2014 年 57 巻 2 号 p. 136-138
今回のINFOMATESは講演形式ではなく,全員参加型のワールド・カフェ方式によるディスカッションを行った。
総勢17名で4グループを設定した。実のところワールド・カフェについて,ほとんどのメンバーが何も知らないままに参加したのだが,マニュアルに縛られないで実践することに違和感もなく,むしろ思ったことを自由に述べる,他の意見を聴くということだけで,十分達成感のある手法だと思った。ここでは,ワールド・カフェとはどういうものかに触れて,当日の成果を,かいつまんで紹介する。
1995年米国カリフォルニア州サンフランシスコ市で,アニータ・ブラウン氏とデイビッド・アイザックス氏が世界各国から知的資本経営にかかわる専門家20数名を自宅に招き開催した会議にあると言われている。その2日目の休憩中に,参加者たちの間で自然発生的に会話が盛り上がって,主体性と創造性を高めるような意見交換が行われたのだから,主催者も驚いたらしい。テーブルの上には模造紙とペン,それを囲んでカフェのような雰囲気になっていた。最後に模造紙に残されたメモには,堅苦しい会議では発想しえないことばかり。それまで想像していなかった多くの知識や洞察がこの場で新たに生まれたと全員が感じたことから,「ワールド・カフェ」と名付けられた1)。
本セミナーの数日前には,ワールド・カフェについてその有用性が毎日新聞に「注目集まる」と記事にもなった2)。そこでは,「組織の中に“対話”を取り戻す」ことを目標に,参加した企業人を例にあげワールド・カフェを紹介している。
以上から,ワールド・カフェとはその名のとおり「カフェ」のようなリラックスした雰囲気の中で,少人数に分かれたテーブルで自由な対話を行い,他のテーブルとメンバーをシャッフルして対話を続けることにより,参加した全員の意見や知識を集めることができる対話手法の1つである。ポイントは,自分自身を語る,深いところまで聴く,リラックスしてポジティブに臨む,ということ。また正解や結論を導き出すのが目的ではないので,さまざまな意見に触れて,自身に「気づき」があればよいのだという。まさに参加してこそ得られる感覚である。企業や学校などで,今後盛んに取り入れられるだろう。
当日は大雪で残念ながら不参加の方も数人いらっしゃった。そのため当初予定の4名1チーム編成の4チーム構成で,進行担当者も加わり進められた。
不安解消のため,まずはスライドを使ってワールド・カフェについての簡単でわかりやすい説明があり,当日の流れと進め方などが紹介された。その後早速グループごとに対話が開始された。4つの机の上には,お菓子とお茶,広げられた模造紙があり,付箋なども準備されていた。またメンバーに手に取ってもらえるように,かわいい“ぬいぐるみ”も用意されていた。これは「これから私が話しますよ」という意思表示をするものである。
グループは,ホスト1名と旅人数名で構成される。今回は事前にホストを決めておいて,他の3名が旅人となった。第1ラウンドでは,最初のグループで簡単な自己紹介を行い,今回のテーマそのものでもいいし関連する小さなテーマでもいいので,20分程度の対話を行った。その後,ホストを残して,3名の旅人は他のグループメンバーとシャッフルする旅に出た。もちろん,どこへ行ってもいい。第2ラウンドで,旅人らは,行った先でも簡単な自己紹介と自分のグループでなされた話を紹介しながら,新たな対話を展開した。その後第3ラウンドでは,旅人は元のグループへ戻り,旅で得たアイデアを紹介し合いながら対話を継続した。その後,第4ラウンドとして,ファシリテーターが,ホストを中心に全員と対話した。ここまでで2時間くらいを要した。時間に余裕があれば,さらに旅に出て,いろいろなグループで対話することもできる。ワールド・カフェでは,3時間程度がよいとされている。
今回のテーマは「図書館・情報部門は,この時代をどう生き抜いていくのか?」。これが全員の共通項としてあるだけで,それ以上の制約は何もない。まったく自由な対話を楽しむためのものであり,各グループではさまざまな話が出た。自分にとっての図書館とはどういうイメージか,あるいは活性化している図書館とはどういうものだと思っているのか,図書館では何が問題になっているのか,などの質問を投げかけながら,話はどんどん進んでいった。旅人が旅に出て,よそから旅人がやって来て,それまでとは違った視点の話が聞けた。自分から発言するのもしないのも自由だが,いつの間にか自然と話していた。ぬいぐるみを手にするのも,うっかり忘れるくらい話に夢中になっていた。話しながらも模造紙にメモもした。自分が話したこと,聴いたことも忘れそうになりながらもできるだけ書き込んだ。メモをとることをついつい忘れがちになる。模造紙に直接書いたグループもあれば,付箋に書いて貼り付けたグループもあった。そうこうしている間にあっという間に第4ラウンドになってしまった,というのが正直な感想である。特にまとめたり,結論を出したりする必要がないので気楽だった。旅人もよその旅人と触れ合うことで,思いがけない刺激をもらえた。最後は,皆が自分の思いを出し切ったというようなすがすがしい顔をしていた。
せっかくなので,その時の参加者の気持ちを少しでも共有してもらいたいと思い,話題になった内容を報告する。
どのグループからも最大の問題点として,予算が足りないことがあげられた。「状況として,図書室を利用する人が減っている」「図書室がなくなる」「企業では文献の複写対応業務は大きな業務の1つだ」など。大学図書館の関係者からは「大学図書館間の連携に比べて,企業間の連携,あるいは大学との連携って聞かないね」との意見も。
羅列となるが,ワールド・カフェで出た言葉を紹介する。
もっとたくさんの言葉が飛び交ったのだがこの程度にして,あとは想像にお任せする。初めての試みにもかかわらず,満足したという意見が多く,楽しめたことが何よりの成果だった。終了後の懇親会は,予定より多くの参加となり大盛況であった。これが「ワールド・カフェ効果」かもしれない。
もし雪が降らなければ全員参加となったことだろう。懇親会は参加しても緊張しない,誰と隣になろうが改めて自己紹介する必要もない,すでに互いを受け入れてしまっているので,まるでワールド・カフェの続きでフリーディスカッションに自然と突入といった雰囲気。まさにワールド・カフェの大きな効果を発見した気分である。
今回は,「図書館」ということだけが共通項で,大学,企業を問わず関係者が入り混じってのワールド・カフェであった。だからこそ,これまでにはない,新しい気づきや刺激,発見があったと言える。これからもテーマに応じて,ワールド・カフェを活用していきたいと思う。機会を見つけて,ぜひワールド・カフェにトライしてみてほしい。
INFOMATESでは,このように身近なテーマを取り上げ,自由な討論をする場を作っています。どなたでも自由に参加できますので,お誘い合わせのうえぜひご参加ください。
(INFOMATES委員 岡 紀子)