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インフォプロによるビジネス調査-成功のカギと役立つコンテンツ 第6回 消費者動向情報
上野 佳恵
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57 巻 (2014) 6 号 p. 407-412

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前2回にわたって,MCC(Market, Competitor, Customer)というフレームワークで業界・市場調査の進め方と情報源をみてきた。そのCの1つ,Customer(顧客)に関する情報源は,前回述べたとおり業界・市場調査と多くの部分は重なるが,特有の情報源も多い。今回はその消費者動向情報調査の進め方と情報源についてみていこう。

1. 消費者動向情報の重要性

消費者の嗜好(しこう)が多様化し,モノが簡単には売れない世の中になったといわれており,誰にどうやってモノを売るのかというマーケティングの重要性がますます高まっている。マーケティングの第一歩は,顧客となりうる消費者の嗜好や行動を知ることであり,ビジネス調査でいうところの消費者動向情報の把握である。

中間財メーカーだから,卸売業者相手の商売だけしか行っていないから,と消費者・生活者の動向は関係ない,と考えていてはいけない。消費者に直接届ける製品を作っていなくても,素材や原材料にまで消費者の嗜好が及ぶケースも増えており,取引先に戦略的な提案をするにも,消費者嗜好の把握は重要である。研究開発とて,消費者がどんな機能を求めているのか,何が必要とされているのか,などを知ったうえで取り組めば,売れる製品の開発に結びつく可能性も高くなるであろう。

2. 消費者動向の把握に必要な情報

ビジネス調査における業界調査の目的は,その業界の現状を把握し市場拡大の可能性や方向性を探ることにある。その中での消費者動向なのだから,利用者・購入者の現状をつかみ,もっと購入・利用してもらうため,必要なことを明らかにしたい。

それには,まず現在どのくらいの人が購入・利用しているのか,利用者はどのような人々なのか,どういう使い方をしているのか,など利用している人たちの実態に関する情報が必要となる。さらに,対象物についての評価,改善点などの意見も欲しい。たとえば,太陽光発電装置であれば,設置に伴う工事にどの程度手間がかかったのか,日常の管理・メンテナンスのしやすさはどうか,電気代がどのくらい削減できたか,などである。

購入・利用者層を広げたいという目的からすると,非購入者にどうすれば・何があれば購入してもらえるかを明らかにすることも重要となる。そのため,可能であれば非購入者に購入しない理由や何があれば購入するかということを聞いてみたいものである。ただ,非購入者・非利用者調査は実際には難しいので,逆に購入した人々の購買の決め手は何だったのかを調べ,そこからどんなメリットがあればより多くの人に購入してもらえるか,何をどう訴えればよいかなどを考えていくケースが多い。

では,このような情報はどこから得ればよいのか。業界調査と同様,情報源に沿ってみていこう。

3. 政府統計における消費者動向情報

(1) 家計調査

まず,消費者動向の全般の把握に役立つ政府統計を紹介していく。消費者動向というソフトな情報を,お堅い政府統計から得るなど無理に違いないと考えてしまいがちだが,どこのどのような世帯で,何にいくらお金を使っているか,という家計収支に関する政府統計は,マーケティングにおいては基本中の基本の情報源である。

その中でも,もっとも頻繁に使われるのは,総務省の「家計調査」注1)であろう。毎月の収入・支出,貯蓄・負債について,全国約9,000世帯の家計簿を集計したもの,と考えていただければよい。どの季節に何が多く購入されているのか,地域による違いはあるのか,などを詳細にみることができる。

この「家計調査」を町おこしに活用したケースが“餃子の街”をめぐる対決である。宇都宮市が他の都市と比べて圧倒的に餃子の購入金額が多いことに目をつけ“餃子の街”として町おこしを図ったところ,浜松市が本家はうちだと,名乗りを上げたことに端を発する。「家計調査」の都市別データで集計されるのは県庁所在都市と政令指定都市のみなので,以前は客観的データでの比較ができなかったが,2007年4月に浜松市が政令指定都市となり家計調査データでの比較ができるようになった。毎年,家計調査の年間データが発表されるたびに,トップ争いがニュースになるだけでも,両都市にとっての宣伝効果は抜群といえよう(1)。

