情報管理
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リレーエッセー
つながれインフォプロ 第9回
松浦 智佳子
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2014 年 57 巻 3 号 p. 196-198

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日本製薬情報協議会(PIAJ : Pharmaceutical Information Association of Japan)1)は,まもなく50周年を迎えようとしています。情報を取り巻く環境の目覚ましい変化はいうまでもありませんが,当協議会の歴史は,まさにデータベースとともに歩んだ活動の歴史かもしれません。

その時代の情報担当者の役割を探りつつ,会員同士の輪は脈々と受け継がれているのです。

日本製薬情報協議会の誕生

皆さんは,RINGDOCという名称を耳にしたことはありますか。

製薬企業専用の会員制文献データベース「RINGDOC」(現Derwent Drug File)ユーザー会であるリングドック日本部会が,日本製薬情報協議会の前身です。

すでにこのシリーズに登場された日本EPI(Engineering Patents Information)協議会等と同様に旧Derwent社のユーザー会として発足しました。他のDerwentユーザー会は特許情報が対象でしたが,リングドックは文献データベースユーザー会だったことに大きな違いがありました。また,「RINGDOC」をいかに会員にとって理想的なツールに近づけるかという取り組みだけではなく,日本における価格交渉というユーザー団体ならではの活動もありました。

その一方,データベースの増加,CD-ROM媒体提供によるエンドユーザーへのDB開放,そして現在のWeb環境へという大きな変化の中で,データベースユーザー会という求心力は薄れてきました。しかし,医薬情報を扱う情報担当者のつながりは続けたい,と「日本製薬情報協議会」に名称を変え,会の目的も活動方針も大きく変更して現在に至っています。

製薬情報担当者としての役割,また企業内ニーズを探りながら,柔軟に活動形態を変え,価値ある協議会活動を模索しながら発展し続けています。

図1 25周年記念誌と情報処理技術検討交換会資料

製薬分野の情報について

他分野の情報担当の方からは「製薬情報担当者はうらやましい」という声をいただきます。製薬分野データベースの種類が豊富ということによりますが,索引の充実した文献情報や特許情報だけでなく,開発医薬品情報,市場情報といった幅広い情報がきめ細かく提供され,豊富な検索機能とデータ解析機能は情報担当者だけではなくエンドユーザーにとっても恵まれた環境となっています。しかし,データベースはいずれも高額で,特に海外データベースの多くは電子ジャーナル同様,毎年値上がりしています。以前は「情報は買うもの,高いもの」と認識されていましたが,今や情報はWebから無料でとれるもの,Googleさえあれば大丈夫といった“良き理解者”が増え,担当部署での予算獲得はますます難しくなってきているようです。さらに,情報にかける投資はその効果がわかりにくく,限られた予算でどのデータベースを契約するかは情報担当者にとって非常に大きな課題です。

一方,高額なデータベースは,その収録情報および機能の信頼性に対して厳しい目で評価したいものの,その評価者が少なくなっているのも事実です。また,データベース契約後は,使いこなすノウハウとユーザーフォローも重要です。

研究開発では競合する会員同士ではありますが,データベース活用法はもちろん,ユーザー支援法,さらにベンダーへの要望など広く共有し連携することで,各社の情報担当としての責務を果たしていると考えています。

協議会を支える会員

2014年3月時点の会員数は,日本の製薬関連企業21社となっています。会員所属部署は,研究支援の研究開発本部などが多くを占めていますが,そのほか知的財産部や事業管理部門など多彩な顔ぶれということも大きな特徴です。

ところで,企業では部門間連携が課題といわれます。日頃の情報共有と業務連携が新しい成果や価値を生み出すというわけですが,実は,人を介した情報だけではなく,情報ツールでさえ共有されていないケースが意外と多いのも事実です。専門性が高い情報ほど他からわかりにくく,他部署でのニーズや他の活用法があることにはなかなか気づきにくいものです。たとえば,製薬企業では薬事部門で必須の薬事規制情報は製造,研究,営業部門にとっても必要な情報なのですが,他部門からは入手しにくい情報の1つです。

それゆえ,PIAJ会員の所属部署の多様性は,企業活動にとって必要な情報の全体像を把握したり,各専門家の助言を得る機会になりますので,情報調査,活用という実務だけではなく,広い視野で企業内情報の在り方を考える目も養われると感じています。

協議会活動について

年度はじめに,総会を開催し,その年の活動方針を決定しています。

小回りの利く活動を目指し,関東支部と関西支部に分けた各支部活動を推進していますが,もちろん他支部への参加も大歓迎です。

年に1度,情報処理技術検討交換会を開催して,give & takeの精神で,各社からの発表はもちろん各勉強会の成果も発表します。

また,情報関係の講師を招くなど,趣向を凝らした勉強会を年に1度,開催しています。社内向け情報発信の工夫や課題について会員から発表していただいた勉強会は,協議会ならではの企画であり,課題解決に向けた議論は時間が足りなくなるほどでした。

図2 2014年勉強会風景

情報担当者として

製薬企業でも,以前に比べ情報専門部署は減少しています。今後も知財担当ニーズはなくなることはないと思いますが,情報専門家としての肩書をもつのはごく一部の人たちです。

一方,現在のWeb環境であっても,情報専門部署が少ないがために,隠れた情報難民は非常に多いと感じます。特定部署で契約しているデータベースが他の部署ではその存在すら知らず,十分に活用されていないといったハード面,さらに個別の情報収集といったソフト面でも歯がゆさを感じることがあります。

ただ,発想の転換をすれば,情報担当部署がない,あるいは部員が少ないというのではなく,情報専門能力は貴重でその活躍場所や活躍形態は限定されない,という見方ができるかもしれません。企業も社員1人ひとりも変化,改革,革新を求められている今,「情報力」をもってチャレンジする時代になっているのでしょう。

さいごに

情報を武器に部門を問わず幅広く活躍するためのヒントが見つかる会,情報実務の課題や解決策が見つかる会,情報で困ったときに助けてくれる友人ができる会,社内の情報担当者が少なくても他社情報担当者と情報交換できて安心できる会,インフォプロとしての勉強会を立ち上げることができる会,ベンダーからの情報や協力を得られる会等が日本製薬情報協議会です。

これからも,今後の製薬企業の変化に柔軟に対応し活躍できる人材を,また,将来の情報担当としてのミッションを担う人財を育てられる会であり続けたいと願っています。

執筆者略歴

松浦 智佳子(まつうら ちかこ)

日本製薬情報協議会会長。日本ファームドック協議会,東京医薬品工業協会特許情報部会などが情報担当者の輪での活動経験。最新の趣味は,昨年から始めたマリンバ。

参考文献
 
© 2014 Japan Science and Technology Agency
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