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インフォプロによるビジネス調査-成功のカギと役立つコンテンツ 第5回 業界・市場調査(2)
上野 佳恵
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2014 年 57 巻 5 号 p. 334-339

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1. 業界調査における企業情報

市場規模の動向と市場に影響を及ぼす要因が把握できたところで,次はCompetitor(競合)。その業界の大手はどこか,それぞれの企業の特徴や強みは何かなど,業界における各企業のポジショニングに関する情報である。第3回「企業情報」で述べたような,各企業の「ヒト・モノ・カネ」についての情報は必要だが,まずはその市場にどんな企業が参入しているのか,その中でどこが重要なポジションを握っているのかがわからなくては話にならない。これらの情報をどこで得ればよいのか,情報源(1)ごとにみていこう。

表1 Competitor(競合)情報の情報源

(1) 政府統計

政府の統計は,各企業・事業所から提出されたデータにより作成されるので,集計のやり方次第で企業ごとの生産量などのデータも把握できないわけではない。しかし,前回紹介したように,統計調査の目的が産業全体の実態を明らかにし,施策の基礎資料とすることにあるので,データは統計的に処理され,企業ごとの数値が明らかにされることはない。したがって,政府統計は業界調査における企業情報の情報源とはならない。

しかし,具体的な企業名は出てこないが,どのくらい寡占化が進んでいるのか,などの業界構造が把握できる場合がある。たとえば,経済産業省の「工業統計調査」では,企業や事業所の規模(資本金,従業員など)別の集計が行われており,ある製品の出荷額全体における従業員規模1万人以上の企業の出荷額が占める割合などのデータを得ることができる。

(2) 業界団体情報

ある業界・市場への参入企業を知りたい場合,業界団体は有用な情報源である。多くの団体において,その概要や事業目的などとともに,会員の名簿がWebサイトなどに公開されている。たとえば,太陽光発電協会のWebサイトを見ると「会員名簿」注1)というページがあり,機関・団体,セル・モジュールメーカー,周辺機器・部材・素材メーカー,電力・エネルギー,販売・施工(含むゼネコン,住宅,システムインテグレーター),その他という分類のもとに,会員の一覧が掲載されている。会員数は155社・団体(2014年7月7日現在)あり,参入企業が多い業界であることがわかる。関連団体には所属しないという一匹狼(おおかみ)のような企業もないとは言い切れないが,基本的にはこのような関連業界団体の名簿に掲載されている「企業=参入企業」と考えて問題ない。

業界団体の統計データで,企業ごとの数値が明らかにされないのは,政府統計と同様である。業界団体自体,もともとは関連企業と業界全体の発展を目的に設立されているので,激しいシェア争いをしているような実態があったとしても,それが業界団体の統計として表に出ることはない。ただし,携帯電話の契約者数と自動車の生産・販売台数は例外である。電気通信事業者協会が事業者別契約数注2),日本自動車工業会がメーカー別生産台数注3),日本自動車販売連合会がメーカー別新車販売台数注4)のデータを公表している。

各団体の紹介ページに掲載されている役員リストも情報源となる。会長・理事長といったトップのポストは必ず業界ナンバーワン企業の社長や会長が務めることになっているという業界団体も多い。そうではない場合でも,業界団体の役員といえば業界の顔を意味するのであるから,役員の所属企業は業界の大手もしくは主要企業であると考えて,差し支えないだろう。

(3) 市場調査レポート

以上のように,企業ごとの市場シェアのデータは,政府統計や業界団体の資料からは入手することはできない。市場シェアの情報源は,民間の市場調査レポートである。

まず,さまざまな品目の市場シェアを集めた資料がある。矢野経済研究所の『日本マーケットシェア事典』注5)(年刊)は230業種730品目の市場シェア(2014年版)を掲載している。高額資料であるが公共図書館などに備えられている場合も多い。また,必要な品目のデータをオンラインで入手することもできる注6)。日本経済新聞出版社の『日経シェア調査』注7)(年刊)は,50品目の世界シェアと150品目の国内シェアを掲載したコンパクトな本で,手軽に購入が可能である。