図1 「家計調査」にみる“餃子の街”対決

(2) 家計消費状況調査

「家計調査」は,調査対象世帯が約9,000と少ないので,購入頻度が少ない商品やサービスについてはブレが大きくなってしまう。そこで,高額商品・サービスや家計調査ではとらえきれないICT(Information and Communication Technology,情報通信技術)関連の消費の実態をとらえることを目的として,2002 年から,全国約3万世帯を対象に新たに実施されたのが「家計消費状況調査」注2)である。

世帯の収入・支出状況が,世帯の種類別,都市の規模別などで把握できるほか,家計調査より,詳細な品目別の商品・サービスへの支出額も把握できる。開始されてから10年あまりと歴史が浅いためか,家計調査に比べて言及されることが少ないようだが,たとえば有料道路の利用料,スポーツ施設使用料なども見ることができる。さらに,電子マネーの利用状況やポイントカード等の保有状況,ポイントの利用状況などまで調べられており,今後活用範囲は拡大していくことであろう。

(3) 消費動向調査

消費者像を描くためには,どのくらいの収入があって,何にどのくらい支出しているのかという情報に加え,どんな住まい方をして,何を持っているかという情報も必要となる。さすがに,各自の持ち物を詳細に調べている調査はないが,主要な耐久消費財の保有状況が内閣府の「消費動向調査」注3)で把握できる。

毎年3月の調査で,主要耐久消費財の保有状況,買い替え状況を調べており,テレビ,乗用車,洗濯機などから,携帯電話,タブレット型端末まで,普及状況,買い替え状況がわかる。たとえば,スマートフォンの世帯普及率は,世帯年収300万円未満の世帯では32.2%にとどまるが,世帯年収の増加とともに上昇し1,200万円以上の世帯では8割を超えている,などのデータを得ることができる。

ちなみに,「消費動向調査」は消費者の暮らし向きに関する考え方の変化などをとらえ,景気動向を把握することを目的としており,人々の暮らし向きに対する考え方や,物価の見通し,レジャーなどへの支出意向などを毎月調べている調査である。

(4) 全国消費実態調査

「家計調査」や「消費動向調査」が,月々の変化をとらえることを目的とするフローの統計であるのに対し,ある時点における家計の収入・支出および貯蓄・負債,耐久消費財,住宅・宅地などの家計資産の状況を構造的に把握する目的で行われているストックの統計が,総務省の「全国消費実態調査」注4)である。

月々の変化をみていくためのものと,ある時点での全体構造をみるという2つの調査があるというのは,業界・市場調査の回(第4回)で説明した,製造業に関する統計に「生産動態統計調査」と「工業統計調査」があるのと同様である。

5年に1度と調査頻度は高くないが,全国約5万7,000世帯を対象として行われており,どこからどのようなものを購入しているかという消費実態や,年齢や家族構成別の所得の状況,住居・土地や耐久消費財などの資産の保有状況などを,地域別や世帯の類型ごとに詳細にみることができるので,より具体的な消費者像を描き出すことが可能となっている(1)。

表1 消費動向に関する政府統計

(5) 政府が行う消費者調査

ここまでは政府の統計調査をみてきたが,直接,政府および関連機関が消費者にアンケート調査を行っているケースもある。たとえば,総務省はインターネットの利用状況やソーシャルメディアの利用状況などについての「通信利用動向調査」注5)を行っている。国土交通省の「マンション総合調査」注6)では,マンションの管理組合と所有者に対してマンション管理の状況を尋ねている。

どの業界,どの分野について調査があるかという決まりはないので,業界調査で政府統計のデータをチェックする際に,関連する省庁で消費者調査を行っていないかを併せて確認しておくとよい。

(6) 政府統計にみる太陽光発電の利用状況

では,業界・市場調査で例とした太陽光発電業界についての消費者動向を,政府統計・資料から得るとしたらどうだろう。「家計調査」「家計消費状況調査」では住宅の修繕設備・材料や工事費への支出というくくりになってしまい,また,「全国消費実態調査」では太陽熱温水器の普及率はあるが,太陽光発電装置という品目分類がない。ここで紹介した,消費動向に関する政府統計では,今のところ太陽光発電装置の普及状況はカバーしていない。

