへの対応」「マルチプルレゾリューション」「Linked Dataでの情報提供」といった新機能を備えている。
(1) DOI登録対象コンテンツの拡大,メタデータ項目の拡大新システムでは,DOI登録の対象となるコンテンツを表2の6種に拡大する。従来は「アーティクル(学術論文)」のみが対象であった。
「アーティクル」「書籍,報告書」はCrossRefのDOI登録かJaLCのDOI登録かを選択できる。また,「研究データ」はDataCiteでのDOI登録を選択できる。CrossRef,DataCiteは海外展開を重視する場合にはメリットがある。一方日本語のメタデータの取り扱いという点ではJaLCにメリットがある。
また,版情報(詳しくは次の「(2)異版コンテンツへの対応」を参照),研究者ID(ORCIDなど)情報,ファンド情報,研究データ関連情報をメタデータ項目に追加した。
(2) 異版コンテンツへの対応コンテンツがもともとは同じであるがコンテンツに改定が行われた,あるいはその形態が異なる場合,異版として別のDOIで登録する。前者はたとえば,出版論文と著者の手元に残った原稿とが,それぞれ公開されている場合,後者は,たとえば,同じタイトルが単行本,文庫,朗読CD等さまざまな形態で刊行されている場合である。
異版を扱うために,バリエーション(出版版,著者版等),バージョン(1.0,2.1等),フォーマット(PDF,MP3等)の3種類の版情報をメタデータの項目として用意する。
(3) マルチプルレゾリューション完全に同一のコンテンツが複数のWebサイトで公開されている場合には,コンテンツが公開されている複数のURLを1つのDOIに登録するマルチプルレゾリューションとする。
(4) Linked Dataでの情報提供JaLCでDOI登録したコンテンツのメタデータの一部をRDF形式で提供する。提供するメタデータ項目はDOI,タイトル,著者名,ISSN,巻,号,開始ページ,発行日である。
以上2014年12月22日にリリースした新機能を中心としてJaLCの概要を紹介した。今後も,JaLC運営委員会,各分科会,対話・共創の場2)などから関係者の意見を取り入れながら機能強化を図っていきたい。
(科学技術振興機構 加藤斉史)