これらの資料に品目の掲載があれば市場シェアのデータは入手できる。しかし,業界調査を行う際には,もう少し詳しく,各企業の事業展開の特徴や強み・弱みといった点についての情報も必要となろう。そのような場合には,市場調査レポートが有用である。市場調査レポートは,調査会社や調査員がもつネットワークを駆使して,対象企業や周辺の関係者にアンケートやヒアリングなどを地道に行った結果をまとめたものである。手間暇かけて実際に調査を行っているので,レポートは数万円から数十万円と高額なものになる。しかしながら,業界の動きや今後の見通し,各企業の戦略など,ほかでは決して得ることのできない情報も多く,業界調査を行うにはこのようなレポートが1冊あれば事足りるともいえるほどである。

ある業界に専門特化している調査会社などもあり,世の中で発行されている調査レポートの全体像を把握するのは簡単なことではない。調査レポートをまとめたWebサイトもあるのだが,カバレッジの面から考えるとお勧めできるものではない。矢野経済研究所注8)や富士経済グループ注9)などの大手の調査会社のWebサイトや独自サービスを利用するか,幅広くレポートを探すということになると,今のところインターネットのキーワード検索に頼らざるをえないところもある。

太陽電池の調査レポートをインターネットで検索すると,富士経済の『2013年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望』注10)や,矢野経済研究所の『2013太陽光発電システム市場の現状と将来展望』注11)といったレポートが発行されていることがわかる。レポートのサマリーや目次などは無料で見ることができるので,それによって有用か,必要かを判断していく。

ちなみに,すべての業界・市場・製品についての調査レポートが発行されているわけではない。調査を行ってレポートにまとめ,販売をするということは,調査会社の側からみると,調査の実施が可能で,なおかつそのレポートが売れる見込みがあるということを意味する。非常に新しい業界やニッチな市場で調査が難しかったり,参入障壁が高い,今後の成長が期待できないなど,新たにその業界に興味を示す企業があまり期待できない場合は,コストをかけてまで調査を行い,レポートを作成しても調査会社にとってのビジネス上のメリットはない。自分が調べている業界についてのレポートがないとなると,調査としては行き詰まる。しかし,リサーチ会社のどこも調べそうもない,レポートも発行されない,ということも,その業界の特徴である。その意味合いを含めて,調査の進め方を改めて考えてみるべきであろう。

(4) 新聞・雑誌記事

第3回「企業情報」で,ある企業の方向性や事業戦略についての見通しを立てるためには,新聞や雑誌の記事を見ていく,ということを述べたが,業界調査における企業情報においても,このニュース・記事類は欠かすことができない情報源である。調査レポートがあれば業界における企業の位置づけなどは把握できるが,一方で,その企業の中で太陽電池ビジネスがどのような位置づけにあるのかも把握しておきたい。新規事業として太陽電池ビジネスに取り組み始めたところで今後の成長戦略の柱にすえている,海外企業との提携などに積極的に取り組み一気に市場シェアの拡大を目指している,ユニークな技術があって市場で確固たる地位を築こうとしている,など,企業によってさまざまな事情があるはずである。

新聞・雑誌記事を見ていくうえで,経済・産業紙やビジネス誌を中心にするというのは基本であるが,業界・市場が一般にはそれほど注目されていなかったり,中堅企業が中心で大手企業があまり参入していない市場などでは,これらの新聞や雑誌に関連する記事が出ていないというケースも多い。太陽電池や太陽光発電に関する記事は,日本経済新聞を見ているだけでも頻繁に目にするが,乾電池市場に関する記事はあまり目にすることはないだろう。

ここで重要な情報源となるのが,業界新聞・雑誌である。その業界に関連するニュースを,専門の記者が追いかけて記事にしているので,情報の幅広さや深さは一般経済誌などの比ではない。そして,実に多くの業界新聞・雑誌が発行されていることは,インフォプロの皆さんがこれまでかかわってきた業界を考えれば理解していただけるだろう。

たとえば,太陽光発電であれば『日経エコロジー』注12)(日経BP社,月刊),『Solvisto』(ソルビスト)注13)(ガスレビュー,月刊),『PVeye』注14)(ヴィズオンプレス,月刊),『SOLAR JOURNAL』(ソーラージャーナル)注15)(アクセスインターナショナル,季刊)など,業界動向全般を扱っているものから,発電事業者向け,消費者向けのものまで,多様な雑誌が発行されている。