業界調査の際にも触れたように,政府統計は継続性も重視されるため,調査対象品目やその分類が頻繁に見直されるものではない。したがって新しい商品やサービスとなると,政府統計ではカバーできないという現実もある。

平成21(2009)年の「全国消費実態調査」において「エネルギー消費に関する特別集計」注7)が行われた。上記のとおり,主要耐久消費財の保有状況を調べる対象品目には太陽光発電装置は入っていないのだが,「その他」に記入すべきものとして太陽光発電システムや省エネルギー・高効率タイプ給湯設備(エコキュート,エコジョーズなど)があげられている。この特別集計は,「その他」に太陽光発電システムの記入があった世帯についてまとめたものとのこと。全国での世帯普及率は1.6%にとどまっているが,地域別にみると,中国・四国,九州・沖縄では2%を超えたことがわかる。平成21(2009)年といえば,現在ほど太陽光発電に注目は集まっていなかったころであり,現在はこの数字からかなり増えていることが予測される。

また,家計の消費動向把握を目的とした調査ではないが,総務省が5年に一度行っている「住宅・土地調査」注8)では,住宅の実情を明らかにするための指標として,住宅の建て方や所有関係,規模などとともに高齢者のための設備や省エネルギー設備の設置状況についても調べている。平成25年調査の結果を見ると,全国157万戸(全体の3.0%)で太陽光発電機器が設置されており,その数は平成20年調査と比べて3倍以上に増えていることがわかる。

(7) 政府統計における消費者動向情報の特徴

このように,品目によるが,政府統計からもモノやサービスに対する支出状況を詳細に把握することは可能である。

ただし,政府統計の場合,世帯単位の調査であり個人ではないという点に留意する必要がある。太陽光発電装置のように,個々人で利用するものではなく,住宅=世帯単位で購入,設置,利用されるものに関しては問題ないが,携帯電話や洋服,食品など,個人単位で,その人の好みに従って購入決定がなされるものに関しては,世帯単位で購入者・利用者をとらえる調査だけでは十分ではない。

また,政府統計から得られるのは,保有状況や購入実態をマクロ的にとらえるデータのみである。より詳細で具体的な消費者像を描くには,その商品を買った理由や,購入にあたって重視される点などの情報を得る必要がある。

4. 業界団体による消費者動向情報

より詳細な消費者動向情報を得ようとする際にも,政府統計の次に見るのは業界団体の資料である。生産・出荷・売上などの統計は多くの業界団体が発表しているが,独自に消費者調査を行っている団体は多くはなく,消費者向け製品・サービスを扱っている団体に限られる。しかし,業界団体が調査を行っているとすると,全国を対象とした大規模調査であることが多く,また継続的に調査が行われ経年比較ができるケースも多い。したがって,統計データの確認と併せて,消費者調査を行っていないか,継続的に行われている調査がないかをチェックしておくべきである。

太陽光発電協会は消費者を対象とした調査は行っていないようであるが,例としては,日本自動車工業会が乗用車ユーザーの特性や利用状況,購入状況をまとめている,『乗用車市場動向調査』注9),日本通信販売協会が通信販売の利用状況,トラブルの経験などについてまとめている『全国通信販売利用実態調査報告書』注10)などがある。

5. 民間の消費者調査

業界・市場調査で紹介した,民間の市場調査会社の資料は数万円から数十万円という高額なものがほとんどである。一方,消費者調査については,もっと手軽に利用できる民間の調査が多く存在する。

消費財メーカーが,自分たちの商品のユーザーにその評価を直接聞く際に合わせて,関連商品・業界・サービスについても尋ねたアンケート調査の結果が広く公表されている。たとえば,時計メーカーが待ち時間や時間に対する言葉のイメージを聞いていたり,食品メーカーが朝食の摂取状況に関するアンケートを行っていたりする。さらに,調査研究を行う専門組織や関連組織を持ち,継続的な調査・研究・情報発信を行っている企業もある注11)