市場調査レポートと同様,世の中にどのような新聞・雑誌が存在するのかを把握するのは難しいところだが,メディア・リサーチ・センターの『雑誌新聞総かたろぐ』注16)(年刊)には,国内で発行されている雑誌や専門誌,約16,000件,新聞・通信類約3,000件の併せて約19,000件以上の詳細な情報が掲載されている。分野ごとに分類してあり,キーワード検索も可能である。ある程度の規模の公共図書館であれば必ず備えている資料である。最近では冊子体の新聞・雑誌を発行せず,Web媒体のみで配信している電子ジャーナルも増えている。電子ジャーナルを網羅している情報源は今のところ存在しないので,インターネットで検索することになる。

新聞・雑誌記事では,特定の企業のニュース,たとえば「A社が太陽光発電事業に参入」といった記事が多いのではあるが,それだけにとどまらず,業界の現状分析やA社の参入がどのようなインパクトをもたらすかという内容にまで踏み込んだ記事となっていることもある。また,注目業界として,特集が組まれ,詳しい業界動向や関連政策などがまとめられたりもする。前回述べたMarket(市場)動向をみていくうえでも,新聞・雑誌記事は重要な情報源となるのである。

2. 顧客に関する情報

業界調査のフレームワークMCCの最後のCはCustomer(顧客)である。消費財についての調査であれば卸売や小売などの流通業者と消費者,生産財・中間財であればそのユーザー企業ということになる。

どのような流通構造になっているのかは,ここまで紹介してきた各種の資料の中で把握することができる。たとえば,太陽光発電協会の会員名簿を見れば,部材・素材→セル・モジュール(電池)→施工・販売→発電(電力・エネルギー)という構造が明確にわかる。生産者の団体であるが販売企業が賛助会員となっている場合や,生産と販売がそれぞれ別個の団体を形成しているケースなどもある。また,前述の富士経済の『2013年版 太陽電池関連技術・市場の現状と将来展望』では,太陽電池,部材・原料,製造装置,消耗品のそれぞれについて,市場規模推移やメーカー動向がまとめられている。

顧客企業がどこかということがわかれば,あとの調査方法はこれまで述べてきた,Competitor情報と同様である。

消費財市場の場合,実際の利用者がどのような人たちなのか,消費者による製品の評価はどうなのか,市場動向を左右する生活者トレンドにはどのようなものがあるのか,など,消費者・生活者についての情報も必要となる。業界団体が独自に消費者調査を行っていたり,新聞記事に利用者の声が掲載されていることもあるのだが,消費者動向に特有の情報源も多々あるので,これに関しては,次回詳しく述べることとしたい。

3. プレ調査

(1) 業界調査の難しさ

太陽光発電市場という,ニュースでも頻繁に取り上げられ,ビジネスパーソンとして,消費者として,多少なりとも知っているという業界の場合はよいのだが,業界調査を行う際に一番困るのが,その業界について皆目見当がつかないというケースであろう。見たことも聞いたこともないような業界だとしたら,いくらビジネス調査のポイントはプランニングにあると言われても,何をどう調べればよいのかイメージできない。最先端の商品やサービスであまり人に知られていない業界はもちろん,自分の仕事・会社とは直接関係のない業界,自分の生活と接点がない業界など,自分とその対象の業界・市場との距離や関係性によって,ある人には非常に身近な存在でも,ある人にとっては地球の裏側のように感じられる場合もある。

筆者が経験した中でもっとも印象に残っているのは,「“バリ取りロボット”の市場を調べてほしい」という依頼を受けたときのことである。ロボットであることはわかったのだが,どういう用途でどのような作業に使われるロボットなのか,まるで見当がつかず,“バリトリー”というブランドか,はたまた会社名のことか,と思ったぐらいであった。インターネットが普及していない時代だったので,『日本工業製品総覧』(日本工業新聞社,廃刊)という工業製品の百科事典のような資料を見たり,ロボットに関する各種の資料を見たりして,ようやく“バリ取り”が製造現場では当たり前の表面加工・研磨作業である,ということを理解した。お恥ずかしい話であるが,このように,自分とはまったく縁のない業界だとしても調査は依頼されるものなのである。

(2) 業界を理解する

今だったらこのような場合,まずはインターネットでキーワード検索を行う。それが何なのかを知ることが目的なので,見るWebサイトはWikipediaでも何でも構わない。ただし,1つのWebサイトを見ただけで,こういうものなのか,こういう業界なのか,と断定してしまうのではなく,見方や定義が異なる場合もあるので,いくつかのサイトを見比べて理解していくことが欠かせない。一方,この検索は,業界動向までを把握しようとするものではない。したがって,自分の中で「こういうものなのか」「こういう業界なのか」ということが,ある程度理解できた段階で,早めに切り上げることも大切である。さもないと,インターネット検索のアリ地獄にどんどんハマることになってしまう。

(3) 当たりをつけるプレ調査

モノ・業界がどんなものかがわかったら,プランニングを行って調査を始めることになるのだが,筆者の場合,詳細な調査を始める前に,“当たりをつける”ための調査を行うことも多い。どのくらいの市場規模があって,どんな企業が参入していて,どのようなトレンドになっているかということを,大ざっぱに把握するのである。この場合には新聞記事を検索する。過去1,2年の新聞記事検索で出てきた記事から,どんな企業の名前があがってくるのか,好調な業界なのかそうでないのか,統計や調査があるのかないのか,などを拾っていくのである。

この“当たりをつける”ための調査は,先のどういう業界なのかを理解することと併せて行うことも不可能ではないのだが,インターネット検索では玉石混交の大量の情報が出てきてしまい,その中から使えそうな情報を取捨選択するだけでも非常に手間がかかる。さらに,インターネットのキーワード検索だと,複数のキーワードで検索しない限り,検索結果が極端に少なかったり,もしくはないというケースはありえない。しかし,新聞記事は先にも述べたように業界によって出てくる記事の数や内容はさまざまである。どんな記事がどのくらい出てくるのかによって,この先の調査の難易度が予測でき,プランニングの際に大いに役立つこととなる(1)。

図1 業界・市場調査の進め方

4. 業界調査の情報源

以上,2回にわたって業界・市場調査の進め方と情報源について,述べてきた。簡略化しているので,紹介しきれていない資料も多々あるし,業界によっては政府統計などは見るべきものが,今回紹介したものとはまったく異なる場合もあるだろう。

しかしながら,ご理解いただきたいのは,どんな業界であろうとも,調査を行っていくにあたっての枠組みは共通しているということ。そして,必要とされる情報を入手するために見るべき情報源は,「政府統計」「業界団体情報」「市場調査レポート」「新聞・雑誌記事」の4つということである。

そう考えれば,業界・市場調査といっても難しいものではない。その業界や市場に関する知識を事前に持ち合わせていなくても,パターンに沿って進めていけば,必要十分な結果が得られ,調査担当者としての責任も果たせるというものである。

さて,次回は業界・市場調査の一要素でもある,「消費者動向調査」について詳しくみていくこととしよう。

本文の注
注1)  http://www.jpea.gr.jp/profile/memberlist/index.html

注2)  http://www.tca.or.jp/database/

注3)  http://www.jama.or.jp/stats/stats_news.html

注4)  http://www.jada.or.jp/contents/data/hanbai/maker.html

注5)  https://www.yano.co.jp/market_reports/C55105800

注6)  http://www.yano.co.jp/msj/index.php

注7)  http://www.nikkeibook.com/book_detail/21873/

注8)  http://www.yano.co.jp/

注9)  https://www.fuji-keizai.co.jp/

注10)  https://www.fuji-keizai.co.jp/report/index.html?keyword=141303806

注11)  http://www.yano.co.jp/press/press.php/001151

注12)  http://business.nikkeibp.co.jp/nbs/eco/saishingo/

注13)  http://solvisto.gasreview.co.jp/index.php

注14)  http://www.pveye.jp/media/view/

注15)  http://www.solarjournal.jp/12416/ma09/

注16)  http://www.media-res.net/service/catalog.html

 
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