さらに,最近ではインターネット調査会社が実施して一般に公表している調査結果も多い。本来,調査会社は顧客からの依頼に基づいて調査を実施し,その結果は依頼主に帰属するものとなるが,その結果の一部を一般にも公表したり,広報・宣伝や調査対象となるモニターの確保などのために自主企画の調査を行って発表したりしている。概要は無料で提供し,詳細なデータは有料で販売,というパターンも多い。

たとえば,太陽光発電については,マイボイスコムが「太陽光発電」についての自主企画調査を実施しており,「設置率は4.1%で6割弱がこの3年以内に設置している」ということがわかる注12)。さらに,設置理由,非設置者の設置意向,設置したいと思わない理由などについても,有料サービスを利用すれば入手可能となっている。

これらの調査レポートを探すには,このマイボイスコムや,マクロミル注13)など幅広いテーマにわたる調査レポートを公表している調査会社のWebサイトを見るのも1つの手である。また,インターネット上に公開されている調査データを集約した「調査のチカラ」というWebサイトもある注14)。むろん,すべての調査データがカバーされているものではないが,自らインターネット検索をするよりは効率的に調査データを探すことのできるツールといえよう。

6. 実際に消費者調査を行う

ここまで,消費者動向情報を得るのに有用な,既存の資料・データおよびその情報源を紹介してきた。しかし,これらから欲しい情報,必要な情報がすべて手に入るわけではない。そこで次に考えるのは,自分たちで実際に調査を行う,ということになる。

これは業界調査においても同様で,たとえば調べている業界に関する市場調査レポートが発行されておらず,新聞や雑誌の記事もほとんどない,などとなると,調査会社に依頼して実際に業界調査を行ってもらう必要性も出てくる。ただし,業界調査の場合は,調査を行うのに少なくとも2~3か月の時間が必要であり,コストも数百万円単位となることがほとんどである。

一方,消費者動向調査の場合は,前述のようなインターネット調査を利用すれば,短時間に低コストで多くの消費者の声を集めることができる。さらに,インターネット調査会社は各社とも数多くのモニター(調査対象者)を抱えており,個人単位で,さまざまな条件で対象者を選び出すことが可能となっている。たとえば,「消費税増税前に家に太陽光発電システムが設置された関東地方在住の女性」などといった,絞り込みも可能である。

もちろん,インターネットを利用していない人はモニターには入っていないし,モニターに参加している人々の特性や偏りもありうる。しかし,詳細な消費者動向情報を得たい場合には,非常に有用な情報源となりうる。ただし,手軽に低コストで調査ができるからといって,むやみに調査をすればよいというものでもない。ここまで紹介してきたような既存情報を押さえたうえで,調査によって何を明らかにしたいのか,どんな設問項目を設けるかをきちんと設計することが重要である(2)。

表2 インターネット調査(消費者アンケート)の活用ポイント

ここまで,企業,業界・市場,消費者動向の情報源についてみてきた。次回は,ビジネス調査に共通の4分野の残り1つ,人物情報の調査ポイントと情報源についてみていこう。

本文の注
注1)  http://www.stat.go.jp/data/kakei/index.htm

注2)  http://www.stat.go.jp/data/joukyou/index.htm

注3)  http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/menu_shouhi.html

注4)  http://www.stat.go.jp/data/zensho/2009/index.htm

注5)  http://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/statistics/statistics05.html

注6)  http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/manseidata.htm

注7)  http://www.stat.go.jp/data/zensho/2009/energy/pdf/yoyaku.pdf

注8)  http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2013/10_2.htm

注9)  http://release.jama.or.jp/sys/news/detail.pl?item_id=1678

注10)  http://www.jadma.org/publications/book_002.html

注11)  一例として,ポーラ・オルビスホールディングスのポーラ文化研究所の「女性の化粧行動・意識に関する実態調査」http://www.po-holdings.co.jp/csr/culture/bunken/report/list.htmlなど

注12)  http://www.myvoice.co.jp/biz/surveys/16506/index.html

注13)  http://www.macromill.com/landing/r_data.html

注14)  http://chosa.itmedia.co.jp/

 